名称未設定さんのレビュー一覧
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結末を読者に求めるSF
この小説が掲げるテーマはある意味恐ろしく単純で、もっと言うと稚拙な真の自由、世界の真実に対する答えというものである。
主人公の自伝語りで父親と自分の時代を交互に映し、資本主義を取り入れた中国、まさしく『1984年』というフィクションとリンクしたリアルな世界を個人視点で描写している。フィクションでは己の自由を思想を統制され、絶望に陥ると思われた監視社会は存外、上流階級と知識人を増やし、物欲を煽って消費を増大させて国民を満足させた。さらには資本主義を組み合わさって、より国家依存度も高まり、庶民は現状に反旗など翻す気など起こさなくなった。
西洋価値観を大量に導入する中で、現状に満足するこ -
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忍法帳に相応しいキャラ性
忍法帖シリーズのセルフパロディをしながら、南北朝の神器をテーマにする一風変わった山風作品。
三兄弟三姉妹の恋模様が『甲賀忍法帖』のパロディなのだが、特に男側が結構情けない。射精で真面目な攪乱戦法をする七兵衛に女だけには滅法強くなる又十郎、女のためならいくらでも荒ぶるフェミニストの舟馬。三人それぞれが女を中心に情けない強さを発揮する。
女人の一部になる忍者たちは後の忍法の原型の一つとも言える変態っぷりで、中々良い勝負している。がどちらが主役なのか判断がつかず(三兄弟も両陣営に散らばっている)、神器を持った南朝側にどのような史実に沿ったままの勝利を描こうか迷っているようであった。
極 -
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好感の持てる著者
日本の少子化事情が欧米のそれとは大きく違うことを示した書。
日本は欧米の政策を真似ることが多く、それは欧米の問題が日本にも後年発生し、解決策もそれにならうという歴史観が明治時代からあるからだ。
しかしもちろん欧米人と日本人は文化が大きく違う。子どもの育て方からどういう主義を掲げているかまで。特に世間体を気にして結婚や出産を渋ったり、子どもが働ける年代になっても実家暮らしなど親世代と同居する例も少なくない日本では、欧米よりもはるかに結婚までのハードルが高いと断ずる。
日本では中流の平等意識が強いが、世界では経済的な身分差など当たり前に存在している。ある意味で欧米は身分差にあった範囲で子 -
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理想と現実で揺れた意欲作
世界を破壊する怪物とそれを守る力を持った少女と見守る少年。
ラノベ界でよくある形であったセカイ系のアンチテーゼの物語である。
そもそもセカイ系が男が迷いなく戦いヒロインを助ける物語のアンチテーゼであり、それのさらなるアンチテーゼと化したこの作品は恋心というか超常そのものへのアンチを投げかけている。
しかし、メタフィクションへと完全に移行させるのは嫌っているようで、主人公が亡霊のように死人に対する葛藤を引きずる部分は今作をフィクションとして成り立たせている。
世界を護る可愛い美少女というヒロインに欠点(家族殺し)があっても主人公は恋せねばならないのだろうか。結局世界の滅亡をかけた現実感の -
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トンデモさと不釣り合いな繋げ方
前作のイカレた連中がさらに狂った化け物に追われるシンプルさがあった。
今回はその化け物を中心にして三つ巴の陣営が入り乱れるのだが、それを一本にまとめる複雑ながら細かい展開が成されていく。
正直、その脚本に唸らされるというより、キャラが脚本に振り回されるように感じた。例えば今作では終始色の濃い活躍をする爺のキャラの秘密は、サラサラと流されるように暴露されるのに、その直後展開の中心となる情報として機能するようになるなど、キャラの心情の動きについていけなかった。
最終的には気になるところで終わっているにも関わらず、(これは作者が悪いわけではないが)今作は打ち切りの形となっているようなの -
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カンフーウィザードリィ
ウィザードリィのボーパルバニー、つまりは殺人ウサギにバニーガールを引っかけたガワだけか出てくる。
要するにゲーム要素は本編に一切なし。寧ろこの作品にこの要素を持ってくるのに大分ムチャしている。ある意味でその苦みこそ作者の意図だろうけど。
物語は全員暴力的な強さを求めていて、その途中で破滅することを最大の幸福と思っているイカれた連中しか出てこない。そうでないヤツらは殺されるか狂うかしているので、微塵も感情移入できる人物がおらず、しかしその暴力の魅力というものへの共感を力任せに抱かされる。
作中全員狂うことに一貫した芯があり、香港ノワール(ただしチョウ・ユンファの代わりに女版ジャッキ -
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00年代のオカルトホラー
ネット黎明期の都市伝説が廃れ始めたのは何時だったろうか。
ある意味で今よりも情報が断片的だった時代において、摩訶不思議なオカルトというのは流行になった。
今作はそんな時代に生まれた作品の新装版。時事ネタなど書き直しをしているそうだが、正直古びていることは否めない。
だが今作の目玉は強烈なキャラクター性にある。魔王というあだ名を持つ彼によって動く登場人物たち。オカルトに挑む超常の少年少女というのは現代のエンタメでも通用するだろう。
「メン・イン・ブラック」に挑む「バトル・ロワイヤル」の子どもたちと言うべきか。これを楽しめるなら今シリーズは気に入るのではないだろうか。 -
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虚しさを通り越した何か
80年代に描かれた戦争シミュレーション。太平洋戦争を主題にしたこの手のシミュレーションは数多くあり、勝利も敗北も無数にあるが、今回はまさに本土決戦という現実にあと一歩で起こっていた最悪の「続き」をテーマにしている。
この小説の悲惨さは当時の帝国の国体、すなわちに命を懸けた尊皇意識のあまりの薄情さから来ている。作者は当時の帝国ナショナリズムをあえて真に迫るようなリアリティを持って描かない。集団心理による脅迫だったと解説しつつ、民間人が自決、ゲリラ戦を平然と展開し続け戦死していく様をアメリカ人視点で描いていく。
アメリカ側は日本に対して同情的すぎるきらいがあるが、これも日本人の狂信さの引き -
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シリーズ前提で評価しづらい
突然異世界へ飛ばされた少女が巡る冒険譚。
恐らく昨今この手のラノベを読んでいる人には手垢がついた展開。
話す言葉を重要視している世界観で、異世界ならではの独特の不思議な感覚を演出出来てはいるが、斬新かと言うとそれほどでもない。
主人公を取り巻く謎の大きさがぼんやりと表示されるだけに終始しているというのも、前後編どころではない長期シリーズを前提にしていて、読み進めていて混乱するかもしれない。
今作は作者の別作品と設定を共有しているらしく、作者のファン、もしくは異世界ファンタジー(神話類型)に興味がある方が好きになる作品だ。もし両方でもなく、小説世界観設定のうんちくが嫌いという方に -
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傭兵の幅広さ
傭兵というと、武器を片手に依頼者から少しでも依頼金を増やして酒と博打に変える賊と変わらぬ精神性で、規律正しい正規軍より弱いというのがイメージであった。
本書は傭兵という職業の深さと、その定義の広さを教えてくれる。ギリシャやローマの兵役という重いステータスが貨幣主義で潰れていくと、苦役を代替する者、すなわち金銭契約で軍隊をやる者が出てくる。傭兵とは自らの肉体を使って稼ぐ娼婦と同じ立ち位置でそれだけに歴史も古い。日本で言えば封建制を建てた源頼朝よりも前、軍事力を使って朝廷に雇われていた平家すら傭兵だったのだ。
金で雇われる傭兵は確かに訓練や規律という意味で劣ったが、その柔軟性と数を揃え -
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変わってるけど微妙なミステリ
ミステリというジャンルを皮肉った作品は数あれど、その中の犯人側を擁護する役を主役に置くというのは中々見てこなかった。
犯人の視点でもコロンボのような探偵に敗北するのをよく見ていただけに、犯行側が探偵に勝利というのは中々面白い設定だ。
しかしようするに迷宮入りして欲しい主役側は行きすぎれば犯罪を擁護することになるわけである。それは無理があろうとのことで、少々小規模な学園事件に留まっている。読者と主役たちだけに共有される「真実」も誰かが大きく損することはないように配慮されている。
最終章では謎を傍若無人に解決していく探偵の業やそれに対する主役側の存在意義が出てくるが、それがあっても結局重 -
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初々しい作品
作者のメッセージは大事だが、それが強すぎるとなんとなく押しつけがましい雰囲気を感じる。
今作は間違いなくそういう類の作品なのだが、その押しつける内容がとんでもなくピュアで初々しい恋模様なので逆に微笑ましくなってしまう。
小道具のギミックやキャラの台詞などが狙いすぎで映画なら失笑ものだろうが、小説だからこそ読めるのは間違いなく地の文の描写のおかげだ。
キャラの名前が全員出てこない(ここら辺も無理があったが)中で描写だけでキャラ像を作りあげようとした先輩というキャラは見事に輝いていた。恐らく作者にとってお気に入りで、だからこそ恥ずかしくてメインにしなかったのだろう。そこら辺も未熟ながら可 -
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王道トンデモ戦国版「桃太郎」
あらすじ通り桃太郎というおとぎ話を戦国時代に当てはめたらというテーマで作られている。
史実に登場する山陽道の武家の興亡を題材に、滅亡した武家の子を巡る因果な貴種流離譚を描いており、エピローグ含めトンデモ歴史を含んでいるところは歴史小説っぽさも兼ねている。
とはいえ、本筋はエンタメ義侠冒険小説で、出自を知らぬ主人公が同じく居場所を亡くした者達を引き連れ、様々な仇となった鬼を討つ課程は敵味方がテンポよく増減し、RPGゲームのような手軽さはあるものの、よく読ませるものだった。
桃太郎伝説に出てくる犬、雉、猿が一体誰に当てはまるかを考えるのも面白い。もちろん順当に名前から当てはめるのが良いの -
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物語よりもエッセイ風味
荒廃後の世界を旅する者から見た各街の異常さと、そこから見える人間のおかしさを描くと書くと大分ポピュラーなジャンルだ。
しかし、今作にはテーマととなる現象や概念と人類文明との重なりについて語る場面が多く、その考察が物語の動きを大分止めているように感じた。そこからサスペンスやパニックのような展開を広げるのではなく、淡々とギミックとして語っていく。
旅人も一貫性がなく、各短編や世界観としての繋がりもあまりない。これに関してはSFギミックとして機能しているようだが、それがエンタメ的な面白さに繋がっているとは感じなかった。
エンタメとして合わなかったが、考察の内容(家畜と始まり、太陽信仰な -
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「今の」発明家を描く歴史小説
発明家には3種類ある。
アイデアを考え理論を作り出す者、理論を商品にして売る者、新しい商品を社会に不可欠な産業システムに変える者。
それぞれテスラ、ウェステイングハウス、エジソンを指していて、今作ではこの3人の対立構造が主題となる。
一般的な発明家のイメージである知的好奇心のままに研究し続けるのはこの中でテスラだけだ。しかも彼はこの3人の中で一番蚊帳の外。
なぜなら彼のような好奇心だけで、悪く言えば暇つぶしに研究をしても儲かることはない。新しい理論を商品に変えなければ資本主義は儲からないし、もっと儲けるためにはその商売が不可欠になるぐらいにシステム化する必要がある。
章の合間 -
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多角的評論で読ませる
平成という最早元号で区切ることに、象徴以外での意図がなくなった初めての時代をあえて区切り、変化を評論する一冊。
正直必ず出てくると思っていたジャンルであり、様々な形でこれからも出てくるだろうが、本書は結論ありきな部分はありながらも、筋道を立てつつ難解なこの時代に名前をつけようとしてくれている。
平成時代を低迷や失敗が誰の目にも明らかとし、その原因に戦後形成された成功モデルが破綻し次策を構築できない経済や政治、官僚システムを挙げている。昭和後期からの兆候など納得できる点も多いが、あの時代だからこそ成功した特殊モデルであることは強調して欲しかった。無論著者たちは分かっているのだろうが、現在