中上健次のレビュー一覧

  • 岬

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    ぐいっと引き込まれるものがあります。
    リアリティ溢れる描写は、作者の育った境遇が目の前に浮かぶようです。
    それ故に、なかなかに辛く、救いがない。
    どうにも乱暴になってしまう人達の性は、境遇によるもなのか。乱暴を乱暴のままにして許してはいけないと思う。

    先に、紀州という著者のルポ?を読みました。
    作者の育った土地や、そこに住む人々が、作者が洞察し、描いた作品のとおりであるなら、あまりに悲しい。そういう事実や性質がそこにはあったのだと思いますが、その他のものもあると思います。良いところ、明るいところも。
    文学として、あるいはその境遇を残すという意味で、価値あるものだと思いつつ、個人的にはもっと希

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    2025年08月29日
  • 讃歌

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    「日輪」から読めばよかった。
    不勉強だった…
    にしても、やはり面白かった。
    表現はインモラルだが、全体的に主人公の優しさのようなものが少しずつ滲み出しており、過激な描写でも冷静に読める。
    しかし、この路地の血筋はどこが終着点なのか、気になって仕方がない。

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    2025年08月11日
  • 千年の愉楽

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    ネタバレ

    戦後すぐの紀州の路地(被差別集落)を舞台に、中本の一族の若者たちの運命を、オリュウノオバ(産婆)の視点で書く。
    中本の男は容姿に秀で女たちを我が物に放埒な生を送るが、いずれも若くして悲劇的な死を遂げる。

    文体の特徴として一文が長く読みにくさがある。
    しかしこれは文字の読めないオリュウノオバの視点=彼女の声を文字に起こしたためという解説あり。
    中上健次の初読の身として、解説による補完の役割が非常に大きかった。

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    2025年06月20日
  • 異族

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     著者にとって最長の作品にして未完の大作。「ポスト路地」の作品世界を東アジアに求めた意欲作だが、何とも評価の難しい作品でもある。解説の渡邊英理氏は本作の可能性の中心をつかまえようとする議論を展開されているが、やや「贔屓の引き倒し」感がないでもない。

     物語の枠組みはまるで中上版の『羊をめぐる冒険』という感じだが、物語的な定型性を示唆する記号をこれでもかとばらまいておきながら、その定型だけには陥るまいと「横ずれ」を行っていく運動が小説の世界を支えているため、人物同士の葛藤をふくむ関係が深まらず、伏線と山場の関係が明確にならない(読者が「平板さ」という印象を抱くのはそのためだろう)。
     象徴的な

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    2025年03月18日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    長らく求めていた物語はこれだったのかも知れないと錯覚する一冊。鬱屈、陰惨とした作品であり、それでも爽やかさを孕んでる。普通であれば専らおかしな配分である。それが自身を刺激し、敬愛する彼も影響を受けることが酷く解り、後悔と羨望の目を向ける一冊である。

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    2025年02月07日
  • 岬

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    紀伊半島の南部を舞台にした著者の経験をもとに書かれた表題作を含め四作の作品が収められている。どの話も重苦しく、特に「岬」は切っても切り離すことができない血縁に縛られた主人公の男の苦しさに、読み手側も辛くなった。
    親族関係かなり複雑で時々この二人はどんな関係なのかと分からなくなる部分もあったので、「岬」は一気読みのほうがいいと感じた。個人的には「黄金比の朝」が一番面白かった。中上健次の他の作品も読みたいと思った。

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    2024年08月04日
  • 岬

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    舞台は和歌山、田舎、インターネットも何もなく他の世界とつながりようもない時代。
    閉じた人間関係、どろどろのしがらみの中での愛憎、ふりほどけそうもない。
    主人公は土方の仕事が好きで、毎日汗を流して、精錬潔癖に生きれたらと思ってる。
    でも自分に流れる血がそれを許さない、最後はあの男への復讐を遂げる場面で終わる。

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    2024年05月13日
  • 作家と酒

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    ネタバレ

    小説家や詩人や漫画家たちによる、お酒にまつわる44編。
    大酒呑みの話が読みたいと思って手に取った。きっと何名かはそういう作家がいるに違いないと。
    結果的に想像以上の面白い話が読めて満足した。お酒での失敗談も、お酒にまつわる思い出も、作家の表現力で楽しく読めた。時代の空気まで伝わってくる。
    困るのは、読んでいるうちに自分もお酒を飲みたくなってくるところだ。お酒専用の業務用冷蔵庫が心底羨ましかった。

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    2024年01月21日
  • 千年の愉楽

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    秋幸3部作よりも、鳳仙花や千年の愉楽のような女性視点で描かれる中上健次作品が好き。
    例えば、夕焼けがきっぱりと夜に包まれるまでの描写一つにしても、その美しさに衝撃で震える。谷崎潤一郎も真っ青。

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    2023年10月22日
  • 新装新版 枯木灘

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    肉体労働の描写、山や梢、風や光の美しさの表現がとどまるところを知らない。(温かい日を受けた葉が光を撒き散らすように等)内容としてはちょっと飽きるというか、またその話〜?みたいな感覚は否定できないのだけど、たまにくる繊細で顎にクリーンヒット!みたいな、思わず手が止まるような感覚の文章が出てくるから最後まで読んだ。

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    2023年10月11日
  • P+D BOOKS 鳳仙花

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    ネタバレ

    女の一生。
    あまりの緻密な描写に中上健次は実は女だったのでは?と疑うほど。2度読み返したが情景描写があまりにも美しくてうっとりする瞬間瞬間。

    最初は説明描写が多いなーと思っていたが、気がついたら言葉の海で泳いでいた。
    カルマの渦中で生きて行く生々しいフサの一生。
    矛盾と心細さと強さが、その時の空気のままの母の姿と重なるように描かれている。

    私は女なので、随所に出てくる男からの目線や性差を前にした時の無力、恐怖感、手籠にされることへの羞恥と恐れなんかがあまりにもリアルで、気味の悪さまでも感じるほど。
    三部作も読み進めていきたい。

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    2023年10月01日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    土や動物さらに排泄の臭いがまとわりつく生活空間に厭世観が漂う。若者、社会に抗う彼らの心情に時折共鳴するも隔絶も伴ってしまう。それは読者自身の俯瞰化なのか、登場人物への蔑みなのか、それとも言葉では明確化できない混沌した感情なのだと結論づけても物語は完結へと向かわない。筆者、中上健次は結末の道程を読者に投げつける。それは現在未来にどのような形で帰着するのか、それとも過去の悔恨に囚われるのか、放出される主題は “しこり” ではなく “余韻” として心に響く。

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    2023年09月25日
  • 奇蹟

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    中本の一統、高貴にして穢れた血の最終章とも言うべき一冊。
    主人公は若死にする運命の中、駆け抜けるように生きたタイチ。
    中上健次の作品に出てくる男性は、どんなに零落してもかっこいい。嫁より朋輩を大事にするなど、昭和的ではあるが、たしかに一昔前の男性はそういった強さを持つ人が多かったような気がする。今は多分、違う強さを持つ男性が多いのだろうけど。
    千年の愉楽、本作の中本の一統の物語、岬、枯木灘、地の果て至上の時といった熊野サーガの一群は、本当に面白い。

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    2023年08月22日
  • 岬

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    朝日新聞の和歌山文学紀行での紹介本である。読んでみて、岬へ家族でピクニックに行くことと甥っ子がクジラを見に行くということで和歌山ということがかろうじてわかる程度である。最後が性交で終わる。

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    2023年07月04日
  • 千年の愉楽

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    「路地」の高貴で穢れた血筋を持って生まれた男たちの美しくも儚く短い一生を、彼らを産婆として取り上げたオリュウノオバと呼ばれる女性の目を通して描いた短編集。
    運命づけられた一生を懸命に生き切ろうとする姿を神話的な要素を交えながら描いており、全編を通して生の力強さを感じさせる作品です。
    いい意味で脂ぎった物語を読みたい方は是非。

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    2023年04月15日
  • 岬

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    一つの段落で時間軸が過去と未来で変わったり、一人称のようで三人称だったり、それでも読者が混乱せずに読める文章が不思議で、とても面白い作家でした。
    よく南米文学と比較されるようですが、確かに肉感的で時間軸を自在に操る感じがガルシア・マルケスに似ている気がして、文章の存在感がグイグイ読ませます。
    押し寄せてくるヒューマン・ドラマ、といったら月並みかもしれませんが、正にそんな作風です。

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    2023年04月03日
  • 作家と酒

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    酒という媒介によって、執筆者に対する誼の深さを問わず、ある種の古き良き時代を醸し出す文化の中で各人が実態的に肉付けされていく行程は、人類史を通じて連れ添ってきた存在の重みを改めて見せつけるものとなっている。

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    2023年03月27日
  • 岬

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    どうしようもなく暗い。救いがない。系譜としては長塚節の『土』の系列。ただ、地主から見ていない確かな土着性と現代性がある。本来『暗夜行路』の主人公だって、こういうふうにねじれてもおかしくないはずである。
    生き変はり死にかはりして打つ田かな 村上鬼城 という俳句を思い出す。 「岬から山にあがったこの墓地に葬られている人々は、昔から、水は、雨水を飲み、海がすぐ目と鼻の先にあるのに船を着ける湾がなく、漁もできずに、暮らした。山腹を開いて畑を打ってくらしたのだ。」という文章が示すものはそれだ。
    角川春樹と中上健次との対談で、角川春樹は熊野が褻の土地である、すなわち再生を孕むのだと指摘する。この峡暮らしに

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    2022年12月26日
  • 岬

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     とても複雑な血縁関係。どれも中上さん自身をモデルにされているらしく、母親が複数回結婚している人で、母親と初めの夫との間に出来た姉、兄、母親の今の夫の連れ子であった血の繋がらない兄がいる。そして主人公自身は母親と“あの男”と呼ばれている悪名高い男との間の子で、主人公には腹違いの同い年の異母妹が二人いる。母親は主人公がお腹にいる時にそのことを知り、その男とは別れ、しばらくひとりで行商をして四人の子供を育てたが、男手一人で男の子を育てていた今の夫と出会い、まだ小さかった主人公だけを連れて再婚した(四話ともどれも同じような血縁関係なのですが、「岬」に焦点を当てて書きます)。
     この親族関係がドロドロ

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    2022年10月22日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    最初に手をつけた中上健次作品が、千年の愉楽という特殊な読み始め方をしてしまったので、こうして彼の原点に変えると最後まで貫かれ続けた何かが感得される。
    それは傷だらけのマリア様→オリュウノオバというイメージの変遷でもあるのだが、現実の虚構は徹底的に暴かれ、死も生もすべて無効化するこの作品群は、しかし確実に救済の文学なのである。
    それだけは、記録に残しておこうと思った。

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    2022年04月18日