今野敏のレビュー一覧
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本作は刑事部と公安部の対立が一つのよみどころかと思いきや、梅田管理官はさにあらず、深い洞察力と懐の深さには一本とられたなと思わずにはいられませんでした。物語の序盤では樋口ですら彼を警戒していたところからの実は刑事部と協力する気満々だった姿を見せられると、そのギャップに天童ですら小物に思えてしまいますね。
主題として描かれた爆破テロとそれを巡る登場人物の相関関係については、読み手にも推理できる部分と、そうでない部分(特に因幡を軸とした関係)が適度に組み合わせられていて、単純すぎず・難しすぎず、ほどよき読み応えになるレベルに設定されていたように感じます(このあたりは読者のレベルにより評価がわかれ -
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ネタバレシリーズ第三弾。前作では妻を探し求める樋口の心情、葛藤、焦燥感といったものに焦点をあてていましたが、本作では警視庁捜査二課の島崎のまるでジェットコースターであるかのような心の浮き沈みや心の闇、家族、とりわけ子供に向けるまなざしが軸になっています。
特に前半は捜査情報の漏洩に関わってしまった島崎の目線で物語が進むことから、読み手としても島崎自身に感情移入してしまい、悪事に手を染めてしまった後悔や背徳感、刑事という自らの立場を失うことになるかもしれない恐怖といったものをひしひしと感じてしまいました。あのときどうして富岡の誘いを断らなかったのだ、とか、まさに自分自身が島崎になったかのような没入感を -
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樋口顕シリーズ第二弾。ある日、妻が何者かに拉致されてしまい、樋口は氏家とともに単独で捜査に乗り出すことに。
まったく手がかりのない状態から細い糸を手繰り寄せるように少しづつ事件の真相に、そして妻の居所へと近づいていく過程に思わず引き込まれてしまいました。事件は金曜の夕方に起こり、週明け月曜から別の事件の捜査本部が立ち上がる予定でそれまでに事件を解決しなければ、という”タイムリミット”という制約もあり、読み手も樋口とともに焦燥感を味わいながら読み進めることができます。
前作では被疑者となったリオに惹かれつつ自分をどうにか保とうとする樋口の姿が描かれていましたが、本作でも少ない手がかりと徐々に -
購入済み
ザ警察小説
久しぶりの警察小説。後半の怒涛の展開には驚きました。本格的に今野さんの本を初めて読みましたが、人間ドラマとして、人の感情と思惑を描くのが上手い作家さんなのですね。面白かったです。
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ネタバレSTシリーズ、といってもSTが結成される以前のお話しということで「エピソード0」というタイトルが冠されたものになっています。
若かりし頃の菊川が捜査したとある殺人事件を軸にしたストーリー。STで描かれているより10年以上前の出来事であるため、STの端緒すら出てきませんが、捜査本部で菊川とコンビを組んだ所轄の滝下の仕事っぷりがなかなかいいんです。
適度に力を抜き、仕事をさぼり(つつアタマでは捜査のことを考えている)、でも勝負所では一気に畳みかけるかの如く集中して捜査をおこなう、それでいて、捜査の着眼点はいいところを突いているという、ちょっとクリエイティブっぽい雰囲気もあります。
本作は捜査 -
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ネタバレST色シリーズを読み終わりこのレビューを書いていますが、本作は色シリーズ中で最高の出来栄えではないかと思います。いや、ほんとうにおもしろったです。
赤城の過去と彼がこれまで抱えていた苦しさが丁寧に描かれており、日頃の一匹狼だと言い張っていることや女性恐怖症に陥った経緯がよくわかり、赤城というキャラクターを深く理解することができました。
また本作の題材となった事件はいわゆる医療過誤(とは最終的にはちょっと違ったのですが)ものということで、巷で言われる「専門性の壁・密室の壁・封建制の壁」という3つの壁が立ちはだかります。専門性の壁については赤城をもってすれば突破できるものの、残り2つがSTの捜 -
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ネタバレ本シリーズ、数ある長編のなかでも一二を争う読み応えのある作品でした。ほぼ同時刻に救急搬送された市民3名が謎の死を遂げる事件が発生し、安積自身が過去に手掛けた事件とのつながりがみえてきて、しかも冤罪であった可能性が…。
自らの過ちを暴くことになるかもしれない、しかし真実は何かを知ろうとする純粋な想いに突き動かされる安積の姿は必見です。こうしたケースでは激しい葛藤にみまわれる、あるいは保身に走ってしまうこと少なくないはずですが、刑事としての本能や正義感がそれらを上回った? いや、そのようなあれこれを自身のなかで天秤にかけることすらないのかもしれません。そんな姿がカッコイイのです。
また捜査本部 -
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ネタバレ短編集でしたが、長編とはまた違った面白さを感じることができた一冊でした。「烈日」というタイトルに大きな意味があることが読み進めるうちにわかってきました。
収録されている短編はおそらく季節の順にならんでおり、一つ目の「新顔」の季節がわかりませんが、全編をとおして夏から冬の時期が描かれています。
相楽との確執(?)は相変わらずですが、実は安積の若かりしころが相楽の今に重なり、「逃げ水」では彼の中に安積自身が昔のがむしゃらであった自分を見るかのような視点が描かれています。
「白露」では、とある事件の捜査本部で桜井が組むことになった定年間近の福留という刑事もまたその職業人生を終えようとしている瞬 -
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ネタバレ東京ビッグサイトでおこなわれるイベントに対して度重なる爆破予告が。一度目は狂言におわったものの、二度目の予告は本物だろうという須田の推理に従い警備を固める安積班。だが、警備の網をかいくぐりまんまと爆破を起こされてしまう。
まずは被害者5人のもとをおとずれ証言を得てゆく安積班であったが、微妙に食い違う証言の矛盾をまたしても須田の洞察力が突破口になる、という展開。
今回から臨海署の建屋が新築され、組織も拡大、強行犯も二係体制となり、なんとあの相楽が異動してくることに!
爆破事件の捜査本部においても何の因果か、事実上、安積班と相楽班の対立構造が継承され、各々の推理をもとに捜査が進む。きっとこう -
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安積班の新シリーズ。舞台は東京湾臨海署から渋谷の神南署へとうつります。臨海副都心構想に陰りが見え、警察署としても縮小を余儀なくされ、安積ら強行犯係がまるごと神南署へ異動した、という設定。
で、本作における安積はどちらかというと脇役であり、主役はワタセワークス社長の渡瀬と重鎮の沖田、また彼らの会社の仲間たちの奮闘ぶりにスポットをあてたものとなっています。
ワタセワークスが開発したゲームソフトの発売をめぐってある筋から圧力がかかり、暴力団、さらには政治家の影もちらほらと、という展開。ゲームと政治という、一見結びつきそうにないものが組み合わさって事件に発展するという面白さがありますね。
さらに -
購入済み
おじさんだけれど清潔で筋の通った主人公が、その実力と人格で自然に若手から慕われていく様子は読んでいて気持ち良く、カタルシスが感じられました。物語も破たんなく綺麗に落ちています。また楽しみなシリーズが増えました。