永井紗耶子のレビュー一覧
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今年一番の一冊。舞台は激動の幕末。町人を描く物語としては王道の設定でありながら、本作の魅力は、主人公・勘七を始めとする全ての人物の圧倒的な生命力であり、時代に流されず‘粋’を留める江戸商人を鮮やかに描く。
勘七の師となる勝海舟、浜口儀右衛門は、‘時の龍’を見失わないこと、三方よしの精神はどんな時代でもそれに合わせた生き方を導くことを説く。真っすぐで優しいが故に流されやすい勘七が、生来の頑固さを武器に商人として成長していく姿は実に眩しい。
勘七を取り巻く仲間たち3人の描き方もまた多様で秀逸。武士の矜持を貫き殉死した直次郎、ふらふらしながらも人を楽しませる本質を知り誰より仲間想いな紀之介、堅物ながら誠実で人を思える新三郎。彼らとの関係性はどこか温かく心地よい。紀之介のの放つ「恥をかいてこそ人は大きくなる。恥くらいで死んでたまるか」は胸に刺さる。芯を持つことの重要性、そして自己のためでなく他者のために動くことが、巡り巡って自分を助けてくれることを痛感させられる。そして江戸という時代は、それがシンプルであり、少しばかりジェラシーも覚える。
もちろん、京との甘酸っぱい恋物語は本作の最大の見所の1つであることは言うまでもない。 -
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映画化もされた『木挽町のあだ討ち』に次いで、永井さん著の本作を手に取りました。物語の主人公が、キーになる人物にまつわる人々を尋ね聞いてまわって、その核心に迫っていく、という話の組み立ては『木挽町…』に似ているなと思いました。
本作を読み進めていくにつれて、そのキーになる人物“海保青陵”の「自由自在」を旨とする考え方と、江戸末期の世の中のしがらみとか古くからのしきたりといった「歪み」をどうにかして変えようとする人々とが、次第にリンクしていったことが明かされていきます。
往々にしてありがちなのは、急激な変革を目指すがあまり、「〇〇の変」とか「△△の乱」などといった急進的な動きへと発展し、中心人物もろとも押しつぶされてしまうというような歴史上の出来事が数多あったことを思い出します。
本作ではそうとはならず、海保青陵の遺志が、日本中の多くの人々に受け継がれ、そう遠くない将来に世の中が変わっていくことに繋がることを、読み手には理解することができるのでした。
それに、青陵自身のごくごく個人的なことについても種明かしされるというサプライズもあり、二重三重の面白さを感じることができました。 -
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江戸時代の儒学者、海保青陵が亡くなり、最後に弟子入りした堺屋弥兵衛と同じく若手弟子の暁鐘成は各所にいる先生ゆかりの方々に訃報回りをすることになった。その旅先などで会った人の語りなどから、天才であった青陵が尾張徳川家に勤めることの辛さや、家族との関係、その後の生き方、各所での影響力など読ませてくれる。日本史を学んでいれば既知の人物が多数出てくるが、日本史音痴の私でも物語としてスラスラと楽しめた。
政治の大局を見ながら自由に生きるという、当時ではあり得ない発想と、自由にみえて周りを気遣い愛し守りたい欲もあり、万人に共感を呼ぶ内容だと思った。あと、家庭を持たない主義だった青陵に妻子がいたのかも?という大きな謎が旅の途中でうまれるのですが、私は最後の方で一度読み止めたときに、もしかしてこういうこと?と気づきました。その流れも良かったです。
読めれば小学生でも問題ないけど、一般的な日本史的知識(江戸のこととか)がないと楽しめないので高校くらいから。 -
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奈良は法隆寺夢殿、その厨子に安置された秘仏は千年以上ほとんど誰の目にも触れることなく長い時を過ごしてきた。時は明治、開けば災いもあると言い伝えられるその扉は開かれることになった。日本美術の評価に尽力するフェノロサと岡倉天心を中心にして。ついに姿を現す夢殿の救世観音像を前にして、彼らは何を思うのか――。
ということで本書は明治期の日本を舞台にして、秘仏の開扉をめぐる人々のドラマを描いた連作集です。写真家や僧侶など様々な立場の人物が配されて、時系列を行ったり来たりさせて、それぞれの短編がゆるやかに繋がり、物語の奥行きが増していくのがとても心地の良い作品でした。ラストである人物が、「黎明の時代」という言葉に向ける想いを内心で語るシーンが印象的で、忘れがたい余韻の残る一冊です。 -
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ネタバレ海保青陵という人を、この小説で初めて知った。
江戸時代の封建制に似合わない、自由で柔軟な考え方を持つ。藩の縛りを解いて、経済を活発にする手立てを考える、経営コンサルタントのような人だ。
こういう人に、武士の勤めができるはずがないし、商家の主人にも向いてはいない。その人生は、彼が亡くなった後に明らかになる・・・。
最後の弟子となった弥兵衛は、16歳。弓を商う家の跡取りだが、弓職人も、商売も苦手で、海保青陵に惹かれていき、弟子となる。海保の死後、兄弟子の暁鐘成とともに、師が世話になった知人を訪ね歩く。その様子はちょっとした、弥次喜多道中のようだ。弟子たちは、海保青陵を知るにつれ、一つの謎に突き当たる。
最後の謎解きも、あっけらかんとしていて面白かった。
今のところ、永井紗耶子にハズレはない。 -
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昨年奈良旅行に行き
法隆寺愛に溢れたガイドさんから
2時間濃いぃ案内を受け、
飛鳥の風を感じて本当感動しました。
本著に登場する秘仏、救世観音は残念ながら公開時期ではなかったので拝見できませんでしたが
宝物館で百済観音にはお会いできました。
百済観音も目の前にすると畏怖というか、ほんとなんとも言えない気持ちになり、しばらく動けなくなりました(語彙が、、)
そんな法隆寺にこんな苦境の時代があったなんて、、
日本史で「廃仏毀釈」という言葉を教わった記憶はありますが
1300年?の歴史ある法隆寺のようなお寺にまでその塁が及んでいたとは全く知りませんでした。
秘仏開帳に関わった六人の男たちの話がオムニバス形式で展開されます。
一つ一つの出来事は史実ですが、
秘仏である救世観音を目の前にした時にあらわになる男たちの心のうちはフィクション。
しかし本当にそうであったような気持ちになります。
岡倉天心って谷中に記念館がありますが、こういう人だったのねぇとか、朝ドラ「ばげばけ」の小泉八雲さんもチラッと名前が登場して
そうか同時代の出来事なのだと嬉しくなったり。
「はー面白かったー」
と思って最後の著者紹介を見たら「木挽町のあだ討ち」の方!!
やっぱりいい本を書く方ですね。
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江戸後期の経世家、儒学者の海保青陵。「経世在民」を唱え、自由自在を旨とし、江戸の世に自由な生き方を説いた青陵が亡くなるところから話が始まる。
彼の最後の弟子である堺屋弥兵衛が、師の遺言である「遺灰は空に撒け」の言葉を胸に青陵ゆかりの人々を訪ね歩くいわばロードストーリー。
「変人」と評される青陵の人となりがなんとも魅力的。弥兵衛が訪ねる先々で出会う青陵縁の人々が語る彼の逸話がいちいち面白い。
膠着した武家のしきたりに異を唱え、自由な意見の交換を何より楽しむ姿。前例踏襲の悪弊を説き、変化を求めることの難しさも知りながら、「自由自在」を若い者たちに伝えていく過程。
そんな師の姿を見聞きし、改めて青陵と出会い直していく弥兵衛。家業を継ぐことに迷いを抱いていた弥兵衛が、旅を経て成長していく姿がなんとも頼もしい。この弥兵衛を主人公に据えて、青陵という人間を描いていくという手法が効いている。そして最後に明らかになる驚きの事実…。
最後には福沢諭吉まで登場して、世の中が変化し、時代がやっと少しだけ青陵の考えに追いついてきた未来が描かれるのがいい。
変化を嫌う頭の固い人たちが、「前例がない」と柔軟な考えを否定し、潰していく姿はまったく今に通じるものがあって、大事なのは「理(ことわり)」なのだ!という青陵の声が聞こえるようだ。
最後まで爽やかで、清々しい気持ちになる良作でした。 -
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出会って僅か4か月。儒学者で経世家の海保青陵の死は、
16歳の末弟子・堺屋弥兵衛に、大いなる悲しみを与えた。
そして師の訃を伝えるために兄弟子の暁鐘成と共に
師の足跡を辿る旅に出る。
・序
第一章 賢弟 第二章 うそ八
第三章 大地球頭第一花
第四章 鰻の蒲焼 第五章 末弟子
・終
主要参考文献、論文一覧有り。
「死んだら火葬し骨を粉にして空に撒いて欲しい」
師の訃と望みを伝える相手には、青陵への想いが胸に在る。
江戸で会うのは、尾張徳川家に仕える青陵の弟・瑞陽。
彼が抱えるのは、共に過ごした兄への羨望と憤り、そして思慕。
絵師・司馬江漢。難儀な人「うそ八」の、
「辞世ノ語」に至る、青陵との縁と心躍る交流。
忍藩の元家老・加藤市之丞は、青陵の話と提案に
戸惑いながらも学んだことが今も心に残る。
金沢藩の元出銀奉行・冨田景周は、青陵の自由気ままの中に
情の厚さを感じる。だからこその記憶は、苦く辛いものに。
半年の旅を終え京に帰った二人。
改めて師の人柄と考え、そして人との繋がりを知った。
京で待っていたのは、ある真実。
弥兵衛は更に青陵の足跡と想いを知ることになる。そして・・・。
実在した儒学者で経世家の海保青陵の足跡を、
人物伝のように描いた歴史小説です。ミステリーも有り。
江戸時代中期に生きた彼の、人生は過酷ではあったが、
学びと人との出会い、そして縁が「自由自在」な生き方に
形成されてゆく歩みが描かれています。
最初はしかめっ面だった話者が、語り終える頃には
柔らかな表情を垣間見せるようになる変化が、実に良い。
困惑や戸惑いはあれど、青陵の人柄にある心の熱さや
人を思う気持ちの厚さに触れたことは、
今でも思慕となって残っているんだなぁと感じてしまう。
当時の著名な文人たちや架空の人物たちの姿も
生き生きと描かれ、更に実在のマルチな戯作者・暁鐘成を
絡めたのも、面白かったです。 -
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永井さんの作品を手に取るのは『木挽町のあだ討ち』以来でした。おもな登場人物は若き日の遠山金四郎、狂歌師の太田南畝、浮世絵師の歌川国貞。この3人が絶妙のチームワークで花魁殺しの真相に迫っていくというストーリー。
金四郎が笛方見習いとして、木挽町の芝居小屋森田座に出入りしていることといい、彼が事件にかかわる人々に次々と話を聞いていくという話のプロットといい、いずれも『木挽町…』に似ていて、もしかしたらこのデビュー作が下敷きになっているのかもと思いました。
本作は、時代劇にありがちな「勧善懲悪」の枠には収まらない、江戸の世の身分制度やしきたりに絡めとられた人々の、悲哀がずしんと腹に残るような読後感でした。 -
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ネタバレ4作目の永井紗耶子さんの本。
江戸商人・経済をテーマにしたもので、私にとっては苦手な分野です。
実際、今までに読んだ永井さんの本と比べると、あまり私には刺さらないかなーと思いつつ、とりあえず読破を目指して読み進めていました。
中盤、江戸の金の流れを握った茂十郎と、周囲との軋轢が目立ち始めた辺りから、引き込まれました。
「金は刀より強い」と、清濁併せ呑んで、江戸の経済の在り方にメスをいれ改革を進める茂十郎。その原動力が、天明の大飢饉や、妻子を失った永代橋の崩落事故というのが、人情を感じます。
強い信念のもと突き進む茂十郎の姿は爽快で、心に残りました。
その彼の出した結論が「葵の御紋は金より強い」で、お上を見限った末の彼の末路が辛いです。
弥三郎と茂十郎の友情もいいですね。
結局ラストはまたもや泣かされました。
私利私欲に塗れたお上には、苛立ちを覚えました。
政が崩壊して真っ先に苦しむのは民ですね。
映像化されてもいいのになと思う良作でした。 -
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ネタバレ法隆寺 夢殿に歴史と共に救世観音像が祀られてある。それを明治21年に厨子を調査として開けたフェノロサ、岡倉らの人生はその時変わっていった。伝説通りに雷に打たれた、というのではないが明治という新しい時代が、彼らをどう揺さぶっていったか。
史実に基づいて連作小説と形をとった一冊となったが世界と日本を結ぶ美術に関して、当時、日本を訪れた西洋人の目で見た日本人ん姿なども興味深い。
救世観音の表情をアルカイックスマイルと評しているが、はるか歴史の彼方からその表情は聖徳太子の姿とも伝えられ、ロマンを掻き立てられる。歴史好き美術好きを恥ずかしながら自認してるとは言えこういう本に出会えて幸いである。そんな自分がなぜか罰当たり者に思える。畏れという感情、常々持っていたい。