笙野頼子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ブスブスブス
私はこんなに素晴しい女性なの!
お料理だって、お掃除だって、家事はもちろんお手の物。
それに言葉遣いだって美しいし、自分を常に高めようと努力しているの。
美しいし、心根だって優れているし、あとは素晴しい殿方だけ。
ね、なんで結婚できないのだと思う?
それはね、あなたみたいなブスが、殿方を手練手管でたぶらかしているからよ、ね、いいこと、カニバット様のおっしゃる通りにしていたのよ、だから私は、
哀れというのでもなく、可笑しいというのでもなく、ただただ呆然とする。
ブスブスブスと連呼しながら頭に渦巻く疑問。
それを結婚という幻想に覆い隠しながら、連呼する。
そうでなければ自らの思いを何に託すことができようか!
フェミニズムを否定し、結婚を理想郷のように崇めている彼女らは一見恐ろしく何とも馬鹿げているように思える。
しかしそこにあるのは、行き場を失った「自分」を求める人間の姿。
本書の感想を述べるのはとても難しい。
評するのも同様に。
迫りくる言葉は、「こばと会」の正気の沙汰とは思えない彼女らの思い込み、あるいは正義。
結婚と女と容姿という、普遍的でありそうで実は現代特有の問題について、読む者は頭を撹乱、いや、ミキサーにかけられたようになる。
面白いとか面白くないとか、そういうことを考える前に訳がわからなくなるのだ。
-
Posted by ブクログ
笙野頼子氏の作品を読むのは三作目。短編が5本。最後の、柘榴の底、以外は、著者の私小説(というよりエッセイ)かと思われるが、途中でエッセイとは違うというようなことが書いてある。ノンフィクションに近いフィクションなのかもしれない。ほかの作品と同様、観念と現実が入り交じっていて、難解。正直、途中三作はよくわからなかったなぁ。
●増殖商店街
表題作。夢と現実を、お金という媒体を挟んで行き来している。増殖していく商店街は、欲望の増殖ではなく、「私」の不安の増幅の現れか。
●こんな仕事はこれで終わりにする
猫の話。中身だけ見ると、なぜ私が最初の猫に異常といえるほどの愛情を感じていたのかちょっとわからない。可憐なものだから?自分の弱い部分の投影?
●生きているのかでででのでんでん虫よ
二匹目の猫の話。私の世の中に対して斜に構えている部分がばーっと横並びに書いてある感じ。
●虎の襖を、ってはならなくに
夢と現実とを、言葉という媒体を使って往復。言葉というものが、意味をなさずに襲いかかってくる!?そもそも、タイトルの意味が謎。ならなくに、が言葉の親玉みたいにして攻めてくる。という夢?
●柘榴の底
おそらく、精神的に障害のある、社会不適合者の内面をえぐる話。本人は、奇行や失職を繰り返しているが、それが親への、家庭への恐怖という観念から出てきているという点で、人間失格と似ていると感じた。ただ、人間失格はその本人の行為に焦点を当てているのに対し、こちらはその行為の意識にかなり焦点を絞っている。異肉、やモチ、などの表現で、自分と社会との隔たりを、自分の内部に生じる部分が原因だとしている感じ。結局、親の庇護から逃げられない、という点も人間失格的。この作品が、この作品集では一番面白かった。 -
Posted by ブクログ
わかったかわからないかと聞かれると正直わかってはいない気がするけど、嫌いではない。
変な電話で連れ出されて海芝浦へ行くまでの、車窓から見える京浜工業地帯を夢現でスケッチしているような「タイムスリップ・コンビナート」がいちばん好きです。いきなりマグロ(のような何か)と夢のなかで恋愛している、という冒頭の期待を裏切らないヘンテコな小説でした。
ホームの片側が海に面していて、改札口は東芝の工場の門に繋がっているから社員以外は出られないという「海芝浦」はいかにも架空の駅っぽいのに実在していたりとか、あくまで現実のこの日常の話なのに、「沖縄会館」を「沖縄海岸」と聞き間違えていきなり海へ連れて行かれてしまうような、不安な時空間。
祖先が蘇ってきて、生者死者入り乱れて奇想天外な法事をする「二百回忌」はすごい迫力だった。よくこれだけ滅茶苦茶なイメージを幻視して文章化するなあと思います。「真っ赤なタカノツメを木綿糸に通してネックレスを作り、大鍋に沸騰させた湯の中へただ放り込んだだけの」トンガラシ汁とか、家がタコみたいな形で蒲鉾で出来ているとか。
地面から生えてきた「凄まじい程の美少年」が、「千年にひとりの珍しい男フェミニスト」と喝采されるところが妙に苦い。
「なにもしてない」はつらい。超つらい。作家志望者は読んだら鬱必至。三十を過ぎて親から仕送りを受け、働かずに引きこもって売れない小説を書き続けるなんて苦行すぎる……「なにもしてない」で、「なにもしてない」という自意識に苦しみながrひたすら書いているからこそすごい幻視ができて、表現を研ぎ澄ませられるのかも知れませんが……。働くほうが圧倒的に楽ですよ……
あとアトピーの描写がリアルかつ詳細すぎて軽くスプラッタの域。 -
Posted by ブクログ
「タイムスリップ・コンビナート」「二百回忌」「なにもしてない」の3つが詰められた短編集。作風としてはパラレルワールドの私小説といった感じ。特に「タイムスリップ~」は日常の生活でフッと頭に湧いた妄想をあちこちにちりばめつつ小説調にまとめられている。「二百回忌」は実際にありそうでなさそうな土地で行われる法事のイリュージョンだし、「なにもしてない」は妄想世界の私小説。そしてこの小説は、読む人をかなり選ぶと思う。文章はなかなかウィットが効いていて読みやすく、ユーモアタッチだけれど、その内容がもうぶっ飛び過ぎてついていけなくなる。3作の中だと「タイムスリップ~」は電話を通じた会話の中で思考があちこちに飛ぶ、という展開なので読みやすいけれど、「二百回忌」と「なにもしてない」には困った。架空の土地の郷土史が永遠と続いているような感じで、そんなタイプが好きな人にはかなりはまるのかと思うけど、私にはイマイチな作品でした。でも「タイムスリップ~」の文章は割と幻覚的で良かったです。あー。ジャンルは幻覚小説かな、これは。