新川帆立のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
強欲さの裏にある本物の強さ
――剣持麗子に魅せられて
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」このあまりにも奇妙で、どこか挑発的な遺言状の言葉から、物語の幕は上がります。普通、遺言といえば愛する人に財産を遺すためのものですが、この作品の登場人物である栄治が遺したのは「自分を殺した犯人に残す」という前代未聞のメッセージでした。この強烈なキャッチコピーに惹かれてページをめくった私は、二転三転するミステリーの面白さはもちろん、何より主人公である弁護士・剣持麗子の強烈なキャラクターに、心を大きく揺さぶられることになりました。
正直に言うと、物語の冒頭、私は麗子のことがあまり好きになれませんでした。「お金にならない仕事はしない」と公言し、自分の利益のために元彼の遺産を狙う彼女の姿は、あまりにも強欲で冷徹に思えたからです。従来のミステリー小説に出てくるような「正義感に燃える誠実な主人公」とは真逆で、自分の欲望を隠そうともしない彼女に対し、「なんて嫌な奴なんだろう」と反発を覚えたのが最初の印象でした。
しかし、物語を読み進めるうちに、私の麗子に対する見方は180度変わっていきました。彼女は決してお金に目が眩んだ卑しい人間ではなく、むしろ誰よりも真っ直ぐで、自分の力だけで過酷な社会を生き抜く「圧倒的な覚悟」を持った人だったからです。
麗子は、どんなに周囲から批判されても、自分の価値を他人に決めさせません。誰に媚びることもなく、自分の有能さを信じ、堂々と欲望を肯定する。その姿は、周囲の目を気にして自分を抑えがちな私にとって、次第にとても眩しく、そして最高にかっこいいものとして映るようになりました。
彼女の「お金への執着」は、他人に依存せず、自分の足で自立して生きるための誠実さの裏返しだったのだと気づいた時、最初の嫌悪感は大きな憧れへと変わっていました。
麗子は元彼の遺産を手に入れるため、なんと彼の友人を「犯人」に仕立て上げようと奔走します。この「犯人を捜す」のではなく「犯人を作る」という逆転の発想が、この物語を唯一無二の面白いものにしています。しかし、事態は麗子の思惑を超えて本物の殺人事件へと発展し、栄治の遺言の真意が徐々に明らかになっていきます。
巨万の富を巡って、人間の醜い欲望や家族同士の裏切りが暴かれる中で、麗子だけは最後までブレませんでした。彼女はお金を愛していますが、お金に振り回されて自分を見失うことは決してありません。一方で、栄治の周囲にいた人々は、お金に目が眩み、人間としてのプライドや大切な絆を失っていきました。本当に豊かな生き方とは、ただ大金を持つことではなく、麗子のように「自分の価値観を信じて、自分の力で生きること」ではないでしょうか。
『元彼の遺言状』は、単に犯人を当てるだけの謎解きミステリーではありませんでした。最初は「嫌な奴」だと思っていた主人公・麗子の強さに魅了され、最後には彼女から、自分の人生を堂々と生きる勇気をもらえるような、エンターテインメント性溢れる傑作だと感じました。
ずいぶんと積読状態でした本くんに対して申し訳ありませんでした。
楽しかったです。 -
Posted by ブクログ
「縁切り上等!」の改題である本書は4人の離婚したい依頼人が登場する。いずれもさまざまな問題を抱えていて、思い悩み揺れ動く姿が記されており、「結婚」することより「離婚」することの方が難しいと思ってしまう。それでも「離婚」を選択する訳だが、そこには慰謝料支払いや親権の問題などさまざま法律を介して決められるルールみたいなものがある。読んでいて生身の人が引き起こす問題はまちまちであり、法律も昔のままアップデートされていないところも多々あり対応しきれないところもやむを得ないと思う。
しかし、ひとはなぜ「結婚」するのだろうか、また、どうして「離婚」することになってしまうのだろう。夫婦やパートナーといった間柄への深い理解を学んだ1冊です!
しかし、重いとか暗い小説ではなく、かといってめちゃくちゃ明るい訳でもないが読んでよかったと思う一冊です。 -
Posted by ブクログ
国会、報道、地方政治の場で奮闘する4人の女性たちの姿をミステリー仕立てで描いたエンタメ作品。
「第一章 国会」、「第二章 政治記者」、「第三章 地方議員」、「第四章 選挙」の構成で描かれる。
物語は、国会与党「国民党」の議員・朝沼侑子が自殺し、彼女と共闘関係にあった野党第一党・民政党の議員・高月馨が窮地に追いやられる場面から始まる。
高月は朝沼を死の直前に厳しく追及していたことから、追い詰め過ぎたことの謝罪と国対副委員長の辞任を迫られる。
高月は朝沼の婚約者だった政界のプリンス・三好顕太郎に直談判し、死の真相を調べ始める。
高月と朝沼は性同一性障害特例法改正案成立を目指し、超党派議連を組んで原案を作ってきた同士だったが、朝沼は国民党をまとめられなかった。
朝沼は首相経験者の父を持ち、「お嬢」と呼ばれ、40代半ばにして当選5回、2つの大臣を歴任していた。
一方の高月は、不遇な人生を歩み、炊き出しボランティアをする中で、気丈な性格を見出され、議員となり、その熱心な政治姿勢から「憤慨おばさん」と呼ばれていた。
事件の発端となる第一章は、高月の政策担当秘書・沢村明美の視点を通して進行する。彼女はロースクールで得た法的素養が政策づくりに活かせるものと信じて、この仕事に就いていた。
第二章は、政治部記者記者・和田山怜奈の取材活動、第三章は、地方議員・間橋みゆきが国会出馬に至るまでの経緯が語られ、第四章では、間橋の補欠選挙での戦いに進み、最後は高月による朝沼の死の真相解明で終わる。
最後に明かされる性同一性障害に起因する衝撃の事実には、驚かされ、ミステリー小説の醍醐味を味わった。
だが、著者が力を入れて訴えたかったのは、国や地方の政界や報道の現場で生じる女性に対する理不尽な女性蔑視や家父長制、パワハラ、セクハラの実態。
高月、沢村、和田山、間橋の4人の女性がそれに立ち向かう姿は、強く印象に残り、登場する男性陣は、脇に追いやられた感があった。
また、国会、地方政治、報道、選挙の現場や裏事情を垣間見るような描写もあり、良く実態把握に努められていると感じた。
その点に関して、幾つかを列挙しておく。
・国会議員の政策担当秘書は議員の政策立案や立法活動を補佐する役職だが、実際は、地元に張り付き、選挙に向けた活動ばかりしている者も多い
・国会議員の公設秘書は特別職国家公務員。地元の陳情をとりまとめ議員につなぐ役割があり、接待などの利益供与と引き換えに議員への取り次ぎを約束すれば、秘書個人に受託収賄罪が成立する
・政治部記者は、オフレコ前提でとった情報が超ド級の特ダネであれば、取材対象者との信頼関係を壊してでも、報道するべき公益性があると考えて報道する
・政治家は、世論や他派閥の反応を探るため、わざと虚偽の情報を観測気球として流すこともある
・同性同名の対抗馬を出馬させる典型的な選挙妨害がある