あらすじ
「陰陽師の末裔」弓削家の当主、清隆が密室で変死体となって発見された。事件は自殺として処理されたが、30年を経て、孫の弓削和哉は「目に見えない式神による殺人」説を主張する。彼の相談を受けた桑原崇は事件を解決に導くと同時に「安倍晴明伝説」の真相と式神の意外な正体を解き明かす。好調第5弾!
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Posted by ブクログ
今回は、三十年前の殺人事件の被害者の孫が、その密室の謎を大学生時代の桑原崇に解いてもらったという、過去の事件の話。
しかも飲み会での話題。
弓削家という陰陽師の家系であることから、被害者の孫である和也は、犯人は式神を使って祖父を殺したのだと主張する。
「そんなものあるはずはない」という大方の人たちと意を異にするのがタタルで、「見えないだけで存在している」と言う。
それはいったいどういう意味か?
平安貴族からすると、官位五位未満は人ではないのだ。
とはいえ、実際には貴族の世話をしたりする庶民もいる。
そして、さらにその下には、賤民がいた。
朝廷にまつろわぬ民の末裔。
それは人ではなく、鬼や蝦夷やキツネや河童のように別のものとして扱われ、身分も住処も与えられることはなかった。
流れ者として芸を売ったり身を売ったり。
そういう一族が、華やかな都に確かにいたのだ。
人ではないのだから、当然目には見えない。
そんなことがあるのだろうか。
目に見えないといっても、現にそこに彼らは存在しているのに。
しかし、例えばいつも通る道に不意に現れた更地を見て、ここには依然何が建っていたのだろうと思うことがしばしばある。
絶対に目にしているはずなのに、思い出せない。
私にはそこが見えていなかったのだ、きっと。
今回はちゃんとした密室殺人だなあと思って読んでいたのに、やっぱりちゃんとした密室ではなかった。
人の心が作った階級が、同じ人間たちを見えない存在にしてしまう。
今も、学校や地域で村八分という、見えない扱いを許す行為は残されている。
それは愚かな行為であると、皆が自覚しなければなくならないのだろう。