江藤淳のレビュー一覧
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1967年に発表された、戦後評論における屈指の名著と言っても差し支えのない一冊。エリクソン『幼年期と社会』で語られている米国の母子関係というものを日本のそれと対峙させ、日本の戦後文学で家族というものがどの様に描かれているかを分析することで、その社会構造が持つ問題点を炙り出す。
本書では、日本の家族というものが農耕的・定住的な土壌による母子関係にあるものだと捉え、キリスト教のような絶対神というものが不在な故に父というものの象徴は欠けてきたのだと説く。そして、敗戦という経験が完全なる西欧化=母性の世界の崩壊をもたらしたにも関わらず、父というものは「恥ずかしいもの」として象徴されたままであり、人 -
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戦前から戦後、現代に至るまで各分野の知の巨人らが述べた良書である。
多様な著者の文学研究以外の物理学や法学、社会学など様々な研究で得られた知見と知のバトンを次世代に受け継ぐ本である。
興味があれば、中学生からでも読み始めている人は多いだろう。研究者とは「研究しない自由はない」と本著で述べている通り、全ての学問に対する研究に責任があると説く。第一線で活躍していた研究者の言葉を聞き、現代の価値観や様式、世界規模での情勢をその時の生きた時代の研究者へバトンは渡され、人類は発見と修正を繰り返しながら前に進んでいく。世界は広い、本著でも紹介されきれない研究者は山ほどいるだろう。そして、今生きる現代の次世 -
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本書に掲載された最終講義について一言ずつ。
桑原武夫…仏文学者以上に隲蔵さんの子息、というイメージが強い。垣根を越えた研究という事では共同研究も論語の著作も同じなのかも知れない。
貝塚茂樹…大学者一族の一角、湯川秀樹は弟。東洋史学者の模範的な最終講義だと思う。
清水幾太郎…60年安保前後で言論が大きく変わった、という印象の人だが、コントに興味を持つ面白い講義だった。
遠山啓…存じ上げない方だったが、数学論がほんのちょっと分かった気がした。
芦原義信…ゲシュタルト心理学から都市空間を観るのは面白い。
家永三郎…教科書検定裁判の人、として子供の頃から名前は知っていた。大人になってから読 -
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最近見た新聞の「書評欄」で紹介されていたので手にとってみました。
1960年代末ごろの講演録ですからかなり前のものです、しかしながら流石に江藤氏、小気味よい語り口で、なかなかに興味深い指摘が数多くありました。
本書の表題にもなっている「考えるよろこび」とのタイトルの講演では“ソクラテス”を取り上げて「フィロソフィア(知恵を愛する)」の姿勢の素晴らしさを語り、「二つのナショナリズム」をテーマにした講演では、“勝海舟”と“西郷隆盛”を対比させつつ、「国家理性」と「民族感情」について論じています。
採録されている6つの講演の中で語られるさまざまな氏の指摘やコメントは、半世紀近く経った現在にお -
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-人は詩人や小説家になることができる。だが、いったい、批評家になるということはなにを意味するであろうか。あるいは、人はなにを代償として批評家になるのであろうか-
「江藤淳」という人は、私の中で、かぎかっこ付きでくくりたくなるような人。賢いのか間抜けなのか、弱いのか強いのか・・・判断できかねて・・・思考停止。かぎかっこでくくって一旦保留したい。でも、、、「バカ」がつくくらい、My Wayを貫き通した人なんだろうな。
批評家小林秀雄について論じているこの一冊は、冒頭の一文からガツンとくる。これは、同じ批評家である、江藤自身への問いでもあり、いいかえると「私って何?私って何を代償に存在していいの -
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「成熟と喪失」、この近代化と敗戦が日本人にもたらした家族観・価値観の転換を先駆的に描いた傑作においては「他者」そして「自由」論を前提として議論が進められていることを以下に示したい。
まず、次のような一文がある。
「母が「教育」と規律という「公式」の期待を強調すると、彼はそのかげで安心して女との関係のなかに際限のない「自由」を味わえる。」
これが表しているのは、「何からの自由」である。つまり、母の束縛が存在するからこそ、彼は自由という素晴らしい感覚を味わうことができているということができる。
また、次のような一文がある。
「「成熟」するとは、喪失感の空洞のなかに湧いて来るこの「悪」をひきうけるこ -
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江藤淳のエッセイ・批評のエッセンスを一冊にまとめた選集。
文芸批評を久し振りに読んだのだが、「神話の克服」、本稿で指摘されている日本ロマン派が文学において果たした役割がどういうものなのか、正直良く分からず、ついていけなかった。
「文学と私」「戦後と私」「場所と私」。
母のあまりにも早い死、明治国家を「つくった」海軍将校だった祖父のこと、空襲で焼けてしまった大久保の実家、義母の大病と江藤自身の肺病、父との懸隔、家族の困窮など、江藤が何とか文筆で生計を立てることができるようになるまでの様々な困難が述べられ、また戦後の「正義」への違和感が表明される。これらの文章を読んで、江藤の仕事の芯に