まさきとしかのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
本作は、道尾秀介先生らしい鮮やかなトリックが光る一方で、単なる驚きにとどまらない深い感情の揺さぶりを残す一作です。仕掛けが解けた瞬間に押し寄せるのは意外性そのものよりも、真相の裏に潜む圧倒的な切なさでした。読者は心地よい敗北感とともに静かな感動へと導かれます。
物語の核にあるのは、「視点」によっていかに真実が変容するかというテーマです。私たちが無意識に抱く思い込みは、時に現実を大きく歪めてしまう。一つの出来事も立場や視点が変われば悪意に見えたものが善意へと反転する。その構造が巧みに描かれることで、日常に潜む認識の危うさと、人間関係の多層性が浮き彫りになります。
また、登場人物たちが抱える「嘘」は、決して自己中心的なものではありません。誰かを守るために選ばれた不器用で切実な選択です。自らが傷つくことを引き受けてでも大切な人を守ろうとする姿には、ミステリーの枠を超えた人間的な温かさが宿っています。
そして読後、タイトルの意味は大きく反転します。最後の一行に至って初めて見えてくる真実は、残酷でありながらも確かな救いを含んでいます。読み終えた後、身近な人の心の機微により丁寧に向き合いたくなる——そんな余韻を静かに残す作品です。 -
Posted by ブクログ
あらすじに惹かれて。
生みなおして育てれば良いという考えには驚いたけど、自分が愛する存在が突然目の前から居なくなったら私も同じことを考えてしまうのかな…と思う。
どうしても前の子供に重ねてしまう気持ちは凄く分かるし、それは子供や他人からみたら曲がっている考え「母親失格」な行動であることも本人もきっとわかっていて…。
その個々の心の状態の移り変わりにハッとさせられたり、視点が変わるとそう感じてしまうのか…と様々な発見があって、ミステリーとしても、この可能性があるんじゃ…でもこうなのか…?と後半結構揺さぶられて面白かった。暗めだけれど人の成長みたいなのも見られる不思議なお話だった。 -
Posted by ブクログ
丸江田逸央、34歳無職。
自らを起業家と偽り、SNSで知り合った、家系的にも社会的にも金銭的にも〝恵まれた〟男女数人をヒ素により殺傷させた――豊洲バーベキュー事件。
当初は、自身をヒエラルキーの底辺と位置づけた逆恨みによる、身勝手で自己中心的な犯罪とされていた一件。
だが、犯行に使われたヒ素が、12年前に遠く離れた北海道の片田舎で起きた一家殺害「レッドクローバー事件」と同一のものだと判明してから、事態は動き出す。
母に捨てられた娘。
地域から蔑まれた家族。
呪いを叶える闇神神社。
頻発する不審火。
身勝手で自由奔放な母親。
8年前の集団自殺。
一見、何の因果もなさそうな不幸や事件が、いくつもの家族に降りかかり、それらが複雑に絡み合いながら、やがて真相が浮かび上がってくる。
人を恨んだり、呪ったりする気持ちは分からない。
けれど「分からない」ということは、もしかすると自分が〝誰かに恨まれる側〟に立っている可能性を孕んでいる、ということなのかもしれない。
殺される前に殺す。
もしこの人生でそんな局面に出くわしたとしても……自分はそこまでの思考には至らない気がする。
それは、ただお気楽なだけだろうか。
物語でありながら、妙に現実味がある。
もしかするとこれはドキュメンタリーなのではないか――そう思わせるほどの人間心理に、ヒヤリとさせられる一冊。
今年の10冊目