永井紗耶子のレビュー一覧
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江戸城・大奥のお仕事小説短編集。
ひのえうまの女・・・奥女中の要・御年寄に仕えたお利久。
家の事情も伴い、大奥で出世したい願望あれど、今の仕事は
心あらず。だが思わぬ出会いから自分を生かせる道を見出す。
いろなぐさの女・・・「私にご指南いただきたいのです」
呉服の間のお松の境遇からの悩み。呉服問屋の千沙と
女形の岩井粂三郎との出会いと語らいは、己と向き合い人と
向き合う大事さを知ることになる。それは二人も同様に。
くれなゐの女・・・御末の玉鬘は大柄な身体が悩み。だが夕顔との
出会いで変化が。夕顔の見事な処世術。心に残るのは、
白塗りの顔と皆を笑顔にさせる夕顔の心持の逞しさ。
つは -
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ネタバレ歴史・時代小説として原三溪の人となりを描いた本。といっても原三溪が主人公ではなく胡乱な若手実業家が原三溪を知る商売敵、元芸者、元女中、そして前田青邨や松永安左ヱ門という実在の人物との対話を通して原三溪の姿をあぶり出していく展開が秀逸。
昭和初期の華やかな横浜の風景をキングの塔、ニューグランド、聘珍樓など実存する場所を織り交ぜ浮かび上がるような描写が読んでいて楽しい。関東大震災や第二次大戦の空襲といった横浜の苦難の時代もカバーしていて横浜生まれの作者の思いを感じさせる。
ユニークな切り口とライブ感あふれるタッチでありし日の横浜を描いた秀作。 -
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江戸の芝居小屋を舞台に、木挽町で起こった「立派な仇討ち」が、目撃者の視点から語られる物語。仇討ちを成し遂げた菊之助の縁者が、彼と関わりのある人物を訪ね歩きながら、その真相に迫っていく。
物語は目撃者へのインタビュー(独白形式)で進行するが、この構成が非常に面白い。湊かなえの『告白』や『カケラ』を読んでいるような感覚を覚えるが、それを時代小説の枠組みで味わえることが新鮮だった。
本作は、仇討ちの真相に迫る過程がミステリー仕立てになっている。結末も十分に面白いが、真の魅力は、登場人物それぞれの人間ドラマにあるように思う。
五人の目撃者は、仇討ちの一部始終だけでなく、自らの生い立ちについても語 -
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ネタバレ直木賞と山本周五郎賞の同時受賞作品だが、歯に衣着せぬ感想を言えば、期待超えはならず。
時代物のミステリというのがざっくりした位置付け。ただ、歴史性を重んじておるわけでもなく、トリックに仰天というわけでもない。
では、なぜここまで評価されているのか。私なりの答えは「人情」の描写の手厚さと共感のしやすさにあると考える。
討ちたくない相手を仇とし、一方で武士としての生き方に縛られ、父の生き様を肯定することの背景が、普段の我々とはかけ離れた境遇のはずなのにどこか現代社会にも蔓延る理不尽さを思わせる。
嘘に救われるという解説にも納得。
辛口に書いたが、普通に面白かった。