前野隆司のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
■幸せに働く人はより創意工夫に富み、挑戦的で、同僚との関係も良好である一方、不幸せに働く人は防御的になり、指示待ちになり、他者との協力を避けるようになる。
■あなたが幸せであることが、実は組織や社会全体にとっても最善である。
■フリーランスは収入が不安定で社会保障も手薄。客観的に見れば正社員の方が恵まれているように思えるが、幸せ・不幸せ実感は逆転している。その理由は、「自己裁量因子(自分のペースで仕事ができる)と「役割認識因子」(仕事の意味を自分で見いだせる)がフリーランスでは圧倒的に高いことにあると考えられる。
■日本人には幸せを感じにくくする特性がいくつかある。一つは「不安遺伝子」と呼ばれたもの。セロトニントランスポーター遺伝子の方によって不安を感じやすい傾向があるとされ、日本人はその型を持つ人の割合が世界でも非常に高い。もう一つは「失敗を恐れる文化」。失敗=恥、避けることと捉え、新しいことに挑戦することへの心理的ハードルが上がり、挑戦すること自体を控えてしまうことも少なくない。
■日本人の生活満足度は、高度成長期からほぼ横ばい。GDPは何倍にも増えたのに生活満足度は殆ど変わっていない。経済的に豊かになったのに、主観的な幸せは増えていない。これは、「イースタリンのパラドックス」と呼ばれる現象。
■幸福度には年収や学歴よりも、「人との繋がり」や「自己肯定感」といった要素の方が、ずっと大きく影響する。逆に、人との繋がりが希薄で自己肯定感が低い人は、幸せを感じにくい。
■幸福研究では、「短期的な快楽(ヘドニア)」と「長期的な充実感(ユーダイモニア)」を区別する。
■利他的な人は幸せで、利己的な人は幸福度が低い。ボランティアに参加する人は幸福度が高い。それは単に「余裕があるから」ではなく「誰かの役に立っている」という実感が幸せに繋がるからである。
■幸せの4つの因子(やってみよう、ありがとう、なんとかなる、あなたらしく)のうち、「ありがとう」因子は、まさに人との繋がりに関わる。
■組織文化が「働く幸せ実感」に与える影響
・自由闊達・開放的:0.188
・チームワーク:0.167
・長期的・大局的志向:0.122
・柔軟性・創造性・独自性:0.082
・スピード感・迅速さ:0.065
・自由な働き方:0.053
・権威主義・責任回避:−0.035
・成果主義・競争:−0.079
■働く幸せには「プライベートを以下に充実させるか」以上に「自分の心の持ちよう」が影響していることが分かっている。
■働く幸せの7因子、不幸せの7因子
働く人の幸せ7因子
・自己成長因子(新たな学び)
仕事を通じて、未知の事象に対峙して新たな学びを得たり、能力の高まりを期待することができている状態
・リフレッシュ因子(ほっと一息)
仕事を一時的に離れて精神的・身体的にも英気を養うことができていたり、私生活が安定している状態
・チームワーク因子(ともに歩む)
仕事の目的を共有し、相互に励まし、助け合える仲間との繋がりを感じることができている状態
・他者承認因子(見てもらえている)
自分や自分の仕事は周りから関心を持たれ、好ましい評価を受けていると思えている状態
・他者貢献因子(誰かのため)
仕事を通じて関わる他者や社会にとって、良い影響を与え、役に立てていると思えている状態
・自己裁量因子(マイペース)
仕事で自分の考えや意見を述べることができ、自分の意思やペースで計画・遂行することができている状態
・役割認識因子(自分ごと)
自分の仕事にポジティブな意味を見出しており、自分なりの役割を能動的に担えている実感が得られている状態
働く人の不幸せ7因子
・自己抑圧因子(自分なんて)
仕事での能力不足を感じ、自信がなく停滞している。また、自分の強みを活かすことを抑制されていると感じている状態。
・理不尽因子(ハラスメント)
仕事で他者から理不尽な要求をされたり、一方的に仕事を押し付けられたりする。また、そのような仲間の姿をよく見聞きする状態。
・協働不全因子(職場バラバラ)
職場内でメンバー同士が非協力的であったり、自分の足を引っ張られていると感じている状態。
・不快空間因子(環境イヤイヤ)
職場環境において、視覚や嗅覚など体感的に不快を感じている状態。
・評価不満因子(報われない)
自分の努力は正当に評価されない、努力に見合わないと感じている状態。
・疎外感因子(一人ぼっち)
同僚や上司とのコミュニケーションにおいてすれ違いを感じ、職場での孤立を感じている状態。
・オーバーワーク因子(ヘトヘト)
私的な時間を断念せざるを得ないほどに仕事に追われ、精神的・身体的に過度なストレスを受けている状態。
■心理学では人間の基本的ニーズとして、「自己決定感」「有能感」「関係性」の3つがよく挙げられ、この3つが満たされると人は幸せを感じる。
7つの幸せ因子をこの枠組みで整理すると、
・自己裁量⇒自己決定感
・自己成長と他者貢献⇒有能感
・チームワークと他者承認⇒関係性
■友達の「数」より、「多様性」の方が幸福度に影響する。色々なタイプの人と繋がっている方が幸せになれる。
■不幸せの因子は幸せの因子の単なる裏返しではない。不幸せの因子が高い状態では、幸せの因子がいくら満たされていても台無しになってしまう。
■働く不幸せ因子が「組織市民行動」(自分の職務範囲を超えて組織に貢献する自発的な行動)を抑制する効果がある。つまり不幸せに働いている人は、「自分の仕事だけやっていればいい」と考えがちで、同僚をサポートしたり、職場の課題を改善したりするといった前向きな行動が減る。
組織市民行動とは、いわば「自分に求められていない何か余分なこと」であり、こうした「余分なこと」こそが、実は組織が機能するために最も必要な要素と言える。
不幸せに働いている状態では、そもそもそうした行動を起こす余裕がない。心身ともに疲弊しているために、「とりあえず、自分に求められている最小限のことだけ」しかしなくなる。その結果、組織内の助け合い、サポート体制が弱まり、組織全体の協力体制が弱くなる。結果として、効率や生産性が低下する。
■働く不幸せ実感は「プレゼンティーズム」とも関連する。「プレゼンティーズム」とは、出勤はしているが、体調不良や意欲低下によって本来のパフォーマンスが発揮できない状態のこと。プレゼンティーズムは「見えないコスト」であり、社員の一定割合で起きていると考えると組織に与える損失は甚大。プレゼンティーズムは組織全体の「仕事の質」を低下させる。
■働く不幸せの7因子は幸せの因子と異なるメカニズムで作用している。これらの因子の影響が複合的に絡むほど、その影響力が跳ね上がる。
■幸せの因子の場合、7つがすべて高い必要はない。いくつかが高ければ総合的な幸せを感じることが多い。幸せの7つの因子は、どれか一つだけに偏るのではなく、複合的に高めていくことが大切。
不幸せの因子は少なければ少ないほど良い。一つでも数が多ければ致命的なダメージになるという性質がある。
進化心理学の観点からみれば、危険や脅威を知らせる警告は、生存のために極めて重要なので、私たちの脳は一つの不幸せサインに対して敏感に反応するよう進化してきた。これに対し、幸せのサインは生存の危険に直結しない。その他、一つ一つに敏感に反応するのではなく、総合的な充足感として、複数の要因の組み合わせで形成される。
■幸せ・不幸せの基本的なメカニズムはだれにでも共通している。
■日本の職場には「言ったもの負け」の文化が根強く残っている。会議で発言すると必要以上に色んな指摘が飛んでくる。問題を指摘した人が、その問題解決係にされる。結果として、何も言わない方が特だと感じ、たとえ思いついたことがあっても沈黙を選ぶようになる。これは、「自己抑圧」因子を高める最大の原因。
■心理的安全性が高いチームは業績も高い、というのはGoogleの調査でも確認されている。
心理的安全性とは、「何を言っても怒られない」ことではなく、「本音でぶつかっても関係が壊れない」という信頼関係のこと。
■従業員の幸福度を高めるには、仕事に関する満足だけでは不十分。パートナーや家族との関係、家庭の安定、余暇の充実。そういった私生活の様々な部分も含めて、人生全体が幸せであることで、仕事のパフォーマンスも高まる。
■最近では「従業員満足度」よりも「従業員幸福度」をみるべきだという風潮が広がってきている。従業員満足度は仕事の中での満足しか測らないが、実際には、仕事の中だけではなく、人生全体にわたる幸せが、仕事の成果にも繋がっている。
■幸福度の高い社員は業績も高い。
最も正の影響を与えるのは、「組織目標の落とし込み」であった。具体的には個人の目標と組織の目標を紐づけるために、目標設定時に上司とよく話し合う場が設けられていたり、昇進・昇格の基準がオープンであったりする組織では従業員の働く幸せ実感が高い。
ついで、「ワークライフバランスの良さ」、「育成の手厚さ」が幸せを高める要因。一方で、「終身雇用」や「異動・転勤の多さ」はむしろ幸せ実感を低下させる要因として作用している。
■働く幸せ実感への影響
①組織目標の落とし込み:0.272
・個人目標と組織目標が紐づく
・組織のビジョンや理念が明示される
・個人目標設定時に上司とよく話し合う
・昇進・昇格の基準はオープン
②ワークライフバランスの良さ:0.122
・長時間労働の是正に取り組んでいる
・育休・産休は取りやすい
・介護休暇・介護休業は取りやすい
③育成の手厚さ:0.122
・現場での教育・OJTが手厚い
・研修やセミナーに行く機会が多い
④終身雇用:−0.066
・退職金制度がある
・定年までの雇用が前提
・役職定年・ポストオフがある
・近年、早期退職募集・リストラがない
⑤異動・転勤の多さ:−0.070
・職務変更を伴う異動が多い
・転居を伴う転勤が多い
■「終身雇用」がマイナスに作用するという結果は、定年までの雇用を前提とした退職員制度や年功序列的な処遇が、現代の就業者にとっては、「この会社に縛られている」という閉塞感に繋がっている可能性を示している。
定年まで働くことで得られる安定の裏側に、「会社に縛られて自由が失われる」という感覚が現代では強まっている。
働く人たちが本当に求めているのは、一つの会社に縛られることで得られる安定よりも、自分が自分らしくキャリアを選択できる自由。
■不幸せ実感を高める人事施策として、「新卒偏重」(幹部層に新卒入社者が多い傾向)も挙げられた。中途入社者がキャリアの天井を感じやすい組織では、「評価不満」因子が高まりやすい。「どれだけ頑張っても、生え抜きでなければ上にはいけない」という見えない壁が不幸せ実感を生んでいる。
■心理学的にも、人間は、「コントロール感の喪失」「不公正感」「孤独・孤立感」で不幸せを感じやすくなることが分かっている。
■高度成長期に最適化された人事制度が、現在の多様な働く人たちのニーズにマッチしなくなってきたということ。これは企業の問題であると同時に、社会全体の課題でもある。
■従業員にとって「組織文化」とは、経営層が頭の中で掲げる理想ではなく、直属の上司による日々のマネジメントの中で体験するもの。
■ポジティブなマネジメント行動には「肯定的で公正なフィードバック」「目標の設定と共有」「部下の話の傾聴」「業務フォロー」が含まれる。
一方、ネガティブなマネジメント行動には「ハラスメント「モーレツ上司」が含まれる。
■部下と一緒に個人的な仕事の目標を設定する」「仕事振りに見合った適切な評価をする」「日常的に感謝やねぎらいの言葉をかける」といったポジティブなマネジメント行動は、部下の働く幸せの実感との関連に強く関わるが、実施率は30%未満と低い。
■マネジメント改革で重要なのは「一貫性」。長期的に、一貫して部下の幸せを重視するというメッセージを発し続ける。その前提にはビジョンやフィロソフィーがある。そのような一貫性の中にのみ、本当のマネジメント文化の変革は起きる。「上からの方針」と「下での実践」が互いに理解し合う関係ができたときにのみ、本当の改革は実現できる。
■渋沢栄一が唱えた「合本主義」、つまり会社の利益を関わる全ての人で分かち合うという考え方は、まさにウェルビーイング経営の先駆けだったと言える。
従業員を追い込んで無理やり成果を出させる組織は、一時的には結果を出せても、長続きしない。従業員を幸せにする組織の方が、持続的にに成果を出し続けられる。
■「静かな退職」会社にとどまりながらも、必要最低限のことしかしないという働き方。
■退職代行利用者の増加は日本の職場が「辞めにくい」構造であることの表れ。
■変化を阻む障壁は、「不可能な条件」ではなく、「変わりたくないという心」。多くの経営者や人事担当は、潜在的には「従業員の幸せが大切」と感じながらも、現実的な優先順位は現状維持を選んでいる。
■「承認⇒提案⇒傾聴」の三拍子はアサーションの基本形。
■アサーションの3つのステップ
ステップ1:事実を伝える
ステップ2:自分の気持ちとリクエストを伝える
ステップ3:相手の気持を聞き、一緒に考える
■リーダーが数字で人を比較し、それをみんなに示すとチームの結束は失われやすい。業績の可視化自体は大切だが、それが個人の序列付けになった瞬間、「チームワーク」因子は崩壊する。全員の前で誰が一番良いか、誰が劣っているかを比較すると、協力する気持ちを失わせてしまう。比較するのであれば、その人自身の過去との比較であるべき。
■勇気をくじくメッセージと勇気づけるメッセージ
●なぜこんなミスをしたんだ
◯次はどうすればうまくいくと思う?
●成果だけに注目する
◯過程や努力にも注目する
●他人と比較して評価する
◯その人自身の成長に注目する
●できていない部分を指摘する
◯伸びている部分を指摘する
●成功だけを認める
◯失敗も受け入れる
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Posted by ブクログ
ものすごく面白かったです。
これからは、知識偏重の考え方はやめて、いかに考えるかにシフトしていこうと思いました。物事を大局的・俯瞰的に見られるようになっていきたいです。
記憶の分類やフィードバック誤差の説明などがとても分かりやすく書いてあり勉強になりました。
この本を読んで嬉しいことが一つありました。僕はもともと音楽を聴くのがとても好きだったのですが、最近は全く聴きたいと思わなくなっていました。しかし、文中に「意味記憶が満帆になったから」ということが書いてありました。そういう考え方もあったのかと膝を打ちました。
悩みが一つ解消されて嬉しかったです。 -
Posted by ブクログ
個人的には学びと感動が多い一冊だった。
日本には、すっかり西洋進歩主義的な
・勝ち組、負け組
・経済は成長し続けなければいけない
・自己責任
考えが定着しているなと思っていた。
それに対しての自分も目指したけどハマらない感覚もあった。
本書のテーマである「幸せ」
これは日本ではどこか宗教的とかスピリチュアル的な感覚を持つ人が多いのではないか?
それらを科学的に因子分解をして、どの因子が現代人の幸福感に繋がっているのかを調べた結果を元に書いてくれている。
決して直接的に幸福を目指すわけではなく、幸せの因子を高めていくことで間接的に幸せになる可能性が高いことを教えてくれる。
最終章のこれからの社会への提案や現代の問題点など考えるべきとこが多いが故に色んな人に読んでほしいと感じた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ
とてもわかりやすくまとめてある本だった!
これは本当に何回でも読んで、自分が自然と実践できるようにまで落とし込んでいきたい。
アドラー心理学に関するの本は何冊も読んだけど、
こんなにもわかりやすく書かれている本は初めてで感動した。
アドラー心理学は哲学、理論、技法に分かれて考えるととてもイメージしやすく、
今までの私の頭の中にあるアドラー心理学に関する散りばめられた知識の点たちがつながるような感じがした。
だからといって自分がその全てを理解し、実践できるくらいまでになったか?と言われたらそうじゃない。
もっとリアルに生活に落とし込み、
自然と人に対して、迷うことなく、悩むことなく、
勇気づけの言葉をかけれるようになりたいな。
本当に私を含むみんなが原因論ではなく、目的論をベースに人と関わって、
お互いを尊重し、協力し合える関係性を築けていけたら、
失敗しても責めることなく、お互いを応援していけるような関係性になれたら、
そして、
不完全な自分を受け入れて、必要な時にはちゃんと人に協力してもらえるようにお願いができ、
それぞれみんなが協力し合って、
みんなが貢献感を感じることができた、
きっときっと素晴らしい世界になるだろうなと思った。
過去の時代ではそう言った価値観は受け入れられにくいものだったけど、
今は時代も受け入れてくれるタイミングなんだなと改めてその時代背景も関係してくることが学びになった。
アドラー心理学とコーチングを同時に学べるような、
そして明日からでも実践できるような、
自分自身もやってみよう!と勇気がもらえるような、
とっても素敵な本でした!
アドラー心理学、コーチング、
もっともっと学んでいきたいな。
全ては繋がっているんだ。
感謝。 -
Posted by ブクログ
880
先ほど私は、「受験の数学は暗記科目である」と言ったが、本来、学問としての数学や 物理学では極めて高い創造力が必要される。もちろんそのための基礎学力としての記憶力も必要だが、それ以上に必要なのは創造力である。受験の数学は、「解き方のパターン」 さえわかっていれば、それを記憶して、引き出すことで答えを導くことができるが、本来問は「解き方のパターン」すらわかっていない未知の問題を解くことであり、場合によっては「何が問題か」を発見するところからスタートする必要がある。
よく私たちは「運動神経がいい」という言い方をするが、それは自分の身体をどう動かしたらどうなるかということを非宣言的記憶として覚えるのがうまい、ということを意味している。つまり、英単語を覚えるのが早い人のことを「あの人は記憶力がいい」と言い、 スポーツが得意な人のことを「あの人は運動神経がいい」と言うが、実際にはどちらも 「記憶力がいい」のであり、前者は「意味記憶がすぐれている」のに対し、後者は「非宣言的記憶がすぐれている」ということなのだ。 非宣言的記憶は何もスポーツなどに限らない。たとえば「あの人はスピーチが上手だ」 とか「あの人はリーダーシップがある」「あの人は営業センスがある」といった身体以外の技能の習熟も、脳がやり方を覚える非宣言的記憶といえる。スピーチに必要な単語を覚えることは「意味記憶」だが、うまく話すためのスキルは「非宣言的記憶」だ。もっと言えば、問題発見力や問題解決力も、そのやり方を身体で覚えるという意味では、広い意味での非宣言的記憶だといえる。 非宣言的記憶は主に身体を使った練習の繰り返しや、経験を重ね場数を踏むことによって「スキル」として習得されるものが多い。そこで、本書では、これから先は、「非宣言的記憶」という表現の代わりに、「スキルの記憶」という表現を用いることにする。厳密に言えば、「スキルの記憶」が「非宣言的記憶」のすべてではないのだが、「意味記憶」 「エピソード記憶」との対比がわかりやすいと思うので、本書では、「スキルの記憶」という言葉を使わせていただきたい。
私の場合、仕事柄、数学や物理、英語は、今も使っているため、学力はさほど衰えていないように思う。一方、日頃使わない化学の知識はほとんど覚えていない。もともと苦手だった国語や地理、歴史となるとさらに悲惨だ。では、それで社会生活に支障がいうと、ほとんど困ることはない。
ところが、現在の受験システムは、記憶力は悪いが、ほかの能力に秀でた人たちをスポイルする傾向がある。今の日本の入試制度は、いわば記憶力のテストのようなものだ。最近では大学によっていろんな工夫もされてはいるが、それでも記憶力のいい人間の方が有利な傾向に変わりはない。一流大学に入るためには記憶力の良さが重要であり、ほかの能力にいくら秀でていても、記憶力の悪い人間が一流大学と呼ばれる大学に入るのは難しいのが現状だ。 一流大学の学生や出身者は、記憶力という点では一流だが、だからといって、社会で必要となるほかの能力をひっくるめて一流ということではない。私はこれまでに記憶力だけがいい人をたくさん見てきたが、彼らの多くは抽象的思考力や創造力に劣っている傾向があるように思える。そのような人は、知識は豊富なのだが、記憶力に頼った類推をするため、創造性を発揮しにくい。また、システム思考が苦手であり、大局観を描く能力に欠けいる傾向もある。しかも、たちが悪いことに、なまじっかたくさんの知識をだけに、大きなビジョンを描けないという自分の欠点を自覚しにくい。
実際、ある心理学者による興味深実験結果がある。「物事を大局的に見ることのでき は、記憶力が悪い傾向がある」というのだ。どうやら、記憶力がすぐれてそれと引き換えに、思考力、リーダーシップ、創造性のような、大局的な能力が劣っている可能性があるのだ。スキルの記憶も、全体的・大局的な能力だ。したがって、意味記憶やエピソード記憶が得意な人は、これからの時代に必要とされるスキルの記憶能力が劣っているのかもしれないのだ。 つまり、記憶力第一主義的な選抜法は、なんと、全体的・大局的な思考力のある人をスポイルしている可能性があるのだ。
これからの時代に求められる、大局的に考える力。もう少しわかりやすく言うと、世の中に氾濫している情報の中から、必要なものとそうでないものをきちんと取捨選択することと、たくさんの情報が織りなす構造を俯瞰して、自分の頭でしっかり考えるということだろう。これは記憶重視の勉強からは得られない能力だ。 -
Posted by ブクログ
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このことからわかるのは、一〇〇%ポジティブでいる必要はないということです。ネガティブな感情はときに批評家精神を生み、社会の役に立つこともあります。たとえば「今の社会のここが悪いからもっとよくしよう」という機運が高まり、実際に良い社会に変わることもありますし、「この製品のここが良くない」とわかればより緻密な製品をつくるためのモチベーションになります。 ネガティブな感情は、危機に対応するためにもともと人間に備わっているものです。攻めてきた敵に対して怒りの感情をむき出しにして戦いに勝つ際や、飢餓という不安に備えて生き抜く際に必要な感情だったのです。 また、ポジティブになり過ぎると全体主義的になりがち、という研究もあります。 第二次世界大戦時に多くのドイツ国民がヒトラーの考えに賛同したことで悲劇が起こったように、極端なポジティブ感情への同化は社会を危険にさらしてしまいます。逆にネガティブ感情が高まるとうつ病などにかかることもありますので、こちらもよくありません。 研究の結果から、ポジティブの方が多い方がいいといわれているように、何事もバランスが大事、というのがポジティブ心理学の立場
厳しい状況でも、ネガティブな面だけではなく、ポジティブな面を見出すことのできる人こそが、逆境を乗り越えられます。 また、起こってしまったことに対して一喜一憂し過ぎないで感情をコントロールする力や、自分の力を過小評価しない自尊感情、自己効力感(自分が成長していると感じることができる力)や楽観性も大きく関係することが知られてい
このようなマインドフルな状態とは逆の状態を「マインドレス」といいます。マインドレスとは、注意が散漫で心が過去や未来をさまよっている状態や、ぼんやりしていて集中力がない状態
そういう意味では、フローに似ています。フローとの違いは、フローは無意識で入るのに対し、マインドフルネスは意識的に入るための型が用意されているという点でしょ
瞑想とは、自分の心を今ここに切り替えるスイッチみたいなものです。ですから瞑想でなくても、心のスイッチを切り替えられる行為であれば、なんでもいいと思います。たとえばイチロー選手がバッターボックスに入るときに、いつも同じ動作をする。あれも瞑想と同じような効果があるのでしょ
ちなみに、「フェイスブックの友人の数」と幸せの関係についても調べたところ、友人がいない、もしくはやっていない人と、一〇〇人以上いると答えた人との差は二四〇ポイント以上の差がありました。友人がまったくいない人と、ひとりでもいる人では幸福度に大きな差が出るということ
それでは日本はどうなのかというと、東洋的な国と欧米的な国のちょうど中間くらいです。個人主義的なのか集団主義的なのかを国別に調査した研究を見ると、日本はどちらでもなく真ん中くらいに位置しています。おそらく、戦後の教育がアメリカ仕込みの個人主義であることが関係していると思われます。 したがって、日本は東洋にありながらも、街並みもビルなどが多くアメリカ的なところもたくさんあるように、人々も個人主義に多分に影響を受けている国なのです。ですから、生きる意味や自己実現が日本人にとっての幸せの条件になっていてもおかしくはないのです。 ただ、個人的には、平穏無事な日常を送ることも幸せだと思いますので、AchievementやMeaningにこだわりすぎて日常のささやかな幸せをおろそかにしないでほしいとは思い
ひと昔前に比べると、最近は病気になる前に予防したり、病気になりにくい身体をつくることを目的とする予防医学の考え方がずいぶん浸透してきたように思います。考えてみれば、病気になってから医師にかかるよりも、病気になる前の段階で、病気にならないようにスポーツをしたり食事に気を使ったほうがはるかに効果的
高木さと子さんという方を紹介しましょう。彼女は、日本ハグ協会の会長をしておられます。
逆境を乗り越えるのは誰にとってもきついことですが、何もない平穏無事な人生よりも、逆境を乗り越え、心的外傷後成長を遂げた人のほうが、よりよい人生になっていることは間違いありませ
私の研究室で行った研究によると、性格の良さと幸せは比例します。何事に対しても前向きに取り組む、人に対して親切で寛容かつ誠実、細かいことにカリカリしない朗らかさを持っているなど、いわゆる性格がいい人のほうが幸福度が高いのです。 性格がいいからみんなに好かれて、仕事もプライベートもうまくいっているから幸せなのか。幸せだから、人のことを妬んだり恨んだりせず、人と自分を比較して卑屈になったりもしないから性格がいいのか。どちらが原因で、どちらが結果なのかはわかっていませんが……。「みんなを蹴落としてでも、自分だけ金持ちになりたい」という自己中心的な人は、お金持ちにはなれるかもしれませんが、幸せにはなれません。同じように、自分が不幸だと思っている人は他人に優しくできないもの
たとえばビル・ゲイツはマイクロソフト社を設立し莫大な富を築いたあとに、マイクロソフト社の経営とソフト開発の第一線から退き、慈善団体をつくり、途上国のエイズやマラリア、結核の根絶や教育、貧困撲滅、保健の水準向上などに尽力しています。 若い頃は地位財に目がいく人も、年齢を重ねるとそれだけでは虚しいとある時点で気づき、利他的になっていけば、幸せを得られるのだと思い
自己受容とは、自分のいいところも悪いところも含めて自分を認め、好きであることです。自己受容ができていると、気持ちが安定しているので、悪いことが起きても「なんとかなる」と楽観的かつ前向きに捉えることができ
図を見ていただければわかるように、自己受容できていない人で幸せだという人はほぼゼロ。逆に自己受容できている人で不幸な人はすごく
しかし、人目を気にしてがんばる人は、本当の自分の目標が明確でないため、周りに期待されなくなったり、ライバルの存在がなくなると、急にやる気をなくしてしまいます。このため、人目を気にする人は残念ながら幸せになりにくい傾向があり
前述した博報堂との共同調査で、子どもの有無と幸福度の関係を調べたところ、子どもがいない夫婦よりも、いる夫婦のほうが幸福度が高く、子どもの数が一人より二人、二人より三人のほうがより幸せだという結果になりました。そして、四人になると三人のときよりも幸福度が少し下がります。つまり、子どもを三人持つ親がもっとも幸せだという結果でし
マインドフルネス瞑想で感謝の心を養う 感謝することを習慣化するには、マインドフルネス瞑想もお勧めです。 自分の体への感謝の瞑想というものがあります。頭のてっぺんから足の先まで順番に感謝を続けるのです。 まずは頭の中にある脳に意識を向け、脳に感謝してみましょう。人間の脳は進化の集大成ともいえるもので、極めて高度な情報処理を行ってくれます。脳のおかげで、人間らしい生活が送れるのですから、ありがたいですね。脳に「ありがとう」を伝えます。 次は、耳に感謝します。耳を意識します。耳のおかげで、人の声や音楽、周囲の様々な音を聴き取ることができ、耳から重要な情報を受け取ることができます。ありがとう。 その次は、目に感謝します。目のおかげで、素敵な景色や好きな人たちを見ることができます。視覚から入ってくる情報量は、全体の八割ともいわれているため、目は大変重要な役割を果たしていることがわかります。 鼻を感じます。鼻のおかげで美味しいご飯の匂いを嗅ぐことができ、好きな香りを楽しむこともできる。また、ガス漏れなど匂いで危険を察知することもできる。ありがとう。鼻に感謝しましょう。 口を感じます。口のおかげで、食べることや話すことができる。口に感謝を伝えましょう。 皮膚を感じます。皮膚のおかげで、外界から守られ、外界のものに触れて感じることができます。 腕を感じます。腕のおかげで、モノを持つことができ、好きな人を抱きしめることができます。 心臓を感じます。心臓はこれまで瞬時も休まず働き続けることで、全身に血液と栄養を送り続けてくれています。心臓のおかげで、私たちは生きています。 肺を感じます。肺のおかげで、呼吸ができます。 胃腸を感じます。胃腸のおかげで、食べ物を消化・吸収して栄養として活用…
一つには、本当に幸せな会社というのはまだ中小企業に多いからです。大企業だと規模が大きすぎて、社長の思いが末端の社員にまできちんと伝わりにくいのかもしれません。やはり、社員が幸せになるように組織を管理していかなければならないのですが、従業員が数百人くらいまでならトップの思いは届きやすいけれど、一万人だとなかなか届かないようです。 一般的なイメージでいうと、中小企業の社員よりも大企業の社員のほうが幸せだと思われがちです。しかし、それはあくまで平均的な話。「ホワイト企業大賞」や『日本でいちばん大切にしたい会社』に選ばれるような、本当に幸福度の高い会社は、中小企業でしか実現できていないのが現状
人の心にも興味はあるし、人の役にも立ちたい。ならば、心理学を学べばよかったのですが、心理学科は文学部の中に入っていることが多かったため、高校生の頃、理数系が得意だった私は、心理学を学ぶことに思い至りませんでした。今、考えれば、心理学の一部はどうみても理系の学問だと思うのですが……。 理数系で世の中の役に立つ仕事はなんだろうと考え、科学者やエンジニア、医師という選択肢の中から、エンジニアになる道を選びました。やがてロボットの研究者になりましたが、周りはアトムとかガンダムのようなロボットを作りたいと言う人ばかり。私はもともと人の心に興味があったので、人の心に近いロボットの心を作ることに興味を持ちまし