本城氏得意の野球をテーマにした長編小説。ジャーナリズムとドーピング問題を掛け合わせた熱い名作である。
物語としては、ドーピング事件の関係者の多視点から進む。誠実でクリーンな元メジャーリーガーの津久見にとって非常に悪い状況から最終的な結末に発展していくドラマ性にまず読む手が止まらなかった。この津久見
...続きを読むにしても、外側から見れば完璧な男なのだが、彼の内面はただの普通の人間、欠点も欲もあるが自身の信念を持って正しく生きようとしている。こういった誰しもが持つ内面的欠点も含めて人間らしく人物を描けるのが作者の魅力だと思う。
テーマとしても惹かれる部分が多く、ジャーナリズムとは何かに対する作者の考え方がよく出ている。『書くか書かないかは自由だが、真実を調べるのはジャーナリストを名乗る人間の使命だ』。記者を真正面から描いた彼の著作も多いので次に読んでみたい。
ドーピング問題については、使用する選手をただ客観的に批判するのではなく、スポーツ選手というプレーに命を賭ける本音目線で、ある意味で肯定とも捉えかねない答えを出しているのは非常に興味深い。個人的には本作を読んで、治療とドーピングの境界は非常に曖昧だなぁと感じた。100%を120%に変えるのは明らかにドーピングであるが、痛みを和らげるために、70%を71%にするために行うドーピングは治療とどう違うのだろうか…