服部まゆみのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ1987年に出版され、第7回横溝正史賞を受賞した、服部まゆみさんのデビュー作品。
あらすじ
東京、冬。出版記念会の席上に届けられた一本の真紅の薔薇から、惨劇の幕が開く。舞台は、ロンドン、ブリュージュ、パリを経て、再び東京の冬へ。相次いで奇怪な事件が続発し、事態は混迷の度を深めていく。
読み終えた時私は、考え抜いて作成したプロットに、緻密な文章で丁寧に肉付けしたミステリー小説だなと思った。
無駄がない。
無駄な人物も無駄な舞台も無駄な出来事も・・・。
たぶん、すべて計算されている。
もし当時この作品を読んでいたらどれほどの衝撃を受けたことだろう。
30年以上経った今となっては、目新しいトリックなどはないが、それでもこの独特な世界観と繊細な描写には思わずため息がでる。そして、そこにこそ、この物語のミステリーにおけるトリックがある。
と思う。
ただ、主人公の僕こと亮の虚無感を想像すると、切なすぎる・・・。
そしてそれを最大限に引き出す舞台がそこであることが更に無駄のない計算された作品であることを私に印象づけた。
「この闇と光」でファンになり、少しずつ残された作品を読み漁っているが、服部先生の原点がここなのかと思い感動した。
うん。私はやっぱりこの世界観が好き。 -
Posted by ブクログ
復刻版ということで。京都の書店さんでしか買えないのかしら?そんなことはないと思うけど。
かの天才、レオナルド・ダ・ヴィンチにまつわる人物たちの群像劇。あるものは身分と盲信を持ち師に傾倒し、あるものは身分に悩みながらも信奉する。寵愛を受けるもの、なんとか批評し、貶めようとするもの。
語り手はみな男なのだけど、その愛憎劇はとても女々しい。大嫌い、大嫌い、でも大好き。みたいな少女漫画。いや、そういうの別に嫌いじゃないし面白いからいいのだけど。
そう、面白い。レオナルド・ダ・ヴィンチとかあんまり興味はないし、最後の晩餐くらいはなんとなくシルエット思い浮かぶ程度で、ルネサンスあたりのイタリアも世界史受験勉強以来ほとんど忘れているような人でも面白くは読めるのだ。文章が美しく、場面を思い浮かべられる描写。未だ顔も知らない大嫌いなアイツに会えるのか?そして終盤のミステリー。間違いなく面白い。
のだが、なにぶん長い。上記程度の知識と熱量だと多少冗長と感じると思う。終盤のミステリー部分のような物語を駆動させる要素があるとより読みやすかったかなぁ。
服部まゆみさんてもう亡くなられているのだね。悲しい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ概要
1888年のロンドンを舞台としたミステリー。医学留学生としてロンドンに滞在していた日本人、柏木と、スコットランドヤードに所属する友人の鷹原が、当時ロンドンを騒がせた切り裂きジャックと呼ばれる連続殺人事件の捜査に挑む。切り裂きジャックの正体を追うミステリーとしての側面に加え、エレファントマンの人生や背景を通じて、ヴィクトリア朝時代のロンドンを緻密に描き、濃厚な物語が展開される小説
総合評価 ★★★★☆
切り裂きジャックをテーマにした作品。当時のヴィクトリア朝の世界を濃厚に描いており、柏木の視点を通じて、エレファントマンなどの時代背景を鮮やかに描いた上で、切り裂きジャックの正体を追うミステリーとしての要素も見事に組み込まれている。真相として、切り裂きジャックがトリーヴィス医師だったという展開にはそれなりのサプライズがある。ただし、ヴィクトリア朝時代の描写が多いため、ミステリーとしての楽しみがやや薄れる印象もある。小説としての完成度が非常に高いだけに、ミステリーとしての面白さが薄れる点が惜しい。個人的には好みとは言えないが、それでも十分に楽しめる内容であり、★4をつけたい。
サプライズ ★★★☆☆
この小説では、切り裂きジャックの正体をトリーヴィス医師としている。予想範囲内ではあるが、それなりに驚きはある。ラストのオチで、鷹原が日清戦争で死亡したとされながらも実は生きていたという描写は、少しニヤリとさせられる。全体的にはサプライズとして★3程度
熱中度 ★★★★☆
服部まゆみの筆力の高さが光る。768ページにわたる大作で、海外(ロンドン)を舞台としているためなじみにくい部分もあるが、柏木の目を通して描かれるヴィクトリア朝時代のロンドンの情景や深く掘り下げられた登場人物たちが魅力的で、熱中して読むことができた。ミステリーとしてのワクワク感よりも、小説そのものとしての楽しさを味わえる作品。たまにはこういった読書も悪くない。★4で。
インパクト ★☆☆☆☆
小説全体としては面白いが、特定のシーンや要素にインパクトがあるわけではない。叙述トリックや驚愕の真相はなく、切り裂きジャックの正体を追う以外のミステリー的要素も控えめ。トリーヴィス医師が人間味豊かに描かれているため、正体が判明した際も驚きより納得感が勝る。インパクトとしては★1程度
キャラクター ★★★★★
登場人物の描写が非常に深い。主人公・柏木の苦悩と成長、探偵役の鷹原の魅力、スティーヴンやトリーヴィス医師、エレファントマンなど、すべてが丁寧に描かれている。人間を深く描く小説特有の面白さがあり、★5をつけたい。
読後感 ★★★★☆
切り裂きジャックの正体がトリーヴィス医師だと明かされるラストは、サプライズ重視ではないものの美しい終わり方で、読後感は非常によい。★4で。
希少価値 ★★☆☆☆
服部まゆみの作品は「この闇と光」が注目されており、その影響で他の作品も手に入りやすくなる可能性がある。ただし、分量が長く内容も重いため、爆発的な売上を期待するのは難しい。それなりに手に入りにくい位置に止まりそう。
● プロローグ
1923年の東京。ヴァージニア・ウルフからの手紙を見て、1888年のロンドンを思い出す。
● 1 雪のベルリン
鷹原惟光がロンドンの柏木薫のところを訪れる。柏木は、エレファント・マンの存在を知り、エレファント・マンがどのような考えを持っているかを知るためにロンドンに行くことを決意する。
● 2 霧のロンドン
ロンドンで、柏木は暴漢に襲われているヴィットリア・クレーマーズ男爵夫人と名乗る人物を助ける。このとき、後に切り裂きジャックに襲われるメアリ・ジェイン・ケリーと出会う。
● 3 エレファント・マン
柏木がロンドン病院でエレファント・マン(ジョセフ・メリア・メリック)に会う。トリーヴィス医師、ヘンリー・ライダー・ハガード、ジェームズ・ケネス・スティーヴン、モンタギュー・ジョン・ドルイットといった主要な登場人物が登場。柏木は、エレファント・マンとの面会を続ける。
● 4 カオス
トリーヴィス医師がエレファント・マンを預かることになった経緯が紹介される。ウィリアム・スィック部長刑事が登場。トム・ノーマンという、エレファント・マンの見世物小屋時代の興行主にも出会う。フレデリック・ジョージ・アバーライン警部を紹介される。
● 5 売春婦が一人
切り裂きジャック事件の最初の被害者、マーサ・タブラム殺害事件が起こる。鷹原は、スコットランドヤードとともに同事件の捜査を行う。柏木は、ディケンズの『大いなる遺産』を読み、小説の魅力を知る。
● 6 スッシーニのヴィーナス
鷹原と柏木がアルバート・ヴィクター・クリスチャン・エドワード王子と食事をする。ハンテリアン博物館を訪れる。スティーヴンに会い、スティーヴンとエドワード王子がケンブリッジ大学時代からの知り合いであると知り、スティーヴンが男色家であることを知る。エドワード王子のコレクションの一つである「スッシーニのヴィーナス」(人体解剖の状態の蝋人形)を紹介される。学文本会で、クロッカー医師が『皮膚疾患―その1万5000症例の分析』と題する大著を刊行し、エレファント・マンについての見事な考察もあった。
● 7 クーツ男爵夫人の晩餐会
クーツ男爵夫人の晩餐会が行われる。柏木はヴィットリアに会うが、助けた女性とは違っていた。柏木が助けた女性はドルイット氏に似ていることに気付く。
● 8 売春婦が二人……
メアリー・アン・ニコルズの事件が発生。その捜査。鷹原の母が芸者であることが分かったり、スティーヴンが容疑者であることが分かったりする。
● 9 そして三人……
アニー・チャップマンの事件が発生。その捜査。ジョージ・エイキン・ラスクが自警団を結成する。
● 10 ジャックの手紙
レザー・エプロンと言われる容疑者、ジョン・パイザーが見つかり、保護される。スター紙のベンジャミン・ベイツが登場。「切り裂きジャック」という者からの手紙がスター紙のベイツのもとに届く。
● 11 三人……そして四人目
バーナード・ショーが登場。柏木と鷹原は、ヴァージニアが拾った猫(ビービ)を預かる。エリザベス・ストライドとキャサリン・エドウズの殺害が発生。書かれていた落書きは消されてしまう。
● 12 戦慄の都
切り裂きジャックから再び手紙が来る。捜査が進み、ブラッドハウンドという種類の犬を利用した捜査のテストなどが行われる。
● 13 再び手紙
日本から田中稲城という者が鷹原を訪ねてくる。「地獄より」という手紙が届く。柏木は、サットン医師という人物からトリーヴィス医師についての評判を聞く。
● 14 1888年10月
ラスクのところに脅迫状が届く。ラスクはすっかりおびえている。鷹原は、一連の犯行にフリーメイスンが関与している可能性があると示唆する。柏木はスティーヴン、ドルイットと会い、助けた人物が女装をしたドルイットであったことに気付く。
● 15 1888年11月
柏木と鷹原が帰国することを決める。メリック(エレファント・マン)を劇場に連れていくというプランが決まる。ラスクがメアリー・アン・ニコルズ殺害のときのアリバイがあることを知る。メアリー・ジェイン・ケリーの殺害。プリンス・オブ・ウェールズがエドワード王子のことを相談するために鷹原のもとを訪れる。柏木はスティーヴンを疑う。ジョン(ドルイット)は女装しているスティーヴンを閉じ込める。
● 16 1888年12月
ヴァージニアを通じ、スティーヴンは救出されたと思われるが姿を見せない。病院での送別会で、柏木はメリック(エレファント・マン)から「バベルの塔」という紙細工をもらう。鷹原と柏木の送別会で、鷹原は「指紋識別法」を利用し、これまで関係した人に、これ以上の殺人をしないように言う。メリック(エレファント・マン)を連れた演劇鑑賞。鷹原は柏木に証拠の指紋は嘘の指紋であり、本物のジャックに嘘の脅迫をしていたことを伝える。最後は船上で、鷹原は柏木に切り裂きジャックはトリーヴィス医師だと言う。
● エピローグ
柏木による回想。ヴァージニアからの手紙の中に、スティーヴンからの手紙も入っていた。「バベルの塔を解体すれば、誰が切り裂きジャックか分かる」と。バベルの塔の中には凶器のメスが入っていた。それはトリーヴィス医師のメスだった。その後、関東大震災で柏木の家が崩壊。1888年に書き始めた小説のラストを書いていると、そこに鷹原がやってくる。 -
Posted by ブクログ
私はめっっちゃくちゃ面白かったです!
主人公二人がすごく好き!!魅力的!
そして実際の事件や人物が出て来るのに
全然説明じみたり取ってつけた感もなく
自然に胸の中に収まっていく物語の面白さと繊細な描写でした。
ただ推理小説としては後手後手に回りすぎているので
つまらないと思う方もいるかもしれませんが、
私は、これは主人公である柏木薫の転機・成長を記した手記のようなものと思って読んでいたので、
純朴で真面目だけど人の心の機微に疎い柏木の心の動きにも惹きつけられたし、
日本人でありながら欧州の人をも虜にする美貌を持ち如才無く王族とも接し、
光源氏のように皆に愛される光こと鷹原の活躍と
その奥に疼いているしこりを覗き見ることができて
非常に満足しながら読めました。 -
Posted by ブクログ
舞台は19世紀末のロンドン、実際に起きた切り裂きジャックの事件について、医学を学ぶために渡欧した日本人の目を通して、犯人を暴いていく。
切り裂きジャックと呼ばれる犯人による娼婦連続殺人は、未解決の猟奇事件ということもあり、ミステリーの素材として取り上げられることも少なくない。これもそのひとつで、史実を織り混ぜながら重厚な読み物に仕上げている。
主人公はまったく冴えない青年で、対照的に事件を解決していく友人は、容姿も性格も頭脳も正反対。そのコンビは、主人公が事件を日記風に綴っていくところも含め、ホームズとワトソンの姿と重なる。番外編で、別の事件も読みたいと思ったほどだ。
個人的には、主人公が関わっていくエレファントマンは、その昔映画を観たが(若い頃映画館で観たため、映像にも内容にもかなりショックを受けたことを思い出した)、切り裂きジャックと同時期だとは考えもしなかった。
伏線等は比較的分かりやすく、おのずと犯人の目星もつく。が、それはともかくとして、ロンドンの匂いたつような光と闇の、くらりとするような妖しい雰囲気が存分に楽しめる。途中、皆川博子の長編を読んでいるような錯覚に陥った。
ただし、とくに前半はかなり冗長で、物語に入り込むまでに根気が必要。もう少し削ってアップテンポでもいい。
同時に、800ページ近い作品を1冊の文庫本というのは物理的に重い……。せめて2冊に分けてくれれば。あと、これだけの長編なので、人物一覧がほしかった。