須賀敦子のレビュー一覧

  • 霧のむこうに住みたい

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    本書は、「単行本にこれまで未収録だったエッセイを中心にまとめた一冊」である。
    「霧のむこうに住みたい」というロマンチックなタイトルにどうしようもなく魅かれる。だが、うっとりしてばかりはいられない。というのは、私の心の中に、なるべく触れずにおきたい、何か不穏な想いを呼び覚ますような気もする。ハッキリ言ってしまうと、須賀さんが「あちらの世界」に行くことを望んでいるのではないか、という予感である。
    「霧のむこうに住みたい」の末尾にこう書いてある。

    <・・・ふりかえると、霧の流れるむこうに石造りの小屋がぽつんと残されている。自分が死んだとき、こんな風景のなかにひとり立っているかもしれない。ふと、そん

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    2025年10月25日
  • 遠い朝の本たち

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    最初の章は「しげちゃんの昇天」。しげちゃんは小学以来の同級生、中学では本読み友達になった。その時のことが綴られている。大学卒業後しげちゃんは信仰の道(修道院)へ、敦子は大学院に進み、その後留学。そして35年が経ち、ふたりは再会することになるのだが。
    最後の章は「赤い表紙の小さな本」。ある日見つけたのは、半世紀もまえのBirthday Book、家族や友人の誕生日が記された赤い本。3月のページにあったのは、少女時代にだれよりも影響を受けた親友「しいべ」のサインと敦子へのひとこと。そのしいべの思い出が綴られている。しいべの本名は重子。すなわち、しげちゃんのこと。
    この2つの章に、サンドイッチよろし

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    2025年10月10日
  • 遠い朝の本たち

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    育った土地、生きてきた時代も違えば読み耽った本もあまり一致しないのに、この本を読んでいる間ずっと懐かしい気持ちで満たされていた。人生についてなにもわかっていなかったはずの子供心には、何かに夢中になっていた記憶とか、すごいものみつけた!という静かな興奮とか不思議とかが殊更にきらめいて焼きつくからなのかもしれない。小さな狭い世界に芽生えたささやかな幸せの感触が思い出されて懐かしくなったのかも。遠い朝。遠くなってしまった。

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    2025年09月29日
  • ヴェネツィアの宿

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    ネタバレ

    目次
    ・ヴェネツィアの宿
    ・夏の終わり
    ・寄宿学校
    ・カラが咲く庭
    ・夜半のうた声
    ・大聖堂まで
    ・レーニ街の家
    ・白い方丈
    ・カティアが歩いた道
    ・旅のむこう
    ・アスフォデロの野をわたって
    ・オリエント・エクスプレス

    須賀敦子は14歳の時「たしかに自分はふたりいる」「見ている自分と、それを思い出す自分と」と思ったのだそうだ。
    若いころ彼女の文章を読んだとき、社会のしがらみから離れて自分の来し方を考えるような年になったら、こんな文章を書けるようになりたい、と思った。
    しかし今、そんな年齢になってみれば、私にはそんな才能もなければ、振り返ってみれば転換点だったと思えるような経験もなかったのであ

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    2025年09月27日
  • ヴェネツィアの宿

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    須賀敦子さんの本としては2冊目。
    1冊目の時はイタリアの地名に慣れなかったが、今回、
    冒頭の章、「ヴェネツィアの宿」を読んだ時点で既に引き込まれた。
    ヴェネツィアの波音、静かな夜、霧立ち込める雰囲気、そして何より夏の雰囲気、まるで自分がそこにいて外を歩く人たちの感想や足音を聞いているかのような感覚になった。

    また、2日かけてフランス人の中30キロ歩いて大聖堂の中に入れないなど報われない話もおそらく人生の数年を「消費」してしまったであろう報われない環境も隔てなく書いていてよかった。あとがきでは、「うかうかと人生を費やしてしまう」ことを許さない人であったとあるが、模索して選んだ環境の先に時間を費

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    2025年08月03日
  • 遠い朝の本たち

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    人生の初期に出会った本をめぐるエッセイ集。

    子どもの頃、あるいは学生時代に出会い、印象を残した本。
    それらは読んだ時の場所、状況、その本を読む上でかかわりを持った人々などとつながり、その人の中に独自の形で残り続ける。
    時には忘れ去られていることもあるが、ふとしたきっかけで甦ってくる。
    あるいは、年齢を重ねて読み直してみて、かつて気づくことができなかった意味を見出すこともある。
    本書を読むということは、須賀敦子というひとを通してそうした経験を追体験することである。

    取り上げられている本はといえばー
    『小公子』や『愛の妖精』『星の王子様』、『ケティー物語』といった、海外の少年・少女向けの物語。

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    2025年04月13日
  • 遠い朝の本たち

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    戦争中、空襲に逃げ惑い、防空壕まで本を持っていって本の世界にのめり込んだ十代前半の須賀敦子が戦後平和を希求しながら左派カトリック運動に走った須賀敦子の読書体験が素晴らしい文章で書かれのめりこんでしまった。

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    2025年01月15日
  • ヴェネツィアの宿

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    少女期や留学時代のことを振り返ったエッセイ集。
    須賀敦子の本はおそらくこれで4冊目だと思う。
    読み重ねていくと、だんだん深く沁みてくる文章。

    戦直後のミッションスクールの寄宿学校の様子などは、何かもう、どこの世界の話だろうと思えてくる。
    英語劇のために「Lord」という言葉が「正しく」発音できるまで執拗に練習を強いる修道女がいるかと思えば、アメリカから来たシスター・ダナムは「レクリエーション」の時間に野球を導入し、「ケイトノアタマー(woolen headの直訳)」と叫びながら、生徒よりも嬉々としてグラウンドを駆け回る。
    小公女の世界のようでもあり、井上ひさしの育った孤児院のようでもあり…。

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    2024年12月14日
  • 遠い朝の本たち

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    ネタバレ

    何よりもまず人間。

    詩と自然にひたりたかった私が、なによりもまず人間,というフランスやイタリアのことばに,さらにこれらの国々の文学にのめり込んで、はては散文を書くことにのめりこんでいったのが、ふしぎな気がする。p206
    と、かいておられる。須賀敦子さんの、子ども時代学生時代を振り返る本書を貫くのは、読んだ本,作者やその登場人物、行動から本能的に,そして本質的にかぎとり、受け止めてきた、何よりもまず人間ということ。

    サンテグジュペリの,人間の土地。飛行機とともに、われわれは直線を知ったという文章がある、と、須賀敦子さんは引いている。牛や羊に依存していた人たちによって作られた、くねくねと曲が

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    2023年03月12日
  • 霧のむこうに住みたい

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    わりと読む本が偏っている私がいつ、どうやって須賀敦子という作家を知ったのか記憶にないけれど、なんだかとても惹かれて、全集もほぼ買い集めた。何度も読んだわけではないので、これも記憶があやふやだけれど、確か、だんだんと宗教色が強くなってきて、というと聞こえが良くないけれど、信仰という精神、信条にかかる記述が増えてきて、好き嫌いの問題でなく、到底私の理解が及ばずに、全集を完読できなった。
    そこから数年。本書をたまたま見つけて、すぐに読みたくなって購入。

    やはり須賀敦子の文章はいいな~、と思いながら読んだ。私はヨーロッパがなぜか好きで、ヨーロッパというと主語が大きいけれど、イギリスもスペインもイタリ

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    2022年10月03日
  • ヴェネツィアの宿

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    家族、そしてさまざまな人たちとの出会いが著者の人生に大きく影響を与えたのだなあと感慨深かった。戦後間もない時代、その時代に留学を実行したことや結婚を目標としない女性の生き方を考えていたことに感動する。女性として憧れる生き方だ。また、文章の表現が丁寧で美しく、その土地の空の色や風、空気感、草花の色など自分も体験しているように感じ、読んでいて心地良かった。

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    2022年09月07日
  • ヴェネツィアの宿

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    洗礼者ヨハネは、苦行しながらキリストが世に出るのを待ちわびたというが、キリストのようにはではでしく弟子に囲まれるのでもなく、これといった逸話もないまま、ヘロデ王の逆鱗にふれて処刑され、孤独な生涯を終える。ヨハネは、生きることの成果ではなくて、そのプロセスだけに熱を燃やした人間という気がしないでもない。
    待ちあぐねただけの聖者というのも悪くない。
    大聖堂まで。フランスシャルトルの大聖堂の外、洗礼者ヨハネ像を見て。

    オリエント・エクスプレス
    憎いとも思っていた父との会話に心打たれる。

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    2022年08月21日
  • 島とクジラと女をめぐる断片

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    ヨーロッパの最西端と言われるポルトガル領の群島、アソーレス諸島。その近海を泳ぐクジラと島の捕鯨手たちの物語を、虚構混じりの断片から浮かび上がらせていく掌篇集。


    再読。何度読んでも美しい本、同じフォーマットを使って自分の好きなものを語りたいと憧れる本だ。史実に即した事柄を語るときにもタブッキは夢を見ながら語っているかのようで、それがクジラの泳ぐ大海を身一つで漂うような読感を生みだす。
    深夜に見たNHKの番組でアソーレス諸島近海のクジラを取り上げていたのをきっかけに再読したのだが、あの海の青さを見てからだと、本書を読んで頭のなかに結ぶ像の色彩設計がガラッと変わってしまった気がする。「水みたいに

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    2022年07月20日
  • 島とクジラと女をめぐる断片

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    虚構と隠喩
    仕掛けられた世界を始終彷徨うも
    掴めそうで掴めない島・クジラ・女の話

    詩的情緒湛える散文は
    時間と空間を歪める印象を残す

    150頁に満たない物語
    思考するほど厚みが増すような
    タブッキ…煩雑な出会い

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    2022年06月08日
  • ヴェネツィアの宿

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     イタリア生活を書いた内田洋子さんのエッセイ集を読んだので、今度は須賀敦子さんのイタリア地名の付いたエッセイ集を読んでみた。
     お二人とも素晴らしい文章力をお持ちだが、視点は全く逆である。
     内田さんはご自分を透明化させて周りの人たちを小説のように描写する。  しかし、須賀さんは何処までいっても須賀さんご自身なのだ。
     戦前からカトリックの学校に通い、戦後は同じ系列の修道院が経営する専門学校、それからまだ女性が大学へ行くことが珍しかった時代に大学へ進み、さらにフランス、イタリアに留学された。
     確かに、裕福なご家庭に育たれており、高い学問を積んだり海外へ積極的に出たりということが出来る文化的背

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    2022年05月30日
  • 島とクジラと女をめぐる断片

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    まえがきからあとがきに至るまで、すべてのテキストが作品の要素となっている詩的な作品集でした。

    まず自分はアソーレス諸島がどこにあるのかも分からず、どこか空想の産物のような気がしつつページをめくっていました。世界地図で確認したら、ポルトガルから大西洋へだいぶ行った先にちゃんとあるではないですか。この世にアソーレス諸島はあります。

    とはいえ大陸からはなれて地図の1番端にあるため、世界からはみ出しているというか、まるで世界の果てにあるようです。タブッキの文章と合わせると、やっぱりどこにもない島のような気がしてきます。文章を通してたどり着ける島は、逆に言えば、永遠にたどり着けない島でもあります。テ

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    2022年05月22日
  • 島とクジラと女をめぐる断片

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    ネタバレ

    インド夜想曲を読んだあとに読んだ。インド夜想曲のほうが、主人公の目的がある分、全体としての話ははっきりしている。ただ島とクジラと女をめぐる断片のほうが、一つ一つの挿話の質は高かったように思える。
    好みの問題ではあるが、私はこちらのほうが面白かった。

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    2022年04月21日
  • ヴェネツィアの宿

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    初めて読む須賀敦子は、引き込まれるように読み終えた。
    本書の解説を関川夏央が書いているが、その解説と、Wikipediaで調べた須賀敦子の生涯は、おおよそ下記のようであった。

    ■1929年生まれ。
    ■20代の終わりからイタリア在住。1961年にイタリア人と結婚するも、1967年に夫が急逝。
    ■1970年に父親が亡くなる。翌年1971年にご本人も帰国。大学の講師から教授まで務める。
    ■作家としてのデビューは、1990年、61歳の時。「ミラノ 霧の風景」がデビュー作。
    ■1998年没。

    本書、「ヴェネツィアの宿」は、1993年の作品。
    少女時代から、ヨーロッパ滞在中の出来事を綴った12編から成

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    2021年05月08日
  • コルシア書店の仲間たち

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    淡々とつづられている文章を読み進むと、何となく泣けてくるような気がする。
    文章そのものに鎮静効果があるように感じるのは、少し昔の出来事をあとから整理して書いているからなのかな、と思ったりもする。
    コルシア書店、というのは日本によくある町の本屋とは異なり、哲学者や思想家のような人々が集まって議論をするような場でもあったようだ。
    日本にもそういうサロンのような雰囲気の書店があるのかもしれないが、自分の周辺には無い。少し羨ましい気がする。

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    2021年03月28日
  • コルシア書店の仲間たち

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    かつてミラノの小さな書店に集った仲間たち。
    その一人ひとりが、須賀さんの静かで温かな眼差しを通して細やかに描かれている。
    須賀さんは彼らをいつも真っ直ぐに見つめ、深い愛情を持って接していたのだろうと思う。

    扉のウンベルト・サバの詩がすごく好き。
    生きることに疲れてしまった時、そっと寄り添ってくれそうな言葉だと思う。出会えてよかった。

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    2021年02月13日