鷺沢萠のレビュー一覧
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アイデンティティが確立しにくい時代と言われてます。実際〝自分は誰なんだろう?〟と思ってる人も多いんじゃないかなぁ。わたしはよく思います。
思うたびに、前はこうだったけど今は違うなー、とその時々で変わってるんじゃないかという感覚があります。たぶんそれでいいんだろうな。たぶん。
僕は、ホントは誰なんだろうね?
(葉桜の日)
ふちの欠けたグラス
(果実の舟を川に流して)
あやふやな想いがあやふやのまま、
あやふやなさがはっきりとわかる。
なんだろう?
否定でも肯定でもない、
ただこのままでという、
わからなさ。
葉桜忌、4月11日に、
また思い返す、かも。 -
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鷺沢萠の初期作品4作。「川べりの道」、「かもめ家ものがたり」、「朽ちる町」、そして「帰れぬ人びと」。
五つ星という評価は、贔屓目に見たものかもしれないが、それでもこの最初期の作品群が好きだ。受賞作だからという点を措いても、川べりの道、そしてここには収録されていないが、「駆ける少年」は特に良い。
川村湊による本書の解説では、静謐感、清潔感、諦観といった言葉が並んでおり、それに異論はないのであるが、自分は、本書の作品からは、HBかBくらいで描いた硬質な鉛筆画の風景や静物画のようなイメージを抱く。或いは、丁寧に書いた楷書の文章。
著者自身の体験、読書歴、想像力の賜物だと思うが、これらの作品を1 -
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「ウェルカム・ホーム!」
血なんか繋がってなくても大丈夫。魔法のことば「お帰りなさい!」を大きな声で叫んだら、大好きなあの人は、たちまち大切な家族に変わるから。
離婚し親にも勘当され、親友の父子家庭宅に居候しながら、家事と子育てに励む元シェフ渡辺毅と、再婚にも失敗し、愛情を注いで育てあげた前夫の連れ娘と引き離されたキャリアウーマン児島律子。それぞれの奮闘が詰まった物語です。
キャリアウーマン児島律子のウェルカム・ホーム!は、読んでからのお楽しみということで、渡辺毅のウェルカム・ホーム!に関する書評です。
主人公は、離婚の結果、住む場所と経済力を失った毅。そんな毅に「ここに住む場所と -
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「あなたはあたしのクリスマス・ツリーだったのよ」
多分、今この本のページを少しもめくっていない人にとってさえ、香子のこの一言はうならずにはいられない名文句だと思う。
ロマンチックにも見えるたとえだけど、彼女がこの一言を声にするまでに経験したこと、嵐のような日々、幸福にすぎる生活、その中で胸を満たした感情、香子の強さ、そして、気付いてしまったこと。
そういうものを全て知った後のこの一言は、あまりに苦しくて、あまりに切なくて、あまりに強くて、たまらなくなる。
そう長くはないし、小難しい話でもない。
この一言に少しでもうなったなら、ぜひ本作を読んでほしい。 -
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高校か大学1年の頃、妙に鷺沢先生の小説にはまった時期があった。
今となってはその理由がさっぱり思い出せないのだけれど、はっきりしているのは、多分、あの頃の私はこの話をよく理解できなかっただろうということだ。
年齢的には、あの頃の方が登場人物に近いはず。
けれど、生活するということ、生きるということをいまいち分かっていなかったあの頃には、この本にちりばめられた桜の花弁も、きれいごとでも格好のいい話でもない、普段なら気にも留めない人々の、気にもならない日々も、目に映らなかっただろう。
今の私はジョージの年も健次の年も超えている。
次は、誰の年になるのだろう。
その頃にもう一度読めば、また見えなかっ -
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久しぶりの鷺沢萠。家族とは何かを問い続けた作者が最後に遺した作品。フツーな家族って何?フツーな家族なんてないんだから、自分に正直に生きれば良いんじゃない、とでも言いたげな作者の優しさに触れられる作品。来年4月11日で没後10年。早すぎるよ、鷺沢さん。
2021年3月26日更新
家族の在り方がますます多様化している昨今、そして、自分自身も齢を重ね、子の親となったところで、久しぶりに手に取って再読。
刊行されたのは平成16年3月。もう17年前。そして、その1か月後、4月11日に自死。
当時、30代半ばにして、この作品を書いていた作者の慧眼に改めて感動する。
日本でも、ようやく先日同性婚を