石田夏穂のレビュー一覧
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係長としてリース屋で働く傍ら、ボディビルの大会に出場している後藤。いつもよりひとつ落とした階級で出場すると決めた後藤は、減量に苦戦する。ある日、組織に悪影響を与える人材を切り捨てると共に、減量が進むことに気づいた後藤の結末とはーーー
笑いながら楽しめた一方で、真剣にボディメイキングに向き合う後藤に納得させられる部分も多くあった。
後藤は自分と他者の体型を比べ、優劣をつけるボディビルにストイックであるが故に、他者の身体がこれでもかと気になってしまう。人の身体を見て体脂肪率を推定し、太った人を体脂肪と称す。そして、デブは動きが遅い上に、動くたびにブヨヨと音を出す為、組織内で円滑に作業するための邪魔となるという。そんなルッキズムの権化のような後藤が、自らの身体のためになんでもやる姿を見せられるとそういった気持ちになってしまうのも仕方ないのかもと思わされる。
特に、作中で現れた後藤の考えである、
「身体づくりを「自分らしさ」の追求だとは思わない。(中略)ほっといたら誰だって「自分らしく」なれる」
「この世に素のままで評価される人はいない。赤の他人に認められるために、誰しも懸命に努力するのだ。人間の価値はいつにしたって「自分らしく」を超えたところにある」
これらの部分には、納得させられる。
自分らしく生きるというのが手を抜くための常套句であるという後藤にとって、ただ何もせず自らの身体に脂肪を蓄える人々のことは全く理解できないのだろう。
中間管理職という立場に立った人の立ち回りの難しさや、組織の為の行動によって左右される後藤の身体の状態を、喜劇的でいてシニカルに描かれる様はスラスラと読めて、とても心地よかった。 -
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ボディビルの大会に出場することになって、
筋トレの沼にはまっていく女性の物語。
私も筋トレ歴は長いのですが、
女性の大会については全く知識がありませんでした。
「筋肉とは関係のない部分も評価の対象となる」
ことが暗黙の前提になっていること。
ここに
男女でのボディビル観というか、
女性へのバイアスというか、
男女問わず客観的な『美』に対する価値観というか…。
「昔の(クラシカルな)美意識」を感じてしまう描写が、
作品のあらゆるところにちりばめられています。
そして、そんな世界に
終盤に行くにつれて、主人公が向き合っていく。
筋トレを始めたきっかけを
「美しくなる」とか「ダイエットをする」などではなく
「新しい生き物に生まれ変わる」
と表現する主人公の言葉。
この域には、わたしは到達してない。
どうしても旧態依然の「マッチョ感」から
抜け出せていない。
心の底から性を意識しない日がくるのだろうか…
どうすれば、
心の底から「男らしい、女らしい」という
感覚から抜けだせるのか…
ここ数年、男女に限らず、
筋トレをしている人は増えていると感じます。
人それぞれ目的は違うのでしょうが、
大くくりに見ると
「男性らしいカッコよさ」「女性らしいカッコよさ」
を目指していることにはなるのかも…。
そもそも、
この「○○らしい」ということ自体が、
すでに古い感覚なのだと感じつつも、
話をしているトレーニー知り合いの範囲内でなら、
やっぱりそこに収束してしまう。
そしてそんな人たちには、
性別関係なく魅力を感じてしまう…。
なんなんだろう、この感覚。
「体の性」がある以上、
考え方が体に引っ張られてしまうのだろうか。
脳も体だし。
そんな私は、
今週は背中への意識を中心に
トレーニングを重ねます。 -
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建設現場の安全衛生管理という一般人にはまったく見えない世界を舞台にした職業小説。
もちろんデフォルメはされているのだろうが、多重下請、人手不足、コンプライアンスと作業進捗のコンフリクトなど、建設業界の構造的問題を分からせてくれるリアリティがある。
その構造問題にスパッとメスをしれるのでもなく、モヤっとしたまま後味があまりスッキリしないのもまたリアル。
職人としてのプロフェッショナリズムが描かれるかというとそうでもなく、やっぱり「誰にでもできる仕事」なのかなあ、という印象だけが残る。
フィジカルもメンタルもキツそうではあるが。
池井戸潤的なわかりやすい勧善懲悪が読みたいわけではないけど、作劇としてはやや単調。元方安全の「松本」と現場の対立と、主人公「浜地」の二重生活の葛藤の描写が延々と続き、もう一捻り二捻り欲しくなってしまう。 -
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ネタバレ趣味のボディビルに精を出す主人公の会社生活を主軸に、ボディービルディングにおけるボディメイク(筋肉と体脂肪)と、職場におけるチームメイク(仕事の出来るやつと出来ないやつ)を重ね展開される作品。トレーニングを重ねて体脂肪率を下げていく=怠惰な同僚や気の利かない事務の女性を切ってスリムなチームを目指していくことであり、そこに達成感を覚える主人公の後藤。本番に向けて身体を絞っていく過程で立ちはだかる様々な困難を乗り越えて最終的に臨んだ計量では、逆に階級の下限を下回り失格になるという結末。身体でも組織でも、多少の体脂肪は必要というメタファーか。
帯には「朝井リョウ絶賛」「爆笑と感嘆」の文字が躍り期待させられたが、少なくとも爆笑はなく、主人公の抱える焦燥感にヤキモキ、周囲の怠惰な同僚たちに憤りを覚える、なかなかクセが強く、あまり読後感の良いとは言えない小説だった。
上手いなと思った表現メモ;
p.72 (地方勤務で各地を転々としていた頃は日ごとに筋量が減り、大会では予選落ち。毎日決まったものを食べて同じジムでトレーニングをして同じ時間に寝る、生活環境を整えて初めて身体づくりが出来るということについて)ビルダーとは全般に都会の生き物である。前に「野生児」云々と言われたが、ビルダーほど「自然」から遠い人たちを、後藤は他に知らなかった。
p.122 (頼りにしていた部下の菊池が会社を辞めることになりチームメンバーがいなくなるとき)筋肉のメンテを疎かにしちゃ駄目だよ。そうだ、自分は何度もそう言われていたのに。筋肉は脂肪と違って儚い。少しでもメンテを疎かにすると、あっという間にいなくなってしまう。 -
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自分が筋トレをやりだした時に読み始めたから、主人公がストイックに鍛えているのを感じてウキウキ湧き立つような気持ちで読みはじめた。
最初は同じジムのS子の事が気になりストーカーのようにインスタとかを見ていた主人公が、物語が進むに連れ自分を鍛えるということに集中しだすと周りの雑音はどうでもよくなり自分にフォーカスしていくようになり、私もそうなりたいなぁと思った。
あとボディビルの審査基準が女性の場合は女らしさも必要とされるとあるが、その審査基準でさえ医療的な物を利用してクリアしていってもOKだけどやりすぎだったりすると基準違反だとか、曖昧でかつ人それぞれの価値基準である事のモヤっとする気持ちは特に理解できた。女性らしさって何、とも。
ボディビル大会で自分らしくファイナルステージて華を飾った主人公、等身大の自分を戦いの場に連れていくその姿に私はとても素敵だと思った。
あとファイナルステージの後、その足で髪を切りに美容院に行き、たくさん泣く様子は言葉にするには難しいけど、気持ちが理解できるような気がする。 -
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ネタバレ理系の男性が多く就職するような、男女日が9:1の、時代に追いつけていない化学企業の新卒採用の話。
主人公は、「女性」という理由で難癖をつけられ、自分がやりたい仕事から人事部へと移動させられた。
そんな進むべき「前(志をもって進むべき目的)」を奪われた主人公は、採用担当としての権利を活かし、会社を徐々に崩壊させる復讐を、新しい「前」に設定する。
それは、「顔の黄金比」のみで学生を選対すること。
顔の黄金比のいい学生は、離職率が高く、会社にいつまで経ってものさばるような「凡人」にはなる確率が低いからだ。
複数の基準を持って人間を総合的に評価する「新卒一括採用」とは、全くの矛盾の行動だが、そもそもそんなシステムは欺瞞であり、成り立たない。
だからこそ、顔の黄金比での採用基準がまかり通る…
日本の採用システム、会社組織の不条理さと、正しくはないが「自分の美学・信念」を持って職務を全うする主人公の皮肉さが相待って、とても痛快な部分もあった。