あらすじ
戦後の「正義」に抗い、自身の「私情」に忠実であることを表明した「戦後と私」、三島由紀夫、石原慎太郎、大江健三郎を論じた卓越した批評「神話の克服」。「私」三部作ほか、癒えることのない敗戦による喪失感と悲しみを文学へと昇華した批評・随想集。自作回想「批評家のノート」初収録。
〈解説〉「江藤淳と『私』」平山周吉
【目次】
Ⅰ
文学と私/戦後と私/場所と私/文反古と分別ざかり/批評家のノート
Ⅱ
伊東静雄『反響』/三島由紀夫の家/大江健三郎の問題/神話の克服
Ⅲ
現代と漱石と私/小林秀雄と私
解説 江藤淳と「私」(平山周吉)
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Posted by ブクログ
戦後の価値観のなかでなぜ己が保守的な言説を繰り返してきたのかを、あたかも吐露するような随想でした。相当のルサンチマンが蓄積されています。江藤淳の過酷な戦後の暮らしと喪失感について当時どれほどの共感があったのかはわかりませんが、戦後民主主義が掲げる理想に対して保守が私情をもって対抗する様はインティフアーダ的にも見え、左右から嘲笑と感動と両極端な反応があったのではないかと想像しています。
Posted by ブクログ
江藤淳のエッセイ・批評のエッセンスを一冊にまとめた選集。
文芸批評を久し振りに読んだのだが、「神話の克服」、本稿で指摘されている日本ロマン派が文学において果たした役割がどういうものなのか、正直良く分からず、ついていけなかった。
「文学と私」「戦後と私」「場所と私」。
母のあまりにも早い死、明治国家を「つくった」海軍将校だった祖父のこと、空襲で焼けてしまった大久保の実家、義母の大病と江藤自身の肺病、父との懸隔、家族の困窮など、江藤が何とか文筆で生計を立てることができるようになるまでの様々な困難が述べられ、また戦後の「正義」への違和感が表明される。これらの文章を読んで、江藤の仕事の芯にあったものを感得することができたような気がする。