川副智子のレビュー一覧
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若い女性が波乱の半生を告白する形で始まる作品。
名作「ジェーン・エア」の発表後さほどたっていない時代設定で、ヒロインも愛読しているという。
かなりひねったパスティーシュでもあります。
母を亡くしたジェーン・スティールは、意地悪なおば一家に虐げられ、寄宿学校に送り込まれます。
そこは想像を絶する過酷な環境でした。
「ジェーン・エア」にも似た学校は登場し、それは実際に作者シャーロット・ブロンテが姉妹と共にいた施設がモデル。当時は教育に名を借りたとんでもない虐待があったのです。
そこでどうなったかというと…
ヒロインの名字からして、エアならぬスティール。清楚なジェーン・エアに比べたら、鉄の女?(笑)
親友と学校を飛び出したヒロインは、治安の悪い町を生き抜き、しだいに稼ぐ手も覚えていきます。
子供の頃に過ごした家をいつか取り戻したいと願い、持ち主が変わっているので家庭教師に応募します。
母との思い出深い懐かしい場所で、全く新たな生活が始まります。
インドから帰国した一家の主人は自由な気風に満ち、雇人たちも一風変わっていました。
しだいに惹かれあう二人。
一方、ジェーンを追う警官の影も…
罪悪感を抱えるジェーンは、家を出ようとしますが…?
「ジェーン・エア」ではあまり書き込まれていない部分や、現代の感覚ではちょっとどうなの?と思うあたりに思いっきり変化を加えた、いわばピカレスクロマン。
話の肝の部分は、19世紀英国のこってり感とロマンチックさ満載。
面白く読めました。 -
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1939年ロンドンの貧しい家庭に育ったエイダは、婦人服のドレスメーカーとして店を持ちたいと思っていた。裁縫のセンスもよく、スタイルも美貌も兼ね備えていた。町の仕立て屋で働いているが、ハンガリーの伯爵だと名乗るスタニスラウスに言い寄られ、家族に言わずに二人でパリへ渡る。
しかし、パリにいる間に戦争がはじまりロンドンに帰れなくなってしまう。
やがてスタニスラウスはパリからベルギーへ脱出すると言う。その途中、エイダはスタニスラウスとはぐれてしまう。エイダは修道院へ駆け込み尼として住まわせてもらうが、そこもドイツ軍に襲われ、収容所(ダッハウ)に入れられる。
過酷な収容所の生活の中で、エイダはその裁縫の技術とセンスで収容所幹部やその家族のために仕立て屋をする。
やがて戦争は終わり、エイダも救出されロンドンに戻るが、父親は亡くなっており母親は無断でいなくなったエイダを強く非難し、追い払われてしまう。
絶望するエイダだが、ドレスメーカーの夢を捨てずウェイトレスとして働き始めるのだが…。
激動の人生を送るエイダ。ドレスメーカーの夢を捨てず、少し考えればわかりそうな罠に簡単に落ちてしまう。
最後は法廷の場面に変わるのだが、そこで繰り広げられる検察側の主張は、ここまでのストーリーを読んできた読者(つまりはエイダ)にとっては限りなく現実離れしたものであった。しかし、自分が陪審員だとしたら検察の論述に賛同するであろう。エイダも、それがわかっている。それが、この本の深みなのであろう。
読む前には思ってもいなかった結末に、感じ入った作品だった。 -
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ネタバレ信用できない語り手「わたし」
いや、最初から全然信用してない
ていうか、登場人物全員信用できない
湖近くの普段は穏やかな町
そこで教団主催のフェスが開かれ、数百人の教団関係者たちでにわかにざわめきだす
何が行われているのかわからない教団の大テント、何らかのトラブルを抱え怯えている少女、そんな彼女を救おうとするアナと隣人たち、過去にある事件を引き起こした少年とその精神科医師…
不穏な空気と伏線とミステリアスなキャラクターたち
面白さ確定のパーツは充分に揃ってはいるが、どこか散らかっているような、まとまりに欠くような印象で読み進める
誰にも感情移入できず、モヤモヤしたまま後半へなだれ込み、ある人物のカミングアウト、疑っていたのに騙されていた感
ま、ある程度ミステリー免疫があり、なんとなくそういう展開ね、と頷きながらも、終盤のカオスでワケ分からんくなる
ぐっちゃぐちゃのヘルハウスにちょっと疲れた
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ポアロシリーズ。
季節的にマッチしているかな、と思って手にとってみたけど…メリークリスマス!とは陽気に言えない血みどろな展開(汗)
登場人物も、こんなクリスマスは二度とごめんだ!って言っているしw
富豪の老当主シメオンは、クリスマスに一族を呼び寄せるが、この老当主が一癖も二癖もある偏屈爺さんで、呼び寄せた人達に難癖つけて、彼らが憤慨している様子を見て愉しんでいる。ちょっと変わった老当主で、挙句に密室で殺されちゃう。
アクの強い老当主が被害者という設定が、前作の『死との約束』と共通している。本作はストーリー性への没入度は前作ほど高くなかったけど、一体誰が犯人なんだろう??っていう謎解きの展開は最後まで楽しめた。
本編前に、著者の義兄から『もっと血が大量に流れる元気で凶暴な殺人』を読みたいというリクエストから生まれた作品という紹介文が掲載されていた。リクエストに応えつつ、『血』というキーワードが単に殺人現場の様子だけでなく、登場人物たちの抗えない宿命をも匂わせているように感じた。 -
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ポアロシリーズ17作め。1938年の作品。
クリスティー文庫のポアロシリーズは34作あるので、やっと半分です。
『ポアロのクリスマス』は2003年の村上啓夫訳を2年前に読んでますが、順番にしたがって新訳版も読んでみました。
細かいところまでは覚えてませんが、全体的にセリフがやわらかく読みやすくなっている印象です。
(村上訳)
「あなたは、大人の節度ある眼でそれを回想するかわりに、子供の判断でそれを見ようとなさるからですわ」
(川副訳)
「過去に起きたことを当時の少年の気持ちで判断してはだめ。もっと穏やかに、おとなの目で振り返らなくては」
さすがに犯人もトリックも覚えているので、伏線回収しながら読みましたが、いや、これ、犯人わからないでしょ。
森昌麿の解説に前作『死との約束』から「家庭内の不協和音」、「殺されねばならない存在」という要素が引き継がれつつ、中近東ではなく、英国のお屋敷に原点回帰している、とありましたが、これはなるほど。
「殺されねばならない存在」が殺されることによって「家庭内の不協和音」が解消され、ハッピーエンドになってるんですよね。
ミドルシャー州の警察本部長ジョンスン大佐は『三幕の殺人』からの再登場。思いっきり『三幕の殺人』の犯人がネタばらしされています。『もの言えぬ証人』など、ほかの作品でもありましたが、当時はアガサ・クリスティー作品を順番に読んでいて当然だったんでしょうか。
(134ページ)
「クリスマスには、善意の精神なるものがあります。それは、おっしゃるように、〝するべきこと〟なのでしょう。昔の仲たがいが修復され、かつて意見の合わなかった者同士が、一時的にせよ和解するべきなのでしょう」
「で、家族が、一年じゅう離ればなれでいた家族たちが、また一堂に会するわけです。そうした状況のもとでは、友よ、非常に強い緊張が生まれるということを認めなければなりません。もともと互いをよく思っていない者同士が、打ち解けているように見せなければならないというプレッシャーを自分にかけるわけですから! クリスマスにはとてつもなく大きな偽善が生まれます。」
(378ページ)
「このクリスマスは笑って過ごすつもりだったの! イギリスのクリスマスはとっても愉しいって、本で読んだから。焼きレーズンを食べたり、炎につつまれたプラム・プティングが出てきたり、薪に似せたユール・ログっていうケーキもあったりするのよね」
以下、引用。
20
「だれだってかならず死ぬわ! そうでしょ? それに、あんなふうにいきなり空から爆弾が落ちてきたら──ズドーン!って──どうしようもないじゃない。いま生きてた人が、つぎの瞬間には死んでるのよ。それがこの世界で起きていること」
79
「昔より気品が増したよ! そういえば、アルフレッドのやつが結婚したのは、征服王ウィリアム一世とともにイングランドへ渡ってきた人々を祖先にもつ娘だと聞いたっけ」
リディアは微笑んだ。
「先祖をたどればそうなんでしょうけど、一族の繁栄はむしろあの時代に終わっていますわ」
83
「人間はみんなよこしまです。尼僧さまがそうおっしゃってるもの。だから人はよこしまな人間のために祈らなければならないんだって」
84
「いいえ、どうしてショックを受けなくちゃいけないの? 男はいつだって女を求めるものよ。わたしの父もそう。妻が何度も悲しい思いをするのはそのためだし、教会にかよってお祈りするのもそのためでしょ」
95
「もう何年も弾いていないからな。母がよくこれを弾いていた。メンデルスゾーンの『無言歌集』のなかの一曲だ」
106
「知ったことか。どこかのモデルの行列ででも拾ってきたんだろうよ。」
122
近ごろの従僕ときたら、どうしてこう役立たずなんだ! あのような身ごなしでは馬丁とからん!
130
「遠慮なくやってくれ」と彼は言い足し、招き入れた客のかたわらに置かれた酒瓶台(タンタラス)とコーヒーサイフォンに注意をうながした。
131
ミドルシャー州の警察本部長、ジョンスン大佐
「あのカートライト事件には度肝を抜かれたものだ」この家の主人は過去の事件を振り返った。「あの男には度肝を抜かれた! 品のいい物腰で魅力たっぷりの男だった。あの男がきみとここへ来たときには、きみもわたしもすっかり騙されてしまった」
134
「で、家族が、一年じゅう離ればなれでいた家族たちが、また一堂に会するわけです。そうした状況のもとでは、友よ、非常に強い緊張が生まれるということを認めなければなりません。もともと互いをよく思っていない者同士が、打ち解けているように見せなければならないというプレッシャーを自分にかけるわけですから! クリスマスにはとてつもなく大きな偽善が生まれます。なるほどそれは尊敬に値する偽善、しかるべき理由のもとで(プル・ル・ボン・モティーフ)おこなわれる偽善でしょう。そこまではわかります(セ・アンタンデュ)。でも、偽善は偽善です!」
139
「むろん、お噂はかねがねうかがっていますよ、ポアロさん。わたしの記憶が正しければ、何年かまえにもこちらへおいでになりましたよね。サー・バーソロミュー・ストレンジが亡くなったときに。毒殺事件でしたね、ニコチンによる。」
152
「以下は使用人です。執事のエドワード・トレッサリアン、従僕のウォルター・チャンピオン。料理人のエミリー・リーヴズ。キッチンメイドのクィーニー・ジョーンズ、ハウスメイド頭のグラディス・スペント、第二ハウスメイドのグレイス・ベスト、第三ハウスメイドのビアトリス・モスコーム、仲働きメイドのジョーン・ケンチ、そして従者のシドニー・ホーベリー」
246
「はい──ロイヤルウースターの古いカップを。わたくしは十一年間、洗ってきて、ただのひとつも割ったことがございませんのに」
285
「つぎはジョージ夫人です! クリームが好きな猫に負けないぐらい金が大好きです。」
330
「そのような型にはまった返事をしなければならないのでしょうか?」
リディアは言った。
「わたしは型にはまった女ですから」
373
「い、いや、ちがう。きみはわかっていない。親父が死んだからじゃないんだ。親父に対する子どもじみた、ぼくの憎しみが死んだからだ……」
377
「世間は女にはひどく残酷なものよ。女は自分でできることをやらなくてはならないの──それも若いうちに。年老いて醜くなってしまったら、だれも助けてくれないんだから」
378
「このクリスマスは笑って過ごすつもりだったの! イギリスのクリスマスはとっても愉しいって、本で読んだから。焼きレーズンを食べたり、炎につつまれたプラム・プティングが出てきたり、薪に似せたユール・ログっていうケーキもあったりするのよね」
382
「たくさんの窓がありますね。家には目があるのですよ、マドモアゼル──耳もあります。これほどまでにイギリス人が開いた窓を好むのは、じつに残念です」 -
Posted by ブクログ
書店でよく見かけていたのと友人からの勧めで読んでみた。舞台は1980年代後半のアメリカ、メキシコ国境の街エルパソ、著者もメキシコ系アメリカ人ということもあり、主要な登場人物はアメリカ生まれのメキシコ系2世の高校生たちで、思春期の人間関係(友人同士、親子関係)で子供たちが成長していく様子が描かれる青春小説である。移民ならではの家族の複雑な事情もあって、心理的な葛藤や人間関係での悩み、高校生特有の苦しみがあるのだが、周りにいる人間が優しさと愛に溢れていて、安心に包まれて読める作品だった。
芸術作品におけるLGBTQテーマが多く入ってくるような時期に出版されたせいか、日本においては「LGBTQ」を前面に出した紹介文を多く見かけた。もちろんLGBTQ的な要素も重要な背景ではあるのだが、実際に読んでみるとLGBTQというより、思春期における、複雑な人間関係を通して成長する子供たち、友人同士や家族間の愛情がメインに描かれており、「LGBTQ」の文学としてもて囃すのはどうも大人側の視点というか、想定している読者層(ヤングアダルト世代)とのズレがあるのではないかと感じた。。(勝手に本の宣伝や紹介に違和感を覚えてしまった) -
Posted by ブクログ
ネタバレ『死との約束』を書いている途中に、この被害者設定をそのまま借用して、直球の本格を書こうと思いついたのだろうか。またもや財力で一家を支配し、家族をゲームの駒のように動かして楽しむ富豪が登場する。おそらく『メソポタミヤの殺人』のような広義のものを除き、ポアロ初の密室らしい密室。実際は、終盤にとある証言が出てようやく、不可能状況(犯人消失もの)だったということが判明する。
【ややネタバレ】
記憶に残る伏線を大量に敷き、それでもなお欺いてくる真犯人の隠し方の上手さはいつも通りだが、今回はクリスティーでは滅多にお目にかかれない物理トリックで新鮮だった。
さすクリ要素は死体発見時の引用セリフ「あの年寄りが、あんなにたくさんの血を持っていたと、誰が考えただろう?」
この引用、かっこいいだけじゃない!血まみれで血ぬられた血生臭いミステリー、なるほど。
当時の血に関する科学捜査ってこのレベルも見抜けなかったの?てのは少々意外だった。