無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで203万冊以上配信中!
野間文芸新人賞受賞作「なにもしてない」、三島賞受賞作「二百回忌」、芥川賞受賞作「タイムスリップ・コンビナート」を収録。未だ破られざるその「記録」を超え、限りなく変容する作家の「栄光」の軌跡。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
『二百回忌』は発表当時に話題となり気になっていたのだが手に取る機会がなく、三十云年後にやっと読むことができた。個人的に感慨深いものがある。フェミニズムや家父長制といったテーマと絡めて語られることの多い著者であり、本作もまた「イエ制度」のど真ん中に切り込むものだが、印象的だったのは主人公が幼いころに可愛がられた祖母の霊と出会う場面だ。祖母との昔と変わらぬやりとりを期待したのにすっかり忘れられていて、他人のような扱いを受けてしまう描写には、逆説的に主人公の幸福だった時代が浮かび上がり切なくなる。
『なにもしてない』は「ひきこもり」が社会問題になり始めた時期に早くも小説として当事者の心象を細大漏らさず描いている。世間が浮かれているGWに、ワンルームの中で手の湿疹と格闘する姿は痛切でありながらもどこか滑稽で、診察が必要にもかかわらず遅々として外の病院に向かわず湿疹症状が悪化し、精神的迂回と蛇行の果てに訪れた皮膚科で医師に驚嘆される顛末は一種の爽快感さえ感じさせる。カタカナで表記される母との会話が意思疎通を拒絶する存在として不気味に描かれているように感じた。作品の風味は違うが、顕微鏡的観察描写と遅延と迂回に終始するくだりはニコルソン・ベイカーの『中二階』を思わせる。
残る『タイムスリップ・コンビナート』は冒頭のマグロとの電話から人を食っていて面白く無くはないのだが、どうにも掴みどころがない。
Posted by ブクログ
これは面白いと言っていいのか、どこがどう面白いと感じたのか、何とも感想が難しいのだけど、特異な作品であることは間違いない。最も強く感じたのは、この著者は外部に対するより自分への興味がとても強い方なのだなぁということ。その程度の感想しか持てなかったというのはとても情けないのだけれど。
文中に描かれる視点移動が、知覚を呼び起こすのではなく分析的評価に直接結びつく様が、とても興味深かった。外からの刺激を受け入れるのに、都度評価を伴うのは大変だろうなぁ。自意識の壁がとても厚いのだろうなぁ。こういう人は生きるのがしんどそうだ。本作に登場する人物に悉く共通するそのような個性に同情する。でもこういう人って実際居るよね。
Posted by ブクログ
笙野頼子作品を人からすすめられたので、読んでみようと購入しました。三作品収められていて、どれも良かったのですが、「なにもしてない」が出色でした。皮膚科に行くのを日々先延ばしにするところが秀逸で、病院の診療時間を調べて保険証を準備して…その日はそれで終わりというあたり、「そうそう!」とうなずきながら読みました。母親の支配から逃れたいのに、母親が心配で実家に帰ってしまう、その葛藤もじれったいほどよく描かれています。
ほかに収められているのは「二百回忌」と「タイムスリップ・コンビナート」。前者は普段と逆の行動をとることが奨励される<イベント>を描き、女性が男性を投げ飛ばしてもOK、むしろよくやったと賞賛される…その意味ではファンタジーと言えるかもしれません。後者は夢と現実が交錯するような不思議な作品で、ある種けだるさのようなものも感じられました。
Posted by ブクログ
読んでいるうちに景色が回りだし、しまいには眩暈がしてくる。そういう類の小説。
これと似た印象の小説を思い出そうとしてみたが、草間弥生の『クリストファー男娼窟』あたりだろうか。
だが、あちらよりはだいぶ、感覚的じゃない。
いや、感覚は独特だが、笙野の場合そうした感覚はすべていったん反省の元に置かれ、感じている私というものを上から見た状態で、改めてそこに感情移入するというような、回りに回った経路を辿るようになっている。
読者としてそれに付き合って出口に出たと思ったら、入口からは想像もできない場所に出た、ということがままある。
だが、不思議と疲れるとか、面倒な印象はなく、むしろ軽妙でさえある。
今度はどこへ連れていかれるのだろう、というわくわくした気持ちさえ湧いてくる。
単純に、文章がうまい、というか、言葉の選び方がうまいのだろう。
このためか、「私」という一人称の語りで進む割に、女の情念のようなどろどろとしたものに絡め捕られて行くという気はせず、むしろそういう情念についてつい考えてしまうもう一段階進んだ状態で積極的に語るので、つねにどこからしら、諦めや冷静さがつきまとう。
確かに悲しんだり怒ったりしているのだが、それをどこかで見ている私、というものが常にいる。
笙野作品はこれが初読だが、これだけ読む限りでは、肉体では怒り狂いながら実はそれを面白がって観察しているような、どこか黒子のような作者というものがちらちら見えた。
Posted by ブクログ
好きだ。たぶん「何これ、わけわからん」と言う人が多いのだとは思うけれど私はけっこう好き。しっくり来た。
最初はこの著者の壮大な独り言のように連綿と続いていく文章に戸惑いを覚えるが、次第にそれがくせになってくる。単なる独語に留まらず広い世界の地面すれすれをかっさらって通ってゆくような気持ちよさ、自分がすくい上げたくて叶わなかった感情の群れを体現してもらったような爽快感を感じる。特に「なにもしてない」「二百回忌」が好き。
音読したくなる文章だ。ある種の詩などは音読している内に狂気へ昇華してしまう怖さがあるが、これは詩的な文章なのかと思いきやそうとも言い切れず、地べた付近でばたばたしている葛藤が生々しくて、そこがまた良い。
自らの言葉で語っていることがこんなにひしひしと感じられるとは、そしてそれがこんなにも心地よいとは。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。