中上健次のレビュー一覧

  • 千年の愉楽

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    薄い文庫ですが、中身は濃厚で、土俗的な雰囲気。
    改行も少なく、ぎっつり畳みかけるように。
    熊野の地で、「路地」の若い者のすべてを取り上げた産婆オリュウノオバが見守っていく。
    中本の一統という血をひく様子が、色々な子に現れる。
    蔑まれる貧しい暮らしでも、なぜか生まれつき見た目は良く、色白で顔立ちが整っていて人を惹きつけ、先祖に貴族でもいたのか、それも放蕩を尽くした千年前の平家の家系でもあったのではと思わせるほど。

    しかし、男達はどこか危なげな性格で、澱んだ血が内側から滅ぼしていくかのように早死にしてしまう。
    主人公は一話ごとに変わっていくので、やや読みやすい。
    男ぶりが際だっていた半蔵は、女の

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    2012年06月10日
  • 紀州 木の国・根の国物語

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    ノンフィクションでいったらその手の作家たちが必ず薦める本書はやっぱり重厚だった。紀伊半島を六ヶ月旅して記した歪みの構造を見つめるルポであり物語でもある。読んで損することはこれぽっちもない。改めてニッポン人とは何者なんだとういうことを著者は全身の触手を伸ばしてボクらに教えてくれる。彼が偉大だということもほんとによくわかる。

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    2011年09月15日
  • 十九歳のジェイコブ

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    まだ2冊しか読んでいないけど、中上健次は一貫しているなと思う。
    解説の「彼本人と話が切り離せない」とあるように、中上文学を知ることは中上氏本人を深く知ることでなし得るのである。
    彼自身に非常に興味があるのでほかも読んでいこうと思うが、それにしても本屋にないので、古本屋で宝物を探すような読書生活はまだまだ続きそうだ。

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    2009年10月07日
  • 十九歳のジェイコブ

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    ジャズ、セックス、ドラッグがこの話の磁場をつくっているとしたなら、

    セックスがエロス

    ドラッグがタナトス

    ジャズがその二つをつなぐ装置としてつかわれてる、のかも。

    とかかなり自由な解釈をしてみたら面白い。

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    2009年10月04日
  • 千年の愉楽

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    独自の、確固とした世界観を持った、圧倒的な物語だった。
    倫理も法も縁のないような埒外の世界には、人ならぬ者が決めたような、自然のままに出来上がる秩序のようなものがある。

    その路地で子供が産まれる都度、産婆として一人一人をとり上げてきたオリュウノオバからは、何世代もの時の移り変わりによって自ずと形成される、「血」としか言い様がない宿業のようなものが見えるのだろうと思う。

    その、逃れようのない連続した生命の流れを俯瞰しているような視点は、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」に似たものを感じた。しかし、片方はこの業を「孤独」ととらえて、もう片方は「愉楽」と名づけている。

    古代ギリシャの神々や、日

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    2020年07月15日
  • 岬

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    ネタバレ

    表題作のみ読んだ。
    田中慎也「共喰い」を想起した。
    平易な単語ばかりで、句読点が多く軽快な文体で読みやすい。しかし、内容は極めて難解に読んだ。
    噛み砕ききれず、だがなにか心を掴まれたような気がして、秋幸になにか自分と似たところを感じた気がした。
    人の解説を読んでようやく少しずつ掴めてきた気がする。他人にがんじがらめになっているところが、秋幸に共感したんだと思う。
    紀州サーガをまた読もうと思う。

    262 彼は一人になりたかった。息がつまる、と思った。母からも、姉からも、遠いところへ行きたいと思った。あの朝、首をつって死んでいた兄からも自由でありたかった。

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    2025年11月23日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    力強く鬱屈してる。
    ブルースでありグランジロックでもある。
    最後に涙したのが救いあるところなのかな?

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    2024年08月23日
  • 紀州 木の国・根の国物語

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    著者の唯一とも言えるノンフィクション。熊野地方を1年近く旅をしたルポである。歩くのではなく車を使う。したがって行ったりきたりもする。
    全編に渡って「差別」をキーとしている。和歌山はそうなのか。中にも書かれているが東北の人間にはわからない事だという。そう私には全く分からない。

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    2024年03月17日
  • 岬

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    表題作をまず読んだ。
    舞台は紀州。日常風景に主人公の親戚縁者が登場。読み進めていくうちに関係性が徐々にわかっていくが、最初はすんなり入ってこなくて何度かページをめくる手が止まってしまった。
    だが、明け透けなセリフからは登場する人たちの体温がムンムンと伝わってくる。人の死が大きな事件に思えてこない不思議。むしろ大事件が起こるラスト3Pのために全てがあるように感じた(初見にて)。

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    2023年08月28日
  • 岬

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    まさに紀南の夫の実家に帰省中、大勢の親戚たちに囲まれたり話を聞いたり、辿れば遠い親戚だったりする彼の地元の友達と会ったりしているときにこの小説を読んだ。
    買ったのも夫の地元の鄙びた書店。
    血縁のつながりの強い紀南の家族の在り方をちょうどリアルタイムで感じながら読んだので、物語の雰囲気はよく掴めたし登場人物が多くても没入しやすかった。
    登場人物の方言も、夫のおばあちゃんのしゃべり方で脳内再生された。

    ただ、中上健次は紀南の最下層を描いているので(男はもれなく土方で女はもれなく女郎、みたいな世界観)、「紀南は確かに田舎だが、いくらなんでもそこまでひどくはなくないかこの土地は?」とは思ってしまった

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    2023年08月14日
  • 讃歌

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    『日輪の翼』から一応話が続いているが、切り離して考えた方が良い本作。爆発的な性の奔流が全篇渡って迸る。コンセプチュアルが故、中上の悪いエゴが出過ぎている気が。。
    感覚的に描きたい事は分かるが、読ませる気はいつも以上に無い。

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    2023年04月15日
  • 岬

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    こんな気持ちの良い天気の時に読まないと落ち込んでしまいそうな、一族のしがらみに生気を絡め取られる話。しかし,地方でなくても多くの人は本当は避けて通れないことだと思う。
    人間関係が分かりにくく、何度か戻って読み直すことを繰り返してしまった…

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    2023年04月10日
  • 岬

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    真の意味での身寄りがあるようでない、
    そこにいるようでいない、
    ただ梢を揺らす木のようにして佇む若人の運命は非情でグロテスクだった
    また彼の搾り出したかのような復讐は結局は空虚なものにすぎなかった

    全体を通して「む、難しい、、、」と感じっぱなしだった
    はっきり言えば『岬』に関しては、自分の中での感情移入および心の揺れは大して感じられなかった
    もちろん大枠としての彼の「地理的にも血縁的にも閉ざされ縛られることへのどうしようもない憂鬱」のようなものは感じられるが、今の私には秋幸の心の機微は完璧には解読し難い
    偏に想像力不足、偏に感受性不足なだけかもしれない、だとしたら本当に憂鬱だ

    そもそもの文

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    2023年01月16日
  • 紀州 木の国・根の国物語

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    作者の魂の故郷とも言える和歌山のルポタージュ。
    ぐるぐると縁の深い土地を回りながら、土着の逸話やそこに住む人々の話を、10p弱で区切った短編集形式。にも関わらず内容は重く、非常に読み進め難い。
    作者の思い入れが強すぎて、あまり楽しんで読めなかった印象。ただ、故郷を通して彼の伝えたい事・想っている事は感覚で入ってきた。他作をスムーズに読むには必読書なのかもしれない。

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    2022年10月12日
  • 岬

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    欲望と性、暴力、呪われた血縁。どうしようもない話。

    人間というものを正直に描こうとするならば、他にどんな方法があるっていうんだ?とでも言いたげな、ある意味での真摯さと、だからこその閉塞感。

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    2022年07月21日
  • 岬

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    ネタバレ

    「岬」路地三部作の一作目。自殺した兄と同じ二十四になった秋幸の、なにかが狂い始める。誰が悪いのか。俺を産んだ犬畜生だ。だからぶっ壊してやる。俺の血に関わるすべてを壊すために、あの男の娘を、この俺の実の妹を凌辱してやる。
    「火宅」私小説的な、路地シリーズにつながる短編。“男”とつるんでいた兄の眼を通して、かつての男の行いを追憶する。その暴力性を現在の俺も受け継いでいる。その男が死にかけているらしい。どこの馬の骨とも知れない男。俺の父。俺のほんとうの父。あの男は、俺にとっていったいなんだったのだろう。

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    2022年06月02日
  • 千年の愉楽

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    リービで解説というか分析されていたので読んだ。中上らしい性と暴力の小説である。オリュウノオバという産婆が自分が取り上げた赤子が若くして殺されることを、その子どもごとにいくつかの話にしたものである。
     全集5の中で読んだ。これがリービがいうほど素晴らしい小説かどうかがわからない。

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    2022年05月27日
  • 新装新版 枯木灘

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    連載モノだから繰り返しが多い。
    父親の血に苦しめられる息子の話。
    淡々とした文章で、死ぬほどややこしい血縁関係が語られる。聖書?
    人から後ろ指をさされ、罪をつくる元凶となった父を憎んでいても、やっぱり親子の交わりを諦めきれない秋幸のもどかしさを感じた。
    続編の『地の果て 至上の時』も読みたい。

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    2022年01月09日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    十九歳の地図を読んで

    何者でもない不安と何者でもない居心地の良さを兼ね備える何色ともつかない人生の一時。

    世の中を知っていたと言えるのは、本当はこんな時期なんじゃないか。
    大人になれば落ち着き場所を見つけ、その場所に意固地になる。
    こんな純粋な持て余した感情は持てないんじゃないか。
    だから曇りのない目で世の中を感じ悟れる。

    解説では、主人公の電話する行為を神からの「メッセージ」と書いているが、僕はそれを読んで丸善の洋書にそっと「檸檬」を置くあの作品を思い出した。


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    2021年10月30日
  • 新装新版 十九歳の地図

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    宇佐見りんさんの推し作家ということで読んでみたかった中上健次。
    「一番はじめの出来事」「十九歳の地図」「蝸牛」「補陀落」の4編からなるこちらが第一作品集とのこと。
    いずれも独立した短編だと思ったのだけれど、補陀落を読んでいるうちに、これらは康二という一人の男の物語であることに気がつく。
    「一番はじめの出来事」は康二が小学5年生の時の話であるけれど、仲間と秘密基地をつくって遊んだりする無邪気さ、無垢さが、家族の父親がわりだった兄やんの自殺を経験していっぺんに損なわれていく様が苦しかった。子供は無知で、無力で、でもそれは救いでもあった。ずっと子供でいられたらよかった。多分これは重松清の疾走を読んだ

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    2021年09月22日