郝景芳のレビュー一覧
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「宝をめぐって闘うことは、宝そのものより重要だ」
地球へ向かう輸送艦、老いた艦長から老いた火星総督への伝言、物語はここから始まる。
舞台である「火星と地球」は、火星独立時の事情から、「統制管理と経済支配」という社会構造の相違から、再び戦火を交える直前にあった。その様子は、まるで現代の「社会主義と資本主義」を比喩しているよう。
人の幸せとは何か
自由と保護は相反するのか
そしてこの大きなテーマは、主人公達の葛藤という内面でのテーマとも通じている。
「自由とはなにか」主人公ロレインたちの迷い……。
自由、それは束縛からの離脱、独立。離脱したのちにあるものは、自らが作る新たな束縛?
レイニー医師の言葉
「世界は扇動と盲従の上に築かれている。その原動力は欲望だ」
「幸福とは頭をはっきりさせておくこと。自由とは頭をはっきりさせておけること」
第三章、刻々と迫る変化のなかで繰り広げられる群像劇、そして結末。
SFでありながら、カミュやサン=テグジュペリからの引用を多用した哲学書のようなこの物語。
『流浪蒼穹』この二つの熟語の題名は、「流浪、その果てに蒼穹」と、私は感じた。 -
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郝景芳(ハオ・ジンファン)という、1984年生まれの著者は、訳者あとがきによれば清華大学で天体物理学を学んだあと、大学院で経済を専攻し、博士号まで取ったとなっています。そしていまは、作家活動の他、貧困家庭の子どもたちへの教育プロジェクトも運営しているとなっていますが、この本を読んでいると、思想・哲學もかなり読み込んでいるのではないかと思わせるところが多々あります。
私は、この著者の本は初めて接しましたが、どうもSF作家として令名が高いようです。しかし、この本は著者あとがきにもあるとおり「自伝体小説」で、SF臭はありません。
国共内戦から始まって大躍進、文化大革命、開放経済から現代を、三代にわたる家族を、時空を自由に移動しながら描いたものです。
激動の時代は、登場人物が翻弄されている姿が描かれながらも、なぜか読んでいると極めて静的な世界でのように感じられます。
それが一転するのは、主人公の内面の葛藤を描いたあアリで、このもがき苦しむ姿の激しさは、翻訳の良さもあるのでしょうが、驚嘆すべき筆致です。
この重たさを前に、それなりに読むのが早いと自負している私も、予想外に時間をかけてじっくり読んでしまいました。決して読みにくというのではありません、じっくり読まさせる力を持った小説です。
この、例えようもない才能を感じさせる小説を読んでしまうと、ちょっと、他の著作にも手を伸ばしたくなりました。 -
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1984年に生まれた私(軽雲)の自伝「体」小説。
本書は中国版純文学という感じで、刺さる人にはすごく刺さりそうな内容だなと思った。自分はすごく好きです。
ジョージ・オーウェルの『1984年』に出てくるウィンストンが登場したり、政治体制など似通っている部分があるのは、私たちの目の前の世界は別の世界(たとえば『1984年』)の結末だということを作者は言いたかったとのこと。
ただ自分は純粋に「私」の自伝体小説としても楽しめた。物語の流れとしては一章の中に昔の父パートと現代の私パートがあり、時間が進んでいくという形。父のパートが特に良くて、最後の17章なんかとても良かった。こちらまで胸がしめつけられるような描写はこの作者の力量によるものだと思う。この作者の他の作品がとても気になりました!(そもそもSF作家として有名だというのだからびっくり) -
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言葉にできない。不思議とも違うし、哲学のような、今まで感じたことのない感覚をもつ小説でした。
中国で資本主義化が始まったという1984年に生まれた主人公と、文化大革命を経験した父の物語。
時代、社会の中でどうしようもないこと、現代を生きる中でも価値観や格差、競争の中での生きづらさ。
読んでいると苦しくなるばかりなのだけれど..
主人公と共に自由について考え、本当の自由に気づいていき…主人公が悩み、心病み、どん底を味わい苦しみ、そこから自ら気づき立ち上がって進んでいく姿に心震えました。
13章目。
洪水のように溢れる言葉たちに衝撃を受ける..胸にどすんと響くような。
「自由っていうのはとどのつまり心の中のことだから。」
著者の自伝的小説ということで、中国の社会で生きる人々のリアルな様子、リアルな気持ちが描写されていてすごく興味深かったし、知ることができてよかったです。
また、翻訳の言葉や文章がとても綺麗で、すっと入ってくるのが心地よかったです。
「人の理性的選択というのは、目にしたものすべての中で最も合理的に見えるものを選択してそれを信じること、それから目にしたあらゆる方法の中で最も理知的と思われるやり方でそれを行うこと。このプロセスで一番大切なのは、実はどうやって選択したかということではなく、何を見たかということ。」
「これまで私は仕事というものをひどく誤解していた。どの仕事にも事実の美しさというものが存在することが見えていなかった。事実の美しさに深く分け入って初めてその意味の美しさが目に入るのだ。もう少し早くこのことがわかっていたならば、こんなに回り道をしなくて済んだかもしれなかった。ただ話を元に戻すとら心の中に目を向けてみれば、この世には回り道などないのである。」 -
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全知全能に近づいたAIは、それを生み出した人と連なるものなのか、人とは分かたれてしまった存在なのか。
人である自分としては、連なるものであってしてほしいと考えるものの、存在したリアルな人間の情報でつくられた存在ならば果たしてどう考えればよいのか…、と悩まされたのが「不死病院」でした。そのAI/生身の人間の境目の付けかたへの逡巡の描かれ方とともに、物語としての展開を一番楽しめたのがこの作品でした。
ほかでは、ショートショートに近い作品ながら、初々しいピュアな子どもと全知に近いAIのやりとりがほほえましい「乾坤と亜力」が好きです。
人が生み出しながらも「個人」では到達できない彼岸へと到達したAIは、至らない人という種族の個を、取るに足らないと取るか、理解したいと接するか、ただ何も思考しないのか。その個体差はきっと千差万別で、根源たるヒトとそんなに変わらない愚かしさすら備えた個性を持つものもいるのかもしれないな、と思ったりしました。一周回って、隣り合う存在になってくれているのかも、と。 -
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「折りたたみ北京」が面白かったので、その作者の自伝「的」小説と思って読んでみた。
ある家族3世代の人生を通して、近代の中国のリアルな庶民の生活の様子や考えなどがわかって、たいへん興味深かった。
私は1970年代後半の生まれなので1984年生まれの作者の方が若いのに、両親の世代でも文革や改革開放などを経験している。両親の世代というとつい最近に感じてしまうので、つい最近までこんなに大変な時代だったのだということが改めて実感されて、びっくりしてしまった。そして、世代によってこれほど体験が異なっていたら、世代間で価値観や感覚を共有するのは難しいだろうなと思った。
以前、日本のテレビ番組で、日本に出稼ぎにきている中国人の男の人を追ったドキュメンタリーを見た。自分はつつましい生活をして病院に行くお金も節約して、稼いだお金のほとんどすべてを中国の妻と娘に送っていた。帰国する費用も節約しているので、10年以上妻や娘にも会っていないと言っていた。彼の望みはただ一つ、娘が自分や妻よりも良い人生を送ること。自分の人生を犠牲にしても、次の世代がより良い人生を送ることを願う人がいるなんて思いもよらなかったので、大きな衝撃だった。この本を読んでいて、なんとなく、そのドキュメンタリーの中国人男性のことを思い出した。
作者の小さいころにはすでに海賊版で日本や香港、台湾の音楽や漫画(ドラえもんやベルばらなど)が出回っていて庶民も楽しんでいた等、1980年代のリアルな中国の日常が垣間見えたのも興味深かった。2000年代の大学生の生活なども、思ったよりも私たちと違わないという発見があって面白かった。
…という風に読み進めていったら、最後に「え?」という仕掛けがあって、さすがSF作家だなと思ったし、私などにはとても追いつけないような頭の良い人だと思った。
これは、自伝「的」じゃなくて、自伝「体」小説なんだそうだ。
こんなこと書いちゃって当局に目をつけられたりしないんだろうかと心配してしまうような箇所もあったので、あくまで自伝風の小説ということにしておいた方がよいのかなと穿った解釈までしてしまったが…
文庫になったら買って、また読んでみたい。 -
Posted by ブクログ
1984年に生まれた女性の半生が自伝の形で綴られた長編小説です。彼女の抱える苦悩と鬱屈、社会へ自分自身を馴染ませることへの抑圧感などを、中国の近代社会の変遷を背景に綿密に描いています。
作中には彼女自身の半生だけでなく、その父親の人生も描かれています。現在の彼女の視点では自由人であるかのような父親が、どのような人生を送っていたのかがわかるにつれて、彼自身もその時代のさまざまなものと闘ってきたのだと知れます。
このふたりの半生を重ねてつづりあげて一つの道筋を示す過程だけでも相当な読み応えなのですが、最終章にひとひねり加えられていることで、収束したかに見えた物語にもう一つ大きな環が加わります。このスパイスを加えた、作者自身の視野の広さ、物語を作りあげるという技のダイナミックさが凄いな、と感じました。
さまざまな規制が強まる中で、この作品も相当に気を遣いながら描写されているように感じました。その社会の生きにくさをダイレクトに感じる中で、ひとりの女性が「自由」を獲得し、生き直していく姿を描いたことは、ひとつのメッセージなのかもしれないとも思いました。
訳文がとても滑らかな文章で、傍注も細かく入っていて、読みやすさが常にありました。翻訳に尽力された方々へも敬意を示したいです。