あらすじ
筆という卵が生み出すのは、武者か美女か、それとも鬼か。東海一の文化人と、松平定信の交流が心を揺さぶる。──直木賞受賞第一作!
かつては寛政の改革を老中として推し進めた松平定信は、60を過ぎて地元・白河藩主の座からも引退した。いまは「風月翁」とも「楽翁」とも名乗って旅の途次にある。その定信が東海道は日坂宿の煙草屋で出会ったのが栗杖亭鬼卵。東海道の名士や文化人を伝える『東海道人物志』や尼子十勇士の物語『勇婦全伝絵本更科草子』を著した文化人だ。片や規律正しい社会をめざした定信に対し、鬼卵は大坂と江戸の橋渡し役となる自由人であり続けようとした。鬼卵が店先で始めた昔語りは、やがて定信の半生をも照らし出し、大きな決意を促すのだった……。
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Posted by ブクログ
栗杖亭鬼卵という人のことは、全く知らず、まず、実在の人物と知って驚きました。
「自由と反骨で幕政の束縛に抗った文化人」とあったので、荒々しい破天荒な人物を想像していました。読んでみると、穏やかで人柄良く、初めて書いた本が御法度本であることに恐れを感じる、良い意味で共感しやすい人でした。
鬼卵だけでなく、彼が出会う人々も気持ちの良い心根の人で、彼らとの会話が小気味よく楽しめました。また、出番は少なかったものの、志乃・夜燕・須美と、3人の女性陣も芯が強くて素敵でした。
心に残る名言もたくさんありました。
「死ぬまでの暇つぶしみたいな生き方はしなさんな」
私も人生の後半戦に突入しています。
愛妻との死別を乗り越え、64歳で初めて読本を書き上げた鬼卵の言葉が心にしみました。
Posted by ブクログ
面白い。鬼卵は、最高にかっこいい。
権力に抗う上での、滑稽、風刺、諧謔による狂歌は強い武器になると思った。
自分のなりたい姿。ユーモアによる諧謔と、本質を炙り出すことがよい。
喧嘩にせずに、王様は裸だというのが、狂歌の真髄と思った。
狂歌をもっと深めていきたい。
マネジメントにも通じることがらや戒めもあり、組織や社会でいきること上での大事なスタンスも描かれる。そして、万里一空にも通ずる。
反骨と笑い、上に立つものの備えるべき謙虚さ。そんな物を学ぶ。そして、そうした中で、何故狂歌に惹かれるかも明らかにできた。
82
窮屈な世の中で物を言うには、身を守ることを忘れたらあかん。言って殺されたんでは元も子もないからな。その為には、相手に拳を振り上げさせず、上げたとしてもすぐに下ろせるように間を空けとくことが大事や。その間が狂歌に欠かせぬ滑稽であり、風刺、諧謔や。
おもしろおかしゅう書けばええ。生真面目に言うたら喧嘩になる。せやけど下らない言葉に乗せてしまえば、真にうけて怒った方が恥をかく。力を抜いて、笑いながら書け
212
されど、その辛さもまた己の糧にしなければ苦しみを越える力を得ることもできませぬ
213
己の胸の内を見失わんかったら、いつでも楽しい道は見つかる
247
そもそも学問いうんはな、面白いからやねん。楽しいから調べるねん。正学やなんやて切り分ける。そういう物の見方をするような人はな、学問っちゅうもんがわかってへん。その御触れの不粋さよ
292
なすがわと為される側では、見える景色は違います。御殿様が動かした指先が、末では鉈を振るうほどの力にもなる。君子たる方には、重々ご承知おき願いたく
311
世の中の 人とたばこのよしあしは 煙となりて後にこそ知れ
→煙とならず血肉の通ううちは、お殿様とてわてとて同じく道半ば
313
銀の猫
されど、同じ空の下、お殿様のようなお方と、このやつがれのごとき者が共にいるのもまた、面白きことかと
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ええか、世の中の大半の揉め事はな、振り上げた拳の下ろしどころを見失うことで起きる。せやけどお前の言う通り、黙っていればええというわけやない。言わなあかんこともある。
窮屈な世の中で物を言うには、身を守ることを忘れたらあかん。言って、殺されたんでは元も子もないからな。その為には、相手に拳を振り上げさせず、上げたとしてもすぐに下させるように間を空けとくことが大事や。その間が狂歌に欠かせぬ滑稽であり、風刺、諧謔や。面白おかしゅう書けばええ。生真面目にいうたら喧嘩になる。せやけど下らない言葉に乗せてしまえば、真に受けて怒った方が恥をかく。力を抜いて、笑いながら書け
筆は卵や。ここからは武者も美女も神仏も出る。それが人の心を躍らせ、救いもする。せやけどここからは、鬼も蛇も出る。それは思いがけない形で暴れ、人を食らいもする
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とても面白かった。
舞台は江戸時代なんだけど
ジャーナリズムのあり方、
クリエイターの生き方、
ジェンダー、
老いへの向き合い方など
今に通じるテーマが
自然に盛り込まれていました。
登場人物も皆、魅力的。
Posted by ブクログ
江戸時代の上方の文化人、栗杖亭鬼卵の半生を描いた物語。
様々な人との出会い、愛する妻との死別、天明の大飢饉を経て、彼が本当に表現したかったものが明らかになる。
それを隠居後の松平定信に語るという舞台設定が、より鬼卵の訴えたいことが伝わってくる。
永井さんの人物の描き方が本当に好きなんだよなー。
鬼卵の人柄の良さに、さらに人柄のいい人が集まってくる。
さらっと蔦屋重三郎の名前も出てくるし、内容的にも来年の大河ドラマを見る前に読むのもいいんじゃないかな。
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直木賞受賞後の第1作。「木挽町のあだ討ち」が大傑作だったので期待して拝読。前作を超える傑作とまでは言わないが、時代小説を牽引する作家の一人になった印象をもった。恥ずかしながら栗杖亭鬼卵は知らなかったが、禁欲政治を断行した松平定信との老いてからの邂逅談という設定も面白く、歴史好きにはたまらなく興味深い一冊。今後も大注目の作家さんの一人。
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世の中の 人と多葉粉(たばこ)の よしあしは
けむりとなりて 後にこそしれ(栗杖亭鬼卵)
松平定信がこの歌に眼をとめ褒美をくだされた
この伝説を元に定信へ昔語りをする構成が上手い
栗杖亭鬼卵は大阪の下級武士で、絵画、狂歌、連
歌、俳諧、戯作者として東海を遍歴する
伊豆韮山代官江川家手代というもの興味深い
静岡の日坂で煙草屋を営み松平定信と出会う設定
作中で後進を育てる時に一流の人物に結びつける
楽しさに気が付きネットワークつくりに東海道人
物志(宿駅に住む学者、文人、諸芸に秀でた人々)
を纏める・・・18世紀の時代の文化人の有り様
が興味深い
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大飢饉続発による財政逼迫、田村意次政策による庶民の幕政不信。それらの政治課題に対して老中として真っ直ぐに取り組んだ一方で、圧政が過ぎるとの誹りを受けた松平定信が、政務を退いてのちに戯作者栗杖亭鬼卵と交わる。己の施した政への市井の評価は如何なるやと気になる定信に、自らの生い立ちを語りつつ臆することなく飄々と応答する鬼卵。結局は語らう時点で是も非もないが「世の中の人と多葉粉のよしあしは煙となりて後にこそ知れ」とな。なるほど、改革をすれば利を得る者あれば損を被る者あり。総じてその評価は時を経て振り返るしかない。
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風流人と朴念仁のスリリングな会話、楽しい。「暇にあかせてようけ本を読んで、物を書いて、頭でっかちになっている世のはみ出し者」文人墨客。社会にゆとりなくなっている現代ても棲息出来てるかな。「耐え忍んだかて禄は増えない。とは言え、ただ怠けるのも、それはそれでしんどい。せやから楽しいことをせい。それはいずれお前を助けてくれる」「世の中の大半の揉め事は振り上げた拳の下ろしどころを見失うことで起きる」「死ぬまでの暇つぶしみたいな生き方はしなさんな。そんなに人生は短うない。楽しく生きたらええねん」結局、埋火は役割り果たせたのか、モヤモヤ残った。
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「白河の清きに魚も棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき」で有名な松平定信は隠居し、今はお忍びの旅の途中。家臣に案内されて、日坂宿で煙草屋営む浮世絵師であり戯作者でもある栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)を身分を隠したまま訪れる。規律正しい社会を目指した定信の問いに、鬼卵は自由人として生きて来た来し方を語ります。
面白い設定です。堅いながら苦言に耳を傾けることができる定信。それを支える家臣。それに対し、木村蒹葭堂をはじめ丸山応挙、上田秋成、海保青陵といった多くの文人賢者に支えられ、自由人として生きて来た鬼卵は、定信の政策に苦言を呈しながら自分の半生を語ります。
人物も良いですね、みんな綺麗に個性が立っています。とくに奥さんの夜燕 弟子の須美と言った女性陣は素晴らしい。ただ登場人物が多すぎたかな。もう少し絞って、その分女性陣を多く描いて欲しかった。
それにしても見事な設定です。読みながらずっと浅田次郎さんを思い起こしていました。実は著者の前作『木挽町のあだ討ち』も『壬生義士伝』っぽい感じを受けていました。もの真似ではなく「同じ系統」という意味でですが。「稀代のストーリーテラー」ともいわれる浅田さん風のストーリーですから、面白くないわけ有りません。
まあ、悪達者という悪口もありますけどね。
Posted by ブクログ
寛政の改革の松平定信と栗杖亭鬼卵。
この時代の生きる苦しさを描きつつも読後感は良かったです。
「世は意のままにならぬもの。…さすればこそ、時に風月を愛で、詩文や物語を読んで思いを馳せて楽しみ、日々の憂さを晴らすのです。そして明日を生きる力にする。」
ほんとにその通りです。
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若い頃に経験した武士に対する理不尽な思いをずっと抱えて、何者にもなることができない焦りも抱えながらも、多くの心優しき人や愛する者との関わりで、悲しみや挫折を乗り越えてきたのだな、最後は何者かになれたのだなと思いました。
Posted by ブクログ
高校の時、私は日本史の歴史の授業ではいつも睡魔に襲われていた。その結果、歴史上の人物が時代ごとに区分できていない。
主人公の鬼卵は転居を繰り返しながら、様々な文化人と出会い記録を残していく。
日本史を熟睡で過ごしていたので、松平定信と上田秋成が同じ物語の中に登場するのに驚いた。
本を読むことは、知識を蓄えていくことなんだと実感した。
Posted by ブクログ
江戸時代、文政年間に大阪に生まれ、のちに静岡に住んで東西の文化を繋いだと言われる浮世絵師、戯作者の栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)のお話を、松平定信との邂逅という設定で紹介する。定信との、生き方の違いを対比させた最後に、唸った。定信でさえ敵わぬ粋人であった。
常に人との繋がりの中に身を置き、自身も人をつなげる書「東海道人物志」を著す。当時の文化人を紹介する本だ。
浮世絵や戯作者としても、文人としても優れた鬼卵は、人を紹介するにも信頼を得ていた。
これからも注目の作家さんです。
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江戸中期の実在の文化人栗杖亭鬼卵と天下人の松平定信との出会いの物語。
旧東海道を歩いた時の記憶が甦り、日坂の宿、小夜の中山、掛川城、三河吉田と馴染み深い土地の名前に更に興味深く読みました。
現代は新幹線で東京〜京都を2時間半で行き交い、メールでやり取りする世の中。
反して主君が悪くても物申すことも出来ない昔の世(今は物申しても届かない?)
でも、昔も今も文化を楽しむ庶民は大勢おり、世の中も文化のおかげで成り立っている様なところもあるのではないかと、読書好きの自分は面白おかしく読みました。
時代小説は苦手ですが、直木賞受賞作も読んでみたいです。
Posted by ブクログ
小さな煙草屋『きらん屋』で、栗杖亭鬼卵の来し方に耳を貸すことになった松平定信。政や裏金、専横な君主…庶民を窮屈にする世は相も変わらず。セリフに風刺を盛り込む技は秀逸。胸がすく。木端や夜燕、秋成に応挙、シャベッテルとダマッテル…温かくて明朗闊達な人々に魅了された。
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質素倹約を強いた松平定信が引退した後。栗杖亭鬼卵と知り合う。不要不急の文化に勤しんできた鬼卵の半生を聞かせてもらうと。
面白かった。上田秋成や円山応挙など実在の人物多数登場。鬼卵の名前も初めて見たけれど、実在の人物だそう。江戸時代の改革VS文化、読んだことのない小説
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これはまた、粋な話。面白き事を求めて生きるとは。それを求めて生きるには、相当の覚悟がいる気もするし、やってみるとそうでも無いのかもしれぬ。全てをそうは、出来ないが、それを少しでも、求めてみるか。
Posted by ブクログ
初読みの作家さん。
新聞連載で読んだのでこちらに登録。
鬼卵が自分の半生を通して見た幕府や世の中を定信に対して諧謔を交えて語り、それに対して定信をが怒りそうになるけど1理も2理もあるので頷かざるを得ない展開が妙に居心地の良さを与えてくれて楽しく読めた。
どの時代も同じだと思うけど1つの視点だけでなく2つ3つと違う視点で見ることを忘れない方がより良い選択ができるのかなと思う。
Posted by ブクログ
永井沙耶子さんの『木挽町のあだ討ち』を読んで面白かったのでこちらを。
『木挽町のあだ討ち』と話がほぼ一緒で、読む気分が下がった。
立派な武士が悪徳御上に汚名を着せられ殺されるとか、放蕩中に許嫁との縁談が破談になるとか、エピソードが被り過ぎ。
円山応挙や上田秋成とか実在の人物が出てくる部分は少し興味を持てたけど、あまりに似通っていて前半は楽しめなかった。
後半からはオリジナル感が出てきて前半よりは気にせず読めた。
でも、世の中に対しての作家の主張とそれを伝えたい気持ちが強く、臭いというか古いというか、私的には微妙。
最近の若い作家さんや最近の作品は世の中や政治に物申さなければいけないみたいなところがある気がする。前面に押し出し過ぎる。
そういうのは隠し味程度でいいのに、って思う。
例えば伊坂幸太郎さんみたいな飄々とした軽やかさで世の中を斬った方が痛快。
Posted by ブクログ
木挽町のあだ討ちが大変面白かったので期待して読んだが
うんまあふつう
山中鹿之介を架空のヒーローに仕立て上げた鬼卵と老中を引退し国元でも煙たがられていた松平定信が邂逅したら という話
尼子十勇士の仕掛け人はこの人だったのね
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晩年の戯作者の栗丈亭鬼卵と引退した松平定信が邂逅したという話。
自分の生い立ちを定信に話して聞かせるという形で進む。
栗丈亭鬼卵という人を知らないので、どこまで史実に基づいているのかわからず読み進めたが、当時の人たちが絵や詩や浄瑠璃、歌舞伎などを必要としたことはよく理解できた。
政や飢饉のこといろいろ書きたいことがたくさんあるのはわかるが少し詰め込みすぎで結局こちらに伝えたいことがよくわからなかった。
エンタメ小説というより研究により栗丈亭鬼卵の人となりはこうだったよ、という発表のよう。
Posted by ブクログ
読本書きにして浮世絵師でもあり歌詠みでもある栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)。知らなかったが実在の人物であるらしい。文人墨客と政(まつりごと)の人との比較で松平定信が出てきたのかもしれないが、別にいらない気がした。
Posted by ブクログ
江戸中期の文化人の栗杖亭鬼卵を描く歴史小説。
題材が大阪の江戸中期の文化人ということで、江戸では蔦屋重三郎が活躍していたころで有名人が多いが、大阪の文化人はよく知らなかったので勉強になった。
登場人物の有名どころでは、松平定信、円山応挙、次いで雨月物語の上田秋成と江川英毅(英龍の父)くらくいで、後の文化人(栗柯亭木端、如棗亭栗洞、木村蒹葭堂、志村天目、夜燕、五束斎木朶など)は知らなかった。
鬼卵を知らなかった自分としてはよくわからなかったが、物語的には鬼卵と定信が直接出会ってやり取りするところが史実の隙間を縫っていて面白いのだろう。
Posted by ブクログ
掛川日坂で晩年を過ごした鬼卵を題材にした話
隠居した元老中松平定信との会話を機に物語が展開される
直木賞作家らしい筆の運びや構成は流石だが、題材が面白くないんだな。永井氏っぽいテーマではあるけど…
Posted by ブクログ
最初、とっつきにくくて、
読み通せるかなと不安になったけど、
中盤からどんどん進めた。
「木挽町のあだ討ち」よりは落ち着いて読めたかも。
終盤の松平定信との接点、最初と同様に
すこーし、無理っぽいかな。
夜燕と一緒だった頃の栗杖亭鬼卵を
あまりひねらずに書いてほしいかったかな。
ははは、気楽な読者は無理言ってますね。
Posted by ブクログ
一か月前に読み終わりレビューも書いたのだが、手違いで消してしまいそのままになっていた。好きな本だったので備忘録ぐらいにはまとめようと気を取り直す。
主人公の栗杖亭鬼卵は江戸時代の戯作者。河内(大阪府)出身の下級武士で、その後絵画、狂歌、連歌、俳諧をたしなみながら諸国を遍歴する。伊豆韮山代官江川家の手代として三島に住み、その後官を辞して駿府に移り、寛政末ごろからは遠江国(静岡県)日坂に住み煙草屋を営む。別名に平昌房、伊奈文吾、大須賀周蔵とも名乗っている。
定信は東海道日坂宿の煙草屋を営んでいる鬼卵と出会う。定信は寛政の改革を老中として推し進め、60を過ぎて地元・白河藩主の座からも引退。いまは「風月翁」とも「楽翁」とも名乗って旅の途次にある。
定信はまだ記憶に新しい。『まいまいつぶろ』に登場した吉宗の孫にあたると大まかに推察ができ嬉しかった。定信と云えば日本史の授業で「白河の清きに魚も住みかねてもとの濁りの田沼恋ひしき」の狂歌を思い出す。彼の寛政の改革は囲米の制を制定、朱子学以外の学問を禁止するなど規律正しい社会をめざした人物だ。一見相いれないふたりが出会い、鬼卵は訪れた定信に昔語りを始めるのだった。
最後に鬼卵が残した歌がある。「世の中の人と多葉粉(たばこ)のよしあしはけむりとなりて後にこそしれ」はて、軍配は?
鬼卵は多才なはずなのに、小説中に登場する名立たる著名人と自らを比べて悩む。「人と人とを結びつける役割だったら儂でもできる」とネットワーク作りを思い立ち、57歳で『東海道人物志』を著す。品川から大津まで、53宿駅ごとに、その地に住む学者、文人、諸芸に秀でた人々を列記した実用書みたいものだ。その先取り感覚はまさに今のSNSのようで素晴らしくないだろうか! 人と人を結びつける業務はできなくても、私個人にも微力ながらできそう。小さな楽しみが見つかった!