広井良典のレビュー一覧
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本書は、今後確実に進んでいく人口減少の中で、どのような社会の形をとるべきかという議論である。
印象に残った点は、人口減少の原因が、未婚化・晩婚化にあり、結婚している世帯の出生率自体はそこまで落ちていない点。
そして、未婚化・晩婚化の原因として、若者の所得については、非正規雇用の増加等も原因となり、1980年代ごろから低下していると言う点である。それゆえ、広井氏は人生前半=若者への社会保障の拡充をまず訴える。
また、広井氏はコミュニティ論の大家として知られるが、冒頭の人口減少や格差の増大と並列して、「社会的孤立」の指標を取り上げていた点が印象深かった。日本は先進国の中で社会的孤立の指標が相対的に -
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タイトルだけで、淡白で薄っぺらい内容を想像したが全くそんな事はない示唆に富んだ本。データに基づき現象を正しく分析するだけではなく、守備範囲も広い。多々、学びがあった。
社交のための関係性を持たない「社会的孤立」の度合いが、日本は先進国の中では飛び抜けて高い。それ故に、出会いも少なく、未婚率も増え、出生率は低下。引退後の無気力を招き、孤独死、あるいは死ぬ時は病院で。
日本人はいつから、他人に対してこんなにも線を引くようになったのだろう。同じ車輌に押し込まれた悲しい勤め人なのに、目も合わせない。空間を共にしても、会話をする事は稀。コミニティー空間や居場所がない。昔は、教会や神社がコミニティーの -
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かなり前の本でありながら、私に取っては示唆に富む内容だった。
筆者の(多岐にわたる、そしてカタイ)専門分野がありながら、もっと深いライフワークだったり本当に心からの疑問について真摯に向き合っているということ(特に6章とエピローグ)が尊い。
備忘
・冒頭のアインシュタインの話
・私たちは遺伝子の乗り物で過ぎないということ
・生殖を終えた後の寿命が長いから固体が大事で、それは社会性=ケアの中で生まれる。人間はケアする動物。
・日本では今は死に向き合ったこころの拠り所は空白状態。死についてしっかり教わっていない、考えられていない。
・モノ不足の時代が終わったあとは、モノの消費ではなく、商 -
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エントロピーの増大に抗い、外に開放されながら、「定常的」であること。
エントロピーと自己組織化の奇跡的な均衡が、人間の体という境界線で起こっているということなのか!
さらには、
一個の人間を基軸にしたとき、その内側、つまり器官から細胞、分子に至るまで、同様のことが起こっており、その外側、つまりコミュニティから社会、地球、宇宙に至ってもまた、同様のことが起こっているのだ。
複雑極まりないことを、シンプルに解き明かし、まるで「解った!!」かのように勘違いさせてくれる、この手の本が大好きだ。
ここでは書ききれないほどの無数の「アハ」体験。
この本はヤバい。 -
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まず、この先生が取り上げているテーマが普段自分が考えていることが多く、考え方も自分とよく似ていることに驚かされた。
取り上げられている事は、有と無について、宇宙誕生レベルの大きな視点からの人類史(ビッグストーリー)、死生観についてなどであった。
これらのテーマについて自然科学、人文科学、宗教をミックスして統合して論じていた。
現代社会は消費と生産を拡大していく資本主義の限界に直面しており、それは地球の有限性からくるもので、今後拡大路線から定常状態に移っていくこと、その際に物質的な生産ではなく精神的な創造に移っていくだろうという意見には納得させられた。現実にも、日本においては車や家電などが大きな -
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全体的にデータに基づいて説得力のある文章だと感じた。
人口減少は避けられないが、どこかで下げ止まった後、定常状態をいかに持続可能にするかが重要。そのためには、若者への人生前半の社会保障による少子化対策が有効。その財源として、税金や社会保障による国民の負担増を考える必要がある。高福祉高負担を選択したヨーロッパ、低福祉低負担を選択したアメリカに対して、日本は高福祉でありながら負担増の議論を先送りしてきた。負担増を考えるとき、家族以外への扶助の精神がないという現代日本人の孤立感が問題となる。そこで、コミュニティ感を高めるための都市デザインが重要となる。
今後の展望として、著者は多極集中が良いと考 -
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どうしたら幸福な社会、人生を創れるか。
そのスタートにつくためには20世紀と21世紀の向かうべき社会、死生観、環境などの現状を理解する必要がある。
経済、環境、福祉、なぜこの3つがサステナビリティやCSRで論じられるか?
日本はいかに未来世代の選択肢を削って、犠牲にして先送りを続けているか
コンパクトシティと多機能自立分散のシナリオの選択と猶予期間。
ムラ社会とマチ社会の特性と今後向かうところは?
バーチャルとリアリティのグラデーション、生と死のグラデーション
これらのテーマを個別でなく統合的に解説してくれている。
対話や議論を行う前の共通認識を整えるに最適な一冊。
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コミュニティを問いなおす
非常に面白い本であった。改めて広井先生の社会福祉論の面白さに触れた。前半は増田四郎などに触れ、中世ヨーロッパの知見を援用し、社会学的な考察を行ったのち、広井先生の持論であるストックの再配分などに触れ、最後に多様な人々を結びつける共通基盤としての思想、哲学に議論が及んでいく。1冊の本の中で3冊分の知見を得たような気もする。
前半の日本社会論は非常に明快であり、個人的にも納得した。社会には都市型と農村型、テンニースの言うゲゼルシャフトとゲマインシャフト的な二分法がある。都市型は異なる人々が、規範をもとに個人をベースにした公共性の高いコミュニティを形成する。一方、農村型 -
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広井良典(1961年~)氏は、東大教養学部卒、東大大学院総合文化研究科修士課程修了、厚生省勤務、米MIT客員研究員、東大先端科学技術研究センター客員教授、千葉大学法経学部教授などを経て、京都大学こころの未来研究センター教授。専攻は公共政策、科学哲学。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等についての哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。
私はこれまでに著者の『死生観を問いなおす』(2001年)、『ポスト資本主義~科学・人間・社会の未来』(2015年)等を読んできたが、前者で書かれている「輪をなす時間/重層的時間モデル」(生は生で完結。“現在が