服部まゆみのレビュー一覧
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服部まゆみさんと言えば…憂鬱で含みのある雰囲気から、ゴシック的モチーフを緻密に、絵画のように組み立てる筆致で、『この闇と光』を初めて読んだ時から、読書に疎かった私を「没入」させてくれた、思い入れの深い作家さんになります。
本作の雰囲気は、いみじくも作中に書かれた通り…『ヴェニスに死す』『ハムレット』『ロリータ』…といった作品群を彷彿とさせるものがあります。画壇の若き秀才、片桐哲哉が、美少年木原聖(翔)の絶対の美を求めんがために生まれてしまった悲劇が、その流麗な筆致により息付く間もなく次々と展開していきます。ラストのぶつ切り感は否めませんが、それでも見事な悲劇であること! シメールというタイトル -
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ネタバレ子どもの親に対する健気な行動、成長と共に新たな生活も含め、親に対する考え方の変化。それでも、子どもは、どうすることもできず、親が選択したものについていかなければならないという葛藤、現実。
目の届く範囲にいれば、愚痴も嫉妬も羨望も憐れみも強くなる。そしてお互いが相手をどう思っているか、いたのか浮き彫りになり、強く意識するようになる。
一人の少年と出会ってしまってからの、男の酔い方。花を愛でるように、手の届かない神をみるように陶酔し、畏れ、悶える。
シメールをシメールのままにしていれば、この男が行動を起こしたことで、ひとつの家族が、崩壊してしまう話。
最初はうまく回っていたかのような歯車も徐々にお -
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最初の方はあまり動きがなく退屈だったが、後半に差しかかると緊迫感がすごくてドキドキしながら読んだ。
あらすじに「ミステリ」とあったので頭から疑いの目で読んでいたけれど、想定していた上をいかれた。
結末がとてもふわっとしていて、それが作品の色ではあるのだろうけど、個人的にはもっと明確なものが欲しかった。
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森の奥に囚われた盲目の王女・レイアは、父王の愛と美しいドレスや花、物語に囲まれて育てられた…はずだった。ある日そのすべてが奪われ、混乱の中で明らかになったのは恐るべき事実で―。今まで信じていた世界そのものが、すべて虚構だったのか?随所に張りめぐらされた緻密 -
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ネタバレ面白かったです。
目眩めく絵画の描写はさすが…知っている作品も知らない作品も見てみたいです。
殆ど神格化されているレオナルド・ダ・ヴィンチを取り巻く愛憎。誰がレオナルドにとってのユダだったのか。。
いけ好かないやつ、と思ってたパーオロが最終的に一番好きでした。何とかしてレオナルドを貶めてやろうと悶々としていても、実際に絵画に接するとこの人が一番的確で饒舌に賞賛していて人間臭くて良いです。
フランチェスコは見目麗しいかもしれないけれど…ユダはやっぱりこの人かなと思いました。ジャンはとことん不憫。
でもレオナルドの光が強すぎて、周囲は全て影に入ってしまうのかもしれない。師を超えられる弟子を育てられ -
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ネタバレおもしろかった!!1888切り裂きジャックがとてもお気に入りなので、本作も読んでみたのだけど、こちらもとても良かった。好きな女性作家さんを聞かれた時、これまではこの人!と言える人がいなかったのだけど、これからは服部まゆみさんと言おう。
弟子たちから語られる、まるでイエスのようなダヴィンチ。まさか最後の晩餐のモデルがサライという男性だったとは知らなかった(一説ではあるが)
そしてジャンとフランチェスコをはじめ、登場人物全員に息が吹き込まれている感じがして良かった。
読んでる時は、登場人物たちは服部まゆみさんの創作だと思っていたので、
ジャンはイエスの12使徒の1人であるペテロで、パーオロジョ -
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ネタバレあぁ美しい・・・この破滅美をどう伝えれば良いのだろう。
河出文庫様、『罪深き緑の夏』に続き『シメール』の復刊をありがとうございます♪
『この闇と光』で服部まゆみ先生の美しい世界に魅せられ、手に入った作品を読み漁っているけれど、毎回その期待を裏切られることはなく安心する。
作品紹介
満開の桜の下、大学教授の片桐は精霊と見紛う少年に出会う。その美を手に入れたいと願う彼の心は、やがて少年と少年のの家族を壊してゆき――。陶酔と悲痛な狂気が織りなす、極上のゴシック・サスペンス。(河出書房)
本作にサスペンスの要素はあまりないと思う。様々なことがわりと早い段階で種明かしをされていくし、トリック -
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美少年に魅せられた男の物語。といっても下心のある感じではなくて、あくまでもその美を愛でる、というような純粋な思いだと感じられるのですが。それでも恋に似た感情なのかも。微笑ましいようにも思えたのだけれど、ぴりぴりと危なっかしい雰囲気が漂う作品です。
秘密を持った少年、どこかしら歪みを見せる少年の家族、という道具立ても相まって、物語の進み方はとにかく不穏。美しい雰囲気とファンタジックな要素も交えつつ、この生活は絶妙なバランスの上に成り立っている気がしました。だからこそそこに綻びが見え始めた時にどのようになってしまうのか、という危惧が感じられて、それがなんとも言えず不安です。
そしてこの急激な幕切れ -
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美しい少年は聖なのか翔なのか?
少年に魅入られた男の柔らかい傲慢さ。
関係を端からみしみしと詰めてきて、息苦しいほど。
少年も男も、欲しい相手の愛情は手に入れられなかった……
自分で創る物語や、鑑賞してきた絵画や小説に浸る分には、この家は少年にも楽園だったはずなのに。
男が身勝手極まりないのに紳士すぎて笑える。
が、彼が評する翔の姿は、うっとりするほど美しかった。それがよけいに残酷に感じる。
相手をまるで一人の人間として扱っていないようで。
だからこその美か。
どうしても大谷亮平さんの顔しか浮かばなくて……
実写化されることがあったらぜひにw -
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ネタバレ1987年に出版され、第7回横溝正史賞を受賞した、服部まゆみさんのデビュー作品。
あらすじ
東京、冬。出版記念会の席上に届けられた一本の真紅の薔薇から、惨劇の幕が開く。舞台は、ロンドン、ブリュージュ、パリを経て、再び東京の冬へ。相次いで奇怪な事件が続発し、事態は混迷の度を深めていく。
読み終えた時私は、考え抜いて作成したプロットに、緻密な文章で丁寧に肉付けしたミステリー小説だなと思った。
無駄がない。
無駄な人物も無駄な舞台も無駄な出来事も・・・。
たぶん、すべて計算されている。
もし当時この作品を読んでいたらどれほどの衝撃を受けたことだろう。
30年以上経った今となっては、目新しいトリ -
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復刻版ということで。京都の書店さんでしか買えないのかしら?そんなことはないと思うけど。
かの天才、レオナルド・ダ・ヴィンチにまつわる人物たちの群像劇。あるものは身分と盲信を持ち師に傾倒し、あるものは身分に悩みながらも信奉する。寵愛を受けるもの、なんとか批評し、貶めようとするもの。
語り手はみな男なのだけど、その愛憎劇はとても女々しい。大嫌い、大嫌い、でも大好き。みたいな少女漫画。いや、そういうの別に嫌いじゃないし面白いからいいのだけど。
そう、面白い。レオナルド・ダ・ヴィンチとかあんまり興味はないし、最後の晩餐くらいはなんとなくシルエット思い浮かぶ程度で、ルネサンスあたりのイタリアも世界史受験 -
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ネタバレ概要
1888年のロンドンを舞台としたミステリー。医学留学生としてロンドンに滞在していた日本人、柏木と、スコットランドヤードに所属する友人の鷹原が、当時ロンドンを騒がせた切り裂きジャックと呼ばれる連続殺人事件の捜査に挑む。切り裂きジャックの正体を追うミステリーとしての側面に加え、エレファントマンの人生や背景を通じて、ヴィクトリア朝時代のロンドンを緻密に描き、濃厚な物語が展開される小説
総合評価 ★★★★☆
切り裂きジャックをテーマにした作品。当時のヴィクトリア朝の世界を濃厚に描いており、柏木の視点を通じて、エレファントマンなどの時代背景を鮮やかに描いた上で、切り裂きジャックの正体を追うミス -
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私はめっっちゃくちゃ面白かったです!
主人公二人がすごく好き!!魅力的!
そして実際の事件や人物が出て来るのに
全然説明じみたり取ってつけた感もなく
自然に胸の中に収まっていく物語の面白さと繊細な描写でした。
ただ推理小説としては後手後手に回りすぎているので
つまらないと思う方もいるかもしれませんが、
私は、これは主人公である柏木薫の転機・成長を記した手記のようなものと思って読んでいたので、
純朴で真面目だけど人の心の機微に疎い柏木の心の動きにも惹きつけられたし、
日本人でありながら欧州の人をも虜にする美貌を持ち如才無く王族とも接し、
光源氏のように皆に愛される光こと鷹原の活躍と
その奥に疼い