ウンベルト・エーコのレビュー一覧

  • バウドリーノ 下

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    薔薇の名前で名高い作者が書いた中世騎士の冒険の物語。農家の子どもバウドリーノが皇帝フリードリヒの養子となり、都の学校で青春を謳歌し、養父の遠征に付き従い、やがて聖杯返還の旅に出て、数々の魔物や種族に会いながら冒険を続け、囚われの身となった後、数少なくなった仲間とようやく帰還したと思ったら、もういっぺん行ってきます!と不帰の旅に出てしまう話です。
    読み終わってからなかなか感想が書けなかったのは、私がこの物語を消化しきれなかったからでしょう。そのくらい内容が盛りだくさんでした。
    歴史、教養、恋愛、冒険、博物誌、復讐譚…
    私は物語をプロットなどで読むと言うよりは、主人公や著者に自分を重ねて書いてある

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    2025年05月18日
  • バウドリーノ 下

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    ネタバレ

    うう〜面白かった〜〜!!!エーコと聞いて難しい?と身構えていたけど、読みだしたら面白くて、あっという間に読んでしまった!感覚としては高丘親王航海記…!

    「人生とは、逃げゆく夢の影でないとしたら何?」(p.155)

    「神は、存在しない空間であり、そのなかでは、あなたも私も同じなのです、ちょうど今日、この止まっている時間のなかにいるように」(p.274)

    彼はそのとき初めて理解した。本当に愛し合う者どうしが最初に愛の言葉を交わすとき、顔が青ざめて体は震え、口をつむぐものだとなぜ言われてきたかが。なぜなら、愛は、自然と魂の力すべてを自らに引きつけるからである。こうして、本当に愛し合う者どうし

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    2025年01月04日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    ネタバレ

    装丁とタイトルだけで買って長らく積読していたが、やっと読み終わった!!対談、ということなので話があっちこっちいったりと読みにくさもあり、少しずつ読んだけどめちゃくちゃ面白かった。
    タイトル的に絶滅するかもの話をするのかと思いきや、残るって前提で話が進んでいく感じで、そうだよねぇって嬉しくなる。絶対この本棚の本たちは死ぬまで持ってるだろうなっていう根拠のない確信がある。
    本って無条件に崇拝されていて確からしさが保証されているような気がする(そう教育されてきた?)し、必読の名著!みたいに言われたりするけど、偉大な残されなかった本も、馬鹿阿呆間抜けが書いていていてもの残されてきた本もある。様々な解釈

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    2024年03月22日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    装丁が素晴らしくツボにくる。本の天地総てが、ブルーブラックで染色されており万年筆の青を思わせる。厚み、本棚での存在感がたまらない。そして中身はペダンチックて軽妙な対談集。

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    2023年07月27日
  • ウンベルト・エーコの世界文明講義

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    『もちろんわたしたちは、理解できないものに名前をつけるだけではなく、視覚的に表現することだってできる。しかしこうしたイメージは、不可解なものを「表象する」わけではない。ただたんに、わたしたちに不可解ななにかを想像するよう促し、そのあとでわたしたちの期待を裏切るだけだ』―『絶対と相対』

    ウンベルト・エーコの講義録を読んでいたら、もう三十年以上前の飲み会での話を思い出した。それは学校を卒業していきなり英語を使って仕事をすることに苦労していた頃の話。正確には仕事以外の場面でする会話って苦労するよね、という話の流れだったのだが、ある(業界他社だが同窓の)先輩が、自分も英語が得意ではないけれどある時オ

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    2023年06月06日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    紙の本についての深い愛が貫かれている1冊。
    少しリラックスした語り口(あるいは対談)なので、緻密な小説世界に比べて本当にちょっとだけ読みやすい(気がする)。
     

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    2022年08月16日
  • 歴史が後ずさりするとき 熱い戦争とメディア

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    EUをEUたらしめる新たなアイデンティティが必要だとする「ヨーロッパの展望」は2003年に書かれたエッセイだ。ウンベルト・エーコはEUを結びつけ、EUたらしめるアイデンティティは、ヨーロッパがともにくぐり抜けてきた歴史から生まれ得ると示唆している。
    約20年前はそういう可能性があると考えられていたんだな。イギリスがEUを離脱して、ヨーロッパ諸国が多くの難民や移民を受け入れている今日では、こういう発想はできないし、うっかりしたら人種差別的な主張に利用されてしまう。

    いやしかし、とんでもない知性だ。

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    2022年07月03日
  • プラハの墓地

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    内容としては、文書偽造技術を持つ主人公シモーネ・シモニーニの日記によるさまざまな事件の回想を語り手と読み進めていくもの。1830年~1898年の記録なので、2つの世界大戦前、革命を経てナショナリズムが広まった時代です。イタリア統一、ルイ・ナポレオン、ドレフュス事件、さらにシオン賢者の議定書等世界史に詳しくない私でも知っている事件の裏に一人の人間が関わっていたというエンタメ性もあり一気に読み進めてしまいました。この本からエーコにハマっています。
    個人的には語りの技術が抜群に好きです。どんどん語り手とともに深淵にのめり込んでいく感覚で読み進めました。フィクションと歴史との混ざり具合もまた真実味を増

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    2021年02月03日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    「与えられた時間と予算の範囲内で、私たちは自分の好きな旅先を選ぶように、好きな本を選んで読みさえすればよい。」訳者あとがきのこの一節は、稀代の古書愛好家二人による対談の本質を示しているように思える。

    対談というのは、面白いものだ。頭の中にあったもの、世に顕れている事実を論理的に構築し整理した文章とは異なり、ある種の放縦なエネルギーを持っている。

    「紙の書物はなくなるのか?」という問いについては、早々に「なくならない」という結論が提示される。一方で「なくなってしまった」書籍、焚書や単なる火災、時の洗礼により忘れられてしまったものへの言及もある。
    忘却というプロセスが文化を産む、しからば忘却と

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    2021年01月10日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    ネタバレ

    書物という切り口で、二人の知的巨匠がそれぞれの文化観や歴史観を語り合う対談(電子書籍より紙の方が、というような、タイトルから勝手に想像してしまった薄い内容ではない)。膨大な書物コレクションを有している二人だからこそ発せられる、紙に印字された書物そのものの意味や価値、というのは本当に興味深い。特に、それを読む必要は必ずしもない、というチャプターは面白い。

    引用したい文章はいくつもあるが、エーコの一文。知る、知識を得る、ということが、インターネットの発展した現代においても、絶対的に必要なことである、というメッセージは、自分も耳が痛いところです。

    「何かを暗記しているということが、知的な優越性に

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    2020年11月04日
  • ヌメロ・ゼロ

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    エーコの遺作。
    ジャーナリズムを風刺するミステリー。情報操作の手法が、ユーモアと共に語られるのがおもしろい。嘘を真実のように見せる方法、記者の考えをばれずに仕込む方法、都合の悪い指摘への反駁の方法など。

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    2020年05月05日
  • ウンベルト・エーコの世界文明講義

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    西洋美術作品や書物を引用して、あるテーマにおいて人々はどんな見方をしてきたのかという事柄を問う作品。急ぎ足で読んでしまったために、理解しきれないところもあったが拾い読みでも大変面白い見解に触れることができた。

    美しさ・醜さの章では、美しいとは何か。醜いとは何かを様々な時代の美醜の描かれ方を通して解明する。

    美しさについて。「美の経験はいつも、私たちがその一部をなさないこと、どうしても直接参加したくないようなことを前にして、そこに背を向けながら感じるものだったように思う。美しさの経験とそのほかの情熱のかたちを分けるか細い千は、私たちが美のあいだに取る距離に引かれている(p59)」などの記述や

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    2019年03月22日
  • プラハの墓地

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    ウンベルト・エーコの遺作となってしまった小説だけに、今年ラストの55冊目として読ませてもらった。感想は、、、最高!『フーコーの振り子』と、『前日島』と、『バウドリーノ』を足して、3で割って、10掛けたように刺激的な時間だった!まさにエーコの集大成。こんな小説を読めるなんて、おれは幸せ者だ。来年はエーコの評論も読んでみよう。あぁ、いい一年だった。皆さん、良いお年を。

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    2016年12月27日
  • プラハの墓地

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    [偽の蝕み]「偽書」でありながら、反ユダヤ主義の言説に決定的な影響を与え、ヒトラーも引用をした『シオン賢者の議定書』。この文章を執筆した人物のみを架空の設定とし、『議定書』がいかに著されていったかに迫った歴史小説です。著者は、イタリアの小説家であり記号学者でもあるウンベルト・エーコ。訳者は、京都外国語大学で教授を務める橋本勝雄。


    これは小説なのかそれとも小説という形式だけを借りた思想史叙述なのか......。凄まじいディティールと時代描写で、近代ヨーロッパの暗い側面の歩みが透けて見える異色作だと思います。テーマ的にも、分量的にもかなり重い読書にはなりますが、陰謀や偽説というものがいかに創り

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    2016年10月31日
  • プラハの墓地

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    史実の中に巧みに虚構を立ち上がらせるのは、ウンベルト・エーコの得意とするところ。しかしそれを単純に虚構だと割り切って読むことが出来ないのもまたこの作家ならではのこと。そのことを肝に銘じて読まねばならないと自戒しつつ読み進める。

    「薔薇の名前」を初めて読んだのはもう四半世紀以上前のこと。歴史の中の「もしも」を推理小説風に描いた作品は単純にエンターテイメントとして面白く、ショーン・コネリー主演の映画も素晴らしかった。しかし時を経て読み返すと、輻輳し縦横に入り組んだ話の全体像、あるいは、小さなエピソードが意味する暗喩を一つ一つ受け止めるには文字を追う必要があると、思い直した。映像はともすれば勧善懲

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    2016年09月05日
  • プラハの墓地

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    エーコ、亡くなるのと販売が前後した遺作、ってことでいいのかな。 去年の年始くらいから発売予定になってて待ちくたびれたところはあったけれども、まさか亡くなるとは…か
    ユダヤ人迫害の根拠の一つながら実は偽文書だったと言われる「シオンの議定書」の誕生を巡るミステリー。 ややこしいのは主人公シモニーニ以外の登場人物は実在したってこと。とはいえ、あくまでフィクション。寝不足気味の通勤電車の車内ではなかなか読み進めないんだけど、そんなブツ切れの時間に読んでも読み進められるくらいには読みやすいし、特に時代についての知識がなくても読むのには困らない。

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    2016年04月24日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    ネタバレ

    タイトルのイメージから、デジタル化されたものに言及されているように感じるが、そうではない。
    タイトルと内容はあまり関係ないように思えて、実は確かに紙の書物について言及しているので面白い。
    実によく考えられたタイトルだ。
    本好きの雑談。

    要点メモ:
    ・勉強のやり方や資料のまとめ方、探し方は、それぞれをこなしていかない限り身につかない。それぞれをこなすのが最善の方法。

    ・一日十冊読めと記載された記事をみるたびに、その必要はないと考える。効率のよい読書のやり方は、十冊読むよりも参考文献を数多く使用している本一冊を読むことである。

    ・一つの物事を十の違う方法で調べて、検討するくせをつける。おのず

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    2013年04月08日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    イッキに読んでしまった。本に対する偏愛というかなんというか。『どうして蔵書を全て読む必要がある?』には笑ってしまった。そうだよね、みんな読む以上の速さで本が増えていくんだよね。本は自己増殖するから(笑)

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    2012年09月11日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    訳者あとがきで原題は「だから本好きはやめられない」というようなものと書いてあったが、そっちのほうが内容をよく表していると思う。
    「薔薇の名前」のエーコと「昼顔」のカリエールが書物について縦横無尽に語りつくす。

    まず、2人とも最初から電子書籍の登場で紙の書物がなくなるなんて全く、これっぽっちも思っていない。邦題にあるような危機感なんて始めの数ページであっさり否定し、その後は2大書籍おたく(笑)が本をめぐるあれこれ、うんちくを古今東西、古代から現代までにわたる広範囲にわたってひたすら語り倒す。本好き(≠読書好き)にとって「そうそう、そうなんだよ(笑)」と膝を打つ会話があちこちにちりばめられている

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    2012年06月20日
  • もうすぐ絶滅するという紙の書物について

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    「災害時にどんな本を保護しようとするか、という話でしたね。自宅が火事になったとします。自分が真っ先に何を守ろうとするか、おわかりですか」「書物の話をさんざんしておいてなんですが、私の場合、今まで書いたもの全てが入ってる250GBの外付けHDDを持って逃げますね」エーコ先生御年80、まだまだ元気。対談相手を務めるカリエール氏(79)も「愚かしさの研究をしていて最初に気づくことは、自分自身が馬鹿だということです」とかなりパンチのきいた発言を。稀代の蒐集家である両氏から、豊かさってのを散々見せ付けられた気分。

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    2012年05月28日