永井紗耶子のレビュー一覧
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秘仏と言われた奈良の法隆寺の夢殿救世観音像の厨子が開かれたのは、明治時代。その場に立ち会ったのは、写真家の小川一眞、宮内庁図書頭(ずしょのかみ)であり、臨時全国宝物取調局委員長の九鬼隆一、法隆寺の住職の千早定朝、取調局委員のアーネスト・フェノロサと友人の外国人資産家ビゲロー、宝物調査の責任者の一人の岡倉覚三(天心)の6人。それぞれの立場から、秘仏の扉を開扉するまでのできごとや、開扉してからの思いなどが書かれていました。彼らがただの立派な人ではないことに人間味を感じました。
明治時代の廃仏毀釈で寺を守るために、秘仏の扉を開いたことは、「守るために開く」という住職の強い決意のもとにあったことを知 -
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ネタバレ世の中の 人と多葉粉(たばこ)の よしあしは
けむりとなりて 後にこそしれ(栗杖亭鬼卵)
松平定信がこの歌に眼をとめ褒美をくだされた
この伝説を元に定信へ昔語りをする構成が上手い
栗杖亭鬼卵は大阪の下級武士で、絵画、狂歌、連
歌、俳諧、戯作者として東海を遍歴する
伊豆韮山代官江川家手代というもの興味深い
静岡の日坂で煙草屋を営み松平定信と出会う設定
作中で後進を育てる時に一流の人物に結びつける
楽しさに気が付きネットワークつくりに東海道人
物志(宿駅に住む学者、文人、諸芸に秀でた人々)
を纏める・・・18世紀の時代の文化人の有り様
が興味深い -
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文庫本の帯にこう書いてある。
「これは最も激しい女たちの戦い」
「国の実権を争う鎌倉と京」
「分かり会えない母と娘」
私はここにこう付け加えたい
「力を持つ女と持たない女の生きる道」
主人公は、京の丹後局の使者として鎌倉へ下る「周子」。
周子は大姫の入内へ向けて、準備を進めたいが大姫本人には気鬱の病があり、母政子の凄まじいまでの寵愛もあり、遅々として進まない。
そんな中、ある事件を境にして距離を縮める糸口を掴む。
少しずつ心の内を語ってくれるようになった大姫の本音を聞いた周子。
この入内を成功させれば出世の道も開けるはずだと息巻いていた周子だったが大姫を守るため動いていこうとする。
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原田マハさんともまた随分と異なる趣
久しぶりに美術に深く関連する小説を読んで、自分が絡めとられるような感覚(うまく表現できない)
オール讀物での連載
アーネスト•フェノロサ
日本文化を、仏教精神、美術を
深く理解し高く評価してくれた米国人
親友、妻子との別れ、絶望、新たな人生
岡倉天心との縁
岡倉天心(改号前…覚三)
英語が堪能で通訳として徴用され、日本の芸術振興、守護に貢献。渡米
東京美術学校を創設、初代校長に。名だたる芸術家が教師、生徒に名を連ねる
不倫しすぎで(昔の男性的価値観は理解し難い)スキャンダルや権力闘争に負け、失職するも、また新しい団体を立ち上げて妻とも再構築
インドへ -
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冒頭 勘七は幼なじみの1人直次郎を桜田門外の変で喪う。
三年後 奉公先の主人 善五郎に強く望まれ跡を継ぎ若旦那となった勘七。
料亭の倅でありながら自らの信念に従い芸者の箱持ちとなった紀之介。
武士の家に生まれながら武士として生きられなかった新三郎。
商家に生まれながら武士となり武士として死んでいった直次郎。
四人の幼なじみの若者達。折しも時は幕末。時代が大きく揺れ動いていた。
主人公 勘七が時代に翻弄されながらも先代の「商人は人に福を届けることが務めだ」という志しを見失わずにいることができたのはやはり周囲の人々の支えがあったからだろう。
それに比べて新三郎の生き様は読んでいて苦しい。
四人 -
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やっぱり永井さんの歴史小説は面白い!
法隆寺夢殿にある厨子の中には救世観音像があるが、秘仏とされてきた。だが明治期に開扉される。それに立ち会った岡倉覚三やフェロノサ、写真家の小川一眞らが、救世観音像と対峙することにより、自分の内面と向き合うことになる。
それぞれが主人公の連作短編集で、各々の葛藤が読んでいて興味深かった。特に法隆寺住職の定朝が、救世観音像の開扉を「開いて、守る」という境地に至ったところで、開国にふみきった日本に照らし合わせたところはすごく納得できた。
今ちょうど法隆寺夢殿の救世観音像が見られる期間らしいので、行ってみよう。 -
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明治21年6月、法隆寺夢殿。今まさに秘仏、救世観音像の厨子が開けられようとしている。
そこには、宮内庁図書頭かつ全国宝物取調局委員長・九鬼隆一、東京美術学校幹事・岡倉覚三(後に天心)、取調局委員・アーネストフェノロサ、外国人資産家・ビゲロー、写真家・小川一眞、その他役人記者たち。そして法隆寺大僧正・千早定朝。
国内では廃仏毀釈の嵐が吹き荒れ、各仏閣、寺院は廃れ、日本国の伝統文化と芸術が壊されている。一方、欧米では東洋美術が評価され始めている。
近代化と伝統の狭間で揺れる明治時代に、秘仏開帳に関わったものたち、それぞれの生きざまが群像劇として描かれている。
「これから先の千年、遺すため