宇野重規のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
著者の著作は時々手を取っているが、その中でも現実に具体的に触れている程度が非常に高く感じた。
概念についての論考から始まり、その考え方の具体例をそれぞれの論客を取り上げて整理した上で、現代史から実世界を論じている。どちらの思想に対しても目配りが効いていると思う。そして、思想というものの重要性をとても認識させられる一冊である。政治世界だけでなく、現実世界をどう解釈するのか、という点において自分自身の考え方を相対的にできるように意識できるように、これまでの考え方の束としての思想に触れていきたい。
取り上げている論客への道標でもありつつ、確かな読み応えを味わえる読み物であるといえよう。
なお、丸 -
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議会制、選挙、自由は、本質的に民主主義と結合した概念ではなくて、歴史の趨勢がそれらを結合させ民主主義を現在の姿に変えていった。本書は、民主主義を政治史の俎上で相対化し民主主義そのものの姿を明らかにする。
著者は民主主義をめぐる歴史において古代ギリシアを特別視していることを認めている。先史の原始的な人間集団のなかで民主主義的プロセスが自治的な合意形成に利用されたことはありえたとしながらも、古代ギリシアのポリスでは市民が民主主義的制度とその実践に自覚的に取り組み、徹底化していた点で一線を画すという。
民主主義がときに誤るとしても自己修正が可能であるというのは、プラトンの哲人政治が持続性を持たな -
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民主主義が危機を迎えていると言われている昨今、もう一度民主主義のお勉強を。まず、独裁制や専制と違って、変化することを前提にしている制度であること。だから、内容はどうあれ、変化を恐れてないけない。理性的な判断の前に経験が来ることがあること。頭で理解するより、経験の方を重視して意思決定を行うということだが、SNS時代・web時代で直接的な体験が失われていることを考えると、これは確かに危機かも。それから、コミュニケーションや多少の摩擦から議論が生まれまとまっていくこと。これは隣人が誰だか話からない都内では起こりにくいということを考えると、民主主義が生き残っていくのは、実は地方なのかも。
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保守主義のステレオタイプのイメージはというとネガティヴな物を想起しやすい。例えば過去に固執した態度、異なる意見を聞き捨てる排外主義。また自由な民主主義とは反対の、カリスマに統治を委ねる権威主義もイメージとしてでてくるだろう。
ただ当然前述したように上記のイメージはステレオタイプにすぎない。本書によると本流の保守主義とは、過去から連綿と続く伝統を尊重、そして急進的な変化に距離を置く立場であり、あくまでも漸進的に変化に対応していくという概念であるという。また、保守主義という概念が誕生したイギリスでは、自らが作り上げた立憲主義の伝統を尊重し、それに基づいた自由という概念を保守する。これはステレオタ -
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今年の衆議院選挙ほど、日本中が選挙に熱くなった機会はなかったのではないだろうか。そんな中でも選挙に行かない若者が話題になっていたが、投票所への足が重くなるのは正直自分たちも同じだった。
今回のケースで言うと、自分を含め「票を入れたい政党/候補者がいない」という人が周りに多かった。だから投票前、生まれて初めて身内(パートナー)と真剣に話し合い、票を投じたのだった。
思えば妙なものだ。
自分が成人になっても、家族は自分たちの票の行方を教えてくれなかった。それは日本の家庭であればどこも同じみたいで、子供が外で喋ることで、相手との関係性が悪くなることを憂慮していたのだろう。
でもいざ子供が成人になっ -
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★目次
はじめに 第1章 「平等化」の趨勢
トクヴィルのアメリカ旅行/銃、印刷、郵便/「未来はすでにここにある」/民主化/平等化の良い面と悪い面/アメリカ自治組織/マルクスの階級闘争/想像力の変容/デカルト的になる/小説→映画→ゲーム/個人主義の孤独
第2章 ポストマンと結社
親愛なる郵便局員/郵便≒インターネット/「集権」と「分権」/福沢諭吉の構想/プラットフォームとしての政府/アメリカで内戦が起きるとすれば/アソシエーションという身分保証/フランスと結社/陰謀論者/アソシエーションは軍事化する
第3章 行政府を民主化する
選挙というバイアス/ロックの「三権分立」/中国の科挙、一七世紀の -
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とても面白かった。タイトルに民主主義が入っているから政治的なことがメインかと思いきや、ビジネスや社会参加、生産者と消費者の関係性まで、幅広い議論が行われている。知識や技術の「民主化」により、平等化が進むが、それは必ずしも平和や安定を意味せず、むしろ細かい違いに注目がいき、差別や偏見を生むことになる。同時に、それまでの権威に対する信頼失墜に繋がり、社会が不安定化する。これに変わる信頼がファンダムに集まっている。いわゆる「推し」であり、確かに一定のお作法、共通の価値観、奉仕や貢献の意識など、コミュニティを維持する要素が詰まっている。現代社会を理解するのに非常に参考になる一冊。
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トクヴィルが見たアメリカは「民主主義の実験場」。
「平等化」を促したものとして、プロテスタンティズム、銃、印刷、郵便というものを挙げている。
それまでの教育は過去から伝わる「規範」を身につけるものだったが、平等化の趨勢は、「自分で考える」ことを促していくのではないか?
「政治的集権化(政権)」は必要
「行政的集権(治権)」は不要
平等化によって孤独が起きる。なぜなら平等化が進むとちょっとした違いが気になってしまうから。
互いに平等なはずなのに残る不平等について、人々はより過敏に反応することになる。
「編集者は最初の読者だ」
アマチュアであることのプロであることが求められる
DXとは -
Posted by ブクログ
「ためになる新書」という意味では今まで読んだ中で一番と言ってもいい本。
日本政治学会の理事長も務めるフランス政治思想の第一人者、宇野重規が民主主義の視点から政治思想史の流れを過不足なくまとめた良書。
新書というジャンルは基本的に読み捨て前提で多読するものと思っているが、この本に関しては珍しく他の本で知識を得た上で読み返したいと思わされた。
特に第四章の20世紀の政治思想は思想自体が多様で掴みづらかったのでリベンジしたい。
一方で記述が教科書的なのが難点で、読み通せない程ではないが面白い本とは言いがたい。
個人的には宇野先生ご自身の、トクヴィルやルソー的なピュアな民主主義への憧憬を称揚しな -
Posted by ブクログ
ネタバレちょうど同著者の『民主主義とは何か』を読み終えたところで、およそ3年ぶりに再読。せっかくなのでここ数年の間に流行したAdoの『うっせぇわ』と簡単に絡めてみる。
「私が俗に言う天才です」と自分は特別であると思おうとすると同時に、「私も大概だけど」と心のどこかでは他人と何ら変わらないことを感じている。そして「ちっちゃな頃から優等生」「社会人じゃ当然のルールです」と押し付けられる理想や自己犠牲に強い不平等感を感じるのである。
「でも遊び足りない/何か足りない」と満たされない思い。それを「困っちまうのは誰かのせい」として、自分の生きづらさを外部のせいにし、「うっせぇわ」と排除しようとするのである。「