魚豊のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ『チ。』で一番好きなのは、知ることそのものに価値がある、というところ。
何かを知ったことで、それまで当たり前だと思っていた世界の見え方が変わる。その瞬間の喜びや興奮がすごく伝わってきたし、「命をかけられるものがある人生は幸せだ」という考え方も強く残った。
あと、最後の終わり方がすごく好きだった。ここまで色んな人が命がけでつないできた知識は、最後には一度途切れてしまう。でも、それで全部が終わるわけではなく、別の人間の中にまた「なぜ?」という疑問が生まれる。
知識そのものは失われても、人間の好奇心までは消せない。誰かが疑問を持てば、そこからまた世界を知ろうとする動きが始まる。
単純なハッピーエンドではなく、「知りたい」という気持ちが次の人へつながっていく終わり方なのがすごく良かった。
10段階評価: 10点 -
Posted by ブクログ
ネタバレ映画の視聴後に購入。
陸上の才能があり敗北を知らなかったトガシくんと、辛い現実から逃げるために走っていた小宮くんの幼少期から始まり、陸上の英才教育を受け育ちそれ以外で評価をもらうことができない仁神さん、陸上の才能はないもののひたむきな努力を続けてきた浅草さんなど陸上にいろんな形で向き合う人間が出てくる。
さまざまな人間らしさが描かれており、生き方を考えさせられるような漫画だった。
トガシくんは主人公らしくはないと思う。自分の評価基準は陸上しかないと思い、達観してるように見えつつも、極端な考えや感情で動いてしまうし、それでも絶対的な才能を信じられない精神性の弱さがある。ただ、決断からの軸の強さと行動力は凄まじく、それをできるだけの力があるから、ヒーローになり得てしまう。完全善人でもないしめちゃくちゃなこともする。でも格好良い。
惰性で続けてきたもの、なんとなくずっと縋っているもの、それに全力になってしっかり好きだと言える様子は眩しい。自分もそうなれるように頑張りたくなる作品だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ【8巻まで出版されていて、完結済み】
ある時代の、人類が住むこの地球と宇宙の在り方に関する説に関する時代背景や実際の史実を基にした、いわゆる歴史ものの作品。
こういった史実に基づく作品は基本的に、記録(記載)のある描写以外は全て作者の想像に依るところが大きいために、本当にそんな詳細なストーリーが存在していたのか、本当はもっと劇的なものだったかもしれないという点でも好きなジャンルの一つです。しかし、いわゆる歴史モノの中でもこの作品のモデルは「地動説」を中心に描かれている。
これを読む前に簡単にでも天動説と地動説について調べてから読んでみるとより面白く感じるかもしれません。
今となっては「常識」とされる天体(各惑星)だけでなく地球は動いている、という説は当時の世の中でどれほどの驚き・反発を受けるものなのか、この説に辿り着く上でぶつかる「天動説」の矛盾。これらに思いを巡らせたことが無い人は多いと思うし、自分もその一人である。天動説も改めて説明されると想像もつかない程の、科学技術と呼べるものがほとんど無い時期に提唱されたとは思えないほどに「良く出来た」ものであったからこそ、これに付随して発展していく宗教的な教えが、当時の現世の人々の困窮した生活と嚙み合ってしまったが故に地動説が世に広がるにはこの作品中の描写以上の(直接的な妨害的な運動があったかどうかは定かではないが)苦労があったのだと推測できる。
「チ。」の1巻こそが本作品中で最も鮮烈に「面白い!」と感じさせてくれる話が描かれているが、この2巻では「地動説」の凄さを理解できる、学びに楽しみを見出している(もっというなら知識欲に魅了されている)者と、勉学というものには触れてこず、当時の現世に最も多いであろう宗教観を信じ切ってきその日暮らしの者が出会う巻。
実際の歴史においては「地動説」はたった一人のいわゆる天才がまとめ上げた学説であった可能性は否定できないが、その規模、必要となる観察結果や先に述べた時代背景等々を鑑みると、その学説の素晴らしさを読み解き、共感し、異端とされてもそれを継続する程に感動した者たちが連綿と受け継いできたものだったのだと思わせられる。
本当にこのような劇的な背景があったように思わせてくれる。科学の進歩はその発見の「面白さ」「美しさ」に魅了される人間が人類の中に絶対に現れてきてしまう法則のようなもの、「チ。」は作品中では「地。」を示すが、「知。」によってに突き動かされてきた人々が確かにいたのだとしみじみと感動させられる作品だと思う。
当時の宗教観と天動説の組み合わせから(どのような時間的な関係があるかどうかはさておき:こういうのを知るのも面白そう)、この世は地獄、もしくは最底辺の世界といったように考えられていた。そのことから当時の日常に絶望しているものもいたかもしれない、それが「死んだ後」という不確定要素しかないものに希望を見出して日々を乗り越えていたのかと考えると、それは確かに極めて苦しい「地獄」のようなものに思える。しかし、その考え方が浸透した世界において「天動説」から「地動説」への移り変わりにはこの世はそんな最底辺の苦しいだけの世界なんかでは決してないと思わせてくれる、「説を信じること」に妄信する者にとっては絶望を与えられたかもしれないが、多くの人にとっては一方的に刷り込まれた地獄という呪いから解き放たれるような発見だったんじゃないだろうか。といった、歴史的な事実を繋ぎ合わせて劇的な話を想像(創造)・表現すること、が、史実を基にした作品の魅力だと自分は思う。「こんな世界が本当にあったんだ」と思うのではなく、「こうだったかもしれない」くらいの受け止め方にはする方が良いと考えるが、願わくばこれを入り口に関連事項を調べてみて、自分なりの解釈をすることで、漫画的なこの作品の面白さ、史実が示す科学の歩みとしての面白さをそれぞれ味わえると思う。
どうしても描写が受け付けない人もいたり、反応が分かれやすい作品化と思うので、この2巻までたどり着けた人は一気に8巻まで読めてしまうのでは、読まないとスッキリできないのではないだろうか? -
Posted by ブクログ
ネタバレこれは、地動説の物語だ。コペルニクスがいない並行世界が主な舞台だ。
われわれ読者がいるこの現実世界では、コペルニクスは近代地動説の提唱者とされる。大学で当時の天文学の権威アルベルト・ブルゼフスキから教えを受け、地動説を磨き、その成果が活版印刷物となって世に広まった。これは史実だ。
これとは別に設けられた並行世界が、本作品の舞台だ。アルベルトはオクジーという名の下層民として生きており、成り行きで地動説に関わってしまう。異端者として処刑されるが、遺した本が人手にわたり、地動説が活版印刷で世に広まる動きとなっていく。
読者は本作品を手に取り、長い物語をずっと辿るが、なぜか史実らしいものには出会わない。終章の舞台に来て時間軸が混乱するが、現実世界の話にようやく出会い、それまで別の世界にいたことを知らされる。
二つの世界は時折り交わる。オクジーは、アルベルトとして大学で学んでいる自分の姿を夢で見る場面がある。地動説は後の世で真実とされるが、そこに至る歴史は幾筋もあるし、それらの世界が交差する瞬間もある、ということだろう。
ちなみに、二つの世界に現れるのはオクジー=アルベルトだけではない。
本作品で最初に出てくる少年ラファウは、並行世界の神童で、地動説の資料を遺し、結果的にオグジーを地動説の継承者にさせた。(ちなみに死後、幻となって現れ、地動説の勝利を宣言するような場面もある)。現実世界ではアルベルトに知への探究心と取るべき姿勢を自覚させ、コペルニクスの師を生み出した。
司祭は、並行世界ではエリートであり、地動説研究にオグジーを使い、彼の知識欲を目覚めさせる役を果たす。現実世界では進取の人格者として登場し、告解を通じてアルベルトに進学を決意させる。
歴史には大きな流れがある。一人の天才によって作られるものではない、というのが本作品の一つのメッセージだろう。 -
Posted by ブクログ
圧倒的な人間賛歌だった。
知ろうとすること、何かを信じること、何かを愛すること。それら全ては人間にしかできないこと。
だから世界は美しくて、世界は美しいと人は感じることができる。時代を超えて文字が受け継がれて、同じ星を見て奇蹟だと思える。
作中「悪役」とされるノヴァクでさえ、疑うことが出来ず道を違えた、純粋に娘を愛するただの人間だと描かれる。登場人物は皆どこまでも何かに対して愚直で純粋であることが何故かとても泣けた。
無惨に死んでいく人や拷問される描写などの苦しい展開も多いけれど、根底に作者がどこまでも人間のことを好いているのだろうということが伝わってきた。
この時代にこの作品が生まれて、読者となれたことがとても幸福に感じた。素晴らしい作品!