広井良典のレビュー一覧
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著者は、福祉などの公共政策が専門のようだが、学生時代には科学哲学を専攻していたらしい。そのためか、資本主義の歴史を科学史とのアナロジーで論じるなど、難しい部分もある。しかし、人類史を含む様々な分野の書物を紹介して俯瞰的な議論を展開しているので、学ぶところは多かった。
人類史は、拡大・成長の時代と定常化の時代のサイクルを繰り返してきた。農耕が始まって以降の拡大・成長期が続いた後、紀元前5世紀頃に世界各地で普遍的な思想や宗教が同時多発的に生まれたのは、農耕文明が資源・環境制約に直面したことが背景にあり、量的拡大から精神的・文化的発展へ移ったのではないかとの仮説を提示している。現在は、化石燃料を用 -
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第1章では日本社会の将来を抽象的に述べています。コミュニティ感覚の醸成が歴史的にも求められるだろうと著者は言います。これについては本書では触れられていませんが、社会心理学者の山岸俊男さんの主張と重なる部分があるため、なかなかに興味深いです。
経済の二極化、貧富の格差について、歴史的に必然と言っていますが、もう少し議論を掘り下げてほしいところです。分配の問題、著者はフロー(現金給付)ではなくストック(主に住宅)支援をすべきと主張します。これは特筆すべきであり、人口減少社会において、若者が親と同居するのではなく、ストックにより自立支援によって、親への負担を軽減させる効果が期待できます。目から鱗…… -
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ネタバレ戦後の日本社会とは、「農村から都市への人口大移動の歴史」であった。都市に移った日本人は都市的な関係性を築いていくかわりに「(核)家族」という、閉鎖性の強いコミュニティをつくった。これは家族の利益を追究することが、個人のパイの取り分の増大にもつながるという意味で一定の好循環を作っていた。しかし、経済が成熟化し、そうした好循環の前提が崩れるとともに、家族のあり方が流動化・多様化する。それはかえって個人の孤立を招き、「生きづらい」社会や関係性を生み出した。
このように社会的紐帯がゆるんでいくことは、人々が個人個人でしたいことをして生きるという理想を実現し始める反面、イエやムラなど前近代に起源が -
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効率化→生産過剰→総量(雇用等)が増大し続けない→椅子が空かない/非正規雇用など→若者の失業・貧困→少子化/職を持つorないでの格差拡大→消費が抑制→ ・・・のサイクル
◎各人が人生のはじめにおいて”共通のスタートライン”に立てる状況が大きく揺らいでいる
◎個人のチャンスの保障には、一定の制度介入が必要になってくる
◎福祉とは、どんな個人の潜在能力も社会に活かす取り組み
解決策
・過剰の抑制
・再分配・・・シェアの普及
・見えないものを売る→文化、サービス、経験などへの価値増大
・雇用の増大・・労働集約型の業種(教育、福祉)に労働力のシフト
→政府、社会保障、税の役割
福祉社会化
【人 -
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自治体はしばしば株式会社に例えられる。実働部隊たる行政職員が社員であり、納税者たる住民が株主であると。
実情を鑑みれば、確かにこの例えは自治体のある側面を捉えているといえると思う。……が、俺は以前からこの例えに違和感をもっていた。どこか住民を客体化しているような気がして。
本書の著者も「(略)市民は“株主”に対応するともいえるが、見方を変えれば、市民は、その人が住んでいる「○○市」という団体の“社員”ともいえるかもしれない」(p53)と述べている。専門の学者先生が同じように考えていることが単純にうれしかった。
・高齢者=地域との関わりが強い人々、すなわち、高齢化社会=そうした人々が -
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近年、中国やインドなど新興国の台頭とともに、エネルギーの枯渇やそれにともなう環境破壊が現実的な問題となるなか、いま世界中が従来の成長モデルを基本とした価値観からの転換にせまられている。しかも、日本は急激な少子高齢化を迎え、これまでのような成長路線は期待できないことを考えると、日本こそがこの問題の最前線にたっているといえるだろう。本書はそんな視点から、これからの時代の持続可能な社会のあり方を探っている。
筆者の言うとおり、今までの大量消費型の社会、ことにアメリカやそのモデルに追従してきた日本では、即効性のあることに価値がおかれ、環境保全や福祉のような長期的な視点を要する分野は軽視されてきた。 -
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学術論文のようでちょっと難しい内容ではあるけど
コミュニティがこれからの社会でどんな役割を果たすのか
いま、私たちの社会は歴史的にどの地点にあるのか
分かりやすく解説してくれている
少なくとも日本について言えば、かつての成長型の社会、
食べ物やサービスなどのモノが増えることを大切に
してきた時代とは変わって
良い食べ物、サービスの質など、モノの総量ではなく
そこに幸福感などを求める時代になってきたのではないか
だから、「シェア」なのだ 所有ではなく、共有なのだ
一度読んだだけではすべてを理解できないけれど
これからのコミュニティや社会を考えていくうえで
指針を示してくれる一冊だと思う -
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ネタバレテーマは『つながり』。
日本社会の各都市で起きている孤立問題から日本を覆う閉塞感、その打破のための普遍的原理追求を世界レベルの視点から模索しています。
もっさ抽象的ですが、今の日本には以前の高度成長期のような普遍原理(『追い付け追い越せ!』)が無くなり、カイシャという小さなコミュニティの中で個人は生きている。
排他的で余所者を受け入れない体質(ウチとソトの峻別)、しかし日本の都市計画ではそれが仇となり街の一体感や調和、コンセプトが見えない。乱雑した街並みになっている。
世界の都市(特に西欧)と比して目も当てられない凄惨な姿になっている。
西欧を倣って公有地を有効活用することが鍵と主張 -
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ネタバレ著者は、現代が市場経済の成熟化、飽和化した「第三の定常化の時代」と位置付けた上で、生産への寄与や拡大・成長といったこととは異なる次元での存在そのものの価値が求められるとし、人間一人ひとりが潜在的にもっている可能性や創発性が実現されること=「福祉」であると理解する。
また、「成長」のベクトル(時間優位の時代)から解放され、各地域の風土、伝統、文化といった固有の価値や多様性に関心が向かう時代(空間が全面にでる時代)となり、グローバル化の先にローカル化というより究極的な構造変化が存在するとして、限りない市場経済の拡大や資源消費の無限化という方向ではなく、できる限りローカルなレベルから「地域において -
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ネタバレ「私」の領域(市場)でも「公」の領域(政府)でもない、「共」の領域である「コミュニティ」からの新しい社会作りを提案した本。内容は社会、経済、福祉など多岐に渡り、この第三の領域を発展させることで諸問題を解決しようというものになっている。
この本でいうコミュニティとは、「メンバーの帰属意識やメンバー間の連帯、相互扶助を前提とする社会と個人の間に属する中間的集団」とのことである。
人間社会の消費形態は、物質の消費→エネルギーの消費→情報の消費、と変遷してきたが、現代は量的な情報の消費から、質的で内面的な充実を求める「時間の消費」の時代であるとされる。
その中で、人々は自然、公共性、ス -
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ネタバレ[ 内容 ]
経済不況に加え、将来不安から閉塞感をぬぐえない日本社会。
理念と政策全般にわたる全体的構想の手掛かりは何か。
進行する少子高齢化のなかで、社会保障改革はどうあるべきか。
資源・環境制約を見据えて、持続可能な福祉社会のあり方を論じながら、「成長」にかわる価値の追求から展望される可能性を提示する、問題提起の書。
[ 目次 ]
第1章 現代の社会をどうとらえるか―環境・福祉・経済(基本的枠組み 二つの対立軸―富の成長と分配)
第2章 個人の生活保障はどうあるべきか―ライフサイクルと社会保障(「インフォーマルな社会保障」とその解体 これからの社会保障)
第3章 福祉の充実は環境と両立す -
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[ 内容 ]
戦後の日本社会で人々は、会社や家族という「共同体」を築き、生活の基盤としてきた。
だが、そうした「関係性」のあり方を可能にした経済成長の時代が終わるとともに、個人の社会的孤立は深刻化している。
「個人」がしっかりと独立しつつ、いかにして新たなコミュニティを創造するか―この問いの探究こそが、わが国の未来そして地球社会の今後を展望するうえでの中心的課題となろう。
本書は、都市、グローバル化、社会保障、地域再生、ケア、科学、公共政策などの多様な観点から、新たな「つながり」の形を掘り下げる大胆な試みである。
[ 目次 ]
コミュニティへの問い
第1部 視座(都市・城壁・市民―都市とコミ