倉橋由美子のレビュー一覧
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スミヤキ党員Qが、階級打倒のための革命を起こすという密命を帯びて孤島の感化院に赴く。その地での冒険譚(?)。
本書が学生運動に着想を得ているのは明らかである(著者はあとがきで否定してるが)。
特に本書の重要なモチーフとして出てくる「食人」を軸に読み解けば、それが共産主義革命への当てこすりであることは容易に推察できる(権力の打倒は次の権力を生み、最終的にはその権力も自壊する)。
とはいえ、本書は私のように当時のことに無知で、感覚として一切理解していない人間にとっても楽しい読み物である。
観念的な部分は置いておいて、Qの眼の前に次々現れる奇異な人物・事件を頭にイメージしながら、この不思議な(不 -
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「桂子さん」シリーズの一冊で、時系列上の第二弾にあたる作品です。
桂子さんは、夫の山田信から、フランス滞在中にカトリックに入信していたという事実を告げられ、戸惑います。宗教は、なんらかの具体的な危機に陥った病人がすがるものだと信じる桂子さんは、その病人が健全な人間に対して信者になることを熱心に勧めることを不快に感じており、自分の夫が病に陥るような性質の人間だったことに対して、許すことはできないと考えます。
そればかりか、あらたに山田家の料理人としてやってきた三輪鏡子が、フランス滞在中に夫を信仰の道に連れ出した本人だったことも明らかになり、桂子さんは夫に対する「宗教戦争」に突入することは避け -
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「桂子さん」シリーズの一冊で、時系列上の第五弾にあたる作品です。
テロリストの少年が元総理の入江のもとに現われ、彼の前で自殺を遂げます。少年は医師の佐伯によって首だけのすがたで命をつなげられ、入江の孫の舞のもとに預けられます。彼女は少年の首に「ポポイ」という名前をあたえ、やがて舌を用いて文章を打つことのできるワープロを利用して、彼と会話することに成功します。
他方、襲撃を受けたあと脳の機能に損傷を受けた入江は、やはり佐伯たちの協力を得て、ワープロによる意思疎通が可能になります。こうした状態になってもなお、彼は隠然と勢力をもちつづけるだろうという新聞記者たちの予想に反して、入江は鋭い人間観察 -
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唯一神を信仰する「モノカミ教」のコレジオを出たPは、アマノン国への布教活動に赴きます。ところが、アマノン国はほぼ女性のみによって社会が運営されており、男性は国が管理する精子バンクに幽閉されている者や、アウトローの世界をのぞけば、「ラオタン」と呼ばれる去勢された者だけが存在を許されていました。
アマノン国に到着した彼は、ブッダ教の老尼僧であるムイン師のもとにいるヒメコという少女の賢明さと美しさに魅かれ、彼女を秘書にします。アマノン国で暮らすうちに、やがてPはこの国の人びとの多くが宗教をたんなる慰安の手段としてのみ認めていることに気づきます。彼は、アマノン国の人びとにモノカミの信仰を説くことより -
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「桂子さん」シリーズの一冊で、時系列上の第四弾にあたる作品です。
世界の危機がせまっているという不安に人びとがとらわれ、「疎開」と呼ばれる行動に出る者も登場するなか、ギリシア・ローマ古典学の研究者である宮沢明は、避暑地にある「松籟閣」をおとずれます。松籟閣には、元宰相の入江昭が滞在しており、やはりこの地をおとずれていた和泉聡子という女性もくわわって、世間の喧騒をよそに、海と料理と芸術と、登場人物たちの歓談が織り成す「饗宴」(シュンポジオン)のようすがつづられています。
われわれは、永遠の生を生きることのかなわない人間であるからこそ、過ぎ去っていく時をわすれて美しいもの、善いものを愛すること -
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二十編の二十の怪奇掌篇を収録しています。
「革命」は、身体のなかで進行するガン細胞が、革命をめざす前衛党員たちとなって会話しているのが聞こえるようになった男の話です。心理学者の岸田秀が『ものぐさ精神分析』のなかで、まさにガンの進行を革命になぞらえる考えを語っていたことを思い出しました。
「鬼女の面」は、面をかぶるととれなくなってしまう「肉付きの面」のアイディアを借りた話です。面をつけられた女性たちが、死にいたるまでの性の悦びをあじわっていたことを知り、男は自分でも面をつけてみたいという誘惑に駆られます。
そのほか、印象にのこっているものとしては、少年の首のような植物らしいものを拾ってそだ -
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短編12作品を収録しています。
「宇宙人」は、著者の作品にしばしば登場する、それぞれがアンドロギュヌスの双性を担当するきょうだいが、卵から産まれた宇宙人を飼う物語です。人びとが社会生活を送っている世界のすべてを飲み尽くすような宇宙人の暗闇を介して、きょうだいの非社会的な性のかたちがえがき出されています。
「隊商宿」は、『旧約聖書』のアブラハムや、ソドムとゴモラのエピソードのパロディで、ブラック・ユーモアを利かせた物語です。
「マゾヒストM氏の肖像」は、M氏と白痴の弟の秘密に、主人公の女性が気づく物語。巻末の「解説」を担当している中井英夫は、「巧緻な、さりげない旨さを持った探偵小説の味」と -
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「妖女のように」「結婚」「共棲」の三作品を収録しています。
三つの作品は独立した内容ですが、K、L、Sといった記号で表現される登場人物たちの物語だという点では共通しています。著者は「あとがき」で、「KおよびLという一対は、かりに男および女という外形をあたえられた仮設的純粋人間すなわちアンドロギュヌスをなす双生児であり、Sは社会的人間を代表する」と説明されています。
さらに三つの作品それぞれの主題についても、「『結婚』は、結婚というフィクションへの参加を茶番的儀式として記録したものであり、『妖女のように』では「女にして作家であること」の条件がグロテスクに追求されており、『共棲』になると「結婚 -
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「ヴァージニア」「長い夢路」「霊魂」の三作品を収録しています。
「ヴァージニア」は、アメリカに留学している「わたし」とヴァージニアというクラスメイトを中心とする物語です。「わたし」から見て、ヴァージニアには「クレイジイなところはある」ものの、それはストーリーを推進していくような力をもつものではなく、彼女との会話ではアメリカと日本の文化のちがいに多少の偏差をつけくわえるくらいの意味しかもっていません。彼女との会話では、結婚についての考えかたのちがいがテーマになりますが、そのことが「文学的」な主題に昇華されることなく、ただ断片化されて会話のすれちがいというかたちで作品中にばらまかれています。
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ミシェル・ビュトールの『心変わり』に倣って、二人称を用いてストーリーが説かれる形式をとった作品です。
とつぜん失踪した婚約者のミチオをさがし求める「あなた」は、東京を出発して「第一つばめ」に乗車し、京都へ向かいます。そこで「あなた」は、叔母の元夫でフランス文学を講じる佐伯に出会い、彼と関係をむすぶとともに、婚約者の消失を受け入れます。
著者は作品の末尾に付されている「作者からあなたへ」という文章のなかで、二人称小説という形式を採用した理由について、「これはあなたを遠隔操作するための装置ともいえます。あなたはこれまでのように作者から一方的にある物語を語りきかされるかわりに、小説のなかに招待さ