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空手道場に集まった胸に同じ形の青あざがある頑強な三人の男たち、路地に生まれたタツヤ、在日韓国人二世のシム、アイヌモシリのウタリ。そのアザの形に旧満州の地図を重ね見た右翼の大物フィクサー槙野原は三勇士による満州国の再建を説く。日本の共同体のなかにひそむうめき声を路地の神話に書きつづけた中上健次が新しい跳躍を目指しながらも、「群像」連載中急逝し、未完に終わった傑作大長篇小説。死してなお生き、未完ゆえに無限増殖する壮大なる中上サーガ。
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Posted by ブクログ
著者にとって最長の作品にして未完の大作。「ポスト路地」の作品世界を東アジアに求めた意欲作だが、何とも評価の難しい作品でもある。解説の渡邊英理氏は本作の可能性の中心をつかまえようとする議論を展開されているが、やや「贔屓の引き倒し」感がないでもない。 物語の枠組みはまるで中上版の『羊をめぐる冒険』...続きを読むという感じだが、物語的な定型性を示唆する記号をこれでもかとばらまいておきながら、その定型だけには陥るまいと「横ずれ」を行っていく運動が小説の世界を支えているため、人物同士の葛藤をふくむ関係が深まらず、伏線と山場の関係が明確にならない(読者が「平板さ」という印象を抱くのはそのためだろう)。 象徴的なのは、当初は「聖痕」として設定されたはずの「青アザ」の人間たちが途中からどんどん増殖し始め、暴力による抵抗の主体だったはずの3人の男たちが抵抗者の「シミュラークル」になってしまうことだろう。 そうなると問題となるのは、この小説における「天皇」と、作中で「天皇」を代行している右翼の大物「槙野原」の位置付けだろう。小説のはじめではまさに大江『セブンティーン』的な右翼として登場する在日朝鮮人シムは、自ら恋人の「ミス・パク」を殺害することで、小説世界の表舞台から去ってしまうし、路地出身のタツヤにとって最大のライバルだった青羽は嘘のように自死してしまう。「天皇」の「槙野原」のいずれも「横ずれ」の運動を基軸とする物語世界を吊り支える超越性の役割をはたすことができず、陰謀論的な妄想と紙一重のメロドラマを生産するシナリオ・ライターの声だけが作中の複雑な線分を(いい加減に)たどっていく。この膨大なエクリチュール、小説の残骸をどう読み直すか。中上健次の残した最後にして最大の「謎」のようにも感じられる。
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