中村妙子のレビュー一覧
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読み終わった後の感慨がすごくて戸惑っている。
何箇所か読み直したりしている。
原題は GIANT’S BREAD (巨人の糧)、邦題は 愛の旋律。読んだ感想としては、巨人の糧のほうがしっくりくる。愛の旋律が想像させる、優しい愛の物語ではない。
主人公ヴァーノンにまつわる2人の女性が出てくるが、私はジェーンというキャクターが本当に好きになってしまっている!しっかり自分の人生を生きてきた、1人でも生きていける強い女性。依存的ではないし、愛を与えて、尽きない。
もう一方のネルは、美人さんな上にネルなりに頑張っていて素敵。でもジェーンとは質が違う。ヴァーノンが救うのは最後にはネルで。でもそのためにジェーンを失うことになり、自分が心から愛していた人はジェーンと気づく。男性の心理として美しくてか弱い人は本能的に助けたいのだろうなぁ。死にゆくジェーンの気持ちになったりして、感情に浸ってしまう。読み終わるのが残念なくらいどっぷり浸かりました。
春にして君を離れ に続いて2作目のメアリ・ウェストマコット名義の作品。引き続き読んでいきます! -
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ミス・マープルの初歩のような短編集でした。
短編集なので日常の謎が多いのかと思ったらほとんどが殺人絡みで事件も推理も本格的でした。これを短編でどんどん出しちゃうとは本当にアガサ・クリスティーは引き出しが多いんだなあ。
「迷宮入り殺人事件。」作家のレイモンド・ウェストは最近この言葉が気に入っている。ここはイギリスの田舎町セント・ヘアリ・ミードの老婦人ミス・マープルの居間。レイモンドはミス・マープルの甥で、古風で家庭的で居心地の良い叔母さんの家で集まりを開いたのだ。その場に元スコットランドヤードの警視総監、ヘンリー・クリザリング卿(サー・ヘンリー)がいたこともあり、参加者たちが自分が遭遇して解決まで知る不思議な事件の話をして、他の参加者が謎解きをする「火曜クラブ」の集いが行われることになった。
『アスタルテの祠』語り:ペンダー博士(教区の老牧師)
森に囲まれた屋敷で週末を楽しむ若い男女。森には古い宗教の神であるアスタルテの祠がある。一行は祠の前に集うが一人の男が倒れて死ぬ。
『金塊事件』語り:レイモンド(そこそこ売れてる作家)
コーンウォールの海岸に金塊を積んだまま沈んでいるという船の伝説がある。興味を持ちコーンウォールに向かったレイモンドは、宝探しのニューマンという男と知り合う。ニューマンは、ある夜怪しい男と阿知賀海岸沿いの洞穴に荷物を積み下ろししている様子を目撃したというのだが…。
『舗道の血痕』語り:ジョイス・ランプリエール(若い女性画家)
コーンウォールの海辺の村にスケッチに行ったジョイスは、夫婦と、夫の知り合いらしい女の三人組を見た。だがジョイスの目には、その三人組は不吉なものを感じる。翌日、ジョイスは、ホテルの前の白い敷石の舗道に赤い血痕のようなものを見る。そして隣村の浜辺に、夫妻の妻の溺死体があがった。
『動機対機会』語り:弁護士ペサリック
資産家のクロード氏は、霊能力者に入れ込み、遺産の大半を親族ではなく彼女に遺す遺言を書いた。だが実際に彼が死に、遺言状を開くとそれは白紙に変わっていた。
遺言状を封入した場にいた霊能力者には、自分に有利な遺言状をすり替える動機がない。
遺産を横取りされる資産家の親族には、すり替える動機があるが、その場にはいなかったので機会がない。
『聖ペテロの指のあと』語り:マープル。
マープルの姪のメイベルの夫が中毒死した。その近隣では夫婦仲が良くなかったことからメイベルに夫殺しの噂がたつ。マープルは姪の名誉を守るため、真相を調べる。
…今まで読んだりドラマで見たミス・マープル物って、捜査はあくまでも警察が行い、マープルは事件のヒントになるようなことを言ったり、真相を伝え、警察が裏取りをするようなものだった。しかしここでは、夫の遺体を掘り返して死因となった毒物の再捜査を依頼するとか、関係者に事情聴取するとか、医療辞典で毒物を調べるとか、ほぼ警察。そしてこの時代、人が身元を偽ったり罪を犯すことができてしまうので、付き合いのある人たちはお互いを監視し、怪しい人物は排斥する。現在は監視カメラやSNSでの監視社会といわれるけど、この時代は近くの人の目で見張っていることが感じますね。
1年後。ヘンリー・クリザリングは、セント・メアリー・ミードのアーサー・バントリー夫妻にミス・マープルの推理力の話をする。そこでバントリー家でもミス・マープルを含めた夕食会が開かれる。
『青いゼラニウム』語り:アーサー・バントリー(晩餐会主催者)
友人ジョージ・プリチャードの妻は、常に病気を抱え、気難しく癇癪持ちで文句ばかりで通いの看護師たちも次々に変える。最近はザリダという占い師に信心しているが、彼女は「この家は邪悪で、青い花は死の記し」とかいう不吉な予言をす。そしてある日、プリチャード夫人が部屋で死んでいる。そして壁紙の赤い花の一枚の花びらが青く変色していたのだ。
『二人の老嬢』語り:ロイド医師
カナリア諸島に保養地に出かけたロイド医師は、イギリス人資産家のミス・バートンと、コンパニオンのエイミ・ディラントの老嬢二人組を見かける。海水浴中にエイミが溺死する。しかしロイド医師はどことなく違和感を覚え…。
『四人の容疑者 』語り:サー・ヘンリー
ローゼン博士はある犯罪組織に潜入して潰したが、それによって報復を受け殺された。容疑者は同居していた4人に絞られたが、その中の誰なのか、どうやって外部から指令を受けたのか。
事件が未解決では犯人と疑われた無実の者が被害を被る。はっきり無罪と証明されないとずっと疑われてその後の人生も変わってしまう。だからこそ真相を明らかにしなければならない。
『クリスマスの悲劇』語り:ミス・マープル
クリスマスに水治療院を訪れたマープルは、そこで見かけた夫妻を観察して、夫が妻を殺すと予見する。そして、予想通りに妻が殺されるが、夫にはアリバイがあった。
…この時代の殺人犯への求刑は絞首刑。アガサ・クリスティの探偵たちは自分が犯人を暴くということはその犯人を死刑にするということを承知して悪を許さないという気持ちを持っている。(そして無実と思った人を助けることは、その人の命を助けるということ)
穏やかな田舎のおばあちゃんミス・マープルの強い気持ちが感じられます。
『毒草』語り:ドリー・バントリー夫人(ミセス・バントリー。晩餐会主催者)
ある資産家の食卓で食中毒が起こり、女の子が一人死亡する。原因は、食材に紛れ込んだジギタリスの葉だと判明する。毒殺だとしたら誰が食べるともわからないものに毒をいれるだろうか?しかし事故とも思えない。
『バンガロー事件』語り:ジェーン・ヘリア(とても美人の人気女優。しかし「頭空っぽ」ともいわれる・笑)
このジェーン・ヘリアは晩餐会でも「わたくし、わかりませんわ」とか、「そういえばわたくしね」などとトンチンカンの言葉を挟むのだが、「わたくしがこんなにおばかさんでなければ…」などと自分の美貌には絶対的自身があるが他の面では控えめなのが感じが良いとも思えます。しかしミス・マープルも「ジェーン・マープル」なので、誰かが「ジェーン」と呼ぶと一瞬マープルのことか!?と思ってしまうの。なぜ同じ名前にしたんだ。
さて、そんなジェーン・ヘリアのお話。
ジェーンは地方巡業で警察の訪問を受ける。なんでも近くのバンガローに泥棒が入ったのだが、容疑者として取り調べられている青年は「女優のジェーン・へリアに脚本のことで呼ばれた」と証言したらしい。だがジェーンと顔を合わせた青年は「ジェーン・ヘリアを名乗って自分を呼び出したのはこの女性ではありません」という。
…ジェーン・ヘリアを「美人で気立てもよいが頭空っぽ」と繰り返してきた効果が出ているオチ。
『溺死』
また数カ月後。
サー・ヘンリーはバントリー夫妻の家を訪ねていた。そこへミス・マープルが、サー・ヘンリーに協力を求めに来る。
数日前にセント・メアリ・ミードで、ローズという娘の溺死体が引き揚げられた。腕に傷があったことから誰かに突き落とされたようだ。彼女は妊娠していて、父親はロンドンからやってきた建築家サンドフォードと言われる。村の大工ジョーはローズに夢中で、サンドフォードに敵愾心を持っていた。
地元の警察は、犯人をサンドフォードだと思っている。だがミス・マープルはある人物が犯人だと思っていた。だが証拠がまったくない。そこでサー・ヘンリーに証拠が挙がるか調べてほしいというのだ。
…ミス・マープルは「田舎の村にいるからこそ、人間性を観察することができる」ということで、犯人については「見れば分かる」という面がある。
そしてミス・マープルがこの事件を見過ごせなかったのは、このままでは無実の人物が死刑になるかもしれないことを防ぎたい、しかしそれは自分の告発により別の人物を死刑にするってことでもある。
ミス・マープルはそれでも正義を貫く強い気持ちがあります。 -
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ネタバレミス・マープルの連作短編集。
ミス・マープルを囲んで繰り広げられる推理合戦13編。
各自が真相を知っている"迷宮入り事件"を語り、参加者一同が真相を推理し合うもの。
参加者の年齢も職業もバラバラなので、どの事件も変化に富んで面白い。私も一緒に解いてみたけれど13の事件全て惨敗だった。
特に面白かったのは『動機対機会』『二人の老嬢』『四人の容疑者』『溺死』
全ての事件の真相を次々と見事に暴くミス・マープル。自身の住むセント・メアリ・ミード村からほとんど出たこともない彼女はどうしてこんなに簡単に事件の真相を探り当てることができるのか。
「この世の中に起こることは、すべて似たりよったり」
にこやかにサラリと言ってのけるミス・マープル。ポアロと推理合戦で競ったらミス・マープルの方が余裕で勝つのでは、と思えてならない。 -
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ネタバレシーリアという女性の半生が描かれている。
優しい両親や、前時代的だがよき理解者である祖母に愛され、シーリアは満ち足りた幼少期を送る。父の死で一家は傾くものの、美しく成長したシーリアには数多の男たちが言い寄ってくる。そんな中でシーリアは、のんびりして包容力のあるピーターの求婚を受ける。シーリアには慎重に結婚相手を決めてほしいピーターは、外地勤務の終わる2年後まで結婚を待つように言って旅立つが、その間にダーモットが現れる。結局シーリアは、ピーターとの婚約を破棄してダーモットを選ぶことに。
優しくて魅力的なダーモットとの間に娘も生まれ、シーリアは幸せだった。だが、幸福に思われた結婚生活にも次第に翳りが見え始める。シーリアの中に積み重なっていくダーモットへの小さな不満が、現代的な感覚から見ても非常にリアル。また、娘のジュディーとの不和も胸を締め付ける。このあたりは『春にして君を離れ』にも見られるクリスティの母娘観に通ずるものがある。
どんな時でも味方でいてくれた母ミリアムの死を契機にシーリアの人生は瞬く間に暗転し、ついに破局を迎える。
1年を「長過ぎる」と言って待つことができないダーモットが、選ばなかったピーターとの対比になっている。
選ばなかった後悔や人生の悲哀、虚しさが凝縮されており、シーリアの、繊細で優しいが故の苦しさが読者にダイレクトに伝わるところもこの作品の大きな特徴である。
愛さえあれば、という幻想を真正面から打ち砕く冷徹さ。500ページを超える長編なので、時間をかけてゆっくり読み進めることでより一層シーリアの人生を垣間見ている感覚を味わえる。ダーモットがシーリアに言った「いつまでも美しくいてほしい」という呪いの言葉にゾッとした。 -
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アクナーテン
どんな作品でもそうだが取りかかる順番はとても大事で、相乗効果で面白さが増す事がよくある。今作、「アクナーテン」を読む前に「ファラオの密室」(2024年)という作品を読んでいた為、世界観が踏襲され、まるで続編を読んでいるかの様な感覚になった。
「ファラオの密室」では神官とこの時代に生きる市民や奴隷、神々を中心に物語が描かれ、「アクナーテン」ではこの時代のファラオ、王族達を中心に物語が進められる。
今作に登場するファラオ、アクナーテン(おそらくアクエンアテンは読み方の違い)は愛と平和に憧憬する王なのだが、歴史上は余り評価されていない。彼が憧れる世界は理想郷であり、人間の悪い部分、醜い部分が一切見れていない。
彼の母親であるアイや妻であるネフェルティティ、心から信頼しているホルエムヘブなど彼を慕う人物達も沢山いる中で、大国エジプトのファラオの強大な権力、影響力が如何に秩序をもたらしていたのかという事がとてもわかりやすく設定されている。
戯曲は読み慣れていないし、実はクリスティ作品は沢山読んでいたが戯曲と恋愛シリーズは手付かずだったのだが、上記のきっかけもあり、クリスティ作品をもっと楽しみたい思惑もあり、読み始めてみた。
また、エジプト史は学生時代に興味を持っていた分野だったので、抵抗がなく、更に「ファラオの密室」で感じた余韻を楽しみたい意図もあり決心した次第だ。
世界観について、クリスティの設定は見事で、考古学に深い理解のある彼女ならではだと思う。
アクナーテンは悪王としての印象があるが、決してエジプトを滅亡に導いた訳ではなく、彼の思想、経験が破滅への土台になっていたという設定だ。彼はエジプトの神々を抹消し、一神教を強要していくが、その中で腹心であったはずのホルエムヘブさえもが彼の元をさり、最後、唯一愛したネフェルティティのみが彼の元に残るのは印象的な結末だ。
同じ時期にエジプトに関わる偉大な作品を、しかもミステリ、戯曲という型で読む事ができ、改めてエジプト史への興味が湧いてきたと同時に、ツタンカーメンに関わる文庫がまだ家にあったため、いずれ読もうと思う。
アクナーテンだけの感想では無いが、とても楽しめた一週間だった。 -
購入済み
壮大なスケール
ポアロ作品で最もスピード感、躍動感があり印象的な作品です!じっくり人間心理を読み解くというより、アクション映画を見ているような感覚。
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Posted by ブクログ
アガサ・クリスティが別名義で発表した、ミステリではない小説。
クリスティの人生に波乱が起きた後に書かれた長編で、ドラマチックで面白い。
渾身の出来に、さまざまな思いが浮かびます。
原題は「巨人の糧」で、天才はすべてを捧げつくすといった意味合いが主で、さらに二重の意味も‥
オペラ劇場で画期的な新作「巨人」が公演され、評判となるプロローグ。
さかのぼって、作曲家ヴァーノン・デイアの子供時代から。
幼いヴァーノンは内気で、空想の友達と遊んでいた。
みごとな邸宅でナースと女中達に囲まれ、裕福に育ったのだが。
実は父は邸宅を維持するために結婚し、母は留守がちな父をなじり、喧嘩が絶えない。
生命力豊かで美しいが夫を理解しない、やや愚かしい母親。この母のイメージがいささか強烈ですが、この後に出てくる人たちも皆どこかで、愛しても思うようにならない葛藤を抱えることになるのです。
奔放な従妹のジョーと、隣人のセバスチャン・レヴィンが親友となり、3人の長い付き合いが続くことになります。
幼馴染のネルが美しく成長し、社交界で結婚相手を探していました。ヴァーノンと恋に落ちますが、母は借金を抱えていて‥
ヴァーノンは就職しましたが、それでは自分の実家を維持する費用もないのです。
子供の頃は音楽が苦手だったヴァーノンは、実は天才だった。
すべてを得ようとして得られず悩む彼の前に、ジェーンという年上の女性が現れます。
自由な生き方をしている才能ある歌手なのですが、オペラを歌うには声が細く、喉をつぶす危険を冒していました。
裕福な相手とヴァーノンの間で迷うネル。
ネルとジェーンの間で揺れる運命となるヴァーノン。
そして、第一次世界大戦が‥
行方不明になったヴァーノンは‥?
評判のテレビドラマ「ダウントン・アビー」と近い時代なので、似たモチーフもあり、服装は大体ああいう格好ですね。
アガサ・クリスティは、家庭でユニークな母(ただし夫婦仲はよい)に教育を受け、内気な子供だったよう。オペラ歌手を目指していた時期もあり、天才を目の当たりに見た経験もあるのでしょう。
夫の愛人発覚、自身の一時的記憶喪失、離婚、再婚という波乱を経て、登場人物のいろいろな面に経験を生かしているようです。
ミステリでは描ききれなかった思いがほとばしるよう。
あるいは、作家としての成功が夫との亀裂を招いたという思いもあるのかも‥
(ハンサムな最初の夫とはあまり共通点がなく、クリスティの作品ではハンサムな男性はたいてい悪党なのはそのせいかもしれません?!)
めでたく再婚した年に発表された小説ですが、書かれたのはもっと前でしょう。
ハッピーエンドとは言い切れないのですが。オーケストラのように盛り上がる構成に、苦難を乗り越えて生きていく力強さも感じられます。