中上健次のレビュー一覧

  • 新装新版 枯木灘

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    日の光、土、夏芙蓉の香りと一体になって働いても浄化できない血の穢れ。再読して中上作品のなかでも随一といってよい透明感を感じた。肉体が、魂が、労働を通して純化されていくんだけど、底の底に沈殿していく。

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    2017年09月28日
  • 千年の愉楽

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    ネットがこんなに発達していない時代、こういう本は読者一人一人の心の中の、誰とも共有されない深い深い部分にしまわれていたのじゃないかな。
    他人の感想が聞きたいし語り合いたい気持ちもするけれど、それをしてしまえば何かがすっと手の中から飛んで行ってしまいそう。
    だからどんなに狂おしく興奮した部分があったとしても、それを感想に記すことは出来ない。
    でも、たまらない。本当に。

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    2016年12月05日
  • 日輪の翼

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    携帯もなく、Nシステムもなく、駅の自動改札もなく、ソープがトルコだった昭和50年代を舞台にした神話のような小説。熊野の被差別部落の老婆達を盗難車の冷凍トレーラーに乗せて、路地の若衆が伊勢・一宮・諏訪・唐橋・青森・東京を巡る旅に出る。老婆たちは、行く先々の土地でトレーラーを駐車する場所を「路地」にしていき、若衆は女を漁る。特定の主人公がいるわけではなく、常に物語の中心にあるのは冷凍トレーラー。面白かった。

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    2016年01月21日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    表題作、十九歳の地図について。
    素晴らしい読書体験だった。
    ここには、青春のただ中にいる一人の青年の、本当のことしか書かれていない。
    そう感じさせるのは、中上健次が、借り物の言葉ではなく自分の言葉で語っているからだろう。
    僕は、今日が19歳最後の夜。
    自分の、やりきれない十代の形にならない想いは、ちゃんと中上健次が分かってくれていた。

    文学とは作品を読んで全体を俯瞰しながら分析するものではない。
    言葉では表せない「何か」を言葉で読み、それによって読者は否応なしに心を動かされる。
    悲しい物語でも、感動する物語でもないのに、心が形にならない涙を流す。
    文学とは本来、そういうものだ。

    作者は自ら

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    2015年12月19日
  • 中上健次

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    全集で難しいのは数多ある代表作の中から何を選ぶかということだろう。中上といえばよく引き合いに出されるのがアメリカ南部にある架空の地ヨクナパトーファ郡に起きた多くの人々と出来事を描いたウィリアム・フォークナーのヨクナパトーファ・サーガだが、中上がそのサーガの舞台としたのは、架空の場所ではなく彼の郷里である紀州、新宮のとりわけ路地と呼ばれる集落であった。その路地生まれの秋幸を主人公とした『岬』『枯木灘』『地の果て 至上の時』の三部作を池澤はあえて避け、秋幸の母フサを主人公に据えた『鳳仙花』を選んでいる。これが好い。

    わざわざ日本文学全集で中上健次を読んでみようと考える人は、中上健次について不案内

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    2015年06月15日
  • P+D BOOKS 鳳仙花

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    突き刺さる、えぐりこむ。初めて中上健次を読んだ感想。もっと若い時に読むべき作品であると。強烈なインパクトを与えてくれた。感謝。

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    2015年06月06日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    中上健次の身体性の強いくらくらするような文体のはじまりはこんな感じだったのかー。
    「枯木灘」より「軽蔑」より濃くて尖ってて良い。本当にこれは十九歳で読むべきだったなあとは思いつつも、今読んでも疼くものがある尖りかた。

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    2015年06月04日
  • 千年の愉楽

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    生と死、エロスとタナトス、あの世とこの世、文字と声、文学と物語…それらの混淆と対峙。10年ぶりに読んだけど、改めて名作。

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    2015年04月09日
  • 千年の愉楽

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    夏芙蓉の甘い薫りが漂うと金色の鳥が甘い蜜を吸いに来る。熊野の山は烏天狗が舞い、天女が羽を休めにくる。龍は天へと昇っていく。鶯の声、梟の声が聞こえ銀色の川が流れる。蓮の池の上につくられた浄土は路地という。四民平等に憤り竹槍で刺されるは落人狩りをした土民たちの再現か。千年もの長きに渡って受け継がれてきた澱んだ血の所為か先祖が歌舞音曲に狂った報いの為の仏罰か。歌舞伎役者のような男振りに淫蕩、盗人は澱んだ血の為せる業。百年も千年も生きていたオバ。産婆と毛坊主の生と死を司る夫婦。非業の死を遂げる男衆たち。

    紀州熊野の山村を舞台にした連作短篇集。ゾラのルーゴンマッカール家の遺伝を彷彿とさせる中本の血、マ

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    2014年08月05日
  • 千年の愉楽

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    日本人ならこいつだ!!と久々に思えた傑作。
    この濃さがたまらなくよい。
    『カラマーゾフ~』一族の濃さも最高lvだが負けてない。
    路地という閉鎖空間ももちろんこの濃度をあげているが。
    人物は粗野なのに文体は精選、
    内容は血なまぐさいのに視点は常に冷徹。
    この対比が、切り詰めた空気を作っている。
    部落地区の話ではあるのだが
    (外界との交わりから)相対的に差別が描かれる、のではないので、被差別がテーマではない。
    外界との比較なしでここまで濃い地縁を描いているのがまたすごい。

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    2014年08月02日
  • 千年の愉楽

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    ★★★
    山にへばり付くような土地作られた”路地”は、昔は町への出入りも制限され、男たちは革をなめしたり土木仕事をするしかない集落だ。
    オリュウノオバはその路地のただ一人の産婆で住民の親世代は全員取り上げた。夫だった礼如さんは寺の和尚がいなくなってから在宅の坊主になった。坊主と産婆の夫婦である二人は、路地の住人の人生の出口と入口を見てきた。
    礼如さんは中本家の血統。浄く澱んだ血を持つ中本の男たちは女を腰から落とすようないい男揃いで享楽に生き動物のように女と交り、決して長生きできない。
    今は年を取り寝たきりとなったオリュウノオバはその床で中本の男たちの人生を想う。
    中本の中でも格段の男振りを誇る半

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    2016年08月15日
  • 千年の愉楽

    購入済み

    圧倒的な物語力

    物語の強度に圧倒された。

    「血」の持つ宿命に抗いながら翻弄される男たちと、その生と死を見守る語り部たる産婆。

    作者のいうところの「路地」、すなわちひとつの(被差別)部落の中で展開するストーリーがこれほどまでに広がりと深さと崇高さとエロスを持ち得るとは。

    登場する6人の男たちの魅力もさるものながら、時空を超えて彼らを語りつくす産婆=オリュウノオバの奔放な思考が、本作品の常ならぬトーンを作り出している。
    そして緻密で難解は文体も、この物語を支える不可欠の存在だろう。

    それで、映画は.......どうなんだろう?

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    2014年04月14日
  • 紀州 木の国・根の国物語

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    ネタバレ

    こう、並べて読んだからかもしれないが、上記の天皇百話、下巻にこの中上の文章が入っていないことが不満に思えるほど、天皇制、差別構造、それらの総体としての日本を考えるときに、この本は必読書なのではないか?80年代初頭という時代を背負っていることは確かだが、現代に生きる我々から地続きの場所から発せられている言葉(戦争と現代をつなぐ時代の言葉、ということもできる)が、特に後半部分で重く低く響く。

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    2014年01月13日
  • 千年の愉楽

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    この世の彼岸、生と死がただ循環する路地世界の中で、血脈の時を越えた年代記であり、それを見届ける聖の物語である。その異界いや新世界に一読者として浸るのはまさに愉楽であり皆苦でもある。新たな小宇宙を創り出す著者の力量には感服です。

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    2013年05月13日
  • 紀州 木の国・根の国物語

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    ルポと小説の間の「物語り」とでもいうのか。
    こういうかたちの作品は貴重だと思う。
    読みながら何かに触れているような手応えがあった。

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    2012年08月20日
  • 千年の愉楽

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    密度の詰まった濃密で圧倒的な文章にノックダウンされます。登場人物も生き生きとしていて鼓動まで伝わるかのようです。美男率高し。中上の書く青年は本当魅力的。映画はどうなるんだろう?!

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    2011年11月24日
  • 十九歳のジェイコブ

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    上の花村氏もそうだけど読む人を選ぶ、のかな?でも、渇いた狂気の世界だからこそ覗き込みたくなるのかも。

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    2009年11月29日
  • 千年の愉楽

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    彼の著作の中で私が最も好きな本だ。一人の作家の多くの作品の中で一番好きな作品と言うものを選び出す方が難しくあるが、この物語は醜い、儚い、力強い、そして美しい。

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    2009年10月04日
  • 日輪の翼

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    再開発により路地を失った老婆と若者たちがトレーラーに乗って東京を目指す。
    道々では、老婆らの信仰心と若者らの欲望が対象的に描かれているが、読後には信仰心も欲望も、人の自己実現の方法であるだけで、根本的には変わらないのではないかと思わせられる。
    この後に続く「讃歌」では、ひたすらに欲望の世界が描かれているが、人を描いた、という点では変わらないテーマなのではないとも思う。
    移動していくストーリーに引きずり込まれる一冊。
    ぜひ。

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    2025年10月25日
  • 岬

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    ネタバレ

    筆者の生い立ちから作り出された家族関係が複雑に描かれている作品でした。ラストに向かうにつれて姉がおかしくなっていってどう終わるのかと思えば、自分の血の繋がり全てを陵辱するために妹と交わるのは衝撃でした。

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    2025年09月22日