映画化されていると知ったときは、「なんだこのタイトル?」と思った。でも実際に読んでみると、その意味はすぐに分かった。
【秘密を知っているクラスメイト】くんや【根暗なクラスメイト】くんという呼び方は、映画ではどう表現されていたのだろう。何かの伏線なのかと思っていたら、終盤でようやく名前が出てくる。志賀春樹。志賀直哉と村上春樹を組み合わせたような名前だな、と思った。
志賀と桜良のやり取りは軽くて読みやすい。「スウェーデンのことわざみたい」という表現も出てくるが、本当にそういうことわざがあるのか気になって調べたら、特に元ネタはなかった。
志賀は陰キャっぽいけれど、桜良とはきちんと会話ができるし、意外と面白い人物だと思った。生クリームが苦手なところや、本が好きなところ、クラスでぼっちっぽいところは自分と重なる。ただ、私は知らない本があっても勝手に読んだりはしない。桜良の共病文庫を無断で読むのは、やっぱり良くないと思う。
大人しい志賀が、陽キャ女子の桜良とああいう関係になっていく展開には、正直「男の妄想」や「夢小説っぽさ」を感じた。ただ、主人公の性格はそこまで捻くれてもいないし、オタク感も強くないので、嫌悪感なく読み進められた。若干、斜に構えているというか、周囲を少し馬鹿にしているようにも感じたが、興味がないだけなのかもしれない。全体的には良かった。
一方で、志賀のあまり良くない点も目についた。クラスメイトの顔をほとんど覚えていないところは、あまりいい気がしない。その割に、桜良のことを「クラスで三番目に可愛い」と評価しているのも違和感があった。さらに、桜良の家に行ったときに勝手に押し倒す場面は、本当に良くない。男と女では力の差があるのだから、桜良が怖がってもおかしくない。結果的に桜良が仲直りしようとしてくれたから成り立ったけれど、あれは完全にアウトだと思う。
桜良は、いわゆる陽キャで、友達にいたら楽しそうなタイプだ。話しているだけで気分が良くなりそうだし、志賀を焼肉や旅行など色々な場所に連れ出す行動力もある。恋愛に真剣なところも推せる。ただ、ほとんど関わりのなかったクラスメイトには病気のことを打ち明けて、親友には伝えなかった点は、正直かわいそうだと思った。桜良なりの理由は理解できるけれど、もし自分が親友の立場だったら、志賀と仲良くできる気はしないし、「志賀の方が大事なの?」と思ってしまう。
未成年飲酒や、付き合ってもいない男と旅行先で同じ部屋に泊まるなど、志賀じゃなければ危険だった場面も多い。もう少し危機感を持ってほしいと思ったが、寿命が限られているからこそ、楽しいことをたくさんしたかったのだろう。
桜良は「星の王子さま」が好きな描写はあるものの、基本的には漫画しか読まなそうな印象がある。その桜良が「共病文庫」という名前をつけたのは、どんな気持ちだったのか気になった。共病文庫には、桜良の不安や弱さ、年相応の揺れる感情がたくさん書かれていて、膵臓がんなのに常に明るく振る舞えるわけがないよな、と思わされた。
最後の入院で亡くなるのかと思いきや、通り魔に刺される展開は衝撃的だった。ここは多くの読者が一番悲しかった部分だと思う。志賀は大泣きし、親友も両親もどれほど辛かっただろうと想像してしまった。
終盤で志賀が桜良のことを「彼」と呼んでいたのが最初はよく分からなかったが、調べてみて納得した。
それは「いつも教室でガムをすすめてくる友人」のことで、その友人が、恭子さんを好きだったのだろう。そう考えると、最後の「彼」という言葉も腑に落ちた。