服部まゆみのレビュー一覧
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本作は有栖川氏の『ダリの繭』同様、角川ミステリ・コンペティションの参加作品で文庫書下ろしで刊行された作品。
一読して驚くのは、非常に読みやすい文体と内容になっていることだ。ゴシック趣味溢れる『時のアラベスク』や『罪深き緑の夏』の同一作者とは思えないほど、普通のミステリとなっている。恐らく読者の人気投票で優秀賞が決まるというこの企画に即して、自らの持ち味をあえて殺し、普段本を読まない人でも読めるように意図したのではないだろうか。
出版社を退職し、翻訳者として第2の人生を歩むことに意気揚々としていた森本翠は女性編集者の瑠璃と祝杯を上げたその夜、愛猫の黒猫メロウが行方不明になり、心境穏やかでなくなる。
一方、近所のアパートでは駆け出しの役者鳴海が妻を殺害し、バラバラに解体していた。底に現れた1匹の黒猫。黒猫を必死に探す翠と、瑠璃、そして鳴海の人生が交錯しようとする。
退職した独身女性で唯一の家族が黒猫という60歳の女性、翠の思考がなんだか痛々しい。独り身の寂しさの拠り所が猫というのは、私も飼っていたので猫に対する愛情については理解できるが、やはり常人とはどこかずれていて、狂気さえ覚える。鳴海もボタンの掛け違えのような瑣末な事から起こしてしまった殺人を、どこか夢の中の出来事のように第三者的に捉えながら、その実、自覚せずにどんどん狂気の井戸の底に落ちていく。
そしてまた2人の狂人の緩和剤として挿入された瑠璃もまた、常識人とはちょっと違った特異な考え方を持っている。つまりこれは1匹の黒猫を軸にした3人の狂人たちの遁走曲なのだ。
作者の故服部氏は猫好きとしても有名だったので、どうしても翠と作者がダブって仕方がなかった(ちなみに作者は既婚)。
中身はごく普通のミステリで、結末も皮肉が利いている。前2作の雰囲気が好きな人にはあっさりとしすぎて物足りなさを覚えるだろうが、私は全く逆の立場だったので本作は服部氏の作品では最も評価が高い。
昔のミステリマガジンで猫ミステリの特集が組まれていた。その中にいくつか猫ミステリ作品が挙げられていたが、本書はその選から洩れていた。長らく絶版になっており、本書もまた忘れられていく一冊になるのだろう。そんな消えゆく作品を少しでも誰かの記憶にとどめて欲しいために私はこんな風に感想を書いているのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ定年退職した翠の飼い猫メロウが失踪する。
隣の古いアパートの昭平は妻幸子を殺したばかり。死体をバラバラにして、隣の建設現場のコンクリートに埋める。メロウは昭平のアパートに住みついていた。
狂ったようにメロウを探し続ける翠。その姿は、事情を知らない昭平には自分を監視しているように見える。いまいましい老婆。
実は、翠の仕事仲間瑠璃が、酔っ払った翠に愛想をつかし、メロウをベランダから放り投げたのであった。瑠璃の妹も翠といい、あまり仲が良くない。どころか憎悪している。もう故人。
翠も妹の茜と仲良くない。姉妹って大変なんだねー。でも容易に想像つく。
この方の小説って、イヤな男多いね。昭平も美青年設定だが、すぐキレて劇団も仕事も辞めるくせに、自尊心ばかり増徴している男。
イヤな男と変な女が出てくる物語。
てか、老女にステキな物語かも。
やっと去ってくれるかとまわりに思われて定年退職して、
でも翻訳の仕事の引き合いはあって。
愛するネコともっともっと一緒にいれて、
土地持ちで歯科医の初老の男性に見初められて。
翠の老後はハッピーなのかも。 -
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ネタバレ出版社を退職し、翻訳家として再スタートを切った翠。
その矢先に愛猫メロウが行方不明に。
一方、口論の末に妻を殺してしまった昇平。
メロウは、昇平の部屋にまぎれこんでいた。
必死にメロウを探す翠と妻の死体を始末しようとする昭平。
一匹の黒猫を軸に二人が出会ったとき、事件は起こる…。
翠の猫へののめり方は、滑稽を通り越して狂気じみたものがあって怖い。また、昇平のナルシスティックな上昇指向の狂気ぶりも、翠に劣らずすさまじい。
軽めの語り口だが、崩壊へと向かう電波な登場人物達の切実さが重い。
最後まで読むと、ミステリというよりもホラーサスペンスな印象が強かった。 -
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謎の多いレオナルド・ダ・ヴィンチの、後半生を弟子の視線から描いた小説。
貴族の跡取り息子でありながら、レオナルドに魅せられて弟子となったフランチェスコ。
その従僕でありながら、同じように魅せられて弟子入りしたジャン。
そして、レオナルドの才能を決して認めようとしない、毒舌家で人文学者のパーオロ。。。
それぞれの視点から、時代を追ってレオナルドの関係や想いを通して描かれる天才の肖像。
本の帯だけを見ると、レオナルドにとってのユダは誰なのか?ミステリー仕立てになっているような印象を受けるが、実際はミステリーとは違う様相。
正直なところ、この帯の文句に騙されて買った口なので、ある意味、期待はずれではあった。
歴史が好きなこともあって、実在の人物を題材にしたものは、余程退屈な文体やストーリー構成でなければ、それなりに楽しめるので、この作品もその範疇内で楽しめはしたけれど。
私にとっては、あまり心に残らない作品だったと言える。
作者は元々美術家だし、レオナルドのファンでもあるようなので、レオナルドの作品の文中での描かれ方は、まさに神業的作品として表現されている。
批判的で毒舌家のパーオロですら、実際にその作品を目にして魅了されている。
私自身は、絵画鑑賞は好きなので、絵は色々観てはいるけれど、ダ・ヴィンチの作品に特別
感慨を受けたことは無いので、読んでいていまひとつピンとこなかった。
素晴らしい作品だとは思うし、凄いとも思うけれど、「モナ・リザ」が世界一の美女の肖像画と言われてもねぇ。。。。
美人の価値観の相違か?と考えても、他の作品や他の画家達の美人画を見て、「モナ・リザ」が特別美女とは思えなくて。
タイトルの「レオナルドのユダ」に関しても、最後まで読んでも「ユダ」が誰に当たるのか、ユダがいるとしたら、一体どんなユダ的行為をしたのか、さっぱり・・・・。
解説には「最後にユダがわかる」って書いてあったけれど、私には理解できなかった。
従僕としての身分や、フランチェスコとは違う自分の身の丈を思いながら、師を求めて止まないジャンの苦悩くらいしか、理解できなかった。
ジャンの想いには共感できたし、本人も自分をユダだと言ってるし。。。でも本当のユダはフランチェスコなの?
その理由は何故?って感じで読み終えて、なんかスッキリしない感じだった。