郝景芳のレビュー一覧
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「宝をめぐって闘うことは、宝そのものより重要だ」
地球へ向かう輸送艦、老いた艦長から老いた火星総督への伝言、物語はここから始まる。
舞台である「火星と地球」は、火星独立時の事情から、「統制管理と経済支配」という社会構造の相違から、再び戦火を交える直前にあった。その様子は、まるで現代の「社会主義と資本主義」を比喩しているよう。
人の幸せとは何か
自由と保護は相反するのか
そしてこの大きなテーマは、主人公達の葛藤という内面でのテーマとも通じている。
「自由とはなにか」主人公ロレインたちの迷い……。
自由、それは束縛からの離脱、独立。離脱したのちにあるものは、自らが作る新たな束縛?
レイニ -
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郝景芳(ハオ・ジンファン)という、1984年生まれの著者は、訳者あとがきによれば清華大学で天体物理学を学んだあと、大学院で経済を専攻し、博士号まで取ったとなっています。そしていまは、作家活動の他、貧困家庭の子どもたちへの教育プロジェクトも運営しているとなっていますが、この本を読んでいると、思想・哲學もかなり読み込んでいるのではないかと思わせるところが多々あります。
私は、この著者の本は初めて接しましたが、どうもSF作家として令名が高いようです。しかし、この本は著者あとがきにもあるとおり「自伝体小説」で、SF臭はありません。
国共内戦から始まって大躍進、文化大革命、開放経済から現代を、三代にわた -
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1984年に生まれた私(軽雲)の自伝「体」小説。
本書は中国版純文学という感じで、刺さる人にはすごく刺さりそうな内容だなと思った。自分はすごく好きです。
ジョージ・オーウェルの『1984年』に出てくるウィンストンが登場したり、政治体制など似通っている部分があるのは、私たちの目の前の世界は別の世界(たとえば『1984年』)の結末だということを作者は言いたかったとのこと。
ただ自分は純粋に「私」の自伝体小説としても楽しめた。物語の流れとしては一章の中に昔の父パートと現代の私パートがあり、時間が進んでいくという形。父のパートが特に良くて、最後の17章なんかとても良かった。こちらまで胸がしめつけられる -
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言葉にできない。不思議とも違うし、哲学のような、今まで感じたことのない感覚をもつ小説でした。
中国で資本主義化が始まったという1984年に生まれた主人公と、文化大革命を経験した父の物語。
時代、社会の中でどうしようもないこと、現代を生きる中でも価値観や格差、競争の中での生きづらさ。
読んでいると苦しくなるばかりなのだけれど..
主人公と共に自由について考え、本当の自由に気づいていき…主人公が悩み、心病み、どん底を味わい苦しみ、そこから自ら気づき立ち上がって進んでいく姿に心震えました。
13章目。
洪水のように溢れる言葉たちに衝撃を受ける..胸にどすんと響くような。
「自由っていうのはとどの -
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全知全能に近づいたAIは、それを生み出した人と連なるものなのか、人とは分かたれてしまった存在なのか。
人である自分としては、連なるものであってしてほしいと考えるものの、存在したリアルな人間の情報でつくられた存在ならば果たしてどう考えればよいのか…、と悩まされたのが「不死病院」でした。そのAI/生身の人間の境目の付けかたへの逡巡の描かれ方とともに、物語としての展開を一番楽しめたのがこの作品でした。
ほかでは、ショートショートに近い作品ながら、初々しいピュアな子どもと全知に近いAIのやりとりがほほえましい「乾坤と亜力」が好きです。
人が生み出しながらも「個人」では到達できない彼岸へと到達した -
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「折りたたみ北京」が面白かったので、その作者の自伝「的」小説と思って読んでみた。
ある家族3世代の人生を通して、近代の中国のリアルな庶民の生活の様子や考えなどがわかって、たいへん興味深かった。
私は1970年代後半の生まれなので1984年生まれの作者の方が若いのに、両親の世代でも文革や改革開放などを経験している。両親の世代というとつい最近に感じてしまうので、つい最近までこんなに大変な時代だったのだということが改めて実感されて、びっくりしてしまった。そして、世代によってこれほど体験が異なっていたら、世代間で価値観や感覚を共有するのは難しいだろうなと思った。
以前、日本のテレビ番組で、日本に出稼ぎ -
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1984年に生まれた女性の半生が自伝の形で綴られた長編小説です。彼女の抱える苦悩と鬱屈、社会へ自分自身を馴染ませることへの抑圧感などを、中国の近代社会の変遷を背景に綿密に描いています。
作中には彼女自身の半生だけでなく、その父親の人生も描かれています。現在の彼女の視点では自由人であるかのような父親が、どのような人生を送っていたのかがわかるにつれて、彼自身もその時代のさまざまなものと闘ってきたのだと知れます。
このふたりの半生を重ねてつづりあげて一つの道筋を示す過程だけでも相当な読み応えなのですが、最終章にひとひねり加えられていることで、収束したかに見えた物語にもう一つ大きな環が加わります。 -
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ネタバレ次回「流浪蒼穹 第二部 ~宇宙(そら)を駆ける~」
2136年刊行予定 以下序文。
火星に大規模な水がもたらされたことで、火星の都市圏は拡大、拡散し、前総督が予測した通り、各都市間の摩擦・貧富が生じ、分裂が生じていく中、前総督の孫ルディと航空システム長官ホアンが実権を握り、うちをまとめるため、ついに地球に宣戦を布告、地球へとコロニー落としを敢行する。
一方、地球と火星との橋渡しである宇宙船マアースでは前総督が最後の時を迎える。看取るのは前総督のもう一人の孫ロレイン。地球への留学経験がある彼女は祖父の遺言を受け、兄ルディを止めるため火星へと帰還。対抗勢力ネオ火星を組織し、地球勢力とのパイプを -
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ネタバレ折りたたみ北京で著者の作品に初めて触れて、今回こちらを読んでみた。
折りたたみ北京の紹介やこの本のあとがきにもある通り、SFと文学、その両ジャンルを素晴らしい形で両立させていると感じた。
恥ずかしながらオーウェルの1984年は、読んだ当時自分にはまだ難解すぎて理解がほとんどできなかった。
今作は1984年ほどではないにしても、読むのにかなり時間を要してしまって、途中から小説なのか自伝なのかよく分からなくなったまま読み進めており、最終章のウィンストンとの対話シーンによってようやく小説、しかもSF小説であったことを思い出した。
SF的要素が描写に占める割合はかなり小さいものの、最後は見事にSF