牧野修のレビュー一覧
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第6回日本ホラー小説大賞の長編賞受賞作。堪能しました。やっぱり大賞作品は全部読まないとダメだな。
主人公の秋生は児童虐待の電話相談のボランティアを受け持つ保健婦。児童虐待の暗い現実に心を悩ませながら、蛍光灯がカチカチとまたたく小さいアパートに帰るこの空気感、まずジメッと辛気臭い生活があって、そこをジワジワと怪異が侵食していく不気味さは、90年代作品特有の強みだと思う。邦画ホラーしかり。
怪異のモチーフも非常に好み。直接の対面シーンよりは間接的な情報入手が多いから、そのあたりでホラーとしてのインパクト不足を指摘する向きもあるけど、個人的には中途半端なキモ描写でB級に堕するより、ある種都市伝説 -
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ネタバレ時は1969年、大阪万博を翌年に控えて国全体が浮き足立っているような雰囲気の中、中学生のシト、サドル、未明は、あるテレビ番組をきっかけに「子供こそが真の人間である」こと、「オトナ人間」が大人に憑依して子供に攻撃を仕掛けていることに気づいてしまう。子供ゆえの社会的な無力さに悩みつつ、子供らしい無鉄砲さと子供しか使えない特殊能力「Q波」を武器に、「オトナ人間」の侵略を阻止すべく全力で闘う3人。決戦の場は、1970年大阪万博「太陽の塔」だった・・・!
時は流れ、2037年。都市全体を仮想空間のレイヤーで覆い、個々人の存在も社会法規も”ヴァーチャル”と化した大阪において、2度目の万博が計画される。年老 -
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ネタバレ主人公の菱屋は、想いを寄せる相手の石塚と2人でゲイパレードを見にきたところ突如として空から天使が現れ街中に災害をもたらし、世界は終末に向かう。その最中石塚を亡くした菱屋は目を閉じ妄想の世界に逃避する。次に目を開けたとき、彼が立っていたのは自身の妄想世界のなかだった。菱屋は妄想世界を渡り歩きながら、世界を滅ぼそうとする存在との戦いに巻き込まれていく。
物語が終わっても、登場人物たちの人生は終わらない。彼らが意思を持って動き出し、自分たちで物語を紡いでいってくれたらいいのに……そんな妄想をしたことのある人におすすめの一冊。
日本語で記された小説の世界という舞台で、日本語が魔術的な力を持っているのは -
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ネタバレ全然知らない作家の作品で、なんの前知識もなく読みましたが、面白かった。
2014年、突然世界に終末がおとずれる。
絶体絶命に追い込まれた菱屋修介は、いつも現実逃避をするように月世界へ逃避した。
そこから始まる妄想を軸としたパラレルワールド。
1975年のニホン。
学生運動盛んなその世界で、学生たちはアメリカの属州からの独立を叫ぶ。
しかし一番の危険思想は、この世にあったこともないはずのニホン語を見つけ出そうとすること。
記録のどこを探してもニホン語は見つからず、ニホン語を話せる人もいない。
…はずだったが、数年前に現れた自称超能力者ユーリ・ゲナーの影響のもと、ニホン語を解せる子どもたち -
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ネタバレゲイの青年・菱屋修介は、片思いしている石塚啓太からLGBTパレードを見に誘われ、期待と共に出かけたその場で、アポカリプティック・サウンドと共に舞い降りた天使たちによる黙示録の光景に巻き込まれ、啓太が惨殺されるのを目撃する。子供の頃から妄想癖のある菱屋は、堪え難い光景を前に妄想の月世界へと逃げ込む。
アメリカの属州として支配されている日本で言語学を専攻する学生・ヒッシャー・シュスケットは、かつてこの国に存在していたと言われる禁断の言語「ニホン語」を調査しようとするが、関係者たちが謎の組織によって次々と消されて行く。同じアパートに住む過激派と思しき男・ワクート・ソッジズに窮地を救われながら、黒服の -
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これは面白い!SFって科学技術の先端を想像力で伸ばしていくものって今のところ定義しているんだけど、これは化学の先端を伸ばしている感じ。伸ばすための補助線として使われてる自己とか主観/客観なんかの蘊蓄も良い感じ。伸ばした先が魔術的な世界ってのはSFとしては好き嫌い分かれちゃうかも?
外界から隔離された子どもだけの国、ネバーランド。そこではドラッグ漬けになってる子どもたちが客観を主観でねぶりながら暮らしている。交わる主観の表現がなかなか中2心をくすぐるなぁ。好き。
最後はちょっと物足りなかったりして、もっともっと続編を!と思うんだけど、たぶんなさそう。この人の他の作品も読んでみようかなぁ。 -
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月というのは夜空を見上げるとそこにある黄色い円盤、そしてアポロが画像を送ってきたあの荒涼とした衛星。しかし、それとは別に実は月世界というものはあって、うさぎが住んでいたり、かぐや姫がそこに帰ったり、大砲クラブがズドンと行ったり、ブロウチェク氏が気づいたら到達していた世界なのである。月はその周期性によって正気を示しつつ、他方、その怪しい光で同時に狂気を体現する。
菱屋修介はゲイだが、密かに心を寄せる啓太に誘われ、LGBTのパレードを見にいったとき、世界が終わる。世界の終わりを拒否して菱屋は妄想世界に逃げ込む。つまり「月世界」に。
さて、世界n+1は、第二次世界大戦で敗戦したときに日本語