あらすじ
女の胎のかわりに、体内にことばを分泌する虚無の暗闇をもって小説を書く女、これが妖女です。――“女にして作家であること”の奇怪さを追求した表題作。結婚という茶番的儀式を、双生児KおよびLの濃密な近親相姦の愛のフィルターを通して描く「結婚」。結婚に巣くう不貞の精神を暴く「共棲」。欺瞞的現実世界にイロニイの矢をはなつ倉橋由美子の《反世界小説》三編を収める。
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Posted by ブクログ
個人的には表題作もさることながら「結婚」が好き。「パルタイ」などカフカの影響を受けた作品群に連なる笑劇的な運びと、それに反して「どこでもない場所」をすら思わせる結末。感傷的といえば感傷的だけれども、終盤の「黒い舌がはためいた」という表現は秀逸。
Posted by ブクログ
「妖女のように」「結婚」「共棲」の三作品を収録しています。
三つの作品は独立した内容ですが、K、L、Sといった記号で表現される登場人物たちの物語だという点では共通しています。著者は「あとがき」で、「KおよびLという一対は、かりに男および女という外形をあたえられた仮設的純粋人間すなわちアンドロギュヌスをなす双生児であり、Sは社会的人間を代表する」と説明されています。
さらに三つの作品それぞれの主題についても、「『結婚』は、結婚というフィクションへの参加を茶番的儀式として記録したものであり、『妖女のように』では「女にして作家であること」の条件がグロテスクに追求されており、『共棲』になると「結婚」というフィクションの内側で不貞な精神の生活が癌細胞のように繁殖していきます」と自解がおこなわれています。
「結婚」は、KとLのきょうだいが永遠につづく男女のエロス的関係を象徴するとともに、Lが現実の次元における契約としてのみ結婚という制度を理解しようとするのに対し、社会的な存在を象徴するSが愛という理念を得たいと願って苦しむという、著者らしいエスプリを強めに利かせた内容だと感じました。