中上健次のレビュー一覧
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鬼らが跋扈する「鬼」州、霊気の満ちる「気」州、中上氏の原点である紀州を巡るルポタージュである。彼が問うたのは自身の源流と紀州サーガであり、それらを霧のように包む被差別と非差別を解き解し、剥き出しの本質を探り出そうとしている。作中の突然の屠殺願望などは、中上氏のなかに眠る「濁った高貴な血」の放出なのかもしれない。
紀伊半島は紀伊山地を挟み近畿至近にありながら隔世感がある。私自身串本に観光へ行ったことがあるが勉強不足でその隣に「枯木灘」があることも知らなかった。その「路地」で育った(いわゆる部落)中上氏は、紀州の溜へ足繫く通い、血脈と被差別について推敲を重ねる。
ルポタージュという形式でありながら、ドキュメンタリーのような周到な準備と緻密な取材があるわけではないが、時々の出会いと発見に触れ、自身の思考を醸成していく過程が興味深い。 -
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勉強不足だったが、中上健次が「紀州サーガ」と呼ばれフォークナーやマルケスを源流とし世界文学の潮流として彼らに比肩する作家であることを初めて知った。文章から滲み出る鬼気は圧倒的だ。
中上氏の言う「路地」とは被差別部落地区を指すが、作中には差別に関する事柄は一切なく、そこに土着する「穢れた高貴な血」への異常な執着の物語だ。秋幸が繰り返し繰り返し意識する実父「龍三」の血だが、根底にあるのは憎悪ではなく承認欲求とアイデンティティ認識のためなのかもしれない。個人的には「千年の愉楽」のほうが好きだが、端的にはなかなか言い表せないサーガを、小説という手法を使って書き上げた凄い作品だ。 -
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いわゆる「紀州サーガ」二冊目にあたる「枯木灘」を先に読んだ。「岬」が一冊目。
「引用」に移した文章は本編ではなく後記のもの。
作者は紀州の路地に住む一族の複雑な血縁を形を変え目線を変え書いているけれど、吹きこぼれるように表現したい自分の世界があるのですね。
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予備校に通う主人公の下宿に転がり込んできた右翼活動者の兄、主人公の友人、彼らが妹を探す娼婦と関わることになった一日。
/黄金比の朝
「枯木灘」と家族関係はほぼ同じ。
枯木灘で秋幸にあたる人物の兄の幼少時代から始まる。兄が引き入れた「男」が母を孕ませ、長じて母に捨てられたと兄は自殺する。
主人公の鬱屈も激しく、父を憎み想い飲んで暴れて妻を殴る。
/火宅
主人公は旅行の案内人。妻は出産を迎えている。何度も降ろさせた。今回のツアーはお寺の檀家ご一同。死の近い老人、白痴娘、旅行の話思ってきた彼の愛人。
/「浄徳寺ツアー」
紀州の山に囲まれた路地は火付けと殺人が盛な土地。
主人公はその鬱憤を異母妹と思われる娼婦と関係することで晴らそうとする。
/「岬」 -
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性のサイボーグとか、第三の性とか、そんなたいそうなものではなくて、ただ中上健次がバブル時代のマイノリティ・カルチャーをドヤ顔で描いてみせたという感じ。はじめにコンセプトありきで、ポストモダンやニューアカの影が少しうるさい。フランスから来た「フー子」とか「ロラン子」とかが出てきて、それも時代だなぁと。中上健次の巧さは端役の使い方とエピソードのつなぎかもしれない。イーブに捨てられた白豚がそのまま後を歩いて追いかけていって、イーブの仲間たちと一緒にバーに入り、居座るところ。途中でフレームアウトさせず、次のシーンまで残らせるところが、なにげにすごい。
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本の雑誌12月号で「中上健次ならこの十冊を読め!」の記事があった。
僕は枯木灘しか読んでいない。路地を舞台にした物語群を知り、読む気になった。
産婆のオリュウノオバが語る中本の家の澱んだ高貴な血のもとに産まれる男達。女がほっておかない色男で、彼らは女たらし、ヤクザ者、泥棒、大陸浪人。そして運命のように短い命を終えていく。
紀州の山と川と海しかない土地。山で行き止められた路地。濃厚な生と死と血の匂いがぷんぷんと湧きたつ。性表現もアブノーマルでかなりドギツイのだが、何故かこの世のものとも思われない。
異種婚姻の誕生譚もあり、どこか神話のようでもある。
時に、彫琢せずゴロリと目の前に転がされた文章にぶつかる。読者を何処かに置き忘れているのかも知れない。そういう文章に吉田健一に似ているなとふと思う。
しかし、南米や北海道に主人公が移ると途端に磁力が低下するような印象。後半は読む集中力が持続しなかった。ガルシア・マルケスの「百年の孤独」ほどの神話性は無かったかな。
とは言え、あまりに独特の作家。他の作品も手にしてみるつもりである。 -
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薄い文庫ですが、中身は濃厚で、土俗的な雰囲気。
改行も少なく、ぎっつり畳みかけるように。
熊野の地で、「路地」の若い者のすべてを取り上げた産婆オリュウノオバが見守っていく。
中本の一統という血をひく様子が、色々な子に現れる。
蔑まれる貧しい暮らしでも、なぜか生まれつき見た目は良く、色白で顔立ちが整っていて人を惹きつけ、先祖に貴族でもいたのか、それも放蕩を尽くした千年前の平家の家系でもあったのではと思わせるほど。
しかし、男達はどこか危なげな性格で、澱んだ血が内側から滅ぼしていくかのように早死にしてしまう。
主人公は一話ごとに変わっていくので、やや読みやすい。
男ぶりが際だっていた半蔵は、女の方から次々にやってくるのだが、ついには…
盗みや博奕に入れあげ、ヒロポンのせいか目を病んだ三好。
オリエントの康という異名のある男。
集団で南米の新天地に移住しようと企画するが…
男女の仲も本能のままに肉弾相打つといった露骨さ。
戦争中、戦後まもなく、などという時代設定も、危ういものをはらんだ空気にフィット。
夫が僧となり、オリュウノオバは子供らを取り上げるという生死に関わる暮らしをしていた夫婦。
しだいに百年も千年も路地を見守ってきたような感覚になっていくオリュウノオバ。
命が立ち上る原初の時代のようで、圧倒される熱気だが、読んでいて妙に醒めてくることも。
諦観や毒気も混じっているせいなのか…?
オリュウノオバと呼ばれた女性は実在し、晩年に作家が何度か取材して聞き書きしたことをもとに書いた小説。
ただし、産婆ではないそう。
オリュウノオバの夫で寺を持たない僧侶となった礼如のモデルは、法名を礼静といって、かなり実像に近いという。
著者は1946年、和歌山県生まれ。
76年、「岬」で芥川賞受賞。
この作品は1980年から連載開始、82年単行本化。
92年、急逝。 -
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ネタバレ表題作のみ読んだ。
田中慎也「共喰い」を想起した。
平易な単語ばかりで、句読点が多く軽快な文体で読みやすい。しかし、内容は極めて難解に読んだ。
噛み砕ききれず、だがなにか心を掴まれたような気がして、秋幸になにか自分と似たところを感じた気がした。
人の解説を読んでようやく少しずつ掴めてきた気がする。他人にがんじがらめになっているところが、秋幸に共感したんだと思う。
紀州サーガをまた読もうと思う。
262 彼は一人になりたかった。息がつまる、と思った。母からも、姉からも、遠いところへ行きたいと思った。あの朝、首をつって死んでいた兄からも自由でありたかった。