中川右介のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
孤高の天才ピアニスト。グレン・グールド。本書では彼がコンサート活動を放棄する以前の10代から20代までの若き日の彼の実像に迫るものです。彼の評伝は夥しいほど出版されていますが、僕は本書が初めてでした。
「孤高の天才」としてあまりにも有名なピアニスト。グレン・グールド。あまりにも多くの評伝や芸術についてはもはや語りつくされている感がありますが、何を隠そう、僕が彼の評伝を読んだのは本書が初めてでございました。ここでは、「コンサートは死んだ」と言い、彼はステージに上がることを拒否して31歳で引退するまでをメインに、その生い立ちからスタジオ録音だけではなく、ライブ・コンサートに打ち込んだ10代、20代の彼にスポットを当てたものです。
やはり、若き日の彼の人生は適度に「ぶっ飛んで」いて面白く、読んでいてあきさせないものでありました。彼は裕福な両親の元で音楽の英才教育を受け、自身も才能を発揮し、音楽院に通いながら普通高校を送る中で、11才でトロントのキワニス音楽祭で優勝して有名となり、14才でトロント交響楽団の定期演奏会でベートーヴェンのピアノ協奏曲を演奏し、さらに有名人となるという話や、伝説のピアニストであるディヌ・リパッティが1950年に白血病で病死し、コロンビア・レコードは新しいピアニストを求める中、
「一人いるよ、トロントに住んでいて、少し変人だけどね」
とグールドに白羽の矢が当てられたということです。
長じて世界各国での演奏活動の際にはカラヤンやレナード・バーンスタインなどとの邂逅をし、旧ソ連でコンサートを行った際には音楽院の生徒を前にして宗教色の濃い演題を披露して学生たちを戸惑わせる…。そんな彼の日々が描かれていて、とても面白く読めました。しかし、僕がこの本で衝撃的だったことはグレン・グールドがコンサートから足を洗うことができたのは株取引でかなりの収益を上げていて、コンサートをやらなくても生活ができたという箇所を読んだときに
「グールドは相場師でもあったのか!」
と思わず叫んでしまいました。
どうしてもイメージが結びつかないのですが、まぁ、そういった経済的なことで音楽活動に支障をきたさない、というのは彼にとっては幸せだったのかな、という感想でした。
有名な「ゴールドベルク変奏曲」をデビュー時と白鳥の歌のヴァージョン。故スティーブ・ジョブズは生前最後に録音した「白鳥の歌」のほうを好んだそうですが、皆さんはどちらがお好みですか? -
Posted by ブクログ
ネタバレ「1970年11月25日あの奇妙な午後を僕は今でもはっきりおぼえている」と村上春樹の「羊をめぐる冒険」は始まる。昭和45年11月25日がどんな時代の一日であったかを知るにはとても良いやり方で、この本は書かれている。100人以上の著名人が11月25日をどう感じどう過ごしたか、又その人が三島とはどのような位置関係にあったかを知る事で間接的に時代と三島を知る事ができる。先の村上春樹にも少なからず影響を与えたはず。そして読めば読むほど、三島は自身の信じる陽明学、「知行合一」の最後の実践者であると再確認することになる。それから40年、時は流れて今、時の総理は憲法改正、自衛隊の国軍化を目指している。右翼化する日本と言う人もいる。しかし三島の時代と比べてもどれほどの人が憲法や自衛隊の事を本気で考えているのだろうか?平和ボケもいいかげんにして欲しいと言いたくなる。与えられた物に満足していてはいつまでたっても本当の戦後は終わらない。三島の檄文をあらためて読んでほしい。
-
Posted by ブクログ
歌舞伎の世界では相当な存在の11代目團十郎と6代目歌右衛門も、歌舞伎初心者には全く未知の人達。サブタイトルの“悲劇の「神」と孤高の「女帝」”に惹かれて読み始めた。
最近歌舞伎にハマり始めたばかりなので、何も知らないので、書かれている内容はどれも驚くことばかり。
昭和の激変した世情の中での歌舞伎の存在感も大きく揺らいだ、本当に大変な時代の中で世の流れをどう読むのか。
そんな難しい時代の中、いわゆる「家」の重みと歌舞伎界の古い体質の中で出世するための歌舞伎政治。その凄まじさと狭い世界の中で生きる事の大変さにただただ驚くばかり・・・
近代歌舞伎の歴史が少しわかった気がします。
内容は面白く読めたけれど、家系などややこしいので初心者には読み進めるのが難しかった。家系図などの参考資料が付いていればわかりやすいと思う。 -
Posted by ブクログ
第九絡みの本といえば、通常名演奏の紹介やら解釈上の諸問題やらを細かく論じる物が多い中、少なからずそうした事にも必要上最小限に触れはするものの、むしろ第九が「喜ばしい式典に演奏される曲」であったり、逆に「鎮魂などの厳かな場面に演奏される曲」という意味合い持たされるようになった経緯や、政治に利用される様になって深まってきた深刻な演奏環境、第九によって演奏上の解釈という仕事が指揮者に不可欠の問題になった事、さらに演奏会場の問題や職業指揮者誕生のきっかけなど、広い意味で第九が世間と音楽社会にどのような影響をあたえるような存在になってきたのかをわかりやすく解説した良書。
-
Posted by ブクログ
事件自体はほんの数時間の出来事だった。しかし、その事件の発生は
各界に大きな衝撃をもたらした。
日本を代表する作家であり、ノーベル文学賞受賞の可能性も取り沙汰
された三島由紀夫は自身が主催する民兵組織「盾の会」会員を引き連れ、
自衛隊市ヶ谷駐屯地を訪れた。
三島と自衛隊は近しい関係にあった。だが、この日の訪問は穏やかには
終わらなかった。
東部方面総監を人質に取り、自衛隊員にクーデターの決起を促す
演説を行う。三島の演説には自衛隊員からのヤジが飛ぶ。
これだけでも充分な大事件である。その後、三島は自衛隊員が彼と
一緒に立とうとしないことを確認し、切腹という方法でこの事件の幕
引きをする。
その日、昭和45年11月25日。三島由紀夫と盾の会の事件は、当時の
著名人、またその後、世に出ることになる著名人にどんな衝撃を与え、
何を残したのかを時系列で綴ったのが本書である。
膨大な資料を駆使して120人の事件の受け止め方を描いており、
この事件を検証した類書とは趣を異にしている。
今、「11月25日」といってもすぐに三島由紀夫と盾の会事件と答える
ことが出来る人は少ないだろう。あの日に何が起きていたのかを
追体験するにはいい。
事件検証の資料は何冊か読んだが、結局、三島由紀夫が何を思い、
このような行動に出たのかは分からなかった。
もしかしたら、クーデターなんて当の三島自身も可能だなんて思って
いなかったのではないか。あの日、東部総監室の赤い絨毯の上で
切腹し、死に至ることは彼が夢見たナルシシズムの終着点では
なったのだろうか。
「三島は季節を間違えたな。桜の季節にやるべきだった」
寺山修二が「天井桟敷」のメンバーに言ったという言葉が印象的
だった。そう、何故、11月だったのだろう。桜の舞う季節だった
のなら、その死はまた違った印象を残したのかもしれない。
三島さん、いや、公威さん、おもちゃの兵隊に囲まれて、あなたは
自分の理想とする死に方で死んだのですか? -
Posted by ブクログ
「カラヤンとフルトヴェングラー」の続編にあたる時代を扱っています。フルトヴェングラー亡きあと、ベルリン・フィルを手中に収めたカラヤンは、ウィーン国立歌劇場、ザルツブルク音楽祭をもその手に握ることに成功。更にいくつもの歌劇場やオーケストラを掌握し、ヨーロッパ音楽会に「帝国」を作り上げました。
自らの処理能力を超える数の歌劇場やオーケストラを、支配下に置こうとしたのはなぜか。 録音という新しい技術を最大限利用し、クラシック音楽を大衆化したこと。音楽祭を創始してまでも、最高のオペラを上演することを求めたこと。「全て」を初めから手に入れ、その権力を維持してゆくテクニック。クラシックを民主化した、といいながら、ヨーロッパ音楽会に帝国を築いたという逆説。一体何が、カラヤンを突き動かしていたのでしょうか。
やがて帝国の歯車も、少しづつきしみ始めます。アメリカからやってきた、まったくタイプの違うライバル、バーンスタイン。 企画した指揮者コンクールも成功とは言えず、人事問題を起点として、ベルリンフィルとの間にも隙間風が吹き始めます。 発展し続ける音楽との間に少しづつ拡がっていく隙間と、渇れてゆく創作意欲。 ベルリンの壁が崩れる4ヶ月前、ソニーの大賀社長らとの商談中に苦しみ出したカラヤンは、最後はフリーの指揮者として、81歳の生涯を閉じました。
好むと好まざるとを限らず、20世紀の音楽界に最も影響を与えたカラヤンという音楽家は、どういう存在であったのか。その足取りを追い、彼が成したこと、成したかったことを考え直してみることが必要な時期なのかも知れません。 クラシック音楽の危機が囁かれ、また情報の伝わり方が大きく変わりつつある、今の時代だからこそ。 -
Posted by ブクログ
世界最高のオーケストラとして名高いベルリン・フィルに、そしてヨーロッパ音楽界に君臨した二人の指揮者、フルトヴェングラーとカラヤン。彼らの紡ぎ出す美しい音楽とは対照的な、どろどろとした人間模様、時代に翻弄される音楽の現実が、生々しく語られます。
ナチスが政権に就いた1933年以降、ドイツの音楽家たちは決断を迫られました。ある者は亡命を選び、ある者はドイツに残り、残った人々にはナチスとの距離をどう取るかという問題が残りました。既にベルリンフィルの主席指揮者であり、ドイツを代表する音楽家でもあったフルトヴェングラーは、ユダヤ人を保護し、新しい音楽を支持することでナチスと対立しつつも、ドイツ音楽の広告塔として利用されていきました。一方、若く野心に満ちたカラヤンも、自らの出世を求める途上で、またフルトヴェングラーの対抗馬として利用されることで、政治に巻き込まれていきます。そしてこのことが、22才も年下のカラヤンに対する、フルトヴェングラーの激しい嫉妬に繋がりました。
そして、敗戦を迎えるドイツ。非ナチ化が済むまで演奏のできない彼らの代わりに、敗戦直後のベルリンフィルの苦境を救ったのは、チェリビダッケというルーマニア出身の青年でした。しかし厳格すぎる彼の態度はやがて、オーケストラとの間に摩擦を増していき、初めは蜜月関係だったフルトヴェングラーとの間にも、微妙な不協和音が響き始めます。一方、なかなか思うような活動ができないカラヤンも、一歩づつ地歩を固めながら躍進の機会を窺っていました。
1954年、フルトヴェングラーは世を去ります。その後、なぜチェリビダッケでなくカラヤンが、ベルリンフィルを手に入れたのか。さまざまな駆け引きと思惑が錯綜する当時の状況を解きほぐしていくあたりが、この本のクライマックスです。
音楽の評価は主観的で、時に感情的になりがちですが、この本では彼らの奏でた音楽には踏み込まず、その人間ドラマの部分にのみ光を当てます。筆致はあくまでも冷静で、資料にあたった「事実」の部分と、彼らがどう考えたかなどについての推測による部分を明確に分けた記述です。 -
Posted by ブクログ
株式会社アルファベータで編集長を務めながら精力的に著作をモノにしている中川右介さんによる昨年末発刊の著書。
クラシック界で最も有名な曲であるベートーヴェンの第九交響曲の誕生と以後の演奏遍歴を年代を追って解説している。
ベートーヴェンによる作曲から初演、その後の演奏遍歴を読むにこの曲が同時代人ではなく後世に大きな影響を与えていったことがよくわかる。メンデルスゾーン、ワーグナー、マーラー... 作曲家として今に名を残す人々にどのように作用していたのかも興味深い。
この曲だけではないだろうが、オーケストラの形や演奏能力の標準としての指標にもなったのだろう。
原典や各種の資料にも丁寧に当たって正確な記述を期そうとしていることがわかる好著であり、第九についてのまとまった資料としての価値も高い。 -
Posted by ブクログ
死後40年に蘇る昭和45年11月25日。120人以上の、どこで、なにをしていて、どう感じたか、を時系列で再現することで「日本で一番夕刊が売れた日」を体感できます。本人の言葉とか新しい事実とか再評価とか次元の違う記述がないことで自分にとっての三島事件を考えざるを得ない構成です。一瞬で砕け散ったガラスの破片が当時のすべての日本人の心にそれぞれに突き刺さっているのは、そして今もチクチクさせ続けているのは、この事件が思想の事件とか制度の事件ではなくて個人の肉体の事件だったからだと思いました。首の上と下が別々になった肉体の物語を、われわれはその後、消費し続け、そしてまったく消化できずにいます。この事件は、われわれのアタマとカラダをも別々にしてしまったのかもしれません。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ[ 内容 ]
巨匠フルトヴェングラー亡き後、音楽界の頂点、ベルリン・フィル首席指揮者の四代目の座を掴んだ男、ヘルベルト・フォン・カラヤン。
彼は類い稀なる才能と権謀術数を駆使し、ザルツブルク音楽祭、ウィーン国立歌劇場他、名オーケストラの実権を次々掌握、前代未聞の世界制覇を成し遂げる。
何が彼をかくも壮大な争覇の駆け引きに向かわせたのか?
盤石だったはずの帝国に迫る脅威とは?
二十世紀音楽界ですべてを手にした最高権力者の栄華と喪失の物語。
[ 目次 ]
第1章 帝国の建設(三方面作戦;ザルツブルク陥落;ベルリンとの駆け引き;ウィーンの陰謀劇;拠点としてのロンドン。ミラノ;帝王の誕生)
第2章 栄光と翳り(ロンドンとの離別;首都陥落;失われたイタリア;新たなる祝祭)
第3章 落日(潰えた世界戦略;ベルリンの叛乱;最後の日々)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
Posted by ブクログ
ネタバレ[ 内容 ]
長い歴史を誇るウィーン・フィルですら一八四二年の創立だから二百年に満たない。
つまりベートーヴェン(一七七〇‐一八二七)の時代には存在しなかったわけだ。
かように近代になって誕生した「オーケストラ」は、きわめて政治的な存在であり、戦争や革命といった歴史的大事件に翻弄されやすい。
「カラヤン」をキーワードに十の都市の十の楽団を選び、その歴史を、指揮者、経営者そして国家の視点で綴った、誰もが知る楽団の、知られざる物語。
[ 目次 ]
第1章 シュターツカペレ・ベルリン
第2章 ニューヨーク・フィルハーモニック
第3章 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
第4章 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団)
第5章 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
第6章 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
第7章 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
第8章 イスラエル・フィルハーモニック管弦楽団
第9章 フィルハーモニア管弦楽団
第10章 パリ管弦楽団
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
Posted by ブクログ
ネタバレ[ 内容 ]
クラシック界最高の名声と金そして権力が集中するベルリン・フィル首席指揮者の座。
ナチス時代、その三代目に君臨する巨匠フルトヴェングラー。
彼は誠実な音楽の僕でありさえすればよかった、比類なき才能と野心をもった青年カラヤンが現れるまでは―。
嫉妬の炎を執拗に燃やし詐略をめぐらす巨匠、巧みに抗うカラヤン、そこに巨匠を慕う無名の田舎音楽家チェリビダッケが加わり、争いはさらに複雑になる。
クラシック黄金時代の美と欲望のドラマ。
[ 目次 ]
第1章 巨匠と失業者―一九三四~三八年
第2章 代理戦争―一九三八年
第3章 陰謀家たち―一九三九~四二年
第4章 黄昏―一九四二~四五年
第5章 第三の男―一九四六~四七年
第6章 駆け引き―一九四八~五〇年
第7章 逆襲―一九五〇~五一年
第8章 王の死とその後継者―一九五二~五五年
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]