天童荒太のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
東日本大震災後、立ち入ることすらできなくなった区域の海に潜るダイバーの話です。
主人公は、東日本大震災で両親と兄を亡くした男性。あの震災から四年半という時間が過ぎて、彼はダイビングショップでインストラクターとして働いている。ただ、彼は月に一度か二度、特殊な依頼を受けてとある海に潜る。陸上では検問が設けられ、厳密に滞在時間も制限され、捜索も重機による片付けも行えず、周囲に置き去りにされた地域。月の明るい夜にだけ、彼は船に乗って海から近付き、そこに潜る。沈んだ家屋、ひっくり返った自動車、まるで誰かが集めたかのように同じ場所から見つかるたくさんの靴、そして指輪――数々の品を持ち帰り、時には写真に収め、そうして潜りながら彼は自らの中にある問いへの答えを探していく。
暗い夜の海の深淵を覗くような、静かな物語でした。あの震災の前と後では決定的に違ってしまった人生を、生き残った人たちが生きていくこれからを、考えさせられるお話でした。あの日ニュースで流れた光景は、忘れることはできません。あの時見た景色が、まだ海の中に残っている。そう思うと、静かな調子の文章が、ただ静かなだけではないように感じられて、ゆらめく深い海を覗いているようでした。
私はダイビングの経験もなく、海での漁がどういうものかもよくは知りません。ですが、丁寧な描写と細かな手順まで淡々と書いて下さっているため、人が海に潜るというのがどういうことなのか想像することができました。
身の竦む恐怖、身が引き裂かれんばかりの悲しみ、煮えくり返るような怒り、やみくもに叫びたくなるのに、その叫びがどこにも届かない虚しさに崩れ落ちそうになって、何故だ、何でだ、と思わず零れる言葉と涙。これは、あの海辺の町にいた人々の、リアルな感情なのだろうと思うと胸が苦しかったです。物語全体の文章は感情を揺さぶるような情動的な描き方がされていないからこそ、深く、重く、そのことが刻まれていることが伝わるようでした。
この物語の人物たちが、この後どういう終着点に向かっていくのかは多分に想像の余地がある終わり方でした。それでいいと思いますし、それがいいとも思います。生き残ってしまったことに罪悪感を覚えながら必死に毎日を生きている人がいる。それはきっと今でも。それでも目を逸らさずにいれば、いつか答えが見つかることもある。そんなことを思う一冊でした。
静かな月に照らされた夜の海で生きることについて考えさせられる物語でした。 -
Posted by ブクログ
主人公、鞍岡は、柔道有段者の刑事課、警部補。中二女子、小六男子の子を持つ。旧知の仲である生活安全課の依田警部(女性)とともに、未成年女子の猥褻動画を撮影、販売している半グレグループのアジトに乗り込み、一斉逮捕をするところから、話は始まる。その後、管内で遺体が上がる。裸で拘束、絞殺された中年男性。尻の中からビニールに包まれたメモ『目には目を』が見つかる。男は、三年前に、集団レイプ事件を起こした四人の犯人のうちの一人の、父親だった。
「女の腐った奴、とはどういう意味です?」と、鞍岡と依田が、頭からやり合うように、全編を通して、性別における偏見、差別に対して、厳しい目が向けられている。核となるのは、三年前の集団レイプ事件で、関わったのは、①根っからの根性悪(政治家とつながる家系)②その友人(不良)③④二人に利用されている気弱な子の四人で、その事件は①の祖父のつてで不起訴になっていた(もみ消しに関わった刑事がいる)。裸の死体は、④の父親であり、①②③の家にも、姿を現していたことが確認され、犯人は、そのときの被害者の兄だと、早々に目される。が、どうやら、もみ消しのため働いた、調査員である元刑事も、関わっている様子(調査過程で知りえた情報をネタに、加害者を脅していた?)。並行して、鞍岡がかつて関わった、DV被害にあった女性、鞍岡の娘の友人(義父からの性暴力?)などの出来事も描かれる。
鞍岡は、擦り込まれたジェンダーに基づく発言をすることもあるが、誠意ある刑事で、コンビで動くことになった志波は、徹底した合理主義者であり、フラットに物事を見ることができる男。終わりのほうで、彼の過去が明かされるところは、胸が痛くなった。そして、意外な犯人と、そこに至った事情も、苦しかった。付き合う男、すべてにDVをふるわれる女性の話も。「女のほうにも非があったんじゃないか」という、社会に蔓延している見方について、考えさせられる。
べつの準強制性交の事件についても、警察は過去に逮捕状の執行を止めていた。それについて、殺人事件でも同じことをしたのかと、つきつける。それがすべてだろう。
今も、若い女性が刃物で刺され、死亡する事件は頻発している。それに対して、女の容姿、職業、過去などを詮索するような報道も、それを視聴者が求めているような空気も。