一作目となる『アウトバーン』から続けて読んだので、主要人物などは知っている。シリーズ物なので、人物やそのバックグラウンドに混乱することなく読み進められたのはよかった。
一作目はミステリーとして、巧妙なプロットが用意されており、それが単なるハードコアな作品と一線を画しているのだと考えていた。その点では、本作『アウトクラッシュ』はタイトル通りクラッシュな側面を強調したきらいがある。結果として、ミステリー小説を求めた読み手には、いささか物足りなさを感じさせるだろう。ハードボイルド小説としては、その分前作よりも過激さが増しており、国際的なマフィアとの壮絶ともいえる戦いが楽しめる。私的な好みとしては、一作目のハードボイルドとミステリーの配合が非常に気に入っていただけに、ミステリー色が薄まってしまったのが少々残念ではある。過激なハードボイルドを読みたいのなら、迷わず黒川博行を選んでしまうだろう。
一方で登場するキャラクターは、本作でも素晴らしい。思うに、深町秋生という作家は、登場するあらゆるキャラクターの造形をかなり念入りに設計する人であると思う。主人公である八神瑛子はもちろんのこと、脇を固める者たちもそのまま映像化できそうなほどキャラクターの描写に長けている。この点は、作家の面目躍如たるところだ。本作では敵対するのは、メキシコ出身だが、そのギャングにしても出自がメキシコであるというバックグラウンドを踏まえたキャラクター造形になっている。キャラクターがしっかりしているからこそ、それらの者たちが繰り広げるハードボイルドな活劇もまた臨場感が出てくるのではないだろうか。
しかし、キャラクターを前面に押し出したせいか、あるいはまたハードボイルド性がより前景化されたせいか、主人公が(一応)ひとりの警察官である、という前提が前作よりも大幅に薄れた気がした。アウトローな性格というのはたしかに魅力的ではあるけれど、刑事という前提がある以上、超えてはならない領域も存在する。本作では何度かそれを越えてしまった気がしてならない。
ところで、本作品には比嘉というメキシコのギャングの付き人といった人物が登場する。比嘉は最後に警察に連行されるのだが、ただ一つ嘘をつき通す。比嘉の性格を考えればそれほど違和感がある訳ではないのだが、その嘘が結果的に主人公の八神を利するものであっただけに、やや御都合主義なものを感じた。その嘘のために、比嘉をプライドの高い性格に仕立てたとは思いたくないが、そう受け止める読者もそれなりにいるのでは、と思わせられる。
それでも前作を超える派手な戦闘シーンなどは、読んでいてビジュアル化してほしくなるほどの迫力である。主人公・八神の洞察力と行動力、そして決断力は前作に増して磨きがかかった。このシリーズには続きがあるので、八神の裏社会と表社会を行き来しつつ、おのれが求める真相に向かって、さらに活躍する様を読んでみたいと思う。