石田夏穂のレビュー一覧
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石田夏穂さんの笑いのセンスが冴えわたるお仕事短編全4篇。
足裏マッサージにハマる女「フットブレイク」
太れない男が筋トレを決意したある理由「未経験の男」
働き方改革に抗うモーレツ社員の闘い「我らがDNA」
ノーメイクの女子社員を見つけ出す任務を帯びたノーメイク女「ノーメイク鑑定士」
どれも職場にありがちな「うっせえわ!」と感じる他者からの圧。そこににささやかに抗う主人公たちをある意味滑稽に描くところが石田夏穂らしい。
「人に『化粧をしていますか?』と訊くのは『大便した後あと尻を拭きますか?』と訊くのに似ている」などと言う独特な例えがツボにハマって、石田ワールドから抜け出せない。
このおかしみと皮肉さと最後訪れるささやかな爽快感が癖になって作者の作品を読み続けるのである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ大手ゼネコンの部長から家族に隠して格下業者の外勤となった主人公。
先日「ノーメイク鑑定士」がクソ笑える面白さだったのですが、これは同じ職場を舞台としたお話でも毛色が全く違うオーソドックスな小説でした。「ケチる貴方」の方向か。
ちょっとお話が、全体の中で短めだったように感じました。前職を去るきっかけとなった話と、”安全”をやる現在との兼ね合いのこと、自分の境遇と次男のこととの相似、工期と安全の間の正解のない問題など、掘り下げて劇的に書こうと思えば面白くなる要素はいくつかありつつ、あえてさらっと流しているような、良く言えば上品で、でもちょっとあっさりというか、読者側に預けすぎのようにも感じました。
腹をくくっておきながらとっさに寝返ってしまうというラストはとても人間ぽくてよかったです。 -
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ネタバレ「わが友、スミス」などの作品よりは、さらっとしてて物語としての厚みはそれほどない。なんか、石田夏穂入門って感じもするけど、いや、なんか、物足りない!って感じでした。
タイトルの冷ややかな悪魔が、何を指しているのかが物語の最後にわかるのは爽快だった。
体脂肪が多い独身中年女の主人公が、その属性を既婚子持ち中年女に変えただけで、周りの反応が変わってそれにのめり込んでドツボにハマっていく様は、読んでてハラハラしたけれど、それ自体にはそれほど共感できないというか、大手商社に勤めてるバリキャリが、結婚していないというだけで、こんなに異物を見るような視線で見られるものなのか?指輪ひとつで本当こんなに変わるのか?という設定自体に疑問を感じてしまう。あまりリアリティを感じない。
石田夏穂は大好きだけど、この作品はいまひとつって感じだな。 -
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ネタバレ過去十年間、欠陥率の少ないエース溶接工であった伊東は、突如スランプに陥る。かつての自分の中に存在したいつも通りの手順や自信は日に日に失われていく。それでも消えない、溶接工であるという燃え上がる職人魂は、ぼろぼろの伊東を再び現場へと駆り立てて———
伊東は優秀な溶接工である自分にこれでもかというほどに大きなプライドを持っている。それはただ単に火を尊敬しているだけでなく、元請である管理職に対して「お前たちには絶対に火を扱えない」と声を荒げてしまうほどに。そんな彼は、たった一つの失敗によってつけられたヒビから、どんどん亀裂が広がっていくと同時に、自らの実力に疑問を抱くこととなる。それからさらにミスが増える伊東であるが、実力者である自分をより追求するようになり、溶接工以外の職を見下している様が描かれる。
イメージ通りの職人が、これほどまでに心の内を曝け出し、自らと自らの職業と向き合っている。読者は伊東のものとともに自らの心もまた熱く燃え上がる感覚を覚えるのではないかと思う。伊東は、他の職を見下し、自らを持ち上げる。その結果失敗を重ね、後に引けない状況に自らの身体を持っていく。作中で伊東のことをこう表現されている。「傲慢」 彼は人の職を馬鹿にしているのに、自らの職を馬鹿にされると腹を立てる。それはプライドという言葉で原因を説明できるかもしれないが、説明されて彼の心情を理解したからといって、良しとしていい論ではない。それでも彼は職人であることをあきらめない。そして、ラストシーン。我が手に宿っていた太陽も姿をなくし、彼に残ったものは何なのだろう。そしてこれからの伊東が何を考え、何をして生きるのかが気になる。まだ宿っている管理工と伊東の対比が寂しさをより強調させていて好きな終わり方だった。 -
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運動不足の解消としてジムに通い始めた会社員の女性が、やがてボディビルの世界に足を踏み入れ、自らの肉体を変えていくことにのめり込んでいく。鍛え上げられていく身体とともに、「なりたい自分」と「求められる自分」の間で揺れ動いていく物語。
トレーニングジムやボディビルという知らない世界を知ることができて純粋に楽しかった。誰しも少なからず持っている変身願望を思い出させる内容だった。漠然と始めた筋トレが競技へと変わり、自らの肉体を作り替えていく過程はとても興味深い。自分がなりたいものと、周囲から求められるもののギャップに葛藤する姿には共感する部分も多かった。
また、自分を追い込むストイックなトレーニーほど言葉を大切にしているという描写も印象的だった。「継続は力なり」「千里の道も一歩から」といった言葉で自らを鼓舞する姿は妙に納得感があり、そんなストイックな世界に少し憧れも感じた。主人公の淡々とした性格と、迷いながらも突き進んでいく感覚が爽快で、最後までサクサク読めた。読み終えて、少しジムに行きたくなった。 -
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どうしても私みたいな選手は傍流扱いになっちゃうのね 世間はがちがちに鍛えた女性を嫌厭しがちである 「私にも、出来ますかね」これは最早、肯定有きの誘導尋問だった 私は艶めく茹で卵を齧った 目の前のトレーニーの呷るプロテインに心を奪われている このように意識を切断するものを雑念と呼ぶなら 私は日に日に強靭になっていく身体は元より、この真空地帯に淫したのだった 人間が社会的な生き物で有る事の証左だ 私の頭は浮腫んだ脹脛のようにぱんぱんになった 偏に私が新参者だったからだ 皆既日食レベルにピタリと一致する様だった 幸か不幸か、優れた見てくれには、途轍もない力がある。無言のままに、これ程迄雄弁で有得る。 「身体は一番正直な他人だ」という、やはりダイヤモンドのようにかっこいい一文があります。自分の身体と向き合い、鍛え、それが他者の目にどう映るか、探っていきます。 身体を意識する事で、他者の視点が立ち上がり、小説が生まれているのです。石田さんは、見た目を可成り意識しています。だから、書かれているのは、単純な「反ルッキズム」ではないのです。見た目というものの力強さを分かった上で、あれ?なんだろうこれ?という違和感、社会に漂う複雑なものを、文学にしているのです。