宇野重規のレビュー一覧
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「民主主義」を説明する際には主権論やルソーの一般意志が引き合いに出される。しかし現代社会においては右派・左派の分断を引き合いに出すまでもなく、社会の総意としての一般意志が存在するという仮定は機能しなくなっているのではないかという疑問は研究者でなくとも持つものだろう。
本書は学術会議の任命拒否問題でも注目を集めた宇野重規教授による一般向けの「新しい民主主義」解説書である。本書において宇野は一般意志を理想とした従来の民主主義観から、プラグマティズム的な民主主義観への転換を試みている。
プラグマティズムというと「観念的な要素を一切考えずに実用性のみを追い求める思想」のように見えるが、宇野は丁寧に -
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今話題の「学術会議」拒否問題の渦中?の宇野先生の著書。豊島岡女子中高校で先生が実際に行ったワークショップ?が元になっている。大学教員が中高生が目的意識を持ちやすいようにわかりやすく問題設定を行い、考えてもらうようにできているので読みやすい。ルソー・カント・ヘーゲルからトクヴィル・ウイリアムスジェームスまで、広く哲学者の問題意識に即した思想を紹介しつつ、今の日本の政治の問題点を炙り出している。やはり一番印象に残ったのは、「多数決は一つの決め方にすぎない。昔からあって当たり前と思っている制度も、たかだか200年前ぐらい前にできた
ものであり、問題点を考えながらアップデートしていく必要がある」という -
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東大教授の著者が豊島岡女子学園の生徒たちに対して行った全5回の講義をもとに人と一緒にいることと政治について様々な観点から向き合い方についてまとめた一冊。
選挙や男女平等、働きかた、未来予測など様々なテーマについて政治について講義されていて非常に考えさせられる内容でした。
また講義を聞いている学生たちの意識の高さにも舌を巻きました。
2016年の大統領選挙のことや今の民主主義の弱点などを知れたり、働きかたや社会保障と税負担の問題など自分たちの生活の中にも密接に関係のある政治について書かれており関心が深まる内容となっていました。
また、ロールズやルソー、カント、ヘーゲルといった考え方から政治を考 -
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大学の先生が、大人のために、個人主義とかGDPとか多数決とか公正や信頼などについて解説してくれる本。
多数決は何かを決めるときに必ずしもベストな手段ではないとか、なるほど。
利己主義は昔からあるけれど、個人主義は比較的新しいもので、国によって発生過程が異なり、「フランス革命に反対する勢力が、社会を解体する良くないものだと否定する文脈から登場し、19世紀半ば以降の英国では、個人の自由な経済活動が『小さな政府』とセットで強調されるようになり、哲学と文学が盛んだったドイツでは多様な個性を重んじる個人主義が重んじられ、アメリカでは他人の力を借りず一人でやりとげる『セルフ・メイド・マン』の概念と結び -
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近代化がある程度達成されることで、人びとが自分を他者と平等であるような存在だと考えるようになり、そのために自他の違いについてますます敏感にならざるをえないことが、現代の社会のさまざまなひずみを生み出していることを、トクヴィルをはじめ現代の多くの社会学者たちの議論を参照しながら考察している本です。
ウルリッヒ・ベックによって焦点が向けられて以来、さかんに論じられてきた再帰的近代化の一つの側面を、わかりやすくていねいに論じています。著者は、単に問題の所在を指摘するだけでなく、それに対する処方箋を提示することもみずからの責務だと考えているようですが、結論としてはやや弱いと感じられます。また、かなら -
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現代社会の抱える課題について、経済学・歴史学・政治学・社会学の視点から考えている作品です。
経済成長の基準とされる「GDP」について、その数値が示すものの意味と、GDP値を上昇させることの意味。
また、日本において根深く残る「勤労」感(働かざる者食うべからず、として貧困層をかれらの努力不足と断じる姿勢など)がどのように醸成されてきたのか。
多数決で物事を決定してゆく民主主義が抱えているシステム的な「課題」や、また「社会福祉」として行われる弱者救済が「人びとのニーズ」に合致しなければならないことなど、「これから先の社会」を考える前提としての「現代の社会」について、どのような仕組みで動いているの -
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前々から気になっていた井出英策。今年一発目の本として「日本財政 転換の指針」を開き、ちょうど就任式を迎えたトランプ大統領の移民を排斥しようとする政策がなぜ得票に繋がるのか?の不思議に始めて明快な説明を受けたような気がして、講演会も聴きに行き、そこで民進党の前原誠司のブレーンとして研究だけじゃなく現実にコミットする!という宣言を聴き、著作も辿りながら、「財政」という自分にとっての新しいキーワードを手繰ってきた2017年は「大人のための社会科」を読んでの締めくくりとなりました。たぶん彼の案による「all for all」にも強いメッセージを感じ期待もしていたのですが、呆気なくテイクオフ出来ず瓦解崩