表題作は、妻と暮らす家を出て会社で暮らし始めた男の日常が、ユーモアと叙情を織り交ぜつつ描かれた作品である。
著者がこの作品を「ノン・ノンフィクション」と謳っているとおり、主人公の男は、著者自身である。
最初の2ページで一気に引き込まれた。
「ノン・ノンフィクション」と呼ぶにふさわしく、フィクションと呼ぶには生々し過ぎるし、ノンフィクションと呼ぶには文学的過ぎる。
数々の言葉と表現が、その微妙なラインを見事についている。
「頭の中がカユいんだ」というタイトルどおり、大阪を舞台にした作品らしい面白さもありながら、後悔にも似た切なさが所々に滲み出る。
ただし、後半になると徐々に文学的な魅力が薄れ、尻切れトンボのような状態になってしまっている気がする。
勢いに任せて書き進められ、強引にというか唐突に結末を迎えてしまった感があるのは残念だ。
表題作の他、3作が併録されているが、最も気に入ったのは「私が一番モテた日」である。
モテない男ほど、「モテる」ということがどういうことなのかわからないが故に、「モテる」ということに憧れを抱くし、モテたいと願うものだ。
そして、自分の周りのモテる男に対して密かに嫉妬と羨望を抱くものだ。
そして、女の子には「聖女」と「娼婦」のどちらかしか存在しないような錯覚を抱くものだ。
そして、「軽さ」と「度胸」が何よりも欠けているものだ。
共感の嵐である。
読んでいると、モテなくて、モテたかった、自分の学生時代を思い出した。
バレンタインデーの昼食の時間はいつも肩身の狭い思いをしていた(一方でほんのささやかなる虚しい期待も抱いていた)ことやら、ある日知らない子からのラブレターが下駄箱に入っていて、どうしようもなく下手な字だなと思っていたら、後日どうやって調べたのかその子が家まで来て告白されたが、どうしようもなく不細工で(不細工なくせに厚底ブーツを履いていて)、「自分はモテない上にこんな不細工にしか好かれないのか」と悲しくなったことやら、ほろ苦い思い出達が蘇ってきた。
懐かしくて笑った。
モテない、モテたい、そんな思いを強く抱いている男子ほど、共感できる作品だ。