青木創のレビュー一覧

  • 渇きと偽り

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     原題は"The Dry"。なので邦題も『渇き』だけの方が良かった。完結なタイトルは好みなのだ。

     オーストラリア発の邦訳作品は滅多に手に入らないので、南半球ミステリとはかなり興味深い。ここでの『渇き』とは、ずばり乾燥のことである。オーストラリアでは雨に恵まれず長期的な干魃に身まれた挙句、大規模な山火事に発展することもあると言う。雨と湿度の多い日本に住んでいるぼくらには想像すべくもない水不足事情の下で本書はスタートする。

     幼い子供まで含めた農場の一家惨殺という衝撃的な開幕の地に、かつてこの土地を追いやられた主人公が帰郷する。捜査官として経歴を積んだ主人公の心中で、かつ

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    2018年01月26日
  • 渇きと偽り

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    面白かったー!今年のわたし的ベストミステリ暫定1位に、突如躍り出てきた。オーストラリアと言われたら、コアラとかアウトドアスポーツとか大自然とかのステレオタイプなイメージしか持ち合わせていない貧弱な私の脳にとって、衝撃の旱魃。
    暗さと重さも大変に素晴らしい。人物造型○、ストーリー展開○、余韻○。
    閉塞感と、一抹のセンチメンタルもよく出ている。

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    2017年08月09日
  • 報復

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    ネタバレ

    「カルテル」を先に読んだけど、こちらの方が先に執筆されていたらしい。・・・なるほど。
    妻子をテロで失った男性の復讐劇、と言えば凡庸に聞こえるがそこはドン・ウィンズロウ、あまたある同様の作品レベルを遥かに超えている。
    傭兵部隊を組織しテロリストたちと戦う、という設定はアリステア・マクレーン(よりフレデリック・フォーサイス?)、ウェットな主人公の心情描写はジャック・ヒギンズを思わせる部分もある。
    しかし、歯切れよく展開される物語はまさしくウィンズロウ節炸裂。特にアクションシーン(冒頭の飛行機テロの描写の恐ろしさ!)はスローを交えたような演出が目に浮かぶようにリアルだし、何より現代の近接戦闘戦のリア

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    2016年09月16日
  • 報復

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     ドン・ウィンズロウの作品は久しぶりだ。ブーン・ダニエルズのシリーズとベンとチョンとOのトリオのシリーズ、トレヴェニアンの『シブミ』続編『サトリ』と、あちこちのヒーロー、ヒロインを追いかけたかと思うと、どうやらそこに落ち着く様子もなく、『フランキー・マシーンの冬』以来となる単発作品の本書を、ここで『失踪』とともに同時二作発売という鮮度で、しかも母国USでは未発表のまま、ドイツに続いて日本での翻訳先行で出版という奇抜さで、この作家の奇行とも取れる創作行動は世界を驚かせている。

     そして単発ながら、どちらもこれまでにない類いの内容を伴い、ウィンズロウという作家の彷徨の途上にあるらしい彼なりの才気

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    2016年03月03日
  • さよなら、ブラックハウス

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    いい本に出逢った時の気持ちは、いい女に出逢ったのとはまた違うけど、何とも言えない気持ちになる。
    感想は他のレビューを見てもらえばいい。
    いい作品かどうかは分からないが、俺にとっては素晴らしい作品だった。
    次作が出るらしい。楽しみにしたい。

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    2016年01月31日
  • さよなら、ブラックハウス

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    警察官フィンが担当中の猟奇殺人と酷似の殺人事件が彼の故郷で起き、18年ぶりに帰郷し捜査をおこなう。
    被害者はフィンの幼なじみだったため、その他の古くからの知り合い数人と久々に再会して、つらかった少年時代や苦い過去を思い出す羽目になるが、少しずつ事件の真相に近づき、最後は衝撃の結末が。。。
    20年近くたっても手つかずの自然、荒涼とした大地と海。自然の描写が美しく、読んでいる間もどこからともなく風や海の音が聞こえて来そうだ。
    しかしその閉鎖された田舎での人間関係はかなり複雑だ。自然のように美しいとは言い難く、人の心の機微を読み取れず、フィンの捜査は難航し、どんどん深みにはまっていくようにも思える。

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    2015年08月23日
  • 偶然の科学

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    著者は1971年生まれだから私より2歳下だ。最初物理学を学んだようだが、複雑系の系譜を継ぐ「スモールワールド」だかいう学説を提唱し、ネットワーク理論に基づいた社会学者といった立場にあるようだ。
    この本は一般読者向けに非常に易しく書かれており、何も難しい話ではないが、新たな視角をもたらしてくれる、実に面白い読み物だった。
    「まえがき」で「アメリカ人のおよそ90%は自分が平均より車の運転が上手いとおもっている」という統計を明らかにする。日本人も、おそらく男性では似たような結果になるのではないだろうか。
    この例のような自己に関する「錯覚された優秀性」、そして「常識」全般が、人々の認識・判断を絶えず誤

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    2015年08月16日
  • さよなら、ブラックハウス

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    とてもせつないミステリ。最後の一言に少し救われるものの、これでハッピーエンドにはならない。青春のうずき、幸福、残酷、年を経て振り返った時の苦しい、けれど甘酸っぱい感傷が共感をよぶ。続編が待ち遠しい。

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    2014年11月13日
  • 鼠の島

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    ネタバレ

    ニューヨークにおける中国、アイリッシュマフィア抗争版ドン・ウィンズロウ的ストーリー。
    父はカトリックのアイルランド系アメリカ人、母はプロテスタントのイギリス人、アイルランドで生まれたが、半ば自暴自棄の流れで香港警察に身を置き、そこでの破滅一歩手前のやらかしを挽回すべく、アメリカの地で潜入捜査に身を賭す主人公カラム・バークの緊迫感尽きぬ日々。
    ニューヨーク進出を狙う香港マフィア、チャイナタウンを牛耳る堂(とん)、ヘルズ・キッチンでの勢力を広げようとするアイリッシュマフィア。
    NYPD(ニューヨーク市警察)とDEA(アメリカ麻薬取締局)が手を組み、取り組む界隈の麻薬組織一網打尽計画の行く末は。。

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    2025年10月04日
  • 謎解きはビリヤニとともに

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    面白かった
    謎解きはビリヤニとともに
    という楽しそうな題名に惹かれて読んだ
    インド小説は初めてみた

    最初は
    名前をちゃんと覚えられるだろうか
    文化の違いから、物語に入っていけないなんてこともあるんじゃないだろうか
    とか思ってたけれど、なんてことはなかった
    後半は特にあっという間だった
    最後の、真犯人がわかるところも、結構わくわくした
    賛否両論あるかもだけど、終わり方も結構好き

    ひとつ。
    読み終わった後に気付いた疑問点
    思ったよりも、内容は全然フランクじゃなかったしどっちかっていうとハードボイルド系(いや、そうではない?かも?けれど、コメディよりかはシリアスよりかなと)なので
    謎解きはビリヤ

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    2025年09月16日
  • 謎解きはビリヤニとともに

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    元インド警察刑事部警視監の父を持つカミル・ラーマンは、ボリウッド・スター殺害事件の捜査が原因となって刑事の職を追われてしまう。父の伝手をたどりロンドンのインド料理店のウェイターとして新たな生活を始めることになったカミルだったが、給仕を担当した大富豪の誕生日パーティーで殺人事件に巻き込まれてしまいー過去と現在の事件を解き明かした先にある、驚愕の真相とは?スパイスの利いた、謎解きミステリ。

    元刑事のウェイター、カミルの名推理。

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    2025年07月14日
  • 鼠の島

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    香港返還が2年後に迫った1995年。マフィアの首領ラウに命を狙われる王立香港警察の警部カラムの元に、ニューヨーク市警から連絡が入る。返還を前に香港から逃れてくる中国系犯罪組織撲滅のため、潜入捜査をしてほしいというのだ。だが、組織に潜入したカラムが命じられた仕事は、人身売買の斡旋や死体の解体という地獄だった。一方で返還を見据えた香港のラウは拠点を移すためニューヨークへ進出していた。そこで彼はカラムの姿を見かけ…。

    潜入捜査ものの王道を往く展開に拍手。

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    2025年01月27日
  • 副大統領暗殺(上)

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    ▼安定のジャック・リーチャー・シリーズ。
    副大統領に、暗殺を匂わす手紙が来て、リーチャーが依頼されて「その警護係」をやりながら、最後には犯人をやっつける。以上。

    ▼きっかけは、

    ・副大統領を警護するシークレット・サービスのとある女性から依頼。彼女はリーチャーの亡くなった兄の、元彼女だった。

    そして、その彼女とリーチャーが結局恋愛関係になる。んだけど、彼女が殺されてしまう。というわけで、副大統領を守る、という目的が「彼女の仇を討つ」に変換されて最後の戦い。

    ▼いつもどおり、全体の七割地点まで、犯人と動機が明確に分からない。分かったらあとは段取り(笑)。今回みたいに国家権力そのものと共闘す

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    2024年11月03日
  • 葬られた勲章(上)

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    2024.10.13
    リーチャーの考え方でわからないので誰かに教えて欲しい。
    なぜ、彼は帰るべき家などを一切持たないにもかかわらず、自分に関わり合った出来事には「何もそこまで」と思うくらい過剰に関わり続ける。そのなぜ?は何作読んでもスッキリしない。

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    2024年10月13日
  • 副大統領暗殺(下)

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    副大統領を狙う暗殺犯からの、執拗な脅迫。その意図は、なにか。そして感謝祭に賑わうワシントンDCで決戦の幕が上がる。リーチャーの推理は冴えわたり、ニーグリーとの息の合った共闘は読み応え十分。
    安定のシリーズは今作も健在。巻末のリストを見ると、近作は翻訳されていないが、仕上がりはどうなのだろうか。例えばジャック・ヒギンズのように尻すぼみになっていないことを祈る。

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    2024年09月04日
  • 副大統領暗殺(上)

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    放浪中のリーチャーのもとに奇妙な依頼が届く。依頼主は亡兄の元恋人でシークレットサーヴィス幹部のフレイリック。内容は殺害予告が届いた次期アメリカ副大統領の警護だった。リーチャーは依頼に応じ、戦友のニーグリーに協力を仰ぐ。
    翻訳15作目。シリーズ第6作は現実の大統領選に合わせて翻訳されたのか。時折挿入される緻密な描写が楽しい。大統領暗殺を描いたアメリカ映画の蘊蓄も。

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    2024年09月03日
  • 偶然の科学

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    偶然の科学
    著:ダンカン・ワッツ
    訳:青木 創
    ハヤカワ文庫 NF400

    ネットワーク科学の世界的権威が放つ、複雑系社会学の決定版とある

    題は「偶然の科学」であるが、意味するところは、違う

    原題 Everything is Obvious. "Once you know the Answer"
    「すべては明白だ、いったん、答えがわかれば」 でいいでしょうか

    偶然とは、いきあたりばったりで、対応をしてしまう人間の行動を科学しようということであって、確率論に支配される偶然を解明するための科学ではない。あくまでも、社会科学的、社会学的な偶然を扱うことが目的である。

    社会

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    2024年06月28日
  • 奪還(上)

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    二転三転しておもしろかった。妻子誘拐の謎解きとアクション。アメリカ人とイギリス人の違いよ描写もなるほどと思いました?あっという間に読み終わります。

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    2024年02月19日
  • 消えた戦友(上)

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    (上下巻併せた感想)

    ▼何作目かの、ジャック・リーチャー・シリーズ。アメリカ退役軍人のジャック・リーチャー。軍人としてのキャリアをずっと憲兵隊として過ごした、つまり軍隊内の警察であり、捜査官だった。叩き上げのエリート(矛盾?)だったが若くして少佐で思うところあって退官、その後は年金暮らしだが、なんとホームレス。着のみ着たまま、所有財産は着てるものと歯ブラシとパスポートとキャッシュカードだけ。ヒッチハイクか電車バスで安宿から安宿へ、アメリカを放浪している…つまり、たれも彼に電話できないし、行動を捕捉できない。格闘と記憶力と銃器の扱いと洞察力で米軍随一と謳われたリーチャーの行先に、毎回1話完結で

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    2023年12月02日
  • 謎解きはビリヤニとともに

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    ビリヤニ〜とタイトルにあり衝動買いしたが原題にビリヤニはなかったし、ビリヤニは本作品では重要なお料理でもなかった。でも日本ではザ・ウェイターというわけにはいかないだろうから仕方ないか。

    コルカタとロンドンの暮らしが窺い知れたのが1番の収穫、特にロンドンで暮らすインド出身の方々の暮らしぶりやマインドの描写が役立った。
    主人公や婚約者の考え方は一貫してるようなしてないような。上の世代親の世代及び富裕層なら若い世代にも見られる岩盤固定観念だからこその賄賂や不正みてみぬふり、これは日本も同じで日本の方がひどいかな。キャラとして一貫してしっかり立ち上がっているのはアンジョリ。インド料理は読むだけで本で

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    2023年09月22日