郝景芳(ハオ・ジンファン)という、1984年生まれの著者は、訳者あとがきによれば清華大学で天体物理学を学んだあと、大学院で経済を専攻し、博士号まで取ったとなっています。そしていまは、作家活動の他、貧困家庭の子どもたちへの教育プロジェクトも運営しているとなっていますが、この本を読んでいると、思想・哲學
...続きを読むもかなり読み込んでいるのではないかと思わせるところが多々あります。
私は、この著者の本は初めて接しましたが、どうもSF作家として令名が高いようです。しかし、この本は著者あとがきにもあるとおり「自伝体小説」で、SF臭はありません。
国共内戦から始まって大躍進、文化大革命、開放経済から現代を、三代にわたる家族を、時空を自由に移動しながら描いたものです。
激動の時代は、登場人物が翻弄されている姿が描かれながらも、なぜか読んでいると極めて静的な世界でのように感じられます。
それが一転するのは、主人公の内面の葛藤を描いたあアリで、このもがき苦しむ姿の激しさは、翻訳の良さもあるのでしょうが、驚嘆すべき筆致です。
この重たさを前に、それなりに読むのが早いと自負している私も、予想外に時間をかけてじっくり読んでしまいました。決して読みにくというのではありません、じっくり読まさせる力を持った小説です。
この、例えようもない才能を感じさせる小説を読んでしまうと、ちょっと、他の著作にも手を伸ばしたくなりました。