永井紗耶子のレビュー一覧

  • 商う狼―江戸商人 杉本茂十郎―(新潮文庫)

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    4作目の永井紗耶子さんの本。

    江戸商人・経済をテーマにしたもので、私にとっては苦手な分野です。

    実際、今までに読んだ永井さんの本と比べると、あまり私には刺さらないかなーと思いつつ、とりあえず読破を目指して読み進めていました。

    中盤、江戸の金の流れを握った茂十郎と、周囲との軋轢が目立ち始めた辺りから、引き込まれました。

    「金は刀より強い」と、清濁併せ呑んで、江戸の経済の在り方にメスをいれ改革を進める茂十郎。その原動力が、天明の大飢饉や、妻子を失った永代橋の崩落事故というのが、人情を感じます。

    強い信念のもと突き進む茂十郎の姿は爽快で、心に残りました。

    その彼の出した結論が「葵の御紋は

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    2025年09月11日
  • 秘仏の扉

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    法隆寺 夢殿に歴史と共に救世観音像が祀られてある。それを明治21年に厨子を調査として開けたフェノロサ、岡倉らの人生はその時変わっていった。伝説通りに雷に打たれた、というのではないが明治という新しい時代が、彼らをどう揺さぶっていったか。
    史実に基づいて連作小説と形をとった一冊となったが世界と日本を結ぶ美術に関して、当時、日本を訪れた西洋人の目で見た日本人ん姿なども興味深い。
    救世観音の表情をアルカイックスマイルと評しているが、はるか歴史の彼方からその表情は聖徳太子の姿とも伝えられ、ロマンを掻き立てられる。歴史好き美術好きを恥ずかしながら自認してるとは言えこういう本に出会えて幸いである。そんな自分

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    2025年08月16日
  • 秘仏の扉

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    法隆寺夢殿の秘仏・救世観音像。
    千年以上前に作られ、長らく人目に晒されることが
    無かった秘仏の扉が開かれる。時は明治時代。
    それに関わった者たちの人生を描く群像劇の短編連作。
    光の在処・・・小川一眞 矜持の行方・・・九鬼隆一
    空の祈り・・・千早定朝
    楽土への道・・・アーネスト・フェノロサ
    混沌の逃避・・・岡倉覚三 千年を繋ぐ・・・町田久成

    時は明治時代。
    江戸時代からの変化、文明開化に神仏分離と廃仏毀釈、
    伝統と近代化の狭間、政治の混乱と混沌の中で、
    人々も藻掻き、歩んでいた。
    その最中での、法隆寺夢殿の秘仏・救世観音像の開帳。
    「怖いですな・・・畏怖とでもいうのでしょうか」
    「これは恐ろし

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    2025年07月04日
  • 秘仏の扉

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    「木挽町のあだ討ち」でびっくりしてしまってファンになった作家。数冊読んだがこれはまた面白い。
    奈良の法隆寺夢殿の救世観音像の開帳をめぐる群像劇。読み進めながら主人公は誰か? という思いを何度ももった。フェノロサ、岡倉天心、その他の人たち、そうか固く閉ざされた扉の内にいる観音さまか。
    とにかく群像劇というものは誰に注視するのか難しい。

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    2025年05月07日
  • 旅立ち寿ぎ申し候<新装版>

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    面白い時代小説を、というなら、私は迷わず永井紗耶子さんをお薦めする!
    今回の本は、舞台は幕末の江戸。主人公の紙問屋の若旦那である勘七は、実直な青年ながら、時代の物価高騰や武士社会の変遷の波に飲み込まれていく。
    私は若い頃は武士が主役の幕末小説や戦国時代ものを好んで読んでいたけど、今はその陰で懸命に生きてきた商人や町人らの話が読みたいのよ。
    勘七も、粋な人生を生きる紀之介も、男顔負けの商才があるお京も、みんな感じがよくて好き。

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    2025年04月26日
  • 秘仏の扉

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    久しぶりに小説を読んだ。
    法隆寺夢殿の秘仏である救世観音像に関わった人たちの連作短編集。

    救世観音像の写真を撮り、よく目にする漱石の写真も撮った小川一眞は、尊き何かの持つ残酷さと畏れを救世観音像をみて感じる。
    福沢諭吉と袂をわかった九鬼隆一は、己の矜持を貫くためにもがく。
    近代法隆寺の祖、千早定朝は「開いて守る」大きな決断をする。
    教科書で秘仏と言えばフェノロサ。日本の美術に魅せられ、守り、その事は自身の存在にもかかわる。
    茶の本を書いた岡倉覚三は、欧米諸国からの侮蔑に立ち向かうには日本らしさを守る事ということを貫きつつも、自身の混沌からは逃避をし続ける
    本当に初めて夢殿を開いたのは町田久成

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    2025年04月21日
  • 秘仏の扉

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    明治初期。文明開化で欧米化が進み、それまでの日本の伝統などが古臭いと一蹴された時代。折しも国策の勢いで廃仏毀釈が進み、仏像や仏教絵画だけでなく、寺院そのものまで乱雑な扱いを受ける。そんな中、様々な思惑の中で、鎌倉時代以来秘仏とされてきた法隆寺の救世観音像の開陳と撮影が進められる。御雇外国人であるフェノロサ、文部省の九鬼、日本美術の研究者である岡倉、写真家である小川、法隆寺住職である定朝などが秘仏を目にする。あるものは畏れ、あるものは感動し、あるものは後悔する。そしてその後の人生の転機に、秘仏の微笑みが静かに影響を及ぼす。当時の国の状況に翻弄される登場人物一人一人の心の微細な動きがよく伝わる。こ

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    2025年04月19日
  • 旅立ち寿ぎ申し候<新装版>

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    時は幕末。日本橋紙問屋永岡屋の若旦那勘七の、理不尽な借金を負い、幕末の動乱に巻き込まれながらも成長していく商人の物語だ。

    幕末から明治にかけての急激な変化に当時の人々は大変混乱したことだろう…。

    勘七の、迷いながらも、様々な人々に支えられ成長していく様は読んでいて清々しい。




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    2025年04月05日
  • 秘仏の扉

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    あまりに面白くて一気読み。
    各主人公の矜持が心に響きました。

    一番読後感が明るく爽やかだったのは、「光の在処」で、一番印象に残ったのは「楽土への道」です。

    廃仏毀釈により、困窮を極めた法隆寺が今では世界遺産。まだ行ったことがないので、ぜひ訪れてみたい場所です。

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    2025年03月14日
  • 秘仏の扉

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    法隆寺夢殿・救世観音像の開帳に携わった人物たちの生い立ちとその後の人生に与えた影響を人物にスポットをあてて描く。救世観音像のアルカイックスマイルの裏側に隠された深淵を解釈していくストーリは、人生を振り返ることに繋がっていく。
    著者は直木賞受賞後に、また一皮向けた印象で、ストーリテリングの上手さが際立っている。フェノロサや岡倉天心は功績こそ知っていたものの、どのような人物だったのかは知らなかったので勉強になった。

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    2025年02月03日
  • 秘仏の扉

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    奈良の法隆寺の夢殿に安置されている秘仏で千年も非公開の救世観音菩薩に関わる数多の人物に関する物語りはダイナミックであり多くの感動を与えてくれた。鎖国から開国した日本からは多くの美術品や仏像が海外に、それをどうするか?救世観音像に関わった人々の人生の物語り一気読みだった!著者の素晴らしい文章力に感謝です!

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    2025年01月30日
  • 秘仏の扉

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    法隆寺が好きなので手に取った。
    フェノロサや岡倉天心、維新による美術品の流出に興味もあったので、それぞれの視点で描かれた内容がとても興味深かった。歴史上の人物も、時代を生きたい生身の人間なんだと感じた。
    古都奈良の古寺、仏像をいま私たちが訪れて見ることができることに感謝。
    それとは逆に、定朝のようなお坊さんはいまの時代にもいるんだろうか??

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    2025年01月26日
  • 秘仏の扉

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    昨秋、救世観音の特別公開を観た。
    表紙裏に記載の文言がすべてを現してるように思えた。
    「まさに国の宝・・・東洋の、世界の宝です」
    「・・・もっと、違うものを想像していた」
    「これは、・・・・恐ろしいものだ。開かぬ方が良かった」
    「早く扉を閉め、夢殿を出たい」
    それにつけても、才能ある方はとんでもないプライベートを持ってるもんだ、、、
    2925-005

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    2025年01月26日
  • 秘仏の扉

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    明治になり、新政府の方針で廃仏毀釈が行われ、仏教寺院は受難の時を迎えていた。すでに多くの寺院が廃され、仏像は打ち捨てられたり、美術品として外国に持ち出された。

    法隆寺の救世観音像は、秘仏であるがゆえ、これまで200年の間、逗子の扉が開けられたことはない。開けたものには仏罰が降りると言われていた。しかし、その価値をあらためるため、政府によって扉が開かれようとしていた。そこに立ち会うのは、政府の役人、写真家、外国人、そして法隆寺の住職。
    不思議な微笑みを称えた仏を通じて、彼らの姿を映し出す。

    『木挽町のあだ討ち』で直木賞を受賞した作家の最新作。
    構成は似ているかもしれないが、ここでは歴史と実在

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    2025年01月23日
  • きらん風月

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    面白い。鬼卵は、最高にかっこいい。
    権力に抗う上での、滑稽、風刺、諧謔による狂歌は強い武器になると思った。
    自分のなりたい姿。ユーモアによる諧謔と、本質を炙り出すことがよい。
    喧嘩にせずに、王様は裸だというのが、狂歌の真髄と思った。
    狂歌をもっと深めていきたい。

    マネジメントにも通じることがらや戒めもあり、組織や社会でいきること上での大事なスタンスも描かれる。そして、万里一空にも通ずる。
    反骨と笑い、上に立つものの備えるべき謙虚さ。そんな物を学ぶ。そして、そうした中で、何故狂歌に惹かれるかも明らかにできた。

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    窮屈な世の中で物を言うには、身を守ることを忘れたらあかん。言って殺されたんで

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    2024年12月21日
  • 灯台を読む

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    日本財団「海と灯台プロジェクト」から生まれた紀行。近年の流行作家門井慶喜、澤田瞳子、阿部智里、川越宗一、永井紗耶子、安部龍太郎。それぞれある地域の灯台を3カ所訪れ時空を超えて想いに馳せる。
    映画「喜びも悲しみも幾歳月」の世界は遠い過去。無人化さらにGPSの普及により灯台は役目を終えつつある。
    とはいえ灯台の立つ場所は古代からの交通の要衝。異国との貿易の出発点、文化が交わる場所でもあった。

    地域の海の記憶を辿り、新たな海洋体験を 灯台とともに

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    2024年12月05日
  • 灯台を読む

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    GPSの進歩により、灯台がその役割を終えていっているという事実を初めて知った。
    「海と灯台プロジェクト」協力のもと、灯台が存在することの意義を、その土地のあらましや歴史、灯台を守ってきた人々にスポットライトを当てることで言語化した、6名の作家さんによる紀行文。

    作品を読みながら旅行気分に浸れるので愉しい。作家のみなさんが灯台の中の螺旋階段を登り、灯台室に入られる場面のわくわく感が伝わってきた。フルネルライトを初めて検索したが、見事なライトであった。

    灯台の父と呼ばれるイギリス人のブラントンさんという方が、菜種油で火を灯す木造の灯明台が主な海の道標だった日本に、西洋式の灯台をもたらした。また

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    2024年11月18日
  • 大奥づとめ―よろずおつとめ申し候―(新潮文庫)

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    6編からなる大奥の中の様々な部所で働く女達の話。
    どの話もとても良かった。 身分も年齢も大奥に入ることになった事情もそれぞれ違う登場人物達が 時に思い悩み しかし皆 誠意をもって一生懸命自分のつとめをはたそうとする姿勢が 清々しく気持ちが良い。
    〝つはものの女〟で 初瀬様が言った「ここまで歩んで来たことを誇りに思われよ。その誇りある女がするからこそ、この礼には意味がある。それゆえにこの負けは勝ちなのじゃ」という言葉には まさに 天晴 という思いだった
    最後の話〝ねこめでる女〟は他とは少し違う切り口で 猫を介した 身分も年齢もこえた繋がりがホッコリ温かく物語の最後を結んでいた。

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    2024年11月17日
  • 商う狼―江戸商人 杉本茂十郎―(新潮文庫)

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    江戸商人、杉本茂十郎。兄と慕う弥三郎との関係は非常によいですね。茂十郎は「毛充狼」などと凶暴な獣に例えられていたが、本当の茂十郎は全くの別人。江戸商人として大きな影響を与えた人物。生き様がかっこよいです。
    茂十郎の言葉「いざとなればね、金は刀よりも強いんですよ」
    いざとなれば金は刀よりも遥かに強い。金は人を惑わし狂わせ、時に命すら奪う。なんか、説得力ありますよね。
    また読み直したい作品です。

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    2024年09月16日
  • きらん風月

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    ええか、世の中の大半の揉め事はな、振り上げた拳の下ろしどころを見失うことで起きる。せやけどお前の言う通り、黙っていればええというわけやない。言わなあかんこともある。
    窮屈な世の中で物を言うには、身を守ることを忘れたらあかん。言って、殺されたんでは元も子もないからな。その為には、相手に拳を振り上げさせず、上げたとしてもすぐに下させるように間を空けとくことが大事や。その間が狂歌に欠かせぬ滑稽であり、風刺、諧謔や。面白おかしゅう書けばええ。生真面目にいうたら喧嘩になる。せやけど下らない言葉に乗せてしまえば、真に受けて怒った方が恥をかく。力を抜いて、笑いながら書け
    筆は卵や。ここからは武者も美女も神仏

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    2024年06月15日