ディック・フランシスのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
例によって再読。
フランシスの小説としてきわめて異色なのは、主人公が17歳の少年であるということだけではない。政治を取り扱った作品も初めてだし、ある意味で主人公が二人いる物語も珍しい。
17歳の少年が主人公といっても、視点となるのは後の「私」なので、それほど主人公が子供っぽいわけではない。むしろ皮肉のひとつも言いたくなるほど、大人びている。
それでもなお、ある意味で真の主人公とでも言うべき父との関係は、例えば「骨折」などで描かれたものの単なる逆というのではない素直さを持っていると思う。成長物語としてもすてきだし、本当の主人公の姿を浮き彫りにする手段としてだけだってなかなか効果的だ。
政治を扱っているのは、常に新鮮な舞台を指向するフランシスらしいといえばそうなのだけど、どうやらそれだけではない。いわゆる推理小説の「殺人事件が起こりその犯人を捜す」という枠からは完全に外れた、ほとんど政争がメインになっているような雰囲気は、この物語の根本を支えている。むしろ、こういう構造を描き出すために、戦いのリングとして政治を選んだのではないかと思いたくなる。それほど、効果的だ。
実はたくさん出てくる女性も、そして敵役もそれぞれにインパクトがあり、とっても楽しく読めた本である。それでも、もう一つのめり込めないのは、たぶん「時間の流れ方」が僕の好みではないのだ。物語のテーマとして、こういう仕掛けを作っていくのはわかるのだけど、それでもちょっと冗長な感じがするし、仕掛けのねらいほど生きていないかなと思ってしまった。
すごくおもしろいんだけど、フランシスならばもっと書けたんじゃないかっていうのが正直なところ。あと、こればかりは菊池光訳ではない方がおもしろいかもしれない。村上春樹だったら、どんな風に成長を表現するかな、って考えてみたりもする。 -
Posted by ブクログ
以前読んだ時には、スペンサーシリーズの「初秋」に匹敵する、「育成もの」の傑作だと思っていたのだが、今読むとちょっと物足りなさが感じられた。
主人公は、会社の建て直しを専門としている30代男性。たたき上げではあるが、金持ちである。彼が、事故で入院している父親の厩舎にいるところを拉致され、ある少年を騎手として雇うことを強要されるところから物語が始まる。少年の父親は、まあ暴力団のボスという雰囲気で、子どもを甘やかしその夢を叶えてやろうとするのである。無名の新人をトップクラスの馬に乗せるわけにはいかず、主人公の綱渡りが始まるわけだけど、それが少年の成長と重なり合うところがおもしろい。少年自身が作中で語っているように、少年を間に挟んで、その父親と主人公が戦っているのである。
うまいなと思うのは、決して屈しない主人公の中に、少年が次第に自分の理想をする男性像を見いだしていくあたりの展開なのだけど、それ以上にうまいなと思うのは、主人公の父親の存在である。主人公の父親も、少年の父親と同じく、きわめて偏屈な暴君であった。ある時期までの主人公は、父親の甘やかされてはいたが自分の意志を許されない存在であり、ちょうど少年と同じ立場にあった。ある時期、主人公はその境遇から自由を求めて飛び出し、自らの力のみで成功を招き寄せたのであり、それが、少年に対する確信を持った「教育」を生み、また小説に奥行きを与えている。
もちろん、望みを叶えるためなら人の命など何とも思わないような少年の父親との戦いはスリリングである。それを通して、また少年との交流を通して描き出される主人公は、実にりりしくかっこいい。文句なく、おもしろく感動的に読める小説だと思う。
ちょっと物足りなさを感じるとすれば(いや、8回目くらいに読んで今回初めて感じたのだけど)、主人公がちょっと「できすぎ」ってところかな。後に新たなヒーロー像を体現したシッド・ハレーなどと比べると、差は明らかである。このあたりはやはり、作者自身の物書きとしての成熟を、もう少しあとの作品まで待つべきなのだろう。
だけど、個人的にはもっとも愛好したフランシス作品のひとつであるのは確か。殺人事件が起きてそれを解決する、というタイプのミステリではないけれど、とてもいい作品なので、たくさん読まれて欲しいと思う。 -
Posted by ブクログ
強い男をとことん描くのがこの時期のフランシスの方向である。この作品の主人公も強い。強いから敵が現れ、強いから戦いがエスカレートし、結局強さで敵をねじ伏せてしまう。とても魅力的な主人公なのだけど、ちょっと息苦しくなってしまう。
強いと言っても、肉体的なことではない。逆に肩にハンディを持っていて、そこを敵につけ込まれたりもする。不正を許さず、自らの信念を曲げない強さだ。でも、こういう強さは孤独につながりがちで、たとえば小学生のいじめだって、この物語と同じ状況が起こりうる。単に強いだけではなく、ときどきチラリとのぞく折れそうな彼の姿が逆に魅力的だ。
毎回魅力的なヒロインが登場するのもこのシリーズの魅力だけど、今回はヒロインも強い(魅力的だけど)。孤独を味方につけ、誰とも馴れ合おうとしない。だから、主人公との関わりもすっきりしていて応援したくなる。ラスト直前にある「共同作業」が感動的なのはそのためだろう。
主人公の弱点のひとつである、アル中の兄の存在。ラストシーンはすばらしく涙が出る。ただその理由は寧ろ、強い強い主人公を支えていた意外な存在が見えてきたからだと僕は思う。
しかしまあ、これだけ強さを描くのはやっぱりきつくなってくるに違いないし(エスカレートせざるを得ないからね)、結局それに押しつぶされたあげく、あの名作「利腕」が生まれるのである。 -
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あらすじ: 濃霧のなかで蹄鉄がぶつかりあう鋭い音が響く。騎手のビル・ディヴィットソンが、最後の障害を跳ぶべく馬の態勢を立て直していた。アドミラルは本命馬にふさわしくその力強い後半体の筋肉を盛りあげ、緊張し、跳んだ。完璧な跳躍。鳥のごとく宙に浮き、、、次の瞬間落ちた。そしてビルは死んだ。信じられない突発事故、いや、これは事故なのか? ビルの親友アラン・ヨークはその疑いに抗し切れず、ただひとり事件の謎を追う
英国の競馬のシステムがいまいち理解しがたいのと、ちょっと恋愛シーンがいまいち、、、かな。ただ、“競馬スリラー・シリーズ”第1作としてやはり読まねば♪ -
Posted by ブクログ
10−11
調教師の父親が入院し、素人の息子ニールが、一時的にあとを継がなければならなくなる。マフィアのボスの息子アレサンドロは騎手になりたがるが技量が不足。父親はどんな手を用いても息子の望みをかなえようとする。
アレサンドロは自立の道を選ぶが…
父と息子の葛藤二組。
「「父は、私に、すべてを与えた。」
アレサンドロが父親のことを言った。私なら、自分の父について、なにもあまり与えられなかった、というにちがいない。そして、私は、アレサンドロが愛や憎しみを通じて、一度として彼の父親に感じたことのない感情を、自分の父親に抱いた。
それは……冷淡な無関心であった。」
佳作です。