中上健次のレビュー一覧
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ぐいっと引き込まれるものがあります。
リアリティ溢れる描写は、作者の育った境遇が目の前に浮かぶようです。
それ故に、なかなかに辛く、救いがない。
どうにも乱暴になってしまう人達の性は、境遇によるもなのか。乱暴を乱暴のままにして許してはいけないと思う。
先に、紀州という著者のルポ?を読みました。
作者の育った土地や、そこに住む人々が、作者が洞察し、描いた作品のとおりであるなら、あまりに悲しい。そういう事実や性質がそこにはあったのだと思いますが、その他のものもあると思います。良いところ、明るいところも。
文学として、あるいはその境遇を残すという意味で、価値あるものだと思いつつ、個人的にはもっと希 -
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著者にとって最長の作品にして未完の大作。「ポスト路地」の作品世界を東アジアに求めた意欲作だが、何とも評価の難しい作品でもある。解説の渡邊英理氏は本作の可能性の中心をつかまえようとする議論を展開されているが、やや「贔屓の引き倒し」感がないでもない。
物語の枠組みはまるで中上版の『羊をめぐる冒険』という感じだが、物語的な定型性を示唆する記号をこれでもかとばらまいておきながら、その定型だけには陥るまいと「横ずれ」を行っていく運動が小説の世界を支えているため、人物同士の葛藤をふくむ関係が深まらず、伏線と山場の関係が明確にならない(読者が「平板さ」という印象を抱くのはそのためだろう)。
象徴的な -
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ネタバレ女の一生。
あまりの緻密な描写に中上健次は実は女だったのでは?と疑うほど。2度読み返したが情景描写があまりにも美しくてうっとりする瞬間瞬間。
最初は説明描写が多いなーと思っていたが、気がついたら言葉の海で泳いでいた。
カルマの渦中で生きて行く生々しいフサの一生。
矛盾と心細さと強さが、その時の空気のままの母の姿と重なるように描かれている。
私は女なので、随所に出てくる男からの目線や性差を前にした時の無力、恐怖感、手籠にされることへの羞恥と恐れなんかがあまりにもリアルで、気味の悪さまでも感じるほど。
三部作も読み進めていきたい。 -
Posted by ブクログ
どうしようもなく暗い。救いがない。系譜としては長塚節の『土』の系列。ただ、地主から見ていない確かな土着性と現代性がある。本来『暗夜行路』の主人公だって、こういうふうにねじれてもおかしくないはずである。
生き変はり死にかはりして打つ田かな 村上鬼城 という俳句を思い出す。 「岬から山にあがったこの墓地に葬られている人々は、昔から、水は、雨水を飲み、海がすぐ目と鼻の先にあるのに船を着ける湾がなく、漁もできずに、暮らした。山腹を開いて畑を打ってくらしたのだ。」という文章が示すものはそれだ。
角川春樹と中上健次との対談で、角川春樹は熊野が褻の土地である、すなわち再生を孕むのだと指摘する。この峡暮らしに -
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とても複雑な血縁関係。どれも中上さん自身をモデルにされているらしく、母親が複数回結婚している人で、母親と初めの夫との間に出来た姉、兄、母親の今の夫の連れ子であった血の繋がらない兄がいる。そして主人公自身は母親と“あの男”と呼ばれている悪名高い男との間の子で、主人公には腹違いの同い年の異母妹が二人いる。母親は主人公がお腹にいる時にそのことを知り、その男とは別れ、しばらくひとりで行商をして四人の子供を育てたが、男手一人で男の子を育てていた今の夫と出会い、まだ小さかった主人公だけを連れて再婚した(四話ともどれも同じような血縁関係なのですが、「岬」に焦点を当てて書きます)。
この親族関係がドロドロ