中上健次のレビュー一覧
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酒という媒介によって、執筆者に対する誼の深さを問わず、ある種の古き良き時代を醸し出す文化の中で各人が実態的に肉付けされていく行程は、人類史を通じて連れ添ってきた存在の重みを改めて見せつけるものとなっている。Posted by ブクログ
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最初に手をつけた中上健次作品が、千年の愉楽という特殊な読み始め方をしてしまったので、こうして彼の原点に変えると最後まで貫かれ続けた何かが感得される。
それは傷だらけのマリア様→オリュウノオバというイメージの変遷でもあるのだが、現実の虚構は徹底的に暴かれ、死も生もすべて無効化するこの作品群は、しかし確...続きを読むPosted by ブクログ -
表題作の『十九歳の地図』のみ読んだ。
19歳という子供でもなく大人でもない不安定な時期の鬱屈を、主人公がアルバイトの新聞配達で担当しているエリアの住民に悪戯電話をして発散する。
このようなテーマはありきたりに思えたが、「かさぶたのマリア」と近くに住む家族のギミックが面白い。予備校生として上手くい...続きを読むPosted by ブクログ -
岬、枯木灘を呼んできて、鳳仙花を読む。
フサの、矛盾するような女らしさや、葛藤が、生々しく伝わってくる。
中上健次の本を読んでいるときは、瞳孔がいつもより大きくなっている気がする。数日間は余韻がある。Posted by ブクログ -
秋幸の仕事に対する気持ちと風景など、何度も何度も同じ描写が続き、それがまたこの物語に惹き込まれる要因になっている。
読みやすいけど、ゆっくり味わいながら読むと、より楽しめる。
田舎の親戚には、ユキみたいな人が必ずいる。Posted by ブクログ -
中上健次氏の処女作「十九才の地図」を収録した短編集。
「枯木灘」「千年の愉楽」と比べると迫力は劣るものの、のちの「紀州サーガ」に繋がる萌芽は感じさせる。「一番はじめの出来事」などは「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」三部作の源流が描かれる。「穢れた高貴な血」と称する路地に生きる者たちのサーガを描き...続きを読むPosted by ブクログ -
鬼らが跋扈する「鬼」州、霊気の満ちる「気」州、中上氏の原点である紀州を巡るルポタージュである。彼が問うたのは自身の源流と紀州サーガであり、それらを霧のように包む被差別と非差別を解き解し、剥き出しの本質を探り出そうとしている。作中の突然の屠殺願望などは、中上氏のなかに眠る「濁った高貴な血」の放出なのか...続きを読むPosted by ブクログ