中上健次のレビュー一覧
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歌手・友川かずきの著書「一人盆踊り」に中上健次にまつわるエッセイが収録していたので興味を持った。
そういえば、以前なぜ友川かずきが映画「十九歳の地図」に出演しているのか疑問に思ったことがあったが、当時親交があったからかと合点がいった。
この「十九歳の地図」は4本の短編が収録されているが、解説等々を読むに全て同じ主人公とのこと。しかも著者本人の体験が強く反映されているようだ。
上述の友川かずきも弟が列車で自殺しており、肉親の悲惨な死を経験しているもの同士何か理解うるところがあったのだろうか。
肝心の小説の方は、少年期の原体験、青年期の鬱屈した精神、成人後の堕落が描かれていて、読んでいて -
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私たちの人格はどうやって作られたのか。先天的に与えられた部分と、後天的に獲得した部分がある、と言われるが、おそらくはそのいずれにも当てはまるのが、時代、そして地縁・血縁だろう。私という存在は、この時代に、この場所に、この親のもとに生まれるほかなかった。どんなに新しい未来を手にしようとも、出自から完全に逃れることは不可能だ。一般的に言われるように、文学というものが、何らかの意味で書き手にとって「やむを得ず」書かれるものだとすれば、自分という存在の根源に潜行し、そこから言葉を立ち上げてくる小説が、文学でないはずがない。そういう小説、そういう文学に、青年期にこそ出会いたい。
中上健次は、一九四六年、 -
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(引用)
彼は、一人残っていた。腹立たしかった。外へ出た。いったい、どこからネジが逆にまわってしまったのだろう、と思った。夜、眠り、日と共に起きて、働きに行く。そのリズムが、いつのまにか、乱れてしまっていた。自分が乱したのではなく、人が乱したのだった。ことごとく、狂っていると思った。死んだ者は、死んだ者だった。生きている者は、生きている者だった。一体、死んだ父さんがなんだと言うのだ、死んだ兄がなんだと言うのだ。
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とことん下へ下へと潜っていくような気分。いろんなことが乱れたように事あるごとに思ってしまうのは、自分のせいであることを認める勇気がどこかのタイミングで必要だと思う。 -
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「岬」には、James Joyceの短編集「ダブリナーズ(ダブリンの人々)」のなかの1作「死せる人々(The Dead)」との関係性を強く感じる。
例えば、一族の物故者の影や息使いが、普段は姿を見せないものの、今を生きる者の言葉や立ち居振る舞いその他の様々な所作において、それが姿を現し、なおかつそれが明確な映像や音声となって立ち現れる場面しかり。
そしてアイルランド人としてのアイデンティティからの逃避欲求があり、しかしそれに絡めとられ纏わりつかれも逃れられない宿命のようなものを改めて意識する場面しかり…
他の3作品の通俗的な完成度から比して、中上健次がある日ジョイスの作品に出会い、そしてダ -
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本作品には鬼が宿る。大江健三郎や三島由紀夫など読んだ瞬間に圧倒的才能を感じさせる天才が稀に居るが中上健次もその一人であろう。彼が「路地」と呼ぶ所謂部落出身者の湧き出る熱情を血で綴るように中本の一統の5つの物語を紡ぐ。説明的な読者への配慮は一切なく濃密で息苦しい程の言葉の茨が読者を捉える。
極めて優れた表現だと思うが筆者がいう「高貴で澱んだ血」を受け継ぐ者たちをオリュウノオバを軸に暴力や女性蔑視の表現を以て語られる。時空間や常識の概念に捉われず「高貴で澱んだ血」に縛られる。
芥川賞受賞作「岬」も凄い作品であったが本作はそれをも超えている。この作品がなんであったかは説明が難しい。ぜひ読書体験い