川副智子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレイギリスの女流作家、シャロン・ボルトンの新潮文庫第二弾。過去、東京創元社から3作出版されており、順調に邦訳されて嬉しい限り。
病院から退院してきた「わたし」は、隣家にアナという女性が引っ越してきたことを知る。アナが開業したパン屋に足を運ぶと、年に二週間だけ村を訪れる宗教団体の一家が、娘の誕生日ケーキを注文しているところに出くわすのだが…
個人的には、イギリスのイヤミス女王。
一昨年に出た前作「身代わりの女」に負けないくらい、全く好きになれない登場人物たち。登場人物表が「わたし」の時点で身構えながら読んだが、それでも騙されたし、ラストの絶妙さ加減は素晴らしかった。
今年のエンタメ的なベスト、とまではいかないが、安心して騙してもらえる良作を連発してるなぁと。昔の土着的な作品も好きなので、今作の湖畔地域かつ怪しげな宗教団体との軋轢は懐かしかった。おすすめ。
一点だけちょっと…と思った点。
帯で煽るのは結構冒険で、最近は特にネタバレを忌避する雰囲気もあって、ほとんどうまくいっていないんじゃないかなと。巻末解説の切り取り方だと思うが、今作に限っていえば、登場人物表の時点で何かあるのはわかりきっているわけで。あえて帯で煽らなくとも…と思った(海外エンタメなんてなかなか売れないので、苦労されているんだとは思うけど…)。 -
Posted by ブクログ
超★5 今年一番のトンデモサスペンス! 不穏な雰囲気、胡散臭さ満載キャラ、驚愕必至の展開を堪能せよ #隣人
■あらすじ
イギリスの湖水地方、わたしの住む家の隣に引っ越してきたアナ。彼女はパン屋を営み、村のみんなから親しまれていた。
ある日、怪しげな教会信者たちが現れ、アナのパン屋にも訪れるようになる。そして信者の少女コンスタンスがアナに助けを求めに来た… 前年四月、女性精神科医のアナリーズは、教師をナイフで刺した少年ジェイゴに対して精神医学的評価を行っており…
■きっと読みたくなるレビュー
超★5 今年一番のトンデモサスペンスですね、またもやってくれたシャロン・ボルトンの新作です。
本作をひとことで表現するとこちら。
「何から何まで、全部が怪しい」
サスペンスって鬼気迫るハラハラドキドキ感が重要なんですが、前提として「不穏な雰囲気」ってのが大事だと思うのよ。シャロン・ボルトンはその世界観を作り上げるのが上手なんすよね。でもネッチョリした気持ち悪さやグロさはほとんどない(多少あるけど)。読み進めるほどに作品に取り込まれてしまうような、奇妙な読み心地を味わえるサイコサスペンスなんすよね。
ストーリーとしては、語り手であるわたしとアナが、教会信者たちに囚われた少女と少年を救い出そうと画策する。並行して1年前の精神科医と少年犯罪を犯した二人のやり取りも描かれる。果たして少女たちは救われるのか? 過去の人物、出来事との関係性は…?
まず出てくるキャラクターの全員が全員、胡散臭んすよ。教会信者たちはもちろんのこと、もうひとりの隣人ガードナー、教師を刺した少年ジェイゴ、そして語り手である"わたし"ですら得体が知れない。性格の悪さが露骨に出てるし、悪いたくらみが身体じゅうからしみ出てるのよね。
一方、隣人パン屋のアナと1年前の登場人物の精神科医アナリーズは、超まともなんすよ。この物語の唯一の良心、おかげでちょっと息がつけるんだけど… ん? このふたりの関係性ってやっぱり… なーんてと勘繰り始めると、もはや作者の術中にはまっています。
とにかく幾重にも重なった不穏な謎が秀逸すぎるんすよね。怪しい教団では何が行われているか、精神科医のアナリーズと少年ジェイゴの関係性、アナとかつての出来事と関連性、わたしの正体… これらの謎が複雑に絡み合って、気づいたら熱中してどんどん読み進めちゃうのよね。
そして帯に「三度は大きな衝撃が待ち受ける」とあるのですが、果たしてどうでしょうか。ぜひ読んでみて下さい。個人的には「衝撃の回数」よりも「衝撃の強さ」にノックアウトですね。作者がやってやったぞ!という意気込みが伝わってきましたね。
今年必読のサスペンスミステリーだと思います。面白いのはもちろん、ハチャメチャ感がたっぷりと味わえますよ。
■ぜっさん推しポイント
後半までずっと謎追いがメインなのですが、最終盤になると遂にハラハラドキドキのサスペンスフェーズに入ります。まず舞台が超素晴らしいし、これまで語られてきた誰が誰がどうなるって状況に目が離せないし、この混沌とした雰囲気も大好き。そしてラスト1ページのやり取りは、本作が表現したかった世界なんだと感じました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ以下、個人的な推理。
ぐへぇえええ! やられた。明らかに怪しいのに。こういうパターンがいちばん悔しい。
推理としては、まず血と音が偽装であることは想像できる。そうだとするとどういうことか、というと被害者シメオン・リーこそが仕掛け人だったということ。
家族に対して何らかの動揺を誘うことが目的であったと考えられる。
しかしシメオンはリウマチ患っている老人なのであそこまでの破壊工作はできなかったんではという気がするので、おそらく協力者がいた。あらかじめその協力者に頼んで部屋をいいかんじに(静かに)壊してもらって、事件時には叫んで簡単に壊して血を撒き散らして死んだふり。
で発見されたあとは最後に残った者=協力者が静かに殺した。ピラルクが傷を見たと言っているがこれは庇っているだけ。家族の誰かが犯人。
で、この時点では動物の血とは考えず(この時代にクエン酸系の工作ができると思っていなかった)、インク系と予想。であればインク関係。四男が芸術家なのでこいつだな。母親の動機もあるし、アリバイはまぁなんとかなるんちゃうかな。蓄音機とか。と予想。
いやーやられた。完全にゴムのところ怪しかったのにスルーしてしまった。うまいよクリスティ。上から目線。 -
Posted by ブクログ
『イリアス』に登場するアキレウスと、従者パトロクロスに焦点をあてた物語。2人に焦点をあてていることは一貫していて、純愛といってよいほどの関係に驚いた。パトロクロスは今回初めて知ったのだけど、アキレウスにそんな解釈があったのか…!
アキレウスとアガメムノンが決裂した後からのストーリーの緊張感と、その先の悲劇の予感が高まっていく様が感じ取れる書きぶり(翻訳も素晴らしい)は白眉といってよいのではなかろうか。アキレウスとパトロクロスがイチャついているシーンよりも心に残っているくらい。アキレウスが誇りと名誉を重んじるが故に、味方の兵士から彼が憎まれることを恐れるパトロクロス。パトロクロスは心から優しい男だ。だからアキレウスは、母親で女神のテティスが反対しても、パトロクロスを愛したのだと思う。そして彼の優しさをちゃんとわかっていたもう1人が、パトロクロスによって助けられたブリセイスだ。パトロクロスを「最高のミュルミドネス」と称えたブリセイスだけど、その言葉が、神の予言「最高のミュルミドネスが2年以内に死ぬ」を実現させてしまったような展開に、思わず唸ってしまった。パトロクロスを巡る、彼女とアキレウスの確執も印象深い。
オデュッセウスに「神が作った最高の殺人兵器」と言わしめたアキレウスの、パトロクロスの死後の悲しみと怒りの描写が、冷酷で苛烈で虚無にまみれていて大変素晴らしい。そして最後、アキレウスとパトロクロスが死後も共にいることをテティスが許したようで、しんみりと、でもちょっとほっとしたような気持ちでページを閉じた。
ギリシャ神話を扱っているからかもしれないが、パトロクロス視点の語り口調も全体的に静謐な雰囲気に満ちていて、読んでいるこちらも静かに感情を煽られる感じ。紙の本が手に入らないので、渋々電子書籍を購入したけど、この作品は紙で欲しいなぁと思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ面白かったー。でも人が多い! 皆んなが「リー」なので毎度名前が出てくるたびに登場人物リストを見ていた。
スティーヴン・ファーの正体は薄々分かった、けどシメオンじゃなくてハリーの子供かと思っていた笑
ピラールは予想外、でも確かに最初からずっと言っていたなと思い直す。
真犯人は、いやはやそっちかー。
トリックは後書き通り奇想天外かもしれないけど、見事に全ての情報が提示された状態での結末だったので、さすがクリスティだなと唸った。
「そして誰もいなくなった」レベルに予想を裏切られた作品。結構好きかも。登場人物は多すぎるけどな!
結末として、みんなそれなりに幸せになったみたいで良かったとも思える。
そして、ポアロよ。
私もきっと、セントラルヒーティング派。たぶん。 -
Posted by ブクログ
原書はオランダ語、2019年刊。邦訳書は636ページ+カラー口絵48ページ。圧巻のひとことに尽きる。
ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲル(1862-1925)。あのゴッホ(フィンセントorヴァンサン)の弟、テオの奥さん。彼女なくしては、現在私たちが知るようなゴッホは存在しえなかった。なぜなら彼女がゴッホのほぼ全作品を管理することがなければ、そしてゴッホとテオの間で交わされた途方もない量の手紙を保管し公刊しなければ、ゴッホの作品の真価、その制作過程、さらにはゴッホその人についても、なにも知りえなかっただろうから。(なんだか、宮澤賢治の草野心平や宮澤清六、カフカのマックス・ブロートみたいだ。)
ゴッホの死後、半年も経たずに、夫テオも病死した。1歳の息子(その名もVincent Willem van Gogh !)を抱え、彼女がどう生きたのか。ずっとそのことが気になっていた。本書では、まずヨーの生い立ちに始まり(100ページ)、テオとの結婚と彼の死(100ページ)、そして残りの400ページがその後のヨーに充てられている。
ゴッホの残した作品は尋常な数ではない(およそ2000!)。ヨーはそれらをどこにどのように保管したのか。いつどこでゴッホの展覧会を開催し、いつどこになにを貸し出したか。一部はいつどこにいくらで売却したか。そして「ゴッホの手紙」として知られるようになる書簡集をどのような形で世に送り出したか。守るだけでなく、攻めるに攻めた。周到なプロデューサーあるいはビジネスウーマンの顔も窺える。(そしてこの400ページは、亡くなった時にはほとんど無名だったゴッホが世界に知られてゆく、その受容の歴史としても読める。)
しかし驚くのは、ヨーがテオと一緒に生活したのはわずか1年半、ゴッホと会ったのはたった3回だったこと。その3回で彼女の運命は決まったのだ。 -
Posted by ブクログ
掛け値なしの傑作というのは、こういう作品のことを言うのではないでしょうか。『身代りの女』というタイトルと簡単な作品紹介だけを見て、作品の良し悪しとは別に、自分の小説の興味のベクトルとは別の方を向いてそうだな、という気持ちがあったのですが、読んでびっくり、なんでいままで読まなかったのかと後悔してしまいました。ラストまでどう転ぶか分からない物語をぜひ楽しんで欲しいので、事前情報はあまり持たずに読んだほうがいいような気がします。でも、それでも簡単に内容に触れるとしたら……。
卒業を間近に控えた名門校に通う仲良しグループ六人。メーガン、フェリックス、アンバー、ザヴ、ダニエル、タリサ。輝かしい未来が約束された六人の未来はある日突然、暗転する。魔が差したようにはじめてしまった『肝だめし』という名の危険運転。その結果として、彼らは三人の人間を死に追いやる事故を起こしてしまう。これからどうするかを揉めた際、六人のうちのひとりが、すべての罪を被る、と宣言する。出所した時にその代わりとなる義務を払う、ということを条件に。そして二十年が経ち、出所したそのひとりが成功者として地位を得ていた彼らの前に現れる。
というのが、本作の導入。650ページのそれなりに長さのある小説ですが、澱みのない文章と先の読めない展開の妙があって、そんな長さは決して感じないと思います。自らを救うために、二十年後に代償を払うことを条件に悪魔と契約した五人の物語とも言えるかもしれません。この作品に分かりやすい形で描かれる〈善人〉はいませんが、その一方で、どこか共感を覚えてしまう人間らしさは全員に備わっているように感じました。キャラクターが魅力的でした。ラストの余韻も、どこか愛おしくなるものがあって、すごく好きです。 -
Posted by ブクログ
『アリとダンテ、宇宙の秘密を発見する』
よすぎて言葉にならない。
むりやりスリルやサスペンスを盛りこんでくる話ではないし、主人公ふたりもその両親たちも、いろいろあれど地に足のついたひとたちなのに、常に何かのきわを爪先立って歩いているような冴え冴えとした緊張感がある。
だれかを全力で愛するということは、常に先の見えない、剣が峰に立たされたような不安を強いるものなのかもしれないな。お互いの気持ちだけでなく、世間の目、親の反応、気になることはたくさんありすぎる。ましてや時は1987年。今ですら、同性を愛することに対してはありとあらゆる偏見があるのに。
だからこそ、だれもいない砂漠でのいくつもの場面が、ことのほか甘美に感じられる。自分を守るものもさえぎるものも何もない砂漠で、無防備なまま、時には満天の星をあおぎ、時には雨に打たれ……。
自分という人間と対峙するのも、困難なことだ。アリはずっと自分から目をそむけてきたけど、それは彼だけじゃない。アリの両親にもそれぞれ封印し、目をそむけてきた過去がある。各人がそれらと対峙する覚悟を決めたとき、自分だけでなく家族みんなが変わっていく。
こまやかで清冽で、愛とユーモアに満ちた小説だった。