Posted by ブクログ
2021年08月04日
今野敏「警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ」第4作目(2014年4月単行本、2016年8月文庫本)。
前作から14年経ってからの4作目ということになる。作品の中では3年後の設定みたいで、樋口顕は45歳、氏家譲は43歳、天童隆一は51歳、樋口照美は20歳になっていた。樋口顕は警視庁捜査一課の警部で変わらず...続きを読む、氏家は荻窪署の巡査部長から警視庁生活安全部少年事件課の警部補に栄転していた。天童も警視庁捜査一課の警部から警視で管理官になっていて、照美は高校生だったのが大学3年生だ。捜査一課長の田端守雄は変わらないが警視正になっている。
今回も殺人事件の捜査と並行して樋口の家族の事件に関わる展開が描かれて、対応する樋口の人間性がよくわかるストーリーだ。
そして今回新たに登場する樋口の捜査の相棒は世田谷署の刑事の小森進警部補45歳と警察庁刑事局刑事企画課の小泉蘭子刑事指導官、25歳前後のキャリアだ。勿論氏家も要所要所で樋口に情報協力する。
事件は南田麻里という23歳のキャバクラ嬢が池尻の自宅マンションで絞殺されたことから始まる。遺体の第一発見者で通報したのは、麻里の飲み仲間で三軒茶屋の美容院で働く石田真奈美28歳だ。
警察にとって厄介だったのが麻里は世田谷署にストーカー被害を相談していて、そのストーカーが容疑者として上がり消息を絶っていることだ。警察の失策としてマスコミからの追求を極端に恐れていた。容疑者の名前は樫田臨、33歳の会社員だったが退職していた。
そんな時氏家から樋口に電話があり、被害者は痴漢被害で別の男を告訴していることを知らされる。このことが後で事件解決に結びつく糸口になるのだ。
告訴されて地検で有罪判決後控訴手続中の男は楢崎公平、47歳の大学の准教授だったが懲戒免職になって、そして離婚している。現在弁護士のもとで控訴手続中で直接会えない状況下だ。
他にも渋谷署にも別のストーカー被害で麻里から届けられていた男がいて、氏名は柳本行雄40歳。これは都公安委員会から禁止命令が出ている。
いづれも容疑者になり得るが、調べていくうちに被害者南田麻里の隠れた姿がわかってくる。そして事件解明が予想もしない方向に進んで行く。いや見逃していた方向だ。犯行の動機も判り、犯人が特定された時、意外な幕引きで事件は終わる。
今回は事件解明に小泉蘭子刑事指導官が大きく寄与する。ストーカー犯罪の専門家ではあるが、刑事ではない。刑事とは違った観点で樋口に助言して事件解決に導く。長身でスタイルのいい美人だ。
そして家族の事件というのは、娘の照美のパソコンから高校や中学に脅迫メールが送信された事実を警視庁生活安全部のサイバー犯罪対策課の捜査で突きとめたことだった。氏家は少年事件課ではあったがこの情報を得て樋口に内密に連絡してきた。おそらく遠隔操作ウイルスによるなりすましメールだと思われるが、捜査員が事情を聞きに行くことになるだろうという。ここから樋口の思案悩みが始まる。この情報は誰にも勿論照美にも話せない、照美が素直にパソコンの調査に応じてくれればそれだけで解決する問題だと自分に言い聞かせる。ところがそうはいかずに予想外に照美が抵抗して捜査員にパソコンの提出を拒否してしまうのである。
ここでまた新しい捜査員の名前が出てくる。サイバー犯罪対策課の捜査員の名前は伊勢原克明、年齢は30代半ば、5年前に板橋署にいた時に樋口と一緒に仕事をしたことがあり、樋口のことを恩人だと思っているらしい。これからこのシリーズにまた登場してくる予感がする。
樋口の懸念していた強制調査について、照美のパソコンの調査はあくまでも協力依頼であって強制捜査なんてありえないと言う。最終的には照美も打って変わって自主的にパソコンを提出する。そして樋口に新しいパソコンをおねだりするのである。樋口はまんざらでもない様子で最近ずっと距離があった親子のコミュニケーション復活でホッとする家族の話でもあった。