広井良典のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
社会政策を専門とし、これまでにも新書版を含めて多数の著書を持つ広井良典氏が、産業革命以降200年以上に亘り続いてきた資本主義社会に綻びが見える現在、資本主義の後に来る社会を予想・提言したものである。
テーマは壮大で、各学術分野に跨る分野横断的な内容となっているが、広井氏は他の著書と同様に丁寧に論考を進めている。
主旨は概ね以下である。
◆人類の歴史には、人口や経済の「拡大・成長」と「定常化」を繰り返す3回の大きなサイクルがあった。第1は、約20万年前に現生人類が登場し狩猟採集が始まった段階、第2は、約1万年前に農耕社会に移った段階、第3は、18世紀の産業革命以降である。また、過去2回の定常期は、いずれも、「心のビッグバン」(=芸術作品のようなものが現れた)、「枢軸時代(精神革命)」(=仏教、儒教、ギリシャ哲学、旧約思想のような普遍的な思想が生まれた)と言われる、文化的創造の時代であった。我々は現在、第3の「定常化」の時代、即ち何らかの新しい価値原理や思想が要請される時代の入り口にいる。第4の「拡大・成長」に向かうという議論も勿論あるが、地球資源の制約を考えると、著者は懐疑的である。
◆資本主義=「市場経済」+「拡大・成長」を志向するシステムである。「市場経済」は「個人の共同体からの独立」に基づき、「拡大・成長」は「自然からの人間の独立(自然支配)」に基づくものである。しかし、「自然支配」に基づく「拡大・成長」は、今や自然環境の有限性により“外的な限界”にぶつかり、同時に、人々の需要の飽和という“内的な限界”にも直面している。また、「個人の独立」は今や様々な矛盾を呈しており、個人からコミュニティへの回帰が求められている。
◆資本主義と両輪で近代化を支えてきた近代科学の特徴は、「法則の追求」(=「自然支配(人間と自然の切断)」)、「帰納的な合理性」(=「共同体からの個人の独立」)の2点であり、資本主義と同様の構造を持っている。
◆現在の資本主義の現象面をみると、様々なレベルの格差拡大と過剰という構造的な問題があり、それへの対応として、1.過剰の抑制(需要の飽和を解消するための、労働生産性から環境効率性への生産性の概念の転換)、2.再配分の強化・再編、3.コミュニティ経済の展開が必要である。そのような社会を「緑の福祉国家」、「持続可能な福祉社会」、「定常化社会」として推進するべきである。
そして、著者は最後に、「ポスト資本主義への移行は、ここ数百年続いた「限りない拡大・成長」への志向から「定常化」への“静かな革命”であり、今後21世紀を通じて人々の意識や行動様式を変えていく ― 同時にその過程で様々な葛藤や対立や衝突も生じうる ― 真にラディカルな変化であるだろう。・・・同時にそれは、・・・もっともシンプルに言えば「歩くスピードを今よりゆっくりさせ、他者や風景などに多少の配慮を行うこと」といった、ごく日常的な意識や行動に根差すものだ」と結んでいる。
本書の中でも、ドイツやデンマークのような国々が既にそうした社会の実現に向けて舵を切っていることが紹介されているが、我々も一度立ち止まって目指すべき方向について議論する必要があることを強く認識させる良書である。
(2015年12月了) -
Posted by ブクログ
著者は、福祉などの公共政策が専門のようだが、学生時代には科学哲学を専攻していたらしい。そのためか、資本主義の歴史を科学史とのアナロジーで論じるなど、難しい部分もある。しかし、人類史を含む様々な分野の書物を紹介して俯瞰的な議論を展開しているので、学ぶところは多かった。
人類史は、拡大・成長の時代と定常化の時代のサイクルを繰り返してきた。農耕が始まって以降の拡大・成長期が続いた後、紀元前5世紀頃に世界各地で普遍的な思想や宗教が同時多発的に生まれたのは、農耕文明が資源・環境制約に直面したことが背景にあり、量的拡大から精神的・文化的発展へ移ったのではないかとの仮説を提示している。現在は、化石燃料を用いた工業化による拡大・成長の時代から定常化に移る分水嶺の時期にあると位置付けられ、資本主義からポスト資本主義の展開と重なる(p1-10)。
透明性や公正性がある市場経済とは異なり、資本主義は不透明、投機、巨大な利潤、独占、権力などが支配し、拡大・成長を志向するシステムと理解できる(p25-28)、ウォーラーステイン「脱=社会科学」)。近代資本主義は、ヨーロッパにおける地理的発展による空間的拡大のほかに、個人が共同体の拘束を離れて独立することができたことや、技術によって自然を開発することができるという思想によって、拡大・成長していった(p36)。
資本主義は、1929年の世界大恐慌を経験した後、経済成長は需要によってもたらされるとして、政府による公共事業や社会保障などの所得再分配を進めることを主張したケインズの修正資本主義によって、大きな成長を遂げた(p47)。GNP統計も、世界大恐慌を受けて、経済成長の指標として開発されたもの(p50)。
これまでに重視されてきた労働生産性は、人手が足りず、自然資源が十分にあることが背景にあった。現在は、人手が余り、自然資源が足りない状況になっているため、環境効率性(資源生産性)の方向に転換することが課題。ドイツでは、「労働への課税から資源消費・環境負荷への課税へ」の理念の下に、1999年にエコロジー税制改革において環境税を導入した。その税収は年金に当てて社会保険料を引き下げたことにより、企業の負担を抑えて失業率を下げて国際競争力を維持した(p145、広井「定常型社会」)。ロバートソンは、共有資源への課税の考え方から、土地やエネルギー等への課税を論じている(p175、「21世紀の経済システム展望」)。
中世に教会やギルド、都市国家など多様な主体が活動していたように、これからは国家が中心の世界から、NGO,NPOや企業など様々な主体が活躍する時代に移るようになる(p63、田中明彦「新しい中世」)。著者は、生産性の概念を転換すること、人生前半の社会保障やストックの再分配、コミュニティ経済の3つの方向をあげて、緑の福祉国家を提唱している(p206)。 -
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第1章では日本社会の将来を抽象的に述べています。コミュニティ感覚の醸成が歴史的にも求められるだろうと著者は言います。これについては本書では触れられていませんが、社会心理学者の山岸俊男さんの主張と重なる部分があるため、なかなかに興味深いです。
経済の二極化、貧富の格差について、歴史的に必然と言っていますが、もう少し議論を掘り下げてほしいところです。分配の問題、著者はフロー(現金給付)ではなくストック(主に住宅)支援をすべきと主張します。これは特筆すべきであり、人口減少社会において、若者が親と同居するのではなく、ストックにより自立支援によって、親への負担を軽減させる効果が期待できます。目から鱗……とまではいきませんが、参考になります。
コミュニティ感覚の醸成は確かに必要だと思いますが、大きな進展が期待できるかは何とも言えません。社会的ジレンマの一つでしょうが、『誰が』『どのように』行うのか、一般論の域を出ず、もう少し踏み込んだ論を展開してほしいと感じました。また先進事例等が挙げられていれば良かったのですが、それも乏しかったため、説得力に欠ける感は否めません。
否定的に言いましたが、大筋では著者の主張に賛成です。
第2章は人類の歴史から成長と停滞(本書では定常と呼ぶ)のサイクルを俯瞰していますが、スケールが大きすぎて若干の胡散臭さがあります。読めば分かると思いますが、些事は事実とは違っていても、大枠では的を射ているように思います。
パイの拡大が期待できない今、考えられる方向は、著者の言う通り新たな価値観を創造することで、言わば別の資源(ここでの資源とは物質的なものではなく、例えばブランド化のような付加価値だったり、今まで活用されていないものを復興させることで、新たなパイを作ること)を開拓することだろうと思います。これまで以上に、もっともっと、社会のシステムが変わりそうです(例えば働き方やライフスタイル等)。
序盤は面白く、中盤では盛り上がりに欠けた(退屈といってもよいくらい)でしたが、終盤では今までの議論がつながっていき、怒涛の巻き返しが続いてびっくりしました。つなげ方に若干の強引さはあるものの、納得させられるものがあって、興味深いです。
僕の評価はA+にします。 -
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ネタバレ戦後の日本社会とは、「農村から都市への人口大移動の歴史」であった。都市に移った日本人は都市的な関係性を築いていくかわりに「(核)家族」という、閉鎖性の強いコミュニティをつくった。これは家族の利益を追究することが、個人のパイの取り分の増大にもつながるという意味で一定の好循環を作っていた。しかし、経済が成熟化し、そうした好循環の前提が崩れるとともに、家族のあり方が流動化・多様化する。それはかえって個人の孤立を招き、「生きづらい」社会や関係性を生み出した。
このように社会的紐帯がゆるんでいくことは、人々が個人個人でしたいことをして生きるという理想を実現し始める反面、イエやムラなど前近代に起源がありながら、経済成長を支えるなどした社会的準拠枠の喪失を意味する。
そのような状況下、新たなコミュニティ作りが模索される。そこにはどのような解決策が存在するのか?
大学の講義と卒論にて使用。 -
Posted by ブクログ
効率化→生産過剰→総量(雇用等)が増大し続けない→椅子が空かない/非正規雇用など→若者の失業・貧困→少子化/職を持つorないでの格差拡大→消費が抑制→ ・・・のサイクル
◎各人が人生のはじめにおいて”共通のスタートライン”に立てる状況が大きく揺らいでいる
◎個人のチャンスの保障には、一定の制度介入が必要になってくる
◎福祉とは、どんな個人の潜在能力も社会に活かす取り組み
解決策
・過剰の抑制
・再分配・・・シェアの普及
・見えないものを売る→文化、サービス、経験などへの価値増大
・雇用の増大・・労働集約型の業種(教育、福祉)に労働力のシフト
→政府、社会保障、税の役割
福祉社会化
【人生前半の社会保障が必要】
・教育 (特に就学前、高等教育期)
→保障の強化によって、各個人の潜在能力の発揮や自己実現の機会を広げ、経済という点からもプラスの効果を持つ
・ストックに関する社会保障(土地、住宅、資産など)
【セーフティネット】
・コミュニティ
コミュニティ自体の再構築の必要性
→町づくり
【アイデア】
・環境税を福祉サービスの資金に再分配
・新しい価値評価の思想
GDP→GNH(国民総幸福度)
【コミュニティ】
・多極集中型 コミュニティ醸成型の空間構造+福祉政策
→問題は”社会的孤立”
・都市型コミュニティ が目標
個人と個人が繋がれる仕組み
◎規範創りが重要
個人→コミュニティ→自然 の連動
都市型コミュニティ・・個人と個人が尊重、コミュニティの中でシェア
パイ(総量)が広がらない→いかに内部で豊かな生活を送るか。見えないもの(文化)などの投資
【ポイント】
・時間軸<空間軸 多様性や固有の価値の再発見
・これからはクリエイティブ産業が中心的に
(文化、科学技術、アート、教育など)
・非貨幣的な動機付けが重要視
・”仕事・社会と大学等での学びの往復”が可能な社会作り
・「考える力」1つの答えのない問題を考えることそれ自体のプロセスや面白さ が創造性のコンセプト
・子供と高齢者の割合が増加→土着的、地域密着の時期→地域コミュニティが重要な役割 -
Posted by ブクログ
自治体はしばしば株式会社に例えられる。実働部隊たる行政職員が社員であり、納税者たる住民が株主であると。
実情を鑑みれば、確かにこの例えは自治体のある側面を捉えているといえると思う。……が、俺は以前からこの例えに違和感をもっていた。どこか住民を客体化しているような気がして。
本書の著者も「(略)市民は“株主”に対応するともいえるが、見方を変えれば、市民は、その人が住んでいる「○○市」という団体の“社員”ともいえるかもしれない」(p53)と述べている。専門の学者先生が同じように考えていることが単純にうれしかった。
・高齢者=地域との関わりが強い人々、すなわち、高齢化社会=そうした人々が増える時代、という議論
・福祉に都市計画を関連させるという視座
・ストック(資産)の格差と社会保障の関係
など、中盤では実務的な示唆に富んだ議論が盛りだくさんで興味深かった。
終わりの方ではややアカデミックな議論を展開し、今後必要とされるであろう思想の、著者なりの方向性を控えめに示している。
これまでの人類の歴史がそうであったように、社会のパラダイムが大きく変革するときに必要とされる新しい思想が、現代は欠如しているという(現代は資本主義が飽和した時代で、新しい思想が求められているという文脈)。
このような時代に必要とされるのは、「有限性」(限られた資源の中で生きる人間をどのように位置づけるか)と「多様性」(古代から重視されてきた「普遍性」ではなく、むしろ、異なる歴史・風土・文化をもった集団をいかに承認し共存するか)をもった思想だという。
抽象的だし、なんとなく優等生的だけど、このさき現代思想について考えるとき、ここに立ち返って評価するといいかもしれない。 -
Posted by ブクログ
近年、中国やインドなど新興国の台頭とともに、エネルギーの枯渇やそれにともなう環境破壊が現実的な問題となるなか、いま世界中が従来の成長モデルを基本とした価値観からの転換にせまられている。しかも、日本は急激な少子高齢化を迎え、これまでのような成長路線は期待できないことを考えると、日本こそがこの問題の最前線にたっているといえるだろう。本書はそんな視点から、これからの時代の持続可能な社会のあり方を探っている。
筆者の言うとおり、今までの大量消費型の社会、ことにアメリカやそのモデルに追従してきた日本では、即効性のあることに価値がおかれ、環境保全や福祉のような長期的な視点を要する分野は軽視されてきた。しかし、これからは後者への不当な評価を改めていかなければならない。つまり、フローよりもストックを重視する社会への転換だ。また、本書では「心のビッグバン」といった言葉をあげながら、歴史上でも現代と同じような危機的な時代があって、そんなときに創造的な思想や文化が開花したことを紹介しているのも興味深く感じた。
とりわけ、私が筆者に共感するのは「福祉」というものを限定された分野・領域として考えているのではなく、広い視野からとらえている点だ。一般的に福祉というと高齢者や障害者のための施設など、一般から隔離されたイメージをもたれることが多い。しかし、いくら福祉の専門家をそろえて対応したところで、閉じた空間では十全なケアは期待できないだろう。地域社会、コミュニティーが機能してこそ、子どももお年寄りも安心して暮らすことができる社会が実現されるのだ。そういう意味から言っても、ヨーロッパの街を例に商店街や市場の福祉的役割を見出しているところは大いに納得できた。
以上、全体的に流れる主張やテーマについては高く評価したいが、価値観の転換について哲学・思想史的な視点から詳述している第3章については、本書全体のテーマに沿いながらも少し散漫になるような気がした。興味深い内容ではあるが、手を広げすぎてしまっためにインパクトが薄れてしまったといえないだろうか。もうちょっとすっきりまとめて欲しかった。 -
Posted by ブクログ
学術論文のようでちょっと難しい内容ではあるけど
コミュニティがこれからの社会でどんな役割を果たすのか
いま、私たちの社会は歴史的にどの地点にあるのか
分かりやすく解説してくれている
少なくとも日本について言えば、かつての成長型の社会、
食べ物やサービスなどのモノが増えることを大切に
してきた時代とは変わって
良い食べ物、サービスの質など、モノの総量ではなく
そこに幸福感などを求める時代になってきたのではないか
だから、「シェア」なのだ 所有ではなく、共有なのだ
一度読んだだけではすべてを理解できないけれど
これからのコミュニティや社会を考えていくうえで
指針を示してくれる一冊だと思う -
Posted by ブクログ
ネタバレテーマは『つながり』。
日本社会の各都市で起きている孤立問題から日本を覆う閉塞感、その打破のための普遍的原理追求を世界レベルの視点から模索しています。
もっさ抽象的ですが、今の日本には以前の高度成長期のような普遍原理(『追い付け追い越せ!』)が無くなり、カイシャという小さなコミュニティの中で個人は生きている。
排他的で余所者を受け入れない体質(ウチとソトの峻別)、しかし日本の都市計画ではそれが仇となり街の一体感や調和、コンセプトが見えない。乱雑した街並みになっている。
世界の都市(特に西欧)と比して目も当てられない凄惨な姿になっている。
西欧を倣って公有地を有効活用することが鍵と主張する。
特に住宅問題として、空き地の再開発(公営住宅)を通じて若年層の流出阻止及び流入を図り、ハード・ソフト共にコミュニティを再構築する機会と述べる。
普遍的原理については、紀元前5世紀に各地で隆盛した諸宗教がリージョナルレベルで浸透、いずれ来る諸原理の衝突にうまく折り合いを付け、価値観の多様性及び深化を遂げて現在に至る…。
とまぁ世界レベルから日本の地方都市レベルまで包括して『つながり』を主軸にして述べてますが、個人的に言えば同著『定常型社会』の衝撃の方が忘れられません。
次の時代は時間そのものを消費する社会になるという予言的文章には説得力があり、斬新な発想に驚愕しました。
またコミュニティについて、結局日本に無い普遍的原理の構築には社会心理学の最近の研究が目覚ましいほど発達していて、彼の問題提起を一歩踏み込んだ研究がなされています(社会心理学の山岸俊男教授や対人ネットワーク研究の増田直紀氏、また昨年亡くなった土居健郎著『「甘え」の構造』など)。
抽象レベルでは僕が今まで思っていたことを文章にしただけですが(過言です)、上記で紹介した本を併せて読むことで未来社会のビジョンが見えてくる気がします。
興味のある人は読んでみて下さい。
最後に…、この本は優れていると思います(実際、平成20年度大佛次郎論壇賞を受賞しています)が、もう一歩突っ込んだ内容にしてほしいと、期待をかけて星3つにします(笑)