中上健次のレビュー一覧

  • 紀州 木の国・根の国物語

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    中上健次と一緒に歩き、立ち止まり、考える
    差別という物の怪を
    この国の闇の構造を
    この本はそのための手がかり

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    2021年10月26日
  • 岬

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    二度目にして目を洗われた。

    これだけ複雑な血縁関係を背景にして、よく筋の通った物語を書いたもんや。

    二つの頂点で高く釣り上げた分、物語の幅が出ていて、それを複雑に入り組んだ登場人物で固め、それが力強いうねりとなってる。

    方言によって土地に吹く風を与え、それになびかない人間関係を描くことによって、逆にその土地に根付いた地場の力を表現しているんやと。

    テーマがあまりに近く感じるのは、偶然なのか著者の力量なのかわからんけど思わず自分の血縁を振り返ってしまう。

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    2021年06月26日
  • 千年の愉楽

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    血と土地と宿命と
    彼らはそれに縛られているのか?
    はたまた誰よりも自由なのか?
    縛られているとしたらそれは果たして本当に血なのか?
    刹那的に生きることでしか彼らは生きられなかったのではないのか?

    オリュウノオバの語りで三次元という小説の一般的な枠組みを超えて、物語は過去と現在と未来をつなぎ、路地から世界へと、全てが並列につながる。

    この作品の到達点こそ、日本文学の誇りであり、改めて中上健次という圧倒的な才能に震える。
    何よりこの作品には切実さがある。ここにある物語は語られねばならなかった物語たちなのである。

    出会えて良かったと心から思う作品だ

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    2021年03月16日
  • 岬

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    血生臭い表現であるのに、温度がない。
    薄暗い日本的(昔の)田舎を感じる。
    岬に限らず、血縁、地縁、一族的考察はどうにも暗いテーマである。

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    2021年02月14日
  • 岬

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    ネタバレ

    『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した宇佐美りんさんが、受賞インタビューで好きな小説家を聞かれて、中上健次と答えていた。買って読んでいなかった『岬』が家にあったので、中上健次ってどんなもんだろうと軽い気持ちで読み始めた。中上健次を読むのは初めてだった。

    そしてあまりの男くささに驚いた。

    次々に変わる情景を的確に描写してゆくスタイルで、僕が読んできた小説家の中では一番テンポが早い。登場人物がどんどん増えていく。野暮ったい説明がなく、リズムがいい。そして内容が凄まじい。

    岬には4つの短編が収められているが、どの作品もどぎつい内容になっている。抗えない血筋に対しての嫌悪感が全開で、なんとも男くさい作

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    2021年01月31日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    表題作の『十九歳の地図』のみ読んだ。

    19歳という子供でもなく大人でもない不安定な時期の鬱屈を、主人公がアルバイトの新聞配達で担当しているエリアの住民に悪戯電話をして発散する。

    このようなテーマはありきたりに思えたが、「かさぶたのマリア」と近くに住む家族のギミックが面白い。予備校生として上手くいかず落ちていく主人公は、落ちた人達を嫌いながらも、その苦しさに否が応にも共感してしまう。中でも「かさぶたのマリア」の言葉がリフレインする場面ではそれが顕著だろう。

    また、近所に住む夫婦は喧嘩ばかりしているが、セリフとして描写されるのは妻のセリフのみである。そして、この妻のセリフが主人公を痛烈に批判

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    2020年08月05日
  • P+D BOOKS 鳳仙花

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    岬、枯木灘を呼んできて、鳳仙花を読む。
    フサの、矛盾するような女らしさや、葛藤が、生々しく伝わってくる。
    中上健次の本を読んでいるときは、瞳孔がいつもより大きくなっている気がする。数日間は余韻がある。

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    2020年05月09日
  • 新装新版 枯木灘

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    秋幸の仕事に対する気持ちと風景など、何度も何度も同じ描写が続き、それがまたこの物語に惹き込まれる要因になっている。
    読みやすいけど、ゆっくり味わいながら読むと、より楽しめる。
    田舎の親戚には、ユキみたいな人が必ずいる。

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    2020年05月02日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    中上健次氏の処女作「十九才の地図」を収録した短編集。

    「枯木灘」「千年の愉楽」と比べると迫力は劣るものの、のちの「紀州サーガ」に繋がる萌芽は感じさせる。「一番はじめの出来事」などは「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」三部作の源流が描かれる。「穢れた高貴な血」と称する路地に生きる者たちのサーガを描き、得体の知れぬ鬱積と暴力の絡み付きはありつつも、文体の未熟さは感じる。中上健次氏のほか著書を読んだあとに読むことをおすすめする。

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    2018年05月28日
  • 日輪の翼

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    盗んだ冷凍トレーラーで七人の老婆を載せ全国の霊場を巡るロードノベル。こう書くと何が何だかわからないが読んでも何が何だか何だか分からない。しかしほかの中上作品と同様言い知れぬ迫力と熱量は備わっている。

    根底にあるのは「路地」すなわち被差別部落の紀州に土着したサーガであるが、そこを流離し流浪し性と暴力を伴いながら根無し草のように振る舞う。オバたちの神仏に献身する姿と傍若無人な振る舞いの対比が印象的だ。世俗を超越した存在のようで姿かたちは極めて俗物的なオバらを、享楽を追い求めるツヨシと田中さんが導くさまが本作品の複雑性を織り成している。

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    2018年04月23日
  • 紀州 木の国・根の国物語

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    鬼らが跋扈する「鬼」州、霊気の満ちる「気」州、中上氏の原点である紀州を巡るルポタージュである。彼が問うたのは自身の源流と紀州サーガであり、それらを霧のように包む被差別と非差別を解き解し、剥き出しの本質を探り出そうとしている。作中の突然の屠殺願望などは、中上氏のなかに眠る「濁った高貴な血」の放出なのかもしれない。

    紀伊半島は紀伊山地を挟み近畿至近にありながら隔世感がある。私自身串本に観光へ行ったことがあるが勉強不足でその隣に「枯木灘」があることも知らなかった。その「路地」で育った(いわゆる部落)中上氏は、紀州の溜へ足繫く通い、血脈と被差別について推敲を重ねる。

    ルポタージュという形式でありな

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    2018年04月02日
  • 新装新版 枯木灘

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    勉強不足だったが、中上健次が「紀州サーガ」と呼ばれフォークナーやマルケスを源流とし世界文学の潮流として彼らに比肩する作家であることを初めて知った。文章から滲み出る鬼気は圧倒的だ。

    中上氏の言う「路地」とは被差別部落地区を指すが、作中には差別に関する事柄は一切なく、そこに土着する「穢れた高貴な血」への異常な執着の物語だ。秋幸が繰り返し繰り返し意識する実父「龍三」の血だが、根底にあるのは憎悪ではなく承認欲求とアイデンティティ認識のためなのかもしれない。個人的には「千年の愉楽」のほうが好きだが、端的にはなかなか言い表せないサーガを、小説という手法を使って書き上げた凄い作品だ。

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    2018年03月13日
  • 千年の愉楽

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    6篇の短編集。路地の若者達の人生を産婆の目を通して眺める視点。時代を超越し、時間の経過をかき乱す文体。読み進むうちに脳内に浮かぶビジュアルが印象的。売り飛ばさずに本棚に残す本。

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    2016年09月16日
  • 岬

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    子供の頃から、30年以上。
    本屋さんで見て知っていて。いつかは読もう、と思いながら。

    あんまり暗くて重そうで敬遠していた中上健次さん。記念すべき初の中上さんは、やはり読書会がきっかけでした。ありがたいです。

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    黄金比の朝
    火宅
    浄徳寺ツアー


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    の、四編が収録されています。

    1970年代前半に書かれた小説だ、という以外は、何の予備知識も無しで読みました。

    読書会に挙げてくれた人が「暗いですよ、暗いですよ、暗いですよ」と予め警告してくれていたんですが。
    読んでみると。

    暗い。

    重い。

    救いがない。

    強烈でした。小説としての、なんというか、ヘビー級な

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    2021年02月02日
  • 中上健次

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    学生時代に『岬』『枯木灘』『鳩どもの家』は読んだことがあった。が、それらは中上健次のほんの一部にすぎなかったということを思い知らされた。
    特に『鳳仙花』は名作。
    他の中上健次の作品も読まなければいけない気にさせられた。

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    2015年10月21日
  • 千年の愉楽

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    美しさ=早世である
    女をよろこばせる⇒天性
    描写がとても官能的である
    理性にではなく本能に訴えるような表現だ
    淡々と悦に達し死に向かっている

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    2015年09月12日
  • 岬

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    いわゆる「紀州サーガ」二冊目にあたる「枯木灘」を先に読んだ。「岬」が一冊目。
    「引用」に移した文章は本編ではなく後記のもの。
    作者は紀州の路地に住む一族の複雑な血縁を形を変え目線を変え書いているけれど、吹きこぼれるように表現したい自分の世界があるのですね。

    ===
    予備校に通う主人公の下宿に転がり込んできた右翼活動者の兄、主人公の友人、彼らが妹を探す娼婦と関わることになった一日。
    /黄金比の朝

    「枯木灘」と家族関係はほぼ同じ。
    枯木灘で秋幸にあたる人物の兄の幼少時代から始まる。兄が引き入れた「男」が母を孕ませ、長じて母に捨てられたと兄は自殺する。
    主人公の鬱屈も激しく、父を憎み想い飲んで暴

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    2014年05月14日
  • 讃歌

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    性のサイボーグとか、第三の性とか、そんなたいそうなものではなくて、ただ中上健次がバブル時代のマイノリティ・カルチャーをドヤ顔で描いてみせたという感じ。はじめにコンセプトありきで、ポストモダンやニューアカの影が少しうるさい。フランスから来た「フー子」とか「ロラン子」とかが出てきて、それも時代だなぁと。中上健次の巧さは端役の使い方とエピソードのつなぎかもしれない。イーブに捨てられた白豚がそのまま後を歩いて追いかけていって、イーブの仲間たちと一緒にバーに入り、居座るところ。途中でフレームアウトさせず、次のシーンまで残らせるところが、なにげにすごい。

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    2014年07月07日
  • 千年の愉楽

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    本の雑誌12月号で「中上健次ならこの十冊を読め!」の記事があった。
    僕は枯木灘しか読んでいない。路地を舞台にした物語群を知り、読む気になった。
    産婆のオリュウノオバが語る中本の家の澱んだ高貴な血のもとに産まれる男達。女がほっておかない色男で、彼らは女たらし、ヤクザ者、泥棒、大陸浪人。そして運命のように短い命を終えていく。

    紀州の山と川と海しかない土地。山で行き止められた路地。濃厚な生と死と血の匂いがぷんぷんと湧きたつ。性表現もアブノーマルでかなりドギツイのだが、何故かこの世のものとも思われない。
    異種婚姻の誕生譚もあり、どこか神話のようでもある。
    時に、彫琢せずゴロリと目の前に転がされた文章

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    2012年12月29日
  • 千年の愉楽

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    路地と呼ばれる被差別部落を舞台に、
    美しくも呪われた血筋の男たちの生と死を
    オリュウノオバを語り部に描く。

    どろどろとした欲や情念はそのままに
    その中に垣間見える、人間らしさ、というものを
    世界中にに掘り起こそうとしている。

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    2012年08月31日